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お客様いらっしゃい

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「「「うわぁ……」」」

 子供達の目がお菓子のブースを前にキラキラしている。
 開店そうそう出店に来たのは、3歳の双子の女の子と年の離れたお姉さん。三人ともパン名人の家の子供だ。

「試食どうぞ。味見だからお金はいらないよ」

 三人に割れたクッキーを渡すと、双子の顔がもっと輝く。

「「おいし! おいし! おいし!」」

 口に入れると、あまりの美味しさにピョンピョン跳ねながら歌って踊りだした。

 何これ、可愛い。

「「すごい! すごい! すごい!」」

 双子はそれぞれポケットから銅貨三枚を取り出す。
 木の実を30個集めた報酬だろう。

「「これで、買える?」」

「もちろん買えるよ。好きなお菓子、3つ選んでいいよ」

「「やったぁ!」」

 ジャムの乗ったクッキーと、マカロン緑、スノーボールは小さいから2つで一つ。嬉しそうに選んでくれたから、オマケにナッツチョコをつけてあげると、再び飛び上がって喜んでくれた。
 ショッピングの楽しさを知ってくれたかな。
 子供にはオマケにお菓子をつけてあげよう。

 双子のダンスにつられてか、他の子供も集まって来た。
 男、女、男の三兄弟はソーセージ名人の家の子供だ。男の子達はお菓子を2つ、すぐに選んでからロルフに任せているガラクタブースに行ってしまったけど、女の子はしばらく悩んでいる。

 メリンと同じくらいの年かな。それなら10歳くらいだ。

 悩むのもショッピングの醍醐味だからね。
 
 見たところ、マカロンのピンクと黄色で迷っているようだ。

「試食、もう一つ食べて見る?」

「いいの!?」

 ちょうど試食に潰れたマカロン黄色がある。渡すと、すごく嬉しそうな顔をした。
 だよね。これで迷いなくピンクを買えるもの。

 銅貨三枚で3つ選んで、オマケにナッツのブラウニーをつけてあげる。

「ほら、これはみんなが森から拾ってくれた木の実で作ったんだよ」

「ええっ! 木の実がこんなにお洒落なお菓子になるの!?」

 まだお金は残っているようで、スキップしながら雑貨ブースに向かって行った。
 雑貨ブースにいるヴェロニカとヘアゴムを選んでいる。やっぱり女の子は可愛い物好きだな。ヘアゴムは銅貨三枚だから、子供も買えるよね。

 意外とやって来たのはお年寄り達。1人で十個買って行く人もいた。バート村にも、少しづつお金が根付いて来たみたいだ。

 マリンに任せている古着ブースは大反響。質のいい綺麗な服を中心に持って来たからね。安いもので大銅貨1枚から買えるからかなりお得だ。

「まぁ! どうしてこんなに安いの? 行商から買うと安くても大銅貨5枚はするよ!」

「今回は大特価のお祭り価格ですよ! 本当にお買い得ですからぜひどうぞ!」

 安い物は装飾のないワンピースやシャツだけど、自分で刺繍したりも出来るとバート村のお母さん達が喜んでくれた。大銅貨1枚で売ったけど、私は大銅貨5枚で買いつけたから、本当にお得だよ。
 あまりの安さに腕相撲大会に来ていた、ロスメル村とブルシェル村の人達もどんどん買ってくれる。
 バート村の村人もつられて購入してくれて、結果的にお金を使う練習になっていると思う。
 これは昼すぎには売り切れるかもね。

 私達大人組は交代でお祭りを見て回る。
 まずはヴィムとヨハンが買い物に行っている。ノルマのお金を使い終わったら、店番を交代する予定だ。

 お菓子もどんどん売れて行く。色どり綺麗なマカロンはそうそうに売り切れた。
 マルファンで作った物は半分以上なくなっている。
 ヨハンに追加で作ってもらって良かった。追加品は一口ドーナツ。ピンポン玉サイズで砂糖をまぶした物と、砂糖衣をつけたシャリシャリ食感の物と、二種類。シンプルながら馴染みある味が受けている。


 ドンドンドンドンドンドン!!


 突然、広場に太鼓の音が響き渡った。

「これより腕相撲大会を開催する!! 参加者は広場の中央に集まるように!!」

 村長の言葉に、力自慢達が集まる。

 優勝者には中型の製氷機と金貨5枚。
 準優勝は小型の製氷機と金貨2枚。
 三位はパスタマシンと金貨1枚。
 四位はパスタマシンのみ。
 参加賞はバート村特製木彫りの人形。

 今回景品に選んだ製氷機がかなりの人気で、参加者は意外と多い。
 30人ほど集まった。

「あっちは盛り上がってるねぇ」

 買い物から戻ってきたヨハンと交代したヴェロニカが、雑貨ブースから抜けて私のところに来た。
 他のブースを見ると、半分以上売れて、テーブルがスカスカになっている。

「雑貨も服も残り少なくなったから、一つにまとめよう。ヨハンに任せて、マリンも買い物に行っておいで」

「い、いえ! お嬢様がお先にどうぞ!」

 マリンが私に遠慮してそんなことを言うけれど、私は知っている。マリンが腕相撲大会の会場をソワソワしながら見ていたことを。
 マリンはたぶん筋肉好きだ。しかも家の護衛達のような細マッチョではなくて、ゴリゴリのゴリマッチョの方。今日も何人かゴリマッチョを見かけたけど、マリンが食い入るように見ていたんだ。

 腕相撲大会の会場から「おおお~~!!」と歓声が聞こえた。第一戦目の勝敗がついたらしい。

「マリン、私はあの腕相撲大会の集団の中に入る気はないんだ。出来ればもう少し人の波が落ちついたら、のんびりお祭りを楽しむつもり。
 だから先に行って来て」

「分かりました! ありがとうございます! お先に行って来ます!」

 妙に気合いが入ったマリンと、ヴェロニカを見送って、私は店番だ。
 腕相撲大会に人が流れたから、お客は少なくなったけど、出店を出していた村人がちらほら来るんだよね。
 
 私の因縁の相手? 狩人三兄弟の1人も来た。狩人三兄弟は向こうの方で革製品の出店をやっている。

「よう、お嬢さん。面白い催し物を開いてくれて、ありがとうな」

「いえいえ。このお祭りは村のみんなが作り上げた物でしょ。私は資金提供しただけです。自分の為にね。
 これが終われば、この村の空き家がまた一つ私の物になりますから」

 そう。私はただスポンサーをやった訳じゃない。
 見返りにバート村の空き家を要求している。

「お嬢さんの価値観とやらは俺にはサッパリ分からん。空き家より製氷機の方がよっぽどいいと思うけどな」

「価値観について私達、とことん合いませんねぇ。高価な宝石より、目の前のクッキーの方が価値があると思うんですけどね」

 ぽいっと狩人のオジさんの口に試食のクッキーを放り込む。
 
「むぐっ!?」

 もぐもぐと口を動かしながら、クワッと目を見開いた。

「お嬢さん、この菓子に関しては、俺も同じ価値観だ!! 全種類買うぞ!!」

「毎度ありっ!」

 そうそう。ヨハンのお菓子は宝石より、ずっと価値あるよね。

 「おおお~~!!」とまた腕相撲会場から歓声が聞こえる。
 盛り上がってるな。

「マ、イ、カ、さん」

「フィーネさん! 家の子供達が遊びに行っちゃってごめんなさい」

 フィーネさんのうどん作りに、メリンとマリッカとヴェロニカがお邪魔させてもらった。ヴェロニカが一緒だったから、困ったことにはならなかったと思うけど、主人としては心配だ。

「全然大丈夫よ。メリンちゃんもマリッカちゃんもすごく良い子だし、ヴェロニカさんは……」

 ヴェロニカの名前を口にすると、フィーネさんの頬がポッとピンクに染まる。

「ヴェロニカお姉様は憧れます」

 おっと! お姉様呼び!! 気持ちはすごく分かるよ。

「あ、じゃあ、熊のぬいぐるみなんてどうかな? ヴェロニカはコレの特大サイズを持ってるんだよ。おそろいだよね」

「ヴェロニカお姉様とおそろい……」

 雑貨ブースの熊のぬいぐるみを勧めてみる。ぬいぐるみの売り上げも上々だけど、ポーチやヘアゴムに比べると少し値が張るからか、数個残っていた。

 フィーネさんは小さな黒い熊のぬいぐるみを手に取る。

「おそろい……お姉様と
。買いますっ!!」

「毎度ありっ!」

 そうこうしてるうちに、腕相撲大会会場の歓声がひときわ大きくなってきた。そろそろ終盤戦かもしれない。

「マイカ!」

 ヴィムが戻って来た。いろいろ買っていたけど、使い勝手良さそうな革製品を持っている。狩人三兄弟の店だろうな。

「マイカ、これを」

 ヴィムが私に差し出したのは、一輪の白い花だった。
 花の名前は分からないけど、可愛らしい花だ。すっきりとした甘い香りがする。

「あ、ありがとう」

 まさか異性から花を貰うなんてね。

「マイカの黒髪によく似合うと思って……」

 ヴィムは私の髪に花飾った。
 何、サラリとキザなことやってくれるんだ。ヴィムさん。
 こっちはちょっとドキッとしたわ。神様が変なこと言うから、意識しちゃうじゃないか。

「やっぱりよく似合う」

「そうですか……」

 微妙な雰囲気に耐えきれなくなった時、腕相撲大会会場から今日一番の歓声が聞こえた。
 どうやら勝敗が決まったらしい。
 その熱気が微妙な雰囲気を吹き飛ばしてくれた。
 よし、腕相撲大会最高だ。
 
 
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