新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

文字の大きさ
上 下
22 / 25

望んだ結果

しおりを挟む
 リアが生まれ落ちたのは、アストロン王国の小高い丘の大木の下だ。
 他に何もない場所だけど、ついフラリと訪れてしまう。
 今日もリアが姿を現したのは、この場所だった。

 大木のすぐ側の何もない空間が歪んで二つに割れ、中から光りを纏ったリアがスポンと出てくる。
 以前、夢の神ウニが、同じようにニョキリ出て来たのを真似たのだけど、なかなか難しい。

「う~~ん、髪が引っ掛かりやすくてダメね。いっそ短くしちゃおうかしら」

 樹皮に引っ掛かった髪を軽く引っ張った。

「引っ張っては駄目です」

 リアの後ろからフワリと腕が回され、片手で引っ掛かった髪に手をかけた。

 振り向かなくても分かる。

「アレクシス」

「はい。綺麗な髪が痛んでしまいますから、私に任せて下さい」

 左手はリアの腰にまわしたまま、器用に右手だけで絡まった髪をといていく。さほど時間がかからずにほどけたにもかかわらず、アレクシスの手はミルクティー色の髪を指先で弄び、そっと髪に口付けた。

「あぁ、食べてしまいたいくらい可愛くて仕方ない」

 驚いて上を向くと、薄い水色の瞳とかち合った。
 白金色の髪に薄い色の
瞳は、黙っていると冷たい印象をうける。けれどリアを見つめる彼の目元は微妙に赤く染まり、蕩けるような笑みを浮かべる様子は可愛らしい。

「ねぇ、アレクシス……」

 彼の指先がリアの唇に触れた。
 胸がキュッと締め付けられて痛いくらいだ。

(認めるわ。私はアレクシスが欲しい。たとえ赤い糸が繋がらなくても)

 近いうち、リアは別な男との子を生むことになる。だけど一度だけでも……心惹かれて仕方のない彼と、ただ思うままに抱き合いたい。

 自然と近付いて来る彼の顔を眺めながら、雰囲気に呑まれて目を閉じる。

 アレクシスを受け入れよう。自分の気持ちを受け入れようーーとして、違和感に顔を背けた。

(あら?)

 アレクシスがいつもと違う。

(ああ……お姉様のお怒りが消えたのね)

 ということは、アレクシスはリアにこだわらなくてもいい。愛がなくても、政略結婚でも、行きずりの女とでも、子供ができる。人間は弱く何があるか分からないから、王族ならたくさん子がいる方がいいだろう。
 
「ふふ。お姉様の怒りが解けたみたいね。あなたの愛に疑うわけじゃないけど、それでも私を選ぶ?」

 一瞬目を見開いたところを見ると、自身にかかった呪いが解けたことを今初めて知ったようだ。
 
「リア様しか欲しくありません」

 少しも迷いなく言うアレクシスに、リアの胸がしびれたように熱を持つ。

「たとえ一時の愛でも?」

「未来永劫、リア様から離れる気はありません。
 リア様が俺を捨てようとしても無駄ですよ。リア様が他の男に目を向ける暇がないくらい、俺の愛を溢れるまで注ぎましょうか」

「ふふ、何それ。お手柔らかに、ね」

 その瞬間、リアの身体はアレクシスに抱き上げられる。
 そのまま足早にどこかへ向かう彼の顔は、あまりに必死な表情だ。

(ああ、人間って押してダメなら押し続ける生き物なんだっけ)

 彼の中の妙なスイッチを押してしまったかもしれない。
 どこに行くのかも、どうするつもりなのかも、リアには分からない。だけど聞くつもりもない。アレクシスの望むようにして欲しいから。
 ずいぶん早く脈打つ彼の胸の音を聞きながら、そっと目を瞑る。

「俺の都合のいいように解釈してしまいますよ」

「どうぞ。アレクシスのお好きなように」

 若干彼の体温があがった気がした。




(ヤバい、ヤバい! いろいろとヤバい!)

 アレクシスは胸の中で叫んだ。

 これは夢か。
 腕の中には焦がれてやまない女神がいる。抱き寄せながら、こっそりと彼女の頭に鼻を寄せ、彼女から香るほのかに甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

 主に下半身がヤバい。

 女神を抱きながら、ほとんど走るほどのスピードで王城までやって来た。
 すれ違う誰もが二度見する状況なのは、仕方がない。
 誰も皇太子の下半身に注目しなかったことは、幸運だった。






ーーーーーーーーーー

次回、ヤリます。ふふ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

Mee.
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...