新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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デートプランと間接キス

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 デートは何をするのが正解だろうか。
 
 とりあえず手を繋いでみたものの、どうするべきか。グレンはアストロン国の葡萄畑を見せてくれた。ジェイスは素敵な庭を見せてくれた。
 今まではすべて男性任せだった。
 リードすることがこんなに難しいなんて。

(自分でデートの内容を決めるって難しいわ。グレンもジェイスも、私の為にいろいろ考えてくれていたのね……)

 リアがこの国で知っている場所は、本当に数少ない。

「ノエル? ええと、どこか行きたいところはある?」

「あ、あの、私は……デートは初めてなので……」

「そうよね……。ふふっ、私もさほど変わりないわ」

 そんな様子を、ウニは付き合い初めのカップルみたいだと思って吹き出した。



※※※※※※※※※※※※※※



 王城に隣接する場所に、きらびやかな立派な建物がある。
 見た目から物凄く豪華な作りだけれど、リアは眉を寄せた。

(ん~~、なんだか落ちつかない場所だわ)

 観光客が次々に入って行く。

「リア様。こちらが大地の神殿です」

 いつの間にかノエルに案内される形になっていた。やはり土地勘もないリアがすべて決めるのは無理があり、唯一話に上がっていた新しい神殿に来てみた。
 話に聞いていた時から、少しも興味を引かない神殿だったけれど仕方がない。

(しかも、大地の神殿だなんて……ね)

 入り口で入場料金を払えば、誰でも中に入れるようだ。

 入場料を払おうとするノエルの手をそっと掴む。

「もう少し、静かなところに行かない?」

「あ、すみません。落ちつかないですよね」

 リアが行き先を決めたのに、ノエルの顔がしゅんとする。
 その顔を笑顔にしたくて、リアはノエルの手のひらにフッと息を吹き掛けた。ノエルの手のひらが仄かに光る。

「え? 花? どうして手のひらに花が……」

「ふふ、緑色のガーベラよ。ノエルに似合うと思って」

 ガーベラをノエルの髪に挿す。思った通り、まだ中性的な顔立ちのノエルによく似合う。
 けれどノエルは口を尖らせた。子供扱いされたことが気に入らないようで、言葉を選びながら、必死に抗議してくる。
 本当によく似合っていたけれど、仕方がない。ノエルの髪から外したガーベラは、ジャケットの布ポケットに挿した。ついでに同じ緑色のガーベラを、自分の髪に付ける。

「ほら、お揃い。何だか仲良しに見えるでしょう?」

「うわぁ、リア様、凄くお似合いです! 緑の瞳と緑の花が……もう跪きたいくらい、神々しいです!」

「ふふっ。神々しいって……だって私、女神だもの」

 本気で跪きそうなほどキラキラした目で言うから、思わず笑ってしまった。

 他愛もない話をしながら、土産物屋を覗きながら歩いていると、色鮮やかな屋台が目についた。

「いらっしゃいませ! フルーツジュースはいかがですか?」

 人の良さそうな青年が、レモンを輪切りにしながら客を呼び込んでいる。
 爽やかな香りにつられて、二人で屋台を覗き込んだ。

「まぁ、凄く綺麗ね。飲み物なの?」

 店頭には色とりどりの瓶が並んでいる。

「いらっしゃいませ! うちのフルーツジュースはよく冷えて新鮮で美味しい、です……よ……」

 にこやかに接客していた青年は、リアを見てポカンと口を開けた。小さく「女神だ」と呟いて顔を赤くする。
 はっとこちらを振り向くノエルとは逆に、リアは少しも気にしなかった。数種類の果物が浮いた薄紫色の液体が入った瓶を眺めていたから。

(そういえば私、人が口にする物を食べたことがなかったわ)

 食べることは、神であるリアには必要ない。神は人間のように生命を維持するためではなく、ただ興味本位で食物を口にすることがある。中には酒に溺れている神もいるけれど。

「どうぞ」

 突然差し出された紫色のドリンクに驚いていると、リアの手にドリンクを持たせる。
 自分はレモンとミントのドリンクを手に、はにかんだ。

「お花のお礼です」

「まぁ。ありがとう。ノエルの持っているのも、とても綺麗ね」

「こちらも飲んでみます?」

 差し出されたレモンのドリンク。少しも躊躇わないノエルの様子に、リアはクスリと笑ってストローに口をつけた。

「まぁ、美味しい。こちらも飲んでみない?」

 同じようにリアのドリンクを差し出す。
 お互いに味の感想を言い合いながら、公園のベンチに腰をおろした。

 今さらになって、リアが口をつけたストローを見つめて顔を赤くするノエルに、リアは思わず吹き出した。



※※※※※※※※※※※※※※



「女神が現れたって噂になってるよ~~?」

 夢の神ウニはリアの頬をつつきながら言った。

 この国に来て数日。
 すっかり綺麗になった森の神殿は、リアとウニとノエルが手を加えた結果だ。リアが植物を片付けて、ノエルが掃除して、ウニが幻術で居心地のいい空間に変えた。

「それで? どうなの、ノエルは」

「どうなの、とは」

「恋ばなだよ! こ・い・ば・な!」

 最初に二人で出かけてから、その後数回、森の神殿で会話をしたり、森を散歩したり、時にはウニを交えてティータイムを楽しんだりしている。

「そうですねぇ。ノエルのことは好きですよ。一緒にいると楽しいですし、すぐ顔を赤くして拗ねるところが可愛いと思います」

「有り?」

 俗な言い方に、曖昧に笑いながら首を傾げた。
 ノエルと一緒にいても、触れ合いたいとは思わないのだ。キスをして、抱きしめあって……という欲求が一切湧き上がらない。
 ノエルも同じようで、手を繋いだり頭を撫でると恥ずかしがるけれど、そこに性的な欲望は一切含まれない。

「あ~~、そっかぁ。お友達止まりかぁ。うん、それも有りだね。だってあの子……、ん? なんか来たね」

 グインと幻術の空間が一瞬だけ揺らぐ。ウニの気分が揺らいだ証拠だ。

「どうやら外に訪問者がいるみたいだ。どうする? リア」

「もちろん、お友達は迎えに行きます。失礼な訪問者には帰っていただきますけれど」

「あはは。楽しくなって来たねぇ。夢より現実の方が楽しいなんて、久しぶりだよ」

 ウニが神殿の扉に目配せした瞬間、閉ざされていた重い扉がゆっくりと開いた。

 

    
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