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夜の砂漠

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 私の足元の床が消えた。

 ガクリと落ちる。

 ジェットコースターの頂点で急降下を予感させる時と同じく、膀胱がキュッとする。

(落ちる~~っ)

 悲鳴をあげなかったことは、自分で自分を褒めたいです。
 さすがに騒いだら、外から人が来るだろうし。それも敵認識して。

 かわりに肩にズンと重みを感じて、本能的に目を閉じた。

「ふぅ」

「危なっ」

 二人の声に、恐る恐る目を開くと、私の足はポッカリ開いた穴の上に宙吊りになっていた。

 二人に両腕を掴まれていなければ、すでに穴の底で息絶えていたかもしれない。穴の底にキラリと光る物が見えて、背筋に冷や汗が流れた。

「うわ、下は槍だらけ。落ちたら串刺しだよ。まだ新品みたいだから、お嬢さまが串刺し第一号になるところだったね」

「だが、使えるな」

「だね」

「あの辺りが……」

「あそこを……」

 会話が止まらない二人だけど、まだ私は宙吊り状態で、足元ブラブラなんですけど。
 抗議すれば、すぐに引き上げてくれた。

「だけどさぁ、お嬢さまってホント引きが強いって言うか……」

「どういうことよ」

「この落とし穴、使えるって話」

 私達がいる宝物庫は、天井付近に子供も通れないほどの小さな窓がある。場所的には半地下にある部屋のようだ。

 私が落ちた落とし穴の側面から穴を開けて、地上に繋ぐ。言うは簡単だけど、そんなこと容易に出来るわけがない。掘るとなれば音も出るし、見つかったら命はないだろうし。

「まぁ、任せてよ。こういう地味なコツコツ作業って、エドガーの兄ちゃんが得意なんだよねぇ」

「あいつは妙に凝るからな。ま、一月もあれば完成するだろう」

「そ、そんなに簡単にエドガーに押し付けちゃっていいの?」

 本人の承諾もなしに。
 二人が揃って頷くから、いいことにしよう。



※※※※※※※※※※※※※※※



 赤の扉はランタナ国の花の街に繋がっている。
 現在は砂漠の砂に呑み込まれた、廃墟だ。

 気温の下がる夜は、昼の焼けつくような熱さとは打って変わって、しっかりと着込まないと寒いくらいの気温になる。

 夜の散策にやって来たメンバーは、ヴィムとペトロネラと私。

「さっむ! 昼は暑くて夜は寒いなんて、そんな場所に暮らせる気がしないわ」

 私よりずっと薄着な二人が、しっかり着こんだ私の姿を無言で見つめて来る。

 仕方ないじゃない。暑さにも寒さにも弱いんだもの。
 ヴィムもペトロネラもフードだけはしっかり被っている。それは砂が髪の毛に付くのが嫌だからで、私のように暖を優先したわけじゃないらしい。

 開き直って空を見上げると、満天の星空が広がっていた。
 この世界にも月は一つだけど、地球の月より一回り大きく、色は少し青みがかっている。

 月が大きいから、月明かりと小さな携帯ランプの明かりだけでも、散策には支障はないくらいに明るい。

「では出発しましょう」

 最初の一歩目で砂に足を取られた私は、ペトロネラに手を引かれることになった。
 子供じゃあるまいしって思うけど、私の運動神経を考えたら確実に足手まといなんだもの。ここは素直に手を借りることにした。
 ヴィムも手を差し出してくれたけど、さすがに夜空の下でイケメンと手を繋ぐなんて、ヤバいものね。

 地図も何もない状態で砂漠に出ることは、ハッキリ言って自殺行為だ。
 場合によっては数十キロも数百キロだって、砂漠が続くかもしれない。広大な砂漠から、地図もなくオアシスを探そうなんて、砂漠素人の私達には絶対に無理。
 だから最初は、廃墟を目視できる距離までだ。

「これ、けっこう大変だよね。私、すでに諦めモードだよ」

「そうですね。やみくもに歩いても、駄目そうです」

 どこまでも続く砂。

 下手をしたら、砂漠の真ん中で朝になって、干からびて、The End。

「イヤだぁ。砂漠なんて、地図もガイドもなかったら攻略できませ~~ん」

 弱音を吐いた時、私とペトロネラの前を歩いていたヴィムが足を止めた。
 身振りでしゃがめと指示をするから、ペトロネラは私の肩を押して強制的にしゃがませられた。最近、私の扱いが雑な気がするんだけど、気のせいかな。

 ペトロネラは不満げな私をシッと黙らせて、怖い顔で前を見つめている。

 私には前方に何があるかは見えない。

 二人のピリリとした空気に、ゴクリと喉が鳴った。

 しばらくして、ペトロネラが私に耳打ちした。

「人です。近づいて来ます」

 私の目にも月明かりに照らされた人の姿が見えて来た。

 

 
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