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2人の未来へ
戦勝祝賀パーティ①
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戦勝祝賀パーティーの日がやって来た。
ルナはこの日のために、ミゲルから贈られたドレスに美しい刺繍を施した。
それは夜空に輝く星の意匠で、ミゲルと初めて会ったあの夜の空を思い起こさせる。
そこに、やはりミゲルに贈られたピンクダイヤのネックレスとイヤリングを付けたルナは、とても仕立て屋のお針子には見えず、用意を手伝ったエヴァとポーラは「綺麗だ綺麗だ」と興奮していた。
ルナを迎えに来たミゲルもまた、いつもよりさらに貴公子然としている。
ルナのドレスに合わせてブルーの衣装に身を纏い、カフスボタンはやはりピンクダイヤである。
「ルナ、すごく綺麗だ」
「ミゲルも。すごく素敵よ」
「お手をどうぞ、僕の姫君」
どこで覚えてきたのか、相変わらず甘い声で囁くミゲルにめまいがしそうだ。
彼は、どんどん素敵になっていく。
宮殿に勤めるようになってからさらに仕草も洗練され、生まれながらの貴族と言われても疑いはしないだろう。
今夜は、あらためて大公からミゲルの活躍への賛辞があるという。
そんなミゲルの隣に立つのだから、ルナも覚悟を決めて、堂々と振舞わなくてはと気を引き締める。
宮殿のホールはすでに着飾った貴族たちであふれていて、ミゲルとルナが到着するなり皆一斉にこちらを見た。
純粋な興味で眺める者、戦功を立てた彼を本心から讃えている者、そして、平民上がりで元移民である彼を蔑む者。
ミゲルを見る目は、それぞれだ。
これが街の中ならほとんどの者がミゲルを英雄扱いしているため賛辞の声ばかりなのだろうが、やはり宮殿ではそうはいかない。
そんな中を、ミゲルは堂々と歩いて行く。
ルナもミゲルに手をとられ、顔を上げ、背筋を伸ばして歩いて行く。
ルナを見る目もそれぞれだ。
女性の目のほとんどは、ヒーローの隣に立つ女への嫉妬や蔑みだが。
本当は、人の多勢いる場所は嫌いだ。
ちょっとでも触れれば、人の悪意が聞こえてしまう。
いくら頑張って避けていたとしても、今夜は多分自分に対する悪意ある言葉を相当数聞くのだろう。
大公一家が入場して来て、パーティが始まった。
戦勝の報告、祝辞などが続いて、ミゲルの名前が呼ばれる。
ミゲルは大公の前まで行って跪くと、頭を垂れた。
大公から、今回の蛮族との戦でのミゲルの功績が告げられ、褒賞として大剣が与えられた。
また、ミゲルが第一公子の護衛騎士に任じられたことも報告される。
ホールでは歓声が上がったが、やはりその声は悲喜こもごもだ。
一連の儀式が終わると、食事を楽しむ者、雑談をする者とそれぞれ散っていく。
やがて軽やかな曲が流れはじめ、第一公子とその婚約者が踊り出した。
「ルナ、僕たちも踊ろう」
「え?ミゲル、踊れるの?」
「ルナと踊りたくて、練習したんだ」
ミゲルはルナの手をとって踊り始めた。
意外にも、優雅にステップを踏んでいる。
「上手ね、ミゲル。びっくりしたわ」
「ルナも。すごく綺麗だし、すごく素敵だ」
ルナはとても楽しかった。
貴族令嬢のマナーとして、ダンスレッスンは一通り受けている。
あの、魔女だと言って幽閉されるまでは。
ダンスは好きだったし、他のごく普通の貴族令嬢のようにデビュタントも楽しみにしていた。
とうとうかなうことはなかったが。
ダンスの最中で時々掠めるように触れた人々の、声が流れ込んでくる。
やはり女性たちの多くの声は、ミゲルというパートナーを持つルナへの嫉妬である。
男性たちの多くの声が、ルナへの賛辞であることには驚いたが。
周囲の貴族たちが驚いた顔で見ている。
ミゲルはともかく、平民の恋人と蔑んでいた女性が優雅に踊るのを見て、驚いたのだろう。
もしかしたらこのダンスによって貴族出身であることがバレるかもしれない。
でももうそんなことはどうでもいいような気がした。
ルナはこの国で、ミゲルの隣で生きていくのだから。
「ルナ、楽しい?」
「ええ、とっても」
「よかった。でもルナが綺麗すぎるから、男たちがみんなルナを見てるね」
「まさか…」
「ううん。だってルナが一番、誰よりも輝いてるもの。でもルナは僕のだからね。奴らにもっと見せつけてやろう」
そう言うとミゲルはふわりとルナの体を持ち上げた。
くるりと回し、頬に唇を寄せる。
その美しい仕草に、ほおっと周囲からため息がこぼれる。
「…お姉様?」
しかし楽しい時間を、無粋な声が切り裂いた。
ルナはこの日のために、ミゲルから贈られたドレスに美しい刺繍を施した。
それは夜空に輝く星の意匠で、ミゲルと初めて会ったあの夜の空を思い起こさせる。
そこに、やはりミゲルに贈られたピンクダイヤのネックレスとイヤリングを付けたルナは、とても仕立て屋のお針子には見えず、用意を手伝ったエヴァとポーラは「綺麗だ綺麗だ」と興奮していた。
ルナを迎えに来たミゲルもまた、いつもよりさらに貴公子然としている。
ルナのドレスに合わせてブルーの衣装に身を纏い、カフスボタンはやはりピンクダイヤである。
「ルナ、すごく綺麗だ」
「ミゲルも。すごく素敵よ」
「お手をどうぞ、僕の姫君」
どこで覚えてきたのか、相変わらず甘い声で囁くミゲルにめまいがしそうだ。
彼は、どんどん素敵になっていく。
宮殿に勤めるようになってからさらに仕草も洗練され、生まれながらの貴族と言われても疑いはしないだろう。
今夜は、あらためて大公からミゲルの活躍への賛辞があるという。
そんなミゲルの隣に立つのだから、ルナも覚悟を決めて、堂々と振舞わなくてはと気を引き締める。
宮殿のホールはすでに着飾った貴族たちであふれていて、ミゲルとルナが到着するなり皆一斉にこちらを見た。
純粋な興味で眺める者、戦功を立てた彼を本心から讃えている者、そして、平民上がりで元移民である彼を蔑む者。
ミゲルを見る目は、それぞれだ。
これが街の中ならほとんどの者がミゲルを英雄扱いしているため賛辞の声ばかりなのだろうが、やはり宮殿ではそうはいかない。
そんな中を、ミゲルは堂々と歩いて行く。
ルナもミゲルに手をとられ、顔を上げ、背筋を伸ばして歩いて行く。
ルナを見る目もそれぞれだ。
女性の目のほとんどは、ヒーローの隣に立つ女への嫉妬や蔑みだが。
本当は、人の多勢いる場所は嫌いだ。
ちょっとでも触れれば、人の悪意が聞こえてしまう。
いくら頑張って避けていたとしても、今夜は多分自分に対する悪意ある言葉を相当数聞くのだろう。
大公一家が入場して来て、パーティが始まった。
戦勝の報告、祝辞などが続いて、ミゲルの名前が呼ばれる。
ミゲルは大公の前まで行って跪くと、頭を垂れた。
大公から、今回の蛮族との戦でのミゲルの功績が告げられ、褒賞として大剣が与えられた。
また、ミゲルが第一公子の護衛騎士に任じられたことも報告される。
ホールでは歓声が上がったが、やはりその声は悲喜こもごもだ。
一連の儀式が終わると、食事を楽しむ者、雑談をする者とそれぞれ散っていく。
やがて軽やかな曲が流れはじめ、第一公子とその婚約者が踊り出した。
「ルナ、僕たちも踊ろう」
「え?ミゲル、踊れるの?」
「ルナと踊りたくて、練習したんだ」
ミゲルはルナの手をとって踊り始めた。
意外にも、優雅にステップを踏んでいる。
「上手ね、ミゲル。びっくりしたわ」
「ルナも。すごく綺麗だし、すごく素敵だ」
ルナはとても楽しかった。
貴族令嬢のマナーとして、ダンスレッスンは一通り受けている。
あの、魔女だと言って幽閉されるまでは。
ダンスは好きだったし、他のごく普通の貴族令嬢のようにデビュタントも楽しみにしていた。
とうとうかなうことはなかったが。
ダンスの最中で時々掠めるように触れた人々の、声が流れ込んでくる。
やはり女性たちの多くの声は、ミゲルというパートナーを持つルナへの嫉妬である。
男性たちの多くの声が、ルナへの賛辞であることには驚いたが。
周囲の貴族たちが驚いた顔で見ている。
ミゲルはともかく、平民の恋人と蔑んでいた女性が優雅に踊るのを見て、驚いたのだろう。
もしかしたらこのダンスによって貴族出身であることがバレるかもしれない。
でももうそんなことはどうでもいいような気がした。
ルナはこの国で、ミゲルの隣で生きていくのだから。
「ルナ、楽しい?」
「ええ、とっても」
「よかった。でもルナが綺麗すぎるから、男たちがみんなルナを見てるね」
「まさか…」
「ううん。だってルナが一番、誰よりも輝いてるもの。でもルナは僕のだからね。奴らにもっと見せつけてやろう」
そう言うとミゲルはふわりとルナの体を持ち上げた。
くるりと回し、頬に唇を寄せる。
その美しい仕草に、ほおっと周囲からため息がこぼれる。
「…お姉様?」
しかし楽しい時間を、無粋な声が切り裂いた。
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