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バート村の別荘

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 バート村に出発したのは、まだ日の出前だった。

 私は半分眠った状態で、ヴィムに全体重を預けて支えられながら、貸し馬車に乗り込む。

 最初は少人数で行く予定だったけど、新メンバーがやって来たこともあって、バート村視察の同行者も見直すことになった。
 私、ヴィム、ヴェロニカ、レオナルド、ルッツ。
 新メンバーは、護衛のロルフ。メイド四姉妹のマリン(次女)、メリン(四女)。パティシエのヨハン。調理補助のマリッカ。計10人だ。
 本当は馬丁のユーリも連れて、アンヤとブランを見せたかったんだけど、気難しい貴婦人がいるから連れて来るのをあきらめた。馬のプロに見せびらかしたかったんだけどな。

 貸し馬車は4台。
 2台は人間を運び、もう2台は大量の荷物を運んでもらう。

 この世界の馬がかなりの力持ちでも、大量の荷物を積んだ馬車は、二頭立ての荷馬車になった。

 一台目の馬車には私、ヴィム、レオナルド、ルッツ、ロルフ。

 二台目にはヴェロニカ、マリン、メリン、マリッカ、ヨハン。

 乗る順番は決めた訳じゃない。適当に乗り込んだ順番だ。
 私も女子と一緒にキャッキャッ言いながら移動したかった……。まぁ、乗った瞬間寝落ちしたからいいけど。




 バート村の門に着いたのは、夕方間近の時間帯だった。

 背中に大剣を背負った、厳つい門番のおじさんに止められる。
 久しぶりに見る顔に嬉しくなって、私は馬車から顔を外に出した。

「イザークさん、お久しぶりです!」

 挨拶するとイザークさんは厳つい顔を更に歪める。私の隣に座っていたレオナルドがビクリと震えた。
 迫力あるからね、子供じゃ仕方ないか。
 私、一応バート村の一員だったはずだから、顔パスだよね。

「おわっ! お嬢ちゃんか! 久しぶりだな。お嬢ちゃんの家が出来上がったから、そろそろ来るんじゃねぇかと思ってたんだ。そしたらお嬢ちゃんが今日来るっていうから待ってたぞ! 
 アンヤとブランも見に行ってくれ! ますます毛並みが良くなってな。
 ……それにしても、ずいぶん大所帯だな。まぁ、あんなデカイ家だもんなぁ」

「ふっふふ。お土産もたくさん持って来たので、期待していて下さいね」

 イザークさんは相変わらず、馬好きみたいだ。アンヤとブランも可愛いがられているみたいで、良かった。後でたっぷりブラッシングしよう。

 全員の身分証を渡して、無事に入村。ひとまず荷物を別荘の中に押し込んで、村長に挨拶に行こう。

 馬車三台で別荘に向かうのはこの村では相当目立つ。私達が通った後を、村人達がぞろぞろついてきた。
 うん、分かったよ。田舎じゃプライバシーゼロだよね。だからこそ持ち家をゲットしたんだ。

 私が相当ひきつった顔をしていたんだろう。同じ馬車の三人にすごく心配された。
 ヤバいな。第一印象の時は、あんなに笑顔を頑張ったのに。

 ガタンと揺れて、馬車が止まった。

「到着しましたよ」

 御者が扉を開けてくれた。御者は貸し馬車の従業員だけど、今夜は村長の家に止まってもらうことになっている。
 やっぱりこの村にも宿屋は必要だと思う。

 降りた目の前にあるのは別荘だ。私の家なんだけど……。

「立派だね……」

 造りはバート村の他の家と同じ、丸太造りのログハウス風。だけど、村長の家の二倍も広くて、しかも村唯一の二階建て。

 元々の空き家プラス、更に増築した部分もあって、空き家の時と比べると、敷地面積が相当広くなった。

 一階はリビングと水回り。
 二階は同じ大きさの部屋が3つ。
 一部屋に二段ベッドが3つと収納ロッカーを6つ置いた使用人の六人部屋。
 全く同じ造りの部屋がもう一つ。女部屋と男部屋として使用する。別荘だから、個別の部屋はいらないよねと思って、私がデザインした通りになった。
 イメージは合宿だ。
 この女部屋に私も泊まろうと思っていたけど、みんなから大反対にあった。
 だから残り一部屋はまるまる私の部屋になった。少し仲間外れ感があるけど、使用人からしたら主人と一緒の部屋なんてキャッキャッ楽しめないのかも。……まぁ、一人の空間がなかったらストレスたまるし、いいけどね。

 荷物を全部下ろして、みんなで協力して運ぶことになった。
 大物の家具を先に設置。木造の二段ベッドに布団を敷いて、リビングにテーブルとソファーを設置。カーテンを付けたら細々した物は後でいい。

 そして肝心のお風呂チェック。

 シンプルなタイルとダール石で出来たお風呂は、屋敷の浴槽半分もない大きさだけど、別荘としては十分な広さだ。バート村の化粧水のようなお湯も、ダール石で滑りにくいだろう。お湯を入れるのが楽しみだ。

 一通り確認した後は……。
 
「よし、村長の家に行くよ」
 
「マイカ! このテーブルも持って行くの?」

 ヴェロニカが、外に出しっぱなしだった折り畳みのテーブルをポンッと叩く。

「うん、半分は持って行くよ」

 持って行くテーブルは全部で4台。
 ヴィム、ヴェロニカ、ロルフ、ヨハンで、1台ずつ持つ。子供組は大量のお土産を持って出発だ。





「マイカさん! お久しぶりです!!」

 村長の家の前でソワソワしながら待っていたのは、フィーネさんだ。
 ぞろぞろと歩く私達を見ると、走り寄って来る。可愛いなぁ。
 しかも私がプレゼントした緑色のビーズのバレッタをしてくれている。そういう気遣いが出来る女ってモテるよね。

 何度も手紙でやり取りしていたけど、直接会うのはあの日以来だ。

「そちらがマイカさんのお家の方達ですね!」

 フィーネさんが私の後ろを見てニッコリ笑った。

 ヴェロニカがニッと笑い返す。

「初めまして」

 女子相手にいきなり男どもが挨拶するより、女性のヴェロニカが率先してフィーネさんに接してくれて良かった。そういう気遣いが出来るって、ヴェロニカって本当にいい女だよね。

「初めまして。フィーネです。あなたがヴェロニカさんですね!」

 ヴェロニカを紹介する前に、フィーネさんがヴェロニカの名前を言い当てる。
 ……なんで?

「それから、あなたがヴィムさん。レオナルド君にルッツ君。あとは……ロルフさんと……マリッカちゃんとヨハンさん。それから、四姉妹のマリンちゃんとメリンちゃんかな?」

「なななんで分かるの!?」

 ほら、みんなもポカンとしてる。

「ふふふっ。だって、マイカさんが手紙に書いてた通りなんですもん。こんなに特徴を捉えてるなんて、私も驚きました!」

「……そうだっけ?」

 あああ、みんなの視線が痛い。ビシビシ突き刺さってるよ。
 耐えられません!

「フィーネさんっ! 早速ですけど、打ち合わせしましょう。村長さんいます?」

「はい! 私、もうもうすごく楽しみなんです!! バート村の初めてのお祭りなんて!!」

 そう。今回、フィーネさんや村長と手紙で計画したのは、お祭り!!!
 バート村ではお祭りの類いは一つもない。

 お祭りを計画したのは、村長から村の歴史を聞いたからだ。過疎が進んでもおかしくないほどの村なのに、バート村は比較的、働き盛りの若い世代が多い。
 先代の村長の時代に過疎が進み、村には年老いた老人が残されたらしい。一度は村の終息を感じたけれど、出て行った次の世代、現村長の同年代の若者が5人ほど、嫁を連れて村に戻って来た。更に子宝にも恵まれ、バート村は復活した。

 それが25年前の今頃の時季だったそうだ。

 この話を聞いた時、村が復活したお祭りをやりたい! って思ったんだよね。

 その名もズバリ、『バート村、復活祭』

 スポンサーは私。

 お祭りの為に、今回は子供組を多く連れて来た。毎年、子供達が楽しめる行事になるといいな。
 だって、この世界の平民の子供は、立派な労働力なんだよ。生活がままならなくて、奴隷になる子もいる。
 大人だって同じ。いくら小麦はガツガツ生えるって言っても、小麦だけじゃ生きていけない。栄養面もそうだし、食以外にも生活に必要な物はたくさんある。
 その最たる物が税金だ。稼いだお金も、収穫した野菜も、税金として納めなければいけない。

 バート村では現金収入はほとんどなかったけど、税金はほぼ森の恵みで賄えるらしい。森には珍しい素材が多いんだって。温泉の地熱効果かな。それでもギリギリ暮らせる程度。裕福とは程遠い。

 大人も子供も生活に不安はあっても、お祭りの時だけはお腹いっぱい食べて、楽しく騒げばいい。

 私も楽しみたいしね。 


 フィーネさんに連れられて、家の中に案内して貰うと、村長が唐揚げを鬼のように揚げている姿があった。

「おや、マイカさん。よく来たね。今日は私の得意料理、唐揚げで夕食だよ」

「お久しぶりです。すごい量ですね」

 今夜は村長宅で夕食をご馳走になる予定だ。
 明日の朝イチで帰る貸し馬車の御者4人と、私達10人。そりゃ唐揚げも山盛りになるよね。

「お父さん。後は私がやるから」

「ああ、よろしくな。唐揚げは油の温度が決め手だから、気をつけてな。一度にたくさん入れすぎると油の温度が下がるんだ。揚げすぎても固くなるから……」

「分かった、分かったってば! ほら、行って! マイカさん達が困ってるじゃない」

 唐揚げに並々ならぬこだわりがあるようだ。鍋奉行ならぬ揚げ奉行か。

 フィーネさんがため息をつきながら、村長の背中を押した。


「いやいや、失礼したね。
 おお! それがウワサの折り畳みテーブルか! 嵩張らなくていいなぁ。こっちに置いてくれるかい。これを明日広場に……ぶつぶつ」

「村長~~っ? 初対面がたくさんいるので、先に挨拶してもいいですか?」

「そうだった、そうだった。いやぁ、マイカさんから手紙でよく君たちの事を聞いていたから、初対面の気がしなくてね」

 あ……またか。視線が痛いよ。

 ヴェロニカが私の耳元に顔を寄せる。

「ちょっと、手紙に私達のこと、何て書いたの?」

 小声なのに、他のみんなにも聞こえたらしい。
 みんなが同じ事を聞きたいってことは分かってるよ。でもたいした内容じゃないと思うんだけどな。

「……素敵な仲間達、的な内容だよ」

 ああ、みんなの視線が痛いわ。
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