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パーティーはお気軽に

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 ありったけのテーブルが置かれた裏庭。テーブルいっぱいに料理が並べられていて、移動して来たみんなが歓声をあげた。

 本日のメニュー。
・金平糖のおじさん特製、シチューとモルント肉のステーキ。
・ヴェロニカが好きなミートパイ。
・彩り鮮やかな異世界風の生春巻き。
・モルント肉のローストビーフ。
・魚介たっぷりのパエリア。
・生ハムとスモークサーモンのサラダ。
・パテ・アン・クルート。
・巨大海老の海老チリ。
・極太ソーセージの盛り合わせ。
・サンドイッチ(ハムたまご、クリームチーズとイチゴジャム、ベーコンレタス)
・宝石茸とクークル肉のトマトパスタ。
・サーモンとほうれん草のクリームパスタ。
・カナッペ(リンゴとクリームチーズ、ホタテとアンチョビ、ヨーグルトとベリーソース)

 バイキングのメニューみたいに、好きな物を好きなだけ食べるシステムにした。
 主に私が好きな、いつものメニューが中心だ。特別なパーティーメニューで揃えなかったのは、ゲストがみんな平民だから。食べなれない宮廷料理なんて出して、口に合わなかったら嫌だからね。

 唯一、パテ・アンクルートだけはパーティー向けか。フレンチでお馴染みなこの料理は、様々な肉をまとめてパイで包んで焼いたら後、コンソメのジュレを流した物だ。
 ローラの故郷ではお祝いメニューらしいから、ローラがはりきって作っていた。

 この世界には、洋食も中華もエスニック系も、いろいろなジャンルの料理が存在するけど、こんなに一度に集まるのは珍しいと思う。
 いろいろな国から寄せ集まった、イシカワ邸ならではかな。

 でも、和食と呼べる料理にはまだ出会っていないのが不思議。どこかにあるのか、はたまた女神の好みに合わなかったのか……後者なら悔しいな。宍戸先輩も私も日本人なのに。

「おお! 何あれ」

 子供達がワラワラと群がっている中央に、大きな白い山が置かれていた。

「これは塩釜焼きですよ、お嬢さま」

「マリッカ。塩釜焼きってことは、あの山の中に魚でも入ってるの?」

「はい。……お嬢さまは知っているんですね。
 私のいた国のお祝いの料理なんです。ローラさんがいい魚を仕入れてくれたので、みんなで頑張ってみました」

 おお! 日本料理がここにあったよ!

 以前マリッカはパエリアを故郷の味だと言っていたし、ニンニクが効いたアリオリソースのような物も作っていたから、和食の国じゃなさそうだけど。

「それにしても、でっかい塩の山だね」

「……そうですか? 普通だと思います」

 私の知っている塩釜焼きは、大きくても二キロくらいの鯛で作った物だよ。この山の中に入っている魚はどれくらい大きいんだ。マグロ? マグロなの?

 私が塩の山の前で立ち尽くしていると、アルバンが飲み物を持って来てくれた。

「お嬢様。みんなに飲み物が行き渡りました」

 大人はワイン。子供はレモネード。私に渡されたのはレモネードだったけど。

「子供達が待ちきれないようですよ」

「うん。これ以上お預けにするのも可哀想だね」

 ヨダレを垂らしそうな顔で、たくさんの料理を眺める様子が面白い。
 教会の子供達やバート村の人達は、こんなに手の込んだ料理を食べる機会がないから。

「それじゃあ、初めようか」

 本当はパーティーを仕切るなんて面倒なことはしたくないんだけど、私が主人だから頑張ります。

 パンパンパンパン。

 アルバンが手を叩いた。
 ざわつく会場に不思議なくらい大きな音がなる。
 一瞬で静まり返った会場に、私は口を開いた。

「皆さん。今日はフーゴとヴェロニカの結婚式に来てくれて、どうもありがとうございます」

 あまり堅苦しくないように、口調はほどよく崩す。

「この国では、平民は結婚式をしないと聞きました。でも私の育った場所では、平民だって普通に結婚式をします。
 親しい人達の前で『私達は結婚しますよ。これからもよろしく』って意味でもあります。
 二人はもう少しでバート村に移住しますが、これからも二人をよろしくお願いしますね」

 神に誓うとか、そんなことは二の次。親しい人達に祝われながら、楽しく過ごす時間が二人の思い出になればいいな。

「では二人が来るまで、私達は一足早く食事にしましょう。
 さぁ、パーティーの始まりです! グラスを!」

 事前に始まりの合図は決めてある。
 みんなが同じようにグラスをかかげた。

「乾杯!」

「「「カンパイ!」」」

 こうして披露宴もとい、パーティーが始まった。



 最初、子供達は本当に食べていいのかどうか、まわりの顔を伺っていたから、私が率先してハーブの効いた極太ソーセージにかぶりつく。
 メイド達にもたのんで、サンドイッチを子供達に配ってもらった。
 食べ始めたら、もう遠慮なんてどこかに飛んで行ったようで、それぞれ好きに食べ始める。子供達の食べっぷりに、市場の果物屋の夫婦も、肉屋のお兄さんも、八百屋の老夫婦も、安心して食べ始めた。



「白いワンピースに銀の刺繍……ヴェロニカさん、素敵でしたねぇ」

「やっぱり女はスタイルの良さなんでしょうか。筋肉質なのに、身体のラインが凄く色っぽくて……ほぅ」

「刺繍一つで凄くイメージが変わりますよねぇ。結婚式、羨ましいです!」

 フィーネさんとマリンとルーナが、料理よりもヴェロニカが着ていたワンピースの話に盛り上がっている。



「んんんっ! このパスタ、美味しすぎますぅ! 酸っぱ辛くてクセになっちゃう!」

 バート村のアメリが口を真っ赤にしながら宝石茸のトマトパスタにがっついていた。

「……あの子、すごいですね……」

「青白い顔で、口元真っ赤にして……ドラキュラみたいだ……」

 クライブさんとマインラート先生がドン引きしている。



「ほら、ロザリアさん! 早くワイン持って行って来てくださいよ!」

「で、ですが、ご迷惑になるのでは……」

「……はうっ! その顔でお酌したら、お堅いイザークさんだって一発コロリですって」

 イザークさんを遠目で見ながら頬を染めるロザリアと、自称『ロザリアとイザークをくっつけ隊』のエリンとカリンが、キャッキャウフフしている。
 その先でイザークさんは、ユーリ、ベルタ、フリン、リサの四人と馬好き同好会を結成して、生ハムを摘まんでいた。



「ロルフ君、これ美味しいわよ」

「家の店のシチューは、ロルフ君の好物よね~~」

「あら、ロルフ君のワインがもうないわ。もっと飲みなさいな」

「んまぁ! すごい腕の筋肉ねぇ。家の旦那と大違いだわ」

 ロルフのまわりは、いつものようにマダム溜まりが出来ていた。

 ロルフはいつも通り、微笑みをマダム達に振り撒いている。

「今日の奥様方は特にお綺麗ですよ。素敵なドレスですね。よくお似合いです」

 その一言に、マダム達はいい笑顔で頬を染める。

「嫌だわぁ、ロルフ君ったら上手なんだから」

「教会で服を貸してくれたのよ。こんないい服、始めて着たけど、気分いいわぁ」

「ロルフ君に誉められるなんて、結婚式に参加して良かった」

「本当は平民がパーティーなんて……って少し躊躇ったのよ」

 着る服がないって言うから、教会にいくつも服を持ち込んで、貸衣装形式にした。どうせ教会の子供達の分もあるからね。
 古着に手を加えたり、シンプルなワンピースに飾りをつけたり、ティモとバート村の女性達が頑張ってくれた。バート村の女性達は手先が器用だし、思わぬ現金収入に喜んでくれた。これはバート村の温泉以外の収入源になるかもしれない。



 意外な組み合わせと言えば、ローラが金平糖のおじさんに詰め寄られていた。
 いつも厨房にいるおじさんは無口で少し強面だ。自分から誰かに声をかけるなんて、ちょっと意外。

「これは……あんたが作ったのか?」

「ひぃっ! は、はははいっ」

「パイがサクッとしているのに、中は驚くほどしっとりしている。中の水分がパイに染み込むだろう。なぜ、サックリが可能なんだ」

 断面も美しい。
 直方体の大きなパテ・アン・クルートを、薄くスライスした一人前。食パンを一枚スライスしたような見た目で、様々な肉類とピスタチオ、クランベリー、レーズンが入ったパテを、クルートと呼ばれるパイ生地でグルリとくるまれている。

「あ、あの。火入れが重要で……」

 パイをサクサクにしようと長く火入れすると、中の肉がパサついてしまう。逆に肉のジューシーさを重視すると、パイが生焼けだったり、肉汁で湿気てしまう。両方を絶妙なバランスで焼き上げるには、かなり料理人の腕が試される。

「私はパイの食感を重視して、少ししっかりめを意識して焼いてます……よ?」

「それじゃあ、こっちのーーー」

 無口だと思っていたのは勘違いかな。料理の話題だと、ローラがタジタジになるくらい積極的だ。意外な一面が見れて良かった。


 リンリンリンリン。

 ベルが鳴った。

 フーゴとヴェロニカの準備が終わった合図だ。

「「新郎新婦が到着しました」」

 シスター・ローゼリアとシスター・マーガレットが声を揃えて言った。
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