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ミゲルの活躍
凱旋
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「部隊が凱旋してきたぞ~!」
首都中をそんな声が駆け巡ったのは、蛮族を追い払ったと報せがあってからわずか3日後のことだった。
「ルナ姉ちゃん!きっとミゲル兄ちゃんも帰ってくるよ!」
「ええ!」
ポーラと手をつないで、店を飛び出していく。
大通りには、凱旋してきた騎士たちを一目見ようと、大勢の市民が詰めかけている。
(聞こえる、聞こえるわ…。ミゲルが、こちらに近づいてる…)
喧噪の中耳を澄ませば、ミゲルの「ただいま」という声が流れ込んでくる。
彼は無事にルナの元に帰ってきてくれたのだ。
凱旋の行軍が見えてきた。
行軍の先頭は立派な騎士。おそらく公国騎士団の団長なのだろう。
その後にも小綺麗な騎士たちが続いて、娘たちの黄色い声援が飛び交う。
戦に行っていたわりには疲れも見えぬ様子に、周囲の観客が小声で囁いていた。
「結局騎士団は間に合わなかったらしい。首領を討ち取ったのは傭兵らしいぞ。そいつは、敵の一戸隊を1人で殲滅したらしい」
「ひえー!それはすごいな!」
行軍がだいぶ進んだ頃、槍の先に括りつけられた球体が目の前を横切った。
赤黒い染みが出来た布に包まれた球体は、おそらく蛮族の首領の首なのだろう。
思わず目をそらした瞬間、歓声が一際高くなった。
「彼だ!首領を討ち取った傭兵が来たぞ!」
「1人で一戸隊殲滅した奴だ!」
「あいつだ!あいつこそ英雄だ!」
「我らの英雄が帰って来たぞー!」
……?
わーわーと皆が騒ぐ方へ目をやれば、馬上の男は満面の笑みをたたえてルナを見ていた。
「……ミゲル……!」
「ただいま、ルナ」
ミゲルがふわりと馬から飛び降りる。
そして一直線にルナに向かって駆けてきた。
「ルナ!」
ギュッと、ミゲルの腕に包まれる。
「ミゲル!おかえりなさい、ミゲル!」
「言ったでしょう?ルナ。僕、手柄を立てて帰ってきたよ!」
「ミゲル、良かった…!無事で良かった…」
手柄なんてどうでもいい。ミゲルが無事なら、それでいいのだ。
「ルナ、会いたかった…」
「私も会いたかった…」
ミゲルはひとしきりルナへの抱擁を堪能すると、おもむろに顔を上げた。
彼の視線の先は、首領の首だ。
「ミゲル…?」
「ルナ、大丈夫?僕が怖くはない?」
不安げなミゲルの顔を真っ直ぐに見て、ルナは首を横に振る。
「怖くなんかないわ。だってミゲルはミゲルだもの」
「…戦で、人を殺したんだ。それもたくさんの人を。僕は、本当は人殺しなんて嫌だ。でも、この国を守ることが、ルナを守ることにもつながると思って戦ったんだ。ルナだけじゃなく、アルドや、エヴァや、ポーラや、みんなを…」
「うん…」
行軍は、ミゲルを置き去りに進んでゆく。
しかし観客の関心は騎士団の行軍ではなく、ミゲル一点に集中している。
ヒューヒューとはやし立てる声に囲まれる中、二人はしばらく抱き合ったままだった。
◇◇◇
騎馬試合の優勝ですでに有名人になっていたミゲルではあるが、彼はもはや公国中で知らぬものがいないほどの英雄となった。
ミゲルを騎士に推薦する声が起こり、それに対して反対する者はもういない。
下手に反対などすれば、自分の方が世論に叩かれることになってしまう。
結局、騎馬試合の時からいたくミゲルを気に入っていた第一公子の強い希望で、彼は公子の護衛騎士になることになった。
第一公子は未来の大公である。
ミゲルは、このまま騎士として活躍を続ければ、爵位を授かることも夢ではないと言う。
もしミゲルが爵位持ちになったら、ルナを貴族の夫人にしてあげることができる。
元々貴族令嬢であるルナを、元の地位まで押し上げてあげることができるのだ。
ミゲルはもう、自分が元の世界に戻れるとは思っていない。
この世界で、ルナと共に生きていく。
だったら、もっともっと出世して、ルナを幸せにしてあげたいと思うのだ。
首都中をそんな声が駆け巡ったのは、蛮族を追い払ったと報せがあってからわずか3日後のことだった。
「ルナ姉ちゃん!きっとミゲル兄ちゃんも帰ってくるよ!」
「ええ!」
ポーラと手をつないで、店を飛び出していく。
大通りには、凱旋してきた騎士たちを一目見ようと、大勢の市民が詰めかけている。
(聞こえる、聞こえるわ…。ミゲルが、こちらに近づいてる…)
喧噪の中耳を澄ませば、ミゲルの「ただいま」という声が流れ込んでくる。
彼は無事にルナの元に帰ってきてくれたのだ。
凱旋の行軍が見えてきた。
行軍の先頭は立派な騎士。おそらく公国騎士団の団長なのだろう。
その後にも小綺麗な騎士たちが続いて、娘たちの黄色い声援が飛び交う。
戦に行っていたわりには疲れも見えぬ様子に、周囲の観客が小声で囁いていた。
「結局騎士団は間に合わなかったらしい。首領を討ち取ったのは傭兵らしいぞ。そいつは、敵の一戸隊を1人で殲滅したらしい」
「ひえー!それはすごいな!」
行軍がだいぶ進んだ頃、槍の先に括りつけられた球体が目の前を横切った。
赤黒い染みが出来た布に包まれた球体は、おそらく蛮族の首領の首なのだろう。
思わず目をそらした瞬間、歓声が一際高くなった。
「彼だ!首領を討ち取った傭兵が来たぞ!」
「1人で一戸隊殲滅した奴だ!」
「あいつだ!あいつこそ英雄だ!」
「我らの英雄が帰って来たぞー!」
……?
わーわーと皆が騒ぐ方へ目をやれば、馬上の男は満面の笑みをたたえてルナを見ていた。
「……ミゲル……!」
「ただいま、ルナ」
ミゲルがふわりと馬から飛び降りる。
そして一直線にルナに向かって駆けてきた。
「ルナ!」
ギュッと、ミゲルの腕に包まれる。
「ミゲル!おかえりなさい、ミゲル!」
「言ったでしょう?ルナ。僕、手柄を立てて帰ってきたよ!」
「ミゲル、良かった…!無事で良かった…」
手柄なんてどうでもいい。ミゲルが無事なら、それでいいのだ。
「ルナ、会いたかった…」
「私も会いたかった…」
ミゲルはひとしきりルナへの抱擁を堪能すると、おもむろに顔を上げた。
彼の視線の先は、首領の首だ。
「ミゲル…?」
「ルナ、大丈夫?僕が怖くはない?」
不安げなミゲルの顔を真っ直ぐに見て、ルナは首を横に振る。
「怖くなんかないわ。だってミゲルはミゲルだもの」
「…戦で、人を殺したんだ。それもたくさんの人を。僕は、本当は人殺しなんて嫌だ。でも、この国を守ることが、ルナを守ることにもつながると思って戦ったんだ。ルナだけじゃなく、アルドや、エヴァや、ポーラや、みんなを…」
「うん…」
行軍は、ミゲルを置き去りに進んでゆく。
しかし観客の関心は騎士団の行軍ではなく、ミゲル一点に集中している。
ヒューヒューとはやし立てる声に囲まれる中、二人はしばらく抱き合ったままだった。
◇◇◇
騎馬試合の優勝ですでに有名人になっていたミゲルではあるが、彼はもはや公国中で知らぬものがいないほどの英雄となった。
ミゲルを騎士に推薦する声が起こり、それに対して反対する者はもういない。
下手に反対などすれば、自分の方が世論に叩かれることになってしまう。
結局、騎馬試合の時からいたくミゲルを気に入っていた第一公子の強い希望で、彼は公子の護衛騎士になることになった。
第一公子は未来の大公である。
ミゲルは、このまま騎士として活躍を続ければ、爵位を授かることも夢ではないと言う。
もしミゲルが爵位持ちになったら、ルナを貴族の夫人にしてあげることができる。
元々貴族令嬢であるルナを、元の地位まで押し上げてあげることができるのだ。
ミゲルはもう、自分が元の世界に戻れるとは思っていない。
この世界で、ルナと共に生きていく。
だったら、もっともっと出世して、ルナを幸せにしてあげたいと思うのだ。
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