新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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複雑な気持ち

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 女神という方々は皆、美しい容姿をしている。

 運命の女神ファタは、凛々しく美しい薔薇のような美人。
 知性の女神ティスは、落ち着いた百合のような美人。

 大地の女神を初めて見た時、ジェイスは一瞬、息をすることを忘れた。
 好みのタイプと言ってしまえばそれまでだけれど、彼女は今まで会ったことのあるどの女性より、美しく可愛らしく輝いていたからだ。
 
(まるでミモザの花だ)

 黄色い小さなポンポン状の花をたわわに咲かせる、ミモザの花。
 特に珍しくもない花だけれど、誰にも愛されるこの国の象徴だ。
 可愛らしく美しい彼女にぴったりだと思う。

 ファタもティスもとびきりの美女で、近寄りがたい雰囲気がある。
 比べて大地の女神リアは、今すぐ抱きしめたくなるような不思議な魅力があった。

 女神をメレニール王国に誘った時。
 差し出した手に、当たり前のように重ねられた華奢な手。ジェイスは柄にもなく、初恋に浮かれた少年のようなトキメキを感じた。





「リア様の可愛らしい姿を誰にも見せたくありません」

 そう言って、彼女に触れることを我慢したことを、すぐに後悔した。
 羞恥に気が付いてしまった彼女は、少しだけ距離を取るようになってしまったから。


 けれど、今、彼女を抱きしめ、深い深いキスを許された。
 甘い甘いリアの口内を存分に堪能していると、手に柔らかな物が触れた。
 本当に無意識だった。

(くっ、この手め! リア様に拒まれたらどうするんだ)

 それでも一度その感触を知ってしまえば、止められない。

(リア様の胸……。柔らかく、張りがあるな。私の手にあつらえたような、丁度いい大きさだ。服の上からでも分かる。絶対に世界一の美乳だ。
 ……舐めたい。先端を口に含んで、固くコリコリした感触を味わいたい)

 女性の胸は好きだ。女性の身体の部位でどこに魅力を感じるかと言われたら、胸だと即答するくらいに好きだ。
 けれどこれ程、中毒性がある胸は知らない。絶対に彼女の胸は、今まで知っているどんな女性の胸よりも魅力的だった。

 急な刺激に彼女は驚いたように身体を捩る。しかし嫌がるどころか、戸惑いながらも素直に快楽を受け入れてくれたようだ。

(しかし、無垢だとファタ様に聞いてはいたが……先ほどはリア様からキスをされた。嬉しいが、それは誰かがリア様にキスを教えたということか)

 ふいにアストロン王国の皇太子を思いだして、眉間にシワを寄せる。彼が教えたのだとしたら……。

 クタリと力を抜いて、ジェイスに身体を預けるリアを抱きしめながら、その耳元で名を呼ぶ。その程度の刺激にピクリと反応する様子が、たまらなく可愛いらしい。

(いい歳をして、嫉妬など……私も余裕がないな)

 愛しい少女の首筋に鼻を寄せて、甘い香りをいっぱいに吸い込んだ。



※※※※※※※※※※※※※※※



「お父様~~」

 子供特有の甲高い声が、二人のいるガゼボまで聞こえた。

 近付いて来る声に、ジェイスがゆっくりと立ち上がる。リアの手を取って軽く引いて立たせ、細い腰に腕をまわした。

 すぐに姿を見せたのは、少年と少女だった。
 二人共、ジェイスと同じ緑色の髪をしている。

「リア様、紹介します。私の息子と娘で、息子は12歳、娘は5歳になります」

 少年が上品な仕草で胸に手を当てる。

「初めまして。ベルニール家嫡男、シャン・ベルニールと申します」

「ベルニール家ちょうじょ、リゼット・ベルニールともうします」

 兄の真似をして、少女もドレスを摘まんでフワリと挨拶をする。
 
 息子シャンの方は、ジェイスよりも若干垂れ目気味で、優しい雰囲気をしている。母親似だろうか。

「初めまして。私はリアよ」

 ニコリと挨拶を返しながらも、リアの胸が僅かに痛んだ。

(今、何か……この辺りが痛かったわ。胸が、モヤモヤする)

 何となく腰にまわされたジェイスの腕が不快に感じて、やんわりと外す。

「ジェイスの子供達。……そう。結婚していたのね……」

「っ! いえ! 妻は数年前に亡くなっているので、独身です」

 離れようとしたリアを、慌てて再び引き寄せるジェイスの腕。

 その様子を見ていた娘のリゼットが、頬をパンパンに膨らませて「だめ!」と叫んだ。

「やめて! おとう様をとらないで!」

 父と兄が二人で宥めても、彼女の機嫌は治らなかった。それどころか、大きな目にたくさん涙を溜めて、必死にリアを睨んで来る。

(この子からしたら、私は父親を盗ろうとする女に見えても仕方ないわ)

 リアは小さく息をはいた。
 今回は愛に育つと思ったことが、情けない。
 愛に育つような気持ちなら、二人の関係に障害があっても、乗り越えようと思っただろう。子供がいても、反対されても、認めて貰えるように努力しようと思っただろう。

 いつの間にか赤い糸は、リアの小指にしっかりと巻き付いている。

(あんなにドキドキしてたのに、もうジェイスを見ても何にも感じないわ……)

 本当はほんの少し胸につかえがあったけれど、気付かないフリをした。


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