新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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夢の神の推薦

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「森の神殿を出て行かれるんですか?」

「だよ~~。もうこの神殿にいる理由もないしねぇ」

 神が神殿を訪れるのは、そこが居心地がいいからだ。
 ベッドが消え、何もなくなった部屋は決して居心地がいいとは言えない。

 二人で変わってしまった神殿を確かめるように歩いた。

「前はねぇ、凄く綺麗な神殿だったんだよ。木漏れ日が気持ち良くてさぁ、静かで……一年中、暑くも寒くもないし。落ち葉は神官達が綺麗にしてくれて、絶好のお昼寝スポットだったんだぁ」

 ウニが語る度に、辺りは緑に溢れ、木漏れ日が心地好い空間に変わる。
 なるほど、これはお昼寝には最適だ。何より空気がいい。リアも寝転んで、小鳥の囀ずりに耳を傾けたくなった。

 ウニの「終わり」と言う言葉で、すぐに心地好い光景は消え去り、元のジメジメとした空間に戻ってしまう。
 すべて夢の神が見せた幻想だった。

「リアは、この国には伴侶を探しに来たの?」

「それもありますが、先代の大地の神の子孫と会ってみたくて」

 先代がどんな人を伴侶に選んだのか、その子孫がどんな人生を送ったのか、興味がある。現在の大地の女神としては当然気になるところだ。
 しかし、ウニは眉をひそめた。

「僕はさぁ、寝てる時に夢を渡るんだ~~。人の夢を渡っていろいろな情報を得る。面白ければ、それこそ何百年だって夢の中にいる。
 今回は200年寝てたからぁ、いろいろ見たよ。中でも面白かったのは、先代の大地の神の子孫達なんだよね~~」

 面白かったと言うわりに、クスクスと笑う様子に含みを感じる。

「まぁ、会ったら分かるよ」

「ふふ、それは楽しみです」

 言いながら外に出ると、森の神殿の前に立っていた少年の前を、そのまま立ち止まることもなく通りすぎた。

「この森も少し元気がないですね」

「そこはリアが頑張ればぁ何とかなるって~~」

『あのっ……』

「それがなかなか上手くいかないんですよ。愛って難しくて」

「まぁね~~、僕も愛なんて分かんないよ~~。しかも人間に関わると、デシルが干渉して来るしさぁ」

『あのっ!』

「あいつ、面倒だから苦手なんだよねぇ」

『あのっ!! すみません!』

「「はい?」」

 リアとウニは揃って振り向いた。とびきりの笑顔で。

 少年が目を丸くして、ちょっとだけ仰け反る。
 倒れるかと心配になったリアは、とっさに彼の手を掴んだ。

 顔を真っ赤にした彼に手を振り払われてしまったけれど。
 彼は勢い余って後ろに飛び退き、ついでにバランスを崩して尻もちをついてしまった。

 ケタケタ笑うウニとは逆に、リアは払われた自分の手を見つめる。

(ああ……この感じ、覚えがあるわ)

 尻もちをついたまま真っ赤になっている少年に、もう一度手を差し出した。

「ごめんなさい。驚かせちゃいましたね」

「あ……いえ、すみません」

 何度もリアの手を掴もうとしては躊躇う少年の姿に、つい笑ってしまった。
 その手をリア自ら取る。

「立てる?」

 軽く引いて促すと、少年は自分の力で身軽に飛び起きた。

「大丈夫?」

「は、はいっ」

 今度は手を振り払わなかったけれど、逆に真っ赤な顔で固まってしまった。
 リアの身長とほぼ同じくらいの少年の頭を撫でる。

 ちょっとした遊び心のつもりだったのに、こんなに驚くなんて……悪いことをしてしまった。ウニと一緒に謝ると、少年は首をブンブン振って何度も大丈夫だと繰り返した。

「あ、あの。私の名前はノエルと言います。歳は14歳です!
 お二人は、もしかして……あの」

 ゴクリとノエル少年の喉が鳴った。頬の赤みがさっきから全然引かないのは、よほど緊張しているのだろう。

「……お二人は、神様でいらっしゃいますですか?」

 可笑しな言葉使いになっているのを笑顔で流す。

「ふふ、当たりです。私は大地の女神リアです」

 ウニの方は名乗るつもりはないようで、ただニコニコ笑っている。

「だ、大地の女神様っ! 
 ははは発言をお許し下さい!」

「ふふっ。跪かなくても大丈夫だから、おちついてね。どうぞ?」

「はははい!
 あ、あの……この旧神殿に、夢の神様はいらっしゃいませんでしたか?」

「どうして?」

「わ、私の祖父が森の神殿の最後の神官だったんです」

 60年ほど前に王宮の近くに新しい神殿が建設された。その際、森の神殿を取り壊す案が出ていたが、彼の祖父は最後まで反対していた人物だったらしい。

「祖父は、夢の神様が森の神殿にいらっしゃるから、と言っていたんですが……何度調べても夢の神様の姿はなく。取り壊しは免れましたが、このような廃れた神殿になってしまいました。
 祖父が亡くなってからは私が時々、旧神殿の様子を見に来ていたんですが、まさか女神様にお会いできるなんて、感激です!」

 目をキラキラさせる様子に、ウニがプッと吹き出した。

「君、いいね! この子にしなよ、リア」

「あら、ウニ様のお眼鏡にかないましたか?」

「だってさぁ、据え膳の女神リアを前にして、性欲が爆発しないってある意味凄いよ」

「まだ子供だからでは」

「精通してたら男とカウントするでしょ」

 まだ子供と言っても14歳と言うことは、来年には成人だ。

 リアはノエルの髪をさらりと撫でた。

「綺麗な髪ね」

 すぐに真っ赤になるところが可愛い。
 グイグイ迫るタイプの男性しか知らないリアには、新鮮な反応だ。

 今はまだ小柄だけれど、これからグングン身長も伸びて、顔付きも精悍になっていくだろう。
 その過程を近くで見守りながら、ゆっくりと相手を知っていくのもいいかもしれない。

 思いはリアの一方通行ではいけない。まずは女性として意識して貰わなくては。

「ねぇノエル。私とデートしてみない?」

 差し出した手を、ノエルは戸惑いながらもしっかりと掴んだ。
 
 
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