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オークション
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二日後。
オークション当日は、メリンとマリッカと一緒に買ったリボンと、ストールを身に付けた。
ミント色のリボンと、肌触りのいいアイボリーのストールは、どちらもロルフがチョイスした物だ。シンプルだけど上品で気に入っている。
リリアとルッツは宿でお留守番だ。第二陣は明日の朝、マルファンに出発する。準備もあるために、ベルタとカサンドラも宿に残ることになった。
オークション会場にやってきたのは、私、ヴィム、アルバン、ヨハン、クルトだ。
「こんばんは、お嬢様。入場料はお一人様1500ペリンです」
シルクハットをかぶった受付の紳士が、にこやかに対応してくれる。接客業の鏡だ。
値段は意外と高いけど、冷やかしお断りという値段設定なのかもしれない。
安く気軽に参加出来るようにしたら、買う気もないのに値段を吊り上げる人がでてきそうだ。購入したい出品商品があれば、1500ペリンなんて安い物なのかな。
「こんばんは。じゃあ5人だから7500ペリンね」
「7500ペリン確かに。オークションのルールはご存知でしょうか?」
「説明をお願い出来ますか」
「了解しました」
28番と書かれた番号札を渡されて、今夜はこれが私の番号だ。
オークションのルールは、一般的なイングリッシュオークションとほとんど変わりない。番号札を上げて金額を言い合い、最高額をつけた人物が落札する。
別室に今回のオークションに出品される一部が展示されていて、それを見ながら参加の有無を決めることが出来るらしい。
展示の前には人集りが出来ていて、私は見に行くことをあきらめた。
私達が席に着いた後も続々と参加者が増えて行く。
参加者は実に様々だった。商人風の人が多い中、やけに身なりのいい人物も複数いる。貴族や富豪などだろう。
私達のようないかにも観光客という人もいる。
オークション開始まで後少しという時。
「こんばんは」
後ろの席から声が聞こえた。
王都に知り合いもいないから、私に声をかけたわけじゃないだろう。前方で忙しなく準備を整える司会者(オークショニア)をじっと見つめていた。紙の束を見ながらブツブツ呟いているから、オークションの台本だろうか。
どんな物が出品されるか気になるな。やっぱり展示された出品商品を、チラリでも見ておくべきだったかもしれない。
「…………あら? こ、こんばんは?」
再び聞こえた後ろの声は、戸惑ったようにさっきと同じことを繰り返す。
相手に聞こえなかったのかどうか知らないけど、もうすぐオークションが始まるのに、私語は控えて欲しい。
私の隣でアルバンが控えめに「お嬢様」と囁いた。アルバンを見ると、チラリと後ろに視線を向ける仕草をする。
「うん?」
つられて後ろを向くと、すぐにキラキラの金髪が目に入った。
綺麗な緑色の瞳と目が合うと、金髪の主はパッと花が咲いたように笑顔になる。
「やっぱり! マイカさんですね!」
私はキラキラの金髪の知り合いは一人しか知らない。
宿場町でシクシク泣いていたご令嬢だ。
護衛の男もいる。初見の護衛が更に二人いて、この娘……関わりたくない大物感がヒシヒシと伝わって来るんだよね……。
「あ~~、その節はどうも」
当たり障りのない文句を返したけど、仕方ないよね。親しいわけじゃないし、黒大熊の肝を女将に託して逃げた手前、気まずいし。
アルバンは穏やかな表情をしながら、「聞いてないんですけど」と言いたげなヌルイ目線を向けて来る。
そういえばアルバンは知らないよね。
合流した時に、アルバンに「何かお変わりはありませんでしたか?」と聞かれて、「何もないよ」と言ったんだ。執事には報告しないといけない案件だったかな。
ごめんよ、アルバン。
実はアルバンは、すでに他の使用人から報告を受けて知っていたのだけれど。
「お嬢様のお知り合いでしょうか」
「うん、まぁ」
知り合いといえば知り合い……かな。名前も知らないけれど。
金髪の彼女には、私とアルバンの微妙な空気が伝わっていないみたいだ。前のめり気味にニコニコしている。
「マイカさんにお礼を言いたくて、探していたんです! オークションになら来ているんじゃないかってマシューが。大正解でした!」
言いながら、手に持っていた52番の番号札をヒラヒラ振る。
護衛のマシューの分かりやすいドヤ顔が何か嫌だ。
「マイカさんのおかげで、父もすっかり元気になりました! 本当にーーーー」
「しっ。始まります」
いいタイミングでオークショニアがハンマーをカンカン叩いて、始まりを告げる。
話を切った私に、彼女の後ろで控えていた護衛が一瞬ニラむようにこっちを見た。
ご令嬢に対して失礼だって? 不敬罪? 知りませんよ。
彼女は名乗ってもいないし、例えどんな身分があったって、オークション会場ではオークショニアに従うべきだ。
「さぁさぁ、紳士淑女の皆様。本日もオークション会場へようこそいらっしゃいました」
本当ならワクワクする場面が、気持ちが萎んだよ。
背後でゴンッと鈍い音が聞こえて来た。
オークション当日は、メリンとマリッカと一緒に買ったリボンと、ストールを身に付けた。
ミント色のリボンと、肌触りのいいアイボリーのストールは、どちらもロルフがチョイスした物だ。シンプルだけど上品で気に入っている。
リリアとルッツは宿でお留守番だ。第二陣は明日の朝、マルファンに出発する。準備もあるために、ベルタとカサンドラも宿に残ることになった。
オークション会場にやってきたのは、私、ヴィム、アルバン、ヨハン、クルトだ。
「こんばんは、お嬢様。入場料はお一人様1500ペリンです」
シルクハットをかぶった受付の紳士が、にこやかに対応してくれる。接客業の鏡だ。
値段は意外と高いけど、冷やかしお断りという値段設定なのかもしれない。
安く気軽に参加出来るようにしたら、買う気もないのに値段を吊り上げる人がでてきそうだ。購入したい出品商品があれば、1500ペリンなんて安い物なのかな。
「こんばんは。じゃあ5人だから7500ペリンね」
「7500ペリン確かに。オークションのルールはご存知でしょうか?」
「説明をお願い出来ますか」
「了解しました」
28番と書かれた番号札を渡されて、今夜はこれが私の番号だ。
オークションのルールは、一般的なイングリッシュオークションとほとんど変わりない。番号札を上げて金額を言い合い、最高額をつけた人物が落札する。
別室に今回のオークションに出品される一部が展示されていて、それを見ながら参加の有無を決めることが出来るらしい。
展示の前には人集りが出来ていて、私は見に行くことをあきらめた。
私達が席に着いた後も続々と参加者が増えて行く。
参加者は実に様々だった。商人風の人が多い中、やけに身なりのいい人物も複数いる。貴族や富豪などだろう。
私達のようないかにも観光客という人もいる。
オークション開始まで後少しという時。
「こんばんは」
後ろの席から声が聞こえた。
王都に知り合いもいないから、私に声をかけたわけじゃないだろう。前方で忙しなく準備を整える司会者(オークショニア)をじっと見つめていた。紙の束を見ながらブツブツ呟いているから、オークションの台本だろうか。
どんな物が出品されるか気になるな。やっぱり展示された出品商品を、チラリでも見ておくべきだったかもしれない。
「…………あら? こ、こんばんは?」
再び聞こえた後ろの声は、戸惑ったようにさっきと同じことを繰り返す。
相手に聞こえなかったのかどうか知らないけど、もうすぐオークションが始まるのに、私語は控えて欲しい。
私の隣でアルバンが控えめに「お嬢様」と囁いた。アルバンを見ると、チラリと後ろに視線を向ける仕草をする。
「うん?」
つられて後ろを向くと、すぐにキラキラの金髪が目に入った。
綺麗な緑色の瞳と目が合うと、金髪の主はパッと花が咲いたように笑顔になる。
「やっぱり! マイカさんですね!」
私はキラキラの金髪の知り合いは一人しか知らない。
宿場町でシクシク泣いていたご令嬢だ。
護衛の男もいる。初見の護衛が更に二人いて、この娘……関わりたくない大物感がヒシヒシと伝わって来るんだよね……。
「あ~~、その節はどうも」
当たり障りのない文句を返したけど、仕方ないよね。親しいわけじゃないし、黒大熊の肝を女将に託して逃げた手前、気まずいし。
アルバンは穏やかな表情をしながら、「聞いてないんですけど」と言いたげなヌルイ目線を向けて来る。
そういえばアルバンは知らないよね。
合流した時に、アルバンに「何かお変わりはありませんでしたか?」と聞かれて、「何もないよ」と言ったんだ。執事には報告しないといけない案件だったかな。
ごめんよ、アルバン。
実はアルバンは、すでに他の使用人から報告を受けて知っていたのだけれど。
「お嬢様のお知り合いでしょうか」
「うん、まぁ」
知り合いといえば知り合い……かな。名前も知らないけれど。
金髪の彼女には、私とアルバンの微妙な空気が伝わっていないみたいだ。前のめり気味にニコニコしている。
「マイカさんにお礼を言いたくて、探していたんです! オークションになら来ているんじゃないかってマシューが。大正解でした!」
言いながら、手に持っていた52番の番号札をヒラヒラ振る。
護衛のマシューの分かりやすいドヤ顔が何か嫌だ。
「マイカさんのおかげで、父もすっかり元気になりました! 本当にーーーー」
「しっ。始まります」
いいタイミングでオークショニアがハンマーをカンカン叩いて、始まりを告げる。
話を切った私に、彼女の後ろで控えていた護衛が一瞬ニラむようにこっちを見た。
ご令嬢に対して失礼だって? 不敬罪? 知りませんよ。
彼女は名乗ってもいないし、例えどんな身分があったって、オークション会場ではオークショニアに従うべきだ。
「さぁさぁ、紳士淑女の皆様。本日もオークション会場へようこそいらっしゃいました」
本当ならワクワクする場面が、気持ちが萎んだよ。
背後でゴンッと鈍い音が聞こえて来た。
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