異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴

文字の大きさ
上 下
66 / 162

オークション

しおりを挟む
 二日後。

 オークション当日は、メリンとマリッカと一緒に買ったリボンと、ストールを身に付けた。
 ミント色のリボンと、肌触りのいいアイボリーのストールは、どちらもロルフがチョイスした物だ。シンプルだけど上品で気に入っている。

 リリアとルッツは宿でお留守番だ。第二陣は明日の朝、マルファンに出発する。準備もあるために、ベルタとカサンドラも宿に残ることになった。

 オークション会場にやってきたのは、私、ヴィム、アルバン、ヨハン、クルトだ。

「こんばんは、お嬢様。入場料はお一人様1500ペリンです」

 シルクハットをかぶった受付の紳士が、にこやかに対応してくれる。接客業の鏡だ。
 値段は意外と高いけど、冷やかしお断りという値段設定なのかもしれない。
 安く気軽に参加出来るようにしたら、買う気もないのに値段を吊り上げる人がでてきそうだ。購入したい出品商品があれば、1500ペリンなんて安い物なのかな。

「こんばんは。じゃあ5人だから7500ペリンね」

「7500ペリン確かに。オークションのルールはご存知でしょうか?」

「説明をお願い出来ますか」

「了解しました」

 28番と書かれた番号札を渡されて、今夜はこれが私の番号だ。
 オークションのルールは、一般的なイングリッシュオークションとほとんど変わりない。番号札を上げて金額を言い合い、最高額をつけた人物が落札する。

 別室に今回のオークションに出品される一部が展示されていて、それを見ながら参加の有無を決めることが出来るらしい。
 展示の前には人集りが出来ていて、私は見に行くことをあきらめた。

 私達が席に着いた後も続々と参加者が増えて行く。

 参加者は実に様々だった。商人風の人が多い中、やけに身なりのいい人物も複数いる。貴族や富豪などだろう。
 私達のようないかにも観光客という人もいる。

 オークション開始まで後少しという時。

「こんばんは」

 後ろの席から声が聞こえた。
 王都に知り合いもいないから、私に声をかけたわけじゃないだろう。前方で忙しなく準備を整える司会者(オークショニア)をじっと見つめていた。紙の束を見ながらブツブツ呟いているから、オークションの台本だろうか。
 どんな物が出品されるか気になるな。やっぱり展示された出品商品を、チラリでも見ておくべきだったかもしれない。

「…………あら? こ、こんばんは?」

 再び聞こえた後ろの声は、戸惑ったようにさっきと同じことを繰り返す。
 相手に聞こえなかったのかどうか知らないけど、もうすぐオークションが始まるのに、私語は控えて欲しい。

 私の隣でアルバンが控えめに「お嬢様」と囁いた。アルバンを見ると、チラリと後ろに視線を向ける仕草をする。

「うん?」

 つられて後ろを向くと、すぐにキラキラの金髪が目に入った。
 綺麗な緑色の瞳と目が合うと、金髪の主はパッと花が咲いたように笑顔になる。

「やっぱり! マイカさんですね!」

 私はキラキラの金髪の知り合いは一人しか知らない。
 宿場町でシクシク泣いていたご令嬢だ。
 護衛の男もいる。初見の護衛が更に二人いて、この娘……関わりたくない大物感がヒシヒシと伝わって来るんだよね……。

「あ~~、その節はどうも」

 当たり障りのない文句を返したけど、仕方ないよね。親しいわけじゃないし、黒大熊の肝を女将に託して逃げた手前、気まずいし。

 アルバンは穏やかな表情をしながら、「聞いてないんですけど」と言いたげなヌルイ目線を向けて来る。
 そういえばアルバンは知らないよね。
 合流した時に、アルバンに「何かお変わりはありませんでしたか?」と聞かれて、「何もないよ」と言ったんだ。執事には報告しないといけない案件だったかな。
 ごめんよ、アルバン。

 実はアルバンは、すでに他の使用人から報告を受けて知っていたのだけれど。

「お嬢様のお知り合いでしょうか」

「うん、まぁ」

 知り合いといえば知り合い……かな。名前も知らないけれど。

 金髪の彼女には、私とアルバンの微妙な空気が伝わっていないみたいだ。前のめり気味にニコニコしている。

「マイカさんにお礼を言いたくて、探していたんです! オークションになら来ているんじゃないかってマシューが。大正解でした!」

 言いながら、手に持っていた52番の番号札をヒラヒラ振る。

 護衛のマシューの分かりやすいドヤ顔が何か嫌だ。

「マイカさんのおかげで、父もすっかり元気になりました! 本当にーーーー」

「しっ。始まります」

 いいタイミングでオークショニアがハンマーをカンカン叩いて、始まりを告げる。

 話を切った私に、彼女の後ろで控えていた護衛が一瞬ニラむようにこっちを見た。

 ご令嬢に対して失礼だって? 不敬罪? 知りませんよ。
 彼女は名乗ってもいないし、例えどんな身分があったって、オークション会場ではオークショニアに従うべきだ。

「さぁさぁ、紳士淑女の皆様。本日もオークション会場へようこそいらっしゃいました」

 本当ならワクワクする場面が、気持ちが萎んだよ。

 背後でゴンッと鈍い音が聞こえて来た。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...