新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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運命の出会い

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 暖かい光を全身から感じる。

 まるで繭のように光に包まれ、その心地よさにリアはクスリと笑った。

(もうすぐ、私はここから出る……)

 ずっとこの時を待っていたのだ。
 愛の女神から心をもらった。先代の大地の神から知識をもらった。
 もういつでも行ける。

 心がじんわり暖かいのは、愛の女神の力だ。彼女が繭から出る補助をしてくれるようだ。
 もう一つ感じる爽やかな力は、大地に吸収された先代の大地の神の力だろう。
 行って来いと、背中を押してくれているように感じる。

(愛のお姉様。先代の大地の神様、行って来ます!)

 居心地の良かった光の繭がグニャリと歪む。

(さようなら、私の大切な場所。
 大地の女神、リア。降臨します!)

 足元が揺れて、思わずしゃがんで身体を丸める。
 視界がパッと開けて、一瞬で場所を移動したことが分かった。

「ふぅ」

 息をついて、リアは大木に寄り添うようにしゃがんでいた。

「ここが地上……」

 ゆっくりと立ち上がって、大木に寄りかかる。
 辺りは静かだ。
 空には青白い立派な満月。

「あら、月の女神も力を貸してくれたのですね。ありがとうございます」

 リアは大地の女神だ。

 たった今、地上に降臨したばかりだが、たくさんの神達がリアに力を貸してくれたのを感じる。
 神の代替わりはそうして行われる。

「あら?」

 キラキラ光る粒がリアの鼻先に止まって、すぐに消えた。
 一つだけではない。次から次へと、大木の上からたくさんの光の粒が降って来る。
 新たな大地の女神の誕生に、地上に住まう神々から祝福のシャワーが送られる。

「ふふふ。誕生祝いありがとうございます」

 祝福のシャワーをすべて受け取ったことを確認して、リアはペコリと頭を下げた。

 先代の大地の神から受け継いだ知識で、リアがこれからやらなければいけないことは分かっている。
 まずはこの国の神殿に行かなければ。

 ふと誰かの気配を感じて、リアは振り向いた。

「誰?」

 そこにいたのは、白金色の髪をした男だった。

(まぁ、綺麗な人……)

 鋭く切れ長の目。瞳は薄い水色で、透き通ったガラス玉のように美しい。
 月の光を浴びて、髪がキラキラと輝いている。

「君は……」

 男が近づいて来る。
 大きい男だった。リアより頭2つ分は大きい。

 すぐ近くまで来た男は、少し赤い顔でリアに手を伸ばした。
 普通の少女なら知らない男に手を伸ばされたら、有無を言わさず避けるところだ。けれど生まれたばかりのリアは知らない。

(何してるんだろう……)

 伸びて来た手は、リアの頬を包み込むように触れる。
 綺麗な水色の瞳から目が離せない。

(うわ……何だろう……胸がドキドキする)

 リアはドキドキする胸に気を取られて、その場に固まったまま動けなかった。
 男の顔がリアに近づいて来る。

(え? ぶつかる?)

 唇と唇が重なった。

「んっ……」

 柔らかい感触に身体がビクリと震える。
 宥めるように背中を撫でる男の手が気持ちいい。

 少し唇が離れた隙に、リアは疑問を口にした。

「ええと……どちら様?」

 答える前に、リアの唇を男がペロリて舐める。

「あ……」

 驚いて思わず小さな声が出てしまった。開いた唇に男の舌が侵入してくる。

「ん? んんっ……ぁ」

 男の大きな舌がリアの舌を見つけると、すかさず絡みついて来る。くねくねと絡み、舌同士をザラザラと擦り合わせる。深く舌を絡められると、リアの腰がゾクリと震えた。

「ぅん……っん」

(どうしよう。気持ちいい……)

 今の状況は、先代の大地の神から受け継いだ知識には、記されていない。
 このまま気持ち良さに流されてもいいのだろうか。浮かんだ疑問も、頭の中が痺れて思考が追い付かない。

 男の唾液とリアの唾液が混ざり合い、飲み込めなかった分が口元を濡らした。
 男は一度唇を離すと、リアの喉まで垂れた唾液を舌先で舐めた。

「な、に……ぅんっ」

 くすぐったさに身体を捩ると、再び唇をふさがれる。

 聞きたいことはいろいろある。
 この男は誰なのか。
 今、この行為は何をしているのか。

 リアが言葉を発する前に、男の舌がすべて奪って行く。

 ふと、指先に違和感を感じた。ボーッとしながらチラリと指先を見ると、小指から一本の赤い糸がぶら下がっている。

(これは……ファタお姉様の運命の糸)

 くちゅ、ちゅ……ちゅぱ……。

 何度も角度を変える度に濡れた音が響く。
 男の舌に夢中になっているうちに、リアの小指の赤い糸がスルリと動き、男の小指に絡み付いた。

(私の、運命の人ってことかな……)

 自分の地上での使命を思い出し、納得したリアが安心してキスを受け入れようとした時。

「アレクシス様?」

 アレクシスの後ろから女性の声がした。

 プツン。

 頭の中で音がした。

 その瞬間、二人を繋いでいた赤い糸はスッパリと 切れた。

 
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