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縄ってエロチック
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宿の一室でペトロネラとお茶をしていると、窓が勢いよく開いた。
暖かい室内にヒヤリとした空気が入って来る。
「よいしょっと」
同時にクルトが窓から入って来た。
「ちょっと、クルト。行儀悪いよ。入り口から入っておいで」
「はぁい。あ、僕にも温かいお茶ちょうだい。外、すっごく寒いよ~~」
ペトロネラがクルトに温かいお茶を出した。スパイスが香るお茶は、ランタナ国ではお馴染みらしい。少しクセのあるミルクが混じった甘いお茶で、チャイに似ている。
「ふはぁ。暖まる~~けど、このお茶……僕はちょっと苦手~~」
「そう? 私はわりと好きかな。でも確かに、万人受けはしないかもね。スパイス強めだし、ミルクも馴染みある感じじゃないからなぁ」
「私も好きです。お土産に買って帰りましょうか。パウルさんが好きそうですし」
和やかにティータイムが進むけれど。
温かいお茶に一息ついて、私は見ないフリをしていた現実に向き合う決心をした。
「クルト君」
「なぁに?」
「足元のソレについて、聞いてもいいかな」
クルトの足元を見る。
そこには、ロープでグルグル巻きにされた男が転がっていた。
猿ぐつわで声を出せない男は、う~う~と唸りながら私をじっと見て来る。目力がすごい。
「こいつ、宿のまわりをウロウロしてたんだよね」
「誰?」
なかなかの色男だと思うけれど、縛られて転がっていてはソレも台無しだ。
褐色の肌に琥珀色の瞳は、ランタナ国ではよくある組み合わせ。垂れ目で睫毛が長いから、中性的ないわゆる美青年だ。
毛皮のマントから覗く暗い緑の服と、装飾が青いランタナグラスのペンダントだけなのは、派手好きなこの国では珍しいかもしれない。
生地は上質そうだし、マントの毛皮は砂狐の物だ。細かい毛がビッシリはえた砂狐の毛皮は、軽さと保温に優れている上に、砂を弾く性能と手触りの良さが特徴の高級品だった。水にはかなり弱いようだけど、この時期のランタナ国では雨の心配はないだろう。
私も三人分の砂狐のマントを買ったけど、一枚1万5000ペリンだった。
ランタナ国では四人家族が栄養十分に腹を空かせず暮らす為には、1日200ペリンは必要らしい。それすら払えない人も多い中、一万5000ペリンは手が出ないよね。
そんな高級品を身に付けている、この男性は誰だろうか。まさか金持ちを拉致して身代金を要求しようだなんて言わないよね。そんな子に育てた覚えはないよ、クルト君。
「ルシオ・セルバンテス。そいつの名前だよ。
この町の領主の息子だってさ。ほら、巨木の下ある宮殿があるじゃん。あそこの家の子」
「ち、ちょっと! 領主の息子って貴族っ? 貴族令息を誘拐して来たのっ?」
いざとなったら、扉から一瞬で国外に逃げることが出来る。とはいえ、扉までたどり着けずに捕まったら……考えたくないな。
「元の場所に戻して来なさい」
「え~~でも、そいつ、お嬢さまを探ろうとしてたんだよ? 宿のまわりをウロウロしててさぁ。鬱陶しいじゃん」
「それは万死に値します」
しません、しません。ペトロネラまで物騒なことを言わないで欲しい。
って言うか、ペトロネラの彼を見る目が……怖いんだけど。まさか本気か。
ルシオ・セルバンテス。24歳。伯爵家の次男。
次男といえども、伯爵家の者なら護衛がいるはず。目の前で拐われたなら、すでに騒ぎになっていてもおかしくない。
窓の外を覗くと、変わらずに静けさがあった。どうやらまだ時間はありそうだ。
内心焦る私とは別に、クルトは飄々としながら男に近付いた。
すると、縄を解き始めた。
「縄解くけど、叫ぶなよな。夜だしさぁ、大声だされたら近所迷惑じゃん。
お嬢さま、こいつ見て何か気付かない?」
「んんん?」
色男だなとは思う。
私のまわりって、ヴィムとかロランとか、わりと顔面偏差値高い。だから今さら、新たなイケメンにどうこう思わないよ。
最近はクルトもメキメキと育って、可愛い系からイケメン寄りにクラスチェンジしてきたし。
しいて言えば、褐色の肌ってセクシー割り増しだよなぁってくらい。縛られて動けないセクシーなイケメン……考えようによっては……。
「お嬢さま、顔がヤらしい」
「なっ、ち、ちょっと眼福だなぁって思っただけですぅーー! 世の中の健全な女子なら、過半数が同意見だと思います」
「私は全く思いません」
私の邪念はピシャリとペトロネラに潰された。
熱を持つ頬を手で扇ぎながら、これ以上からかわれないように縄を解くクルトを手伝う。
「で、この人がどうしたって?」
「こいつの顔、見覚えなぁい?」
じっと見つめてみる。
優しそうな垂れ目な瞳。どこかで見た気がするな。
謎の果物を買った店のお兄さん? それとも、水売りのお兄さん? それとも、ランタナグラスのアクセサリー売りのお兄さん?
「んんん?」
もしかして。
「女装趣味のお兄さん?」
暖かい室内にヒヤリとした空気が入って来る。
「よいしょっと」
同時にクルトが窓から入って来た。
「ちょっと、クルト。行儀悪いよ。入り口から入っておいで」
「はぁい。あ、僕にも温かいお茶ちょうだい。外、すっごく寒いよ~~」
ペトロネラがクルトに温かいお茶を出した。スパイスが香るお茶は、ランタナ国ではお馴染みらしい。少しクセのあるミルクが混じった甘いお茶で、チャイに似ている。
「ふはぁ。暖まる~~けど、このお茶……僕はちょっと苦手~~」
「そう? 私はわりと好きかな。でも確かに、万人受けはしないかもね。スパイス強めだし、ミルクも馴染みある感じじゃないからなぁ」
「私も好きです。お土産に買って帰りましょうか。パウルさんが好きそうですし」
和やかにティータイムが進むけれど。
温かいお茶に一息ついて、私は見ないフリをしていた現実に向き合う決心をした。
「クルト君」
「なぁに?」
「足元のソレについて、聞いてもいいかな」
クルトの足元を見る。
そこには、ロープでグルグル巻きにされた男が転がっていた。
猿ぐつわで声を出せない男は、う~う~と唸りながら私をじっと見て来る。目力がすごい。
「こいつ、宿のまわりをウロウロしてたんだよね」
「誰?」
なかなかの色男だと思うけれど、縛られて転がっていてはソレも台無しだ。
褐色の肌に琥珀色の瞳は、ランタナ国ではよくある組み合わせ。垂れ目で睫毛が長いから、中性的ないわゆる美青年だ。
毛皮のマントから覗く暗い緑の服と、装飾が青いランタナグラスのペンダントだけなのは、派手好きなこの国では珍しいかもしれない。
生地は上質そうだし、マントの毛皮は砂狐の物だ。細かい毛がビッシリはえた砂狐の毛皮は、軽さと保温に優れている上に、砂を弾く性能と手触りの良さが特徴の高級品だった。水にはかなり弱いようだけど、この時期のランタナ国では雨の心配はないだろう。
私も三人分の砂狐のマントを買ったけど、一枚1万5000ペリンだった。
ランタナ国では四人家族が栄養十分に腹を空かせず暮らす為には、1日200ペリンは必要らしい。それすら払えない人も多い中、一万5000ペリンは手が出ないよね。
そんな高級品を身に付けている、この男性は誰だろうか。まさか金持ちを拉致して身代金を要求しようだなんて言わないよね。そんな子に育てた覚えはないよ、クルト君。
「ルシオ・セルバンテス。そいつの名前だよ。
この町の領主の息子だってさ。ほら、巨木の下ある宮殿があるじゃん。あそこの家の子」
「ち、ちょっと! 領主の息子って貴族っ? 貴族令息を誘拐して来たのっ?」
いざとなったら、扉から一瞬で国外に逃げることが出来る。とはいえ、扉までたどり着けずに捕まったら……考えたくないな。
「元の場所に戻して来なさい」
「え~~でも、そいつ、お嬢さまを探ろうとしてたんだよ? 宿のまわりをウロウロしててさぁ。鬱陶しいじゃん」
「それは万死に値します」
しません、しません。ペトロネラまで物騒なことを言わないで欲しい。
って言うか、ペトロネラの彼を見る目が……怖いんだけど。まさか本気か。
ルシオ・セルバンテス。24歳。伯爵家の次男。
次男といえども、伯爵家の者なら護衛がいるはず。目の前で拐われたなら、すでに騒ぎになっていてもおかしくない。
窓の外を覗くと、変わらずに静けさがあった。どうやらまだ時間はありそうだ。
内心焦る私とは別に、クルトは飄々としながら男に近付いた。
すると、縄を解き始めた。
「縄解くけど、叫ぶなよな。夜だしさぁ、大声だされたら近所迷惑じゃん。
お嬢さま、こいつ見て何か気付かない?」
「んんん?」
色男だなとは思う。
私のまわりって、ヴィムとかロランとか、わりと顔面偏差値高い。だから今さら、新たなイケメンにどうこう思わないよ。
最近はクルトもメキメキと育って、可愛い系からイケメン寄りにクラスチェンジしてきたし。
しいて言えば、褐色の肌ってセクシー割り増しだよなぁってくらい。縛られて動けないセクシーなイケメン……考えようによっては……。
「お嬢さま、顔がヤらしい」
「なっ、ち、ちょっと眼福だなぁって思っただけですぅーー! 世の中の健全な女子なら、過半数が同意見だと思います」
「私は全く思いません」
私の邪念はピシャリとペトロネラに潰された。
熱を持つ頬を手で扇ぎながら、これ以上からかわれないように縄を解くクルトを手伝う。
「で、この人がどうしたって?」
「こいつの顔、見覚えなぁい?」
じっと見つめてみる。
優しそうな垂れ目な瞳。どこかで見た気がするな。
謎の果物を買った店のお兄さん? それとも、水売りのお兄さん? それとも、ランタナグラスのアクセサリー売りのお兄さん?
「んんん?」
もしかして。
「女装趣味のお兄さん?」
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