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肝試しのお誘い
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その日の放課後、暁生は弥彦に連れられて学校のパソコン室に来ていた。
なんだか完全に弥彦ペースで、良いように丸め込まれたような気もするのだが……。
その一機を慣れた手つきで起動させた弥彦が、暁生を促して言った。
「これを見てくれ」
それは、とあるサイトの掲示板だった。
「……心霊スポット研究室……閲覧注意? なんじゃコレ」
「これさ、俺が運営してるサイトなんだ」
「へ? そうなの?」
(この怪しげなサイトを?)
でもどうしてこんなものを暁生に見せるのか――弥彦の説明を待った。
「ここらへんって有名な心霊スポットが多いって知ってる?」
「いんや、興味ないし」
「ふーん、肝試し感覚で行く奴らって、だいたいネットで調べるでしょ」
「まあ、そうだよな、下調べはすんじゃね?」
「そういうクチコミを自由に書き込めるサイトなんだよ。宣伝してるわけでもないのに、実際に心霊ポットに行ったっていう書き込みが後を絶たない……そういう奴らがけっこう親父の元に泣きついてくるんだよ」
「親父?」
「ああ、俺の親父、祓い屋をしてるんだ」
(祓い屋!?)
「その手伝いの一貫なんだけど、ここに書き込まれた心霊スポットに実際に行って、どんな霊がいるのか調べるんだ。それで本当にヤバイところは遊び半分で行かないように警告してるんだよ」
「マジか」
弥彦の話は、暁生にとっては非日常過ぎて到底想像できない。
「興味本位でヤバイ場所に近付いて人が死ぬっていう事件、実は結構多いんだよね。別に善意だけでやっている事業じゃないけど、前に親父の知り合いが死んだことがあってね、それから片手間にやってんだ。本当に洒落にならない場所は少し大袈裟に書いて、興味本位で近付くと死ぬぞっていうのを全面的に押し出すようなサイトさ、それでも行く奴は大馬鹿者さ、行ったらどうなるってことまで親切丁寧に書いてやってるのにさ」
「ネットで騒がれて逆効果な気がするけどな」
人はそういう生き物である。行くなと言われれば行きたくなるし、そのための肝試しなんだから……。弥彦の意図が掴めない暁生は考え込んでいたが、そんな暁生の反応を待ってましたと言いたげに弥彦が笑った。
「そうなったら、ほらここ」
弥彦が指差した箇所には相談フォームと書かれたタグがある。
「相談……?」
「自己責任で取り憑かれたら、ほら、親父に払ってもらえばいいだろ。もちろんタダじゃないけどね」
「――ああ!!! 善意だけじゃないってそういうこと? オタクが誘導してんじゃん。なんか、悪徳商法のような気もするが……」
「気のせいだろ」
弥彦はつらっとした顔で言った。
「……お前、親父さんから駄賃でももらっているんだろ」
暁生は頭を掻き呆れながら言った。
「そりゃあ、多少はな。それくらいないと、俺にはメリット少な過ぎるよ」
「お前にとって修行――みたいな感じなのか? この稼業、将来継ぐの?」
「いいやあ、どうだろうなあ」
(待てよ、こんなヤバめな話、会ったばかりの俺にするってことは……)
暁生は嫌な予感がした。
「これを俺に見せるっていうことは、まさか頼まれ事って……」
それは、この、目の前で不敵な笑みを浮かべる美少年からの、肝試しの誘いだった。
「俺……こういう世界、全然興味ないし信じてないんだけど」
「そっちの方がいいんじゃないかな」
「……俺が協力したら、俺の方も何とかしてくれるんだな」
そこである。こんな厄介なことには本来なら首を突っ込みたくはない。しかし、暁生には他に頼れる相手がいないのも事実だった。
「うーん、あんたに憑いているヤツ、今は俺ともコンタクトを取りたがらないからな。正体がはっきりしないと対処の仕様もないから、暫く様子を見て……だな、幸いまだ身体に影響は出てないみたいだし」
そう言いながら弥彦は暁夫の頭上あたりに目線を合わせている。
「どういうこと? なんだよ、訳わかんないことばっかり言いやがって」
弥彦は初対面から、だいぶ印象が違ってきていた。もっと、繊細そうなタイプかと思っていたのだが、話してみるとぶっきら棒で、性悪そうな表情を時々するのだ。
「そもそも今まで、お前一人でやっていたんだろう、なんで今回は俺が手伝わなければならない?」
「そうだな、人を巻き込むと厄介だからいつもは一人で行くんだよ、でもさ、今回の場所はちょっとな……あんた、ラブホテルって入ったこと、あるか?」
「はぁ?」
弥彦は少々、言いにくそうに聞いてきた。このときばかりは余裕たっぷりの笑みは、いくらか崩れている。
どうやら弥彦はこの手の話は苦手な様だ。暁生は、会って間もないこの男にどう答えていいのか悩んだ。
「まあ……」
「まあ?」
「……人並みには、な」
「ああいう場所って、一人じゃ入れないだろ?」
「一人でも入れるぞ、あ、いや、俺だって詳しくないぞ別に」
「とにかく! 俺一人じゃ行けないっつーか……付いてきてくれ」
「えーーー、ってか心霊スポットってラブホなの? 俺とお前で、行くの? イヤだよ。女でも誘えよ」
「女なら尚更、誘いにくいだろ、肝試しに来てくれって言って尻尾振ってくるやつ、いるか?」
「……お前なら、いるんじゃないのか」
(ついでに、やることやっちゃばいーじゃんか)
暁生は恨めしげに、その綺麗な顔をじーっと見た。
「……」
「……」
「面倒なことに、なったら嫌じゃん」
「だからって、男同士の方が……ハードル高くねえか」
「とにかく! 一人で行きたくないから付いてきてくれ」
(子どもかよ!)
二人とも、暫くパソコンを眺めている。どちらが先に口を開くのか、窺っているようだ。
暁生が、深い溜め息を付いた。
「俺、お化けとか見たことないけど、たぶん絶対そういうの苦手。でも……仕方ないから協力するよ、その代わり約束は守ってくれよな」
「出来る限りのことはする」
「よし」
「じゃあ今週の金曜、夜の九時に駅前で」
「おう」
なんだか完全に弥彦ペースで、良いように丸め込まれたような気もするのだが……。
その一機を慣れた手つきで起動させた弥彦が、暁生を促して言った。
「これを見てくれ」
それは、とあるサイトの掲示板だった。
「……心霊スポット研究室……閲覧注意? なんじゃコレ」
「これさ、俺が運営してるサイトなんだ」
「へ? そうなの?」
(この怪しげなサイトを?)
でもどうしてこんなものを暁生に見せるのか――弥彦の説明を待った。
「ここらへんって有名な心霊スポットが多いって知ってる?」
「いんや、興味ないし」
「ふーん、肝試し感覚で行く奴らって、だいたいネットで調べるでしょ」
「まあ、そうだよな、下調べはすんじゃね?」
「そういうクチコミを自由に書き込めるサイトなんだよ。宣伝してるわけでもないのに、実際に心霊ポットに行ったっていう書き込みが後を絶たない……そういう奴らがけっこう親父の元に泣きついてくるんだよ」
「親父?」
「ああ、俺の親父、祓い屋をしてるんだ」
(祓い屋!?)
「その手伝いの一貫なんだけど、ここに書き込まれた心霊スポットに実際に行って、どんな霊がいるのか調べるんだ。それで本当にヤバイところは遊び半分で行かないように警告してるんだよ」
「マジか」
弥彦の話は、暁生にとっては非日常過ぎて到底想像できない。
「興味本位でヤバイ場所に近付いて人が死ぬっていう事件、実は結構多いんだよね。別に善意だけでやっている事業じゃないけど、前に親父の知り合いが死んだことがあってね、それから片手間にやってんだ。本当に洒落にならない場所は少し大袈裟に書いて、興味本位で近付くと死ぬぞっていうのを全面的に押し出すようなサイトさ、それでも行く奴は大馬鹿者さ、行ったらどうなるってことまで親切丁寧に書いてやってるのにさ」
「ネットで騒がれて逆効果な気がするけどな」
人はそういう生き物である。行くなと言われれば行きたくなるし、そのための肝試しなんだから……。弥彦の意図が掴めない暁生は考え込んでいたが、そんな暁生の反応を待ってましたと言いたげに弥彦が笑った。
「そうなったら、ほらここ」
弥彦が指差した箇所には相談フォームと書かれたタグがある。
「相談……?」
「自己責任で取り憑かれたら、ほら、親父に払ってもらえばいいだろ。もちろんタダじゃないけどね」
「――ああ!!! 善意だけじゃないってそういうこと? オタクが誘導してんじゃん。なんか、悪徳商法のような気もするが……」
「気のせいだろ」
弥彦はつらっとした顔で言った。
「……お前、親父さんから駄賃でももらっているんだろ」
暁生は頭を掻き呆れながら言った。
「そりゃあ、多少はな。それくらいないと、俺にはメリット少な過ぎるよ」
「お前にとって修行――みたいな感じなのか? この稼業、将来継ぐの?」
「いいやあ、どうだろうなあ」
(待てよ、こんなヤバめな話、会ったばかりの俺にするってことは……)
暁生は嫌な予感がした。
「これを俺に見せるっていうことは、まさか頼まれ事って……」
それは、この、目の前で不敵な笑みを浮かべる美少年からの、肝試しの誘いだった。
「俺……こういう世界、全然興味ないし信じてないんだけど」
「そっちの方がいいんじゃないかな」
「……俺が協力したら、俺の方も何とかしてくれるんだな」
そこである。こんな厄介なことには本来なら首を突っ込みたくはない。しかし、暁生には他に頼れる相手がいないのも事実だった。
「うーん、あんたに憑いているヤツ、今は俺ともコンタクトを取りたがらないからな。正体がはっきりしないと対処の仕様もないから、暫く様子を見て……だな、幸いまだ身体に影響は出てないみたいだし」
そう言いながら弥彦は暁夫の頭上あたりに目線を合わせている。
「どういうこと? なんだよ、訳わかんないことばっかり言いやがって」
弥彦は初対面から、だいぶ印象が違ってきていた。もっと、繊細そうなタイプかと思っていたのだが、話してみるとぶっきら棒で、性悪そうな表情を時々するのだ。
「そもそも今まで、お前一人でやっていたんだろう、なんで今回は俺が手伝わなければならない?」
「そうだな、人を巻き込むと厄介だからいつもは一人で行くんだよ、でもさ、今回の場所はちょっとな……あんた、ラブホテルって入ったこと、あるか?」
「はぁ?」
弥彦は少々、言いにくそうに聞いてきた。このときばかりは余裕たっぷりの笑みは、いくらか崩れている。
どうやら弥彦はこの手の話は苦手な様だ。暁生は、会って間もないこの男にどう答えていいのか悩んだ。
「まあ……」
「まあ?」
「……人並みには、な」
「ああいう場所って、一人じゃ入れないだろ?」
「一人でも入れるぞ、あ、いや、俺だって詳しくないぞ別に」
「とにかく! 俺一人じゃ行けないっつーか……付いてきてくれ」
「えーーー、ってか心霊スポットってラブホなの? 俺とお前で、行くの? イヤだよ。女でも誘えよ」
「女なら尚更、誘いにくいだろ、肝試しに来てくれって言って尻尾振ってくるやつ、いるか?」
「……お前なら、いるんじゃないのか」
(ついでに、やることやっちゃばいーじゃんか)
暁生は恨めしげに、その綺麗な顔をじーっと見た。
「……」
「……」
「面倒なことに、なったら嫌じゃん」
「だからって、男同士の方が……ハードル高くねえか」
「とにかく! 一人で行きたくないから付いてきてくれ」
(子どもかよ!)
二人とも、暫くパソコンを眺めている。どちらが先に口を開くのか、窺っているようだ。
暁生が、深い溜め息を付いた。
「俺、お化けとか見たことないけど、たぶん絶対そういうの苦手。でも……仕方ないから協力するよ、その代わり約束は守ってくれよな」
「出来る限りのことはする」
「よし」
「じゃあ今週の金曜、夜の九時に駅前で」
「おう」
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