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クセ毛の悩みは切実
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夜明け前、この時間でも宿を出発する馬車はそこそこある。
目的地に到着するタイミングを逆算して、出発時間を決定するのが当たり前で、貸し馬車は急な時間変更にも快く応じてくれた。料金を倍払ったこともあるだろうけど。
ロザリアはカサンドラの紺色のワンピースを着ていた。ウエスト周りは緩いのに、胸周りはまだ少しキツめな感じだ。カサンドラは鍛えているから、見た目よりガッシリしているのは知っている。だからウエストは理解出来るけど……胸はどうなんだ。カサンドラのスーパーボディより更に上をいくダイナマイトボディ。
帰ったらその胸、揉みつくしてやろうか。畜生。
「それじゃあ、アルバン、ベルタ。ロザリアをお願いね」
「「了解しました」」
ロザリアの頭からすっぽりとマントを被せて、馬車に乗せた。
「アルバン。例の件、バート村の村長に手紙を送っておいてね」
「了解しました」
私だって王都で、ただのんびり過ごしていたわけじゃないよ。
……決して遊んでいるだけじゃないんだよ。……たぶんね。
私はバート村に宿を作る。だけど、それだけ。
その他はバート村のみんなで、村を盛り上げる知恵を出し会うべきだ。祭りの時みたいにね。それでもどうしようもない時、スポンサーとしてお金で物を言わすつもりだ。
今回はその「お金で物を言わす」ことが必要なようで、村長と相談中。
私がマルファンにいない間のバート村の事は、アルバンはじめ、使用人のみんなに任せておけば間違いない。
アルバンの髪には申し訳ないけど。
アルバンはゆったりとお辞儀をして、馬車に乗り込んだ。
ヴィムが周囲を警戒している。
クルトはククッと喉を鳴らした。
「昨夜の今朝で、誰もいないとかあり得る?」
「いないの?」
「お嬢さまはとってもナメられてるってことだよ?
昨日あれだけ財力を見せつけたのにさ、『他国の元高位貴族令嬢』ってとびきりのカードを使いこなせないって思われてるの」
そう思わせるように仕向けたんだけどと呟いて、クルトは首を捻った。
「この国のお偉いさんはマヌケなの? こんなに狙いどおり引かれたら、逆に怪しむって」
昨日、夕食前に戻って来た二人は、何をしてきたのか教えてくれなかったけど、クルトがニコニコしていたから二人の首尾よく運んだようだった。
「田舎の成金って思われてるってことね」
「そうそう。噛みついてみる?」
「……ダイジョウブです。
実際、ロザリアを政治的なカードとして使う事なんてないよ。普通に女性として幸せになって欲しい……って考えが、田舎の成金っぽいか」
「ふふふっ。ぽいね」
いたずらっ子の顔をしながら、クルトは私の耳元に顔を寄せた。
「昨日の夜さ、あの金髪のご令嬢のトコのヤツもいたよ」
国でもて余していた犯罪奴隷を私がどう扱うのか、何か企みはあるのか、みんな私に興味津々なようだ。
ご令嬢のところの者は、彼女の指示なのか、家の指示なのか、それとも独断なのか……まぁ、今のところ様子見だな。
全員が馬車に乗り込んだところで、アルバンが馬車から顔を出した。
「では、お嬢様もお気をつけて」
「うん。後のことはよろしくね」
第二陣が乗った馬車をヴィムと一緒に静かに見送りながら、私は欠伸を噛み殺した。
まだ夜は明けていない。
順調に第一陣がマルファンに着いていたら、第三陣も今日あたり出発するはずだ。
第三陣が到着するまでの4日あまり、ヴィムと二人きりになる。せめてロザリアの解呪が終わるまで、ロザリアは王都にいると思わせなければいけない。
なるべく、いつも通りにしないと。
「ヴィム、朝食まで寝よ」
「そうだな」
私とヴィムはいつも通り、朝食まで各自部屋で過ごした。
二度寝はどうしても寝過ごしてしまう。
ヴィムは何度も私の部屋の扉をノックしたらしいけど、全く気付かずに爆睡してしまった。おかげで朝食を食べ損ねたよ……。
ヴィムが一人で食べた今朝の朝食は、フレンチトーストとベーコン。フルーツのサラダに野菜のスープ。朝食にはピッタリだ。
お腹も減ったし、さっさと外出の準備をしてカフェに行こう。
ヘアブラシに少量の香油をつけて、髪に通す。これだけで、クセのある私の髪も多少は落ち着く。昨日はリリアがやってくれた髪のセットだけど、今日だっていつも通りにセットしないといけない。
「難しい…………」
最初の頃より多少長くなった私のクセ髪は、不器用な私が扱うには厄介だ。
「何このピョンってハネる髪。もう切っちゃう? このピョン。ルーナに怒られちゃうか」
メイド達は実に器用に私の髪を結ってくれる。特にルーナが上手くて、アレンジの仕方を教えてもらったけど、私が出来たのは唯一一つだけ。
何度ブラシで撫で付けても、頑固に外側にハネる左サイドの一つかみ。これを使って、サイドを三つ編みにしてゴムで結ぶ。
多少編み目が揃わなくても気にしない。
出来た三つ編みと残りの髪を一緒に、耳の横で大振りのバレッタで止める。最後に三つ編みのゴムを取る。
これで何とか手強いハネりを隠すことに成功した。
今日使用したバレッタは、四女メリンとマリッカとロルフとリボンを購入した際に、ロルフがチョイスした物だ。
金色の土台に、小さな宝石を組み合わせて、たくさんのキラキラの花になっている。宝石がたくさん使われているわりに、値段はお手頃だった。加工に向かない小さい宝石を使っているとかで、リーズナブルらしい。
とはいえ、私的には十分に高級品。メリンとマリッカに似合うと煽てられて、奮発して購入してしまった。
「ちょっと派手かなって思ったけど……シンプルな髪型には、ちょうどいいかもね」
高級バレッタ一つで、簡単な髪型でも華やかに見えるから不思議だ。
これに生地の質がいいシンプルなブラウスと、光沢のあるAラインスカートを合わせれば……ちょっといいとこのお嬢さん余所行きスタイルの出来上がり。
コンコンコン。
準備ができたところで扉をノックする音がした。
「はぁい」
「マイカ。外に馬車が止まった。例のご令嬢だと思う」
「今行く」
私とヴィムの今日の予定は、裏路地ブラブラ散策だ。
私達はご令嬢が来るタイミングに合わせて、宿を出ることにした。
「おはようございます。イシカワ様。
ちょうどお呼びしようと思っていましたよ」
階段を下りる途中で、宿の総支配人ライノさんはニコリと営業スマイルを向けてくれる。
「おはようございます。どうかしました?」
「ロビーにお客様がお目見えです」
「誰か分かります?」
「いえ、『昨日会う約束をした』とそれだけです。名を名乗る事は避けたいようでしたので、イシカワ様に確認を……と思いまして」
「金髪の女性でした?」
「いえ、男性です。ロビーでお待ちいただいています。ただ、外に止まっている馬車の紋章が……」
「行って見ます!!」
失礼にも、思わずライノさんの言葉を遮ってしまったのは、未だに知らないご令嬢の身分がライノさんの口から出そうだったからだ。
聞いてしまえば右へ倣えで、ペコペコしないとね。
郷に入っては郷に従え。それがこの国のルールなら従うよ。
ただし、まだ私はご令嬢のことを全く知らないけれど。
宿の総支配人ライノさんに見送られて、私とヴィムはロビーに向かった。
声をかける間もなく、知った顔の男がズンズン私達に近いて来る。
「やぁ、おはよう。マイカ嬢」
ご令嬢の護衛騎士、マシューだ。
こいつめ。マイカ嬢だなんて、気持ち悪い呼び方しないで欲しいな。
「おはようございます。今日はお一人ですか?」
「いやいや、外に家のお姫様が待っています。
是非とも我が主君の屋敷に招かれて貰えないだろうか」
「却下です。私達、全力で観光中なもので、忙しいのですよ」
笑顔でお断りを入れると、マシューは最初から断られる前提だったようで、少しも怯まなかった。
「ではオススメのカフェにでもどうだろうか」
「私、昨日有り金のほとんどを使っちゃったので、貴族御用達の高級店には行けません」
「こちらがお誘いしたんだ。もちろん代金の心配はいらないよ」
「行きましょう!」
堅苦しいのはゴメンだけど、カフェなら貴族御用達でも大丈夫だろう。もともと私達もカフェで小腹を満たすつもりだったしね。
しかも奢りなら断る理由もない。この際、腹一杯食べてやろうか。
「御付きの者は彼一人でいいのかな?」
探るようなマシューの目に、私は肩を竦めた。
「あら、カフェって団体でゾロゾロ行く場所じゃないでしょ。行くよ、ヴィム」
満足げな顔のマシューが何か嫌だけど、ご令嬢オススメのカフェに向かうことになった。
ーーーーけれど、すぐ後悔することになる。
目的地に到着するタイミングを逆算して、出発時間を決定するのが当たり前で、貸し馬車は急な時間変更にも快く応じてくれた。料金を倍払ったこともあるだろうけど。
ロザリアはカサンドラの紺色のワンピースを着ていた。ウエスト周りは緩いのに、胸周りはまだ少しキツめな感じだ。カサンドラは鍛えているから、見た目よりガッシリしているのは知っている。だからウエストは理解出来るけど……胸はどうなんだ。カサンドラのスーパーボディより更に上をいくダイナマイトボディ。
帰ったらその胸、揉みつくしてやろうか。畜生。
「それじゃあ、アルバン、ベルタ。ロザリアをお願いね」
「「了解しました」」
ロザリアの頭からすっぽりとマントを被せて、馬車に乗せた。
「アルバン。例の件、バート村の村長に手紙を送っておいてね」
「了解しました」
私だって王都で、ただのんびり過ごしていたわけじゃないよ。
……決して遊んでいるだけじゃないんだよ。……たぶんね。
私はバート村に宿を作る。だけど、それだけ。
その他はバート村のみんなで、村を盛り上げる知恵を出し会うべきだ。祭りの時みたいにね。それでもどうしようもない時、スポンサーとしてお金で物を言わすつもりだ。
今回はその「お金で物を言わす」ことが必要なようで、村長と相談中。
私がマルファンにいない間のバート村の事は、アルバンはじめ、使用人のみんなに任せておけば間違いない。
アルバンの髪には申し訳ないけど。
アルバンはゆったりとお辞儀をして、馬車に乗り込んだ。
ヴィムが周囲を警戒している。
クルトはククッと喉を鳴らした。
「昨夜の今朝で、誰もいないとかあり得る?」
「いないの?」
「お嬢さまはとってもナメられてるってことだよ?
昨日あれだけ財力を見せつけたのにさ、『他国の元高位貴族令嬢』ってとびきりのカードを使いこなせないって思われてるの」
そう思わせるように仕向けたんだけどと呟いて、クルトは首を捻った。
「この国のお偉いさんはマヌケなの? こんなに狙いどおり引かれたら、逆に怪しむって」
昨日、夕食前に戻って来た二人は、何をしてきたのか教えてくれなかったけど、クルトがニコニコしていたから二人の首尾よく運んだようだった。
「田舎の成金って思われてるってことね」
「そうそう。噛みついてみる?」
「……ダイジョウブです。
実際、ロザリアを政治的なカードとして使う事なんてないよ。普通に女性として幸せになって欲しい……って考えが、田舎の成金っぽいか」
「ふふふっ。ぽいね」
いたずらっ子の顔をしながら、クルトは私の耳元に顔を寄せた。
「昨日の夜さ、あの金髪のご令嬢のトコのヤツもいたよ」
国でもて余していた犯罪奴隷を私がどう扱うのか、何か企みはあるのか、みんな私に興味津々なようだ。
ご令嬢のところの者は、彼女の指示なのか、家の指示なのか、それとも独断なのか……まぁ、今のところ様子見だな。
全員が馬車に乗り込んだところで、アルバンが馬車から顔を出した。
「では、お嬢様もお気をつけて」
「うん。後のことはよろしくね」
第二陣が乗った馬車をヴィムと一緒に静かに見送りながら、私は欠伸を噛み殺した。
まだ夜は明けていない。
順調に第一陣がマルファンに着いていたら、第三陣も今日あたり出発するはずだ。
第三陣が到着するまでの4日あまり、ヴィムと二人きりになる。せめてロザリアの解呪が終わるまで、ロザリアは王都にいると思わせなければいけない。
なるべく、いつも通りにしないと。
「ヴィム、朝食まで寝よ」
「そうだな」
私とヴィムはいつも通り、朝食まで各自部屋で過ごした。
二度寝はどうしても寝過ごしてしまう。
ヴィムは何度も私の部屋の扉をノックしたらしいけど、全く気付かずに爆睡してしまった。おかげで朝食を食べ損ねたよ……。
ヴィムが一人で食べた今朝の朝食は、フレンチトーストとベーコン。フルーツのサラダに野菜のスープ。朝食にはピッタリだ。
お腹も減ったし、さっさと外出の準備をしてカフェに行こう。
ヘアブラシに少量の香油をつけて、髪に通す。これだけで、クセのある私の髪も多少は落ち着く。昨日はリリアがやってくれた髪のセットだけど、今日だっていつも通りにセットしないといけない。
「難しい…………」
最初の頃より多少長くなった私のクセ髪は、不器用な私が扱うには厄介だ。
「何このピョンってハネる髪。もう切っちゃう? このピョン。ルーナに怒られちゃうか」
メイド達は実に器用に私の髪を結ってくれる。特にルーナが上手くて、アレンジの仕方を教えてもらったけど、私が出来たのは唯一一つだけ。
何度ブラシで撫で付けても、頑固に外側にハネる左サイドの一つかみ。これを使って、サイドを三つ編みにしてゴムで結ぶ。
多少編み目が揃わなくても気にしない。
出来た三つ編みと残りの髪を一緒に、耳の横で大振りのバレッタで止める。最後に三つ編みのゴムを取る。
これで何とか手強いハネりを隠すことに成功した。
今日使用したバレッタは、四女メリンとマリッカとロルフとリボンを購入した際に、ロルフがチョイスした物だ。
金色の土台に、小さな宝石を組み合わせて、たくさんのキラキラの花になっている。宝石がたくさん使われているわりに、値段はお手頃だった。加工に向かない小さい宝石を使っているとかで、リーズナブルらしい。
とはいえ、私的には十分に高級品。メリンとマリッカに似合うと煽てられて、奮発して購入してしまった。
「ちょっと派手かなって思ったけど……シンプルな髪型には、ちょうどいいかもね」
高級バレッタ一つで、簡単な髪型でも華やかに見えるから不思議だ。
これに生地の質がいいシンプルなブラウスと、光沢のあるAラインスカートを合わせれば……ちょっといいとこのお嬢さん余所行きスタイルの出来上がり。
コンコンコン。
準備ができたところで扉をノックする音がした。
「はぁい」
「マイカ。外に馬車が止まった。例のご令嬢だと思う」
「今行く」
私とヴィムの今日の予定は、裏路地ブラブラ散策だ。
私達はご令嬢が来るタイミングに合わせて、宿を出ることにした。
「おはようございます。イシカワ様。
ちょうどお呼びしようと思っていましたよ」
階段を下りる途中で、宿の総支配人ライノさんはニコリと営業スマイルを向けてくれる。
「おはようございます。どうかしました?」
「ロビーにお客様がお目見えです」
「誰か分かります?」
「いえ、『昨日会う約束をした』とそれだけです。名を名乗る事は避けたいようでしたので、イシカワ様に確認を……と思いまして」
「金髪の女性でした?」
「いえ、男性です。ロビーでお待ちいただいています。ただ、外に止まっている馬車の紋章が……」
「行って見ます!!」
失礼にも、思わずライノさんの言葉を遮ってしまったのは、未だに知らないご令嬢の身分がライノさんの口から出そうだったからだ。
聞いてしまえば右へ倣えで、ペコペコしないとね。
郷に入っては郷に従え。それがこの国のルールなら従うよ。
ただし、まだ私はご令嬢のことを全く知らないけれど。
宿の総支配人ライノさんに見送られて、私とヴィムはロビーに向かった。
声をかける間もなく、知った顔の男がズンズン私達に近いて来る。
「やぁ、おはよう。マイカ嬢」
ご令嬢の護衛騎士、マシューだ。
こいつめ。マイカ嬢だなんて、気持ち悪い呼び方しないで欲しいな。
「おはようございます。今日はお一人ですか?」
「いやいや、外に家のお姫様が待っています。
是非とも我が主君の屋敷に招かれて貰えないだろうか」
「却下です。私達、全力で観光中なもので、忙しいのですよ」
笑顔でお断りを入れると、マシューは最初から断られる前提だったようで、少しも怯まなかった。
「ではオススメのカフェにでもどうだろうか」
「私、昨日有り金のほとんどを使っちゃったので、貴族御用達の高級店には行けません」
「こちらがお誘いしたんだ。もちろん代金の心配はいらないよ」
「行きましょう!」
堅苦しいのはゴメンだけど、カフェなら貴族御用達でも大丈夫だろう。もともと私達もカフェで小腹を満たすつもりだったしね。
しかも奢りなら断る理由もない。この際、腹一杯食べてやろうか。
「御付きの者は彼一人でいいのかな?」
探るようなマシューの目に、私は肩を竦めた。
「あら、カフェって団体でゾロゾロ行く場所じゃないでしょ。行くよ、ヴィム」
満足げな顔のマシューが何か嫌だけど、ご令嬢オススメのカフェに向かうことになった。
ーーーーけれど、すぐ後悔することになる。
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