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第2章 コロラドリア王国編
第四十三話
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~~アリサ視点~~
異世界に召喚され、自分だけ洗脳にかからず辛い思いをした。こんなことなら自分も洗脳されたいと何度思ったことか。
そして私は売られた。
諦めた、憎んだ、全てを憎んだ。何故私がと言う言葉ばかりが頭を渦巻く。
そんな状態から思わぬ助けを得られた。強かった、そして優しかった。
生きられるのだとわかったら、欲が湧いてくる。でも私の欲求は、この激しい憎悪をぶつけたいと言う気持ちに塗り固められた。
だから、こいつを利用して復讐を果たす。私にはそれしかなく、その為なら何を代償にしても構わなかった。
初めは本気でそのつもりだった。
心の底から本気でそう思っていた。
だから対価を払ってでも復讐を成し遂げようとした。でもこいつは私を抱かなかった。
いつからだろうか、こいつは何故私を抱かないのか、私に魅力がないのかと考えるようになる。本気の決意からたった数日で、憎しみを押し分けるようにこんな気持ちが生まれてきた。
同時に楽しかった。人と普通に話せると言うことが楽しかった。ここではこいつもトラッチも私を見てくれる。相手にしてくれる。冗談を言ったり、笑ったり、時にはいがみあったり。普通のこと全てが楽しかった。
いつしか捨てられた憎しみよりも、何故私を抱かないのかと言う嫉妬のような感情の方が勝るようになっていた。
憎しみが薄れると、様々な感情が芽生えるほどの余裕が出てくる。いつのまにか対価を払う為じゃなくて、私に振り向かせることが目的みたいになっていった。
でも日本じゃあり得ないようなこの思いが、一人の男を振り向かせようとする努力が楽しかった。
新たな街に着いた。
人並み、いや、人並み以上の生活を味わった。本当にお姫様のように快適で、復讐心なんて消え去りそうになった。
途端に私は怖くなった。それは復讐心が消えることではない。
私のこの復讐心が消えたら、こいつは私をどうするだろうか?と言う疑問が頭に浮かぶと、手が震え、腰が抜けそうなほどの恐怖に包まれた。
また《自由に生きろ》と言われると思った。こいつは自由が誰にとっても幸福だと思っている。自由では生きられない人種も居ると言うことがわかってない。こんな私が身内もいない異世界で一人でなんて到底生きていけない、それがこいつにはわからない。
ならば私はこいつの中に居場所を作らなければならない。私が必要だと思わせなければならない。
だから勝負に出た。失敗したら全てを失うかもしれない。唯一の拠り所である宿り木さえ消えてしまうかも。それでも絶対的な安心が欲しかった。
だから勝負した。辺境伯を煽り、捨てられるくらいなら何もかもを道連れにするつもりで。
そして私は勝負に勝った。私の力で安住の地の一片をこいつに見せることに成功した。これで少なからず私の価値が出たであろう。私は安心した。
だけど一度安心すると、次から次へと不安が浮かぶ。私がこいつに唯一与えられるメリットは女と言うだけだ。私ならいざとなったら性欲を発散出来ると言う一点しかない。
私にはこいつが必要、でもこいつには私は必要ない。唯一の利点さえこいつから見れば、相手は私でなくても良いのだから。私の利点はもろく崩れ去る。誰もがそれをこいつに与えようとしてくるからだ。
当たり前だ、だって人間の半分は女なのだから。そして強い力を持つこいつを手放したくないと思うのも同じなのだから。
一度は諦めた。どんなに私が牽制しても誘惑は多く、私の見えないところでも誘惑されている。でもプライドがじゃまをして、《こいつは私の男だ》と言い張ることは出来なかった。それに怖かった。冗談でもこいつに、《お前は必要ない》と断言されてしまうのが怖かったから。だから自分から突き放した。そうすれば、私が彼氏じゃないと言ったからこいつも言ってるだけだと、自分に言い訳が出来たから。
でも、私の予想外にこいつは湯水のように次から次へと湧き出てくる女たちに、一切手を出していなかった。
またドロリと腹の奥底から欲が出る。
何故?
私に気があるから?
違う、そんなことじゃないとわかってるのに、どうしてもそんな気持ちが溢れ出てくる。
安心は得た。領主にも気に入られた。ここに居ることは出来るだろう。
でもそれはいつまで続く?復讐を諦めてここに滞在したとしても、領主にとって私は駒、いつ使い捨てられるかわからない。
なら違う男を作る?無理だ、こいつに対抗出来るほどの力を持つ人なんて見つからないし、いたとしても信用出来ない。安易なものほど崩れやすいことは知っているから。
だから私はこいつを手放さない。こいつを手放したら私は終わってしまう。こいつだけが私に安心をくれる。
ならば本気で付き合う?
告白してみる?
無理だ、怖い、怖くて仕方ない。
拒否されたくない。前みたいに拒否されてしまったら、もうどうしていいかわからない。身体を重ねることで安心が強固になるなら喜んで差し出すが、拒否されるのが怖くて自分から動けない。
それなのに、新しい女が次から次へと現れる。女を遠ざけたいけど、ほんの少しのプライドが、そして無理やり新しい女を遠ざけた為に私まで距離を取られるかもという恐怖が、頭の中から拭えない。
どうしよう……、もたもたしてる間に、こいつが誰かと身体を重ねてしまったら……。きっとこいつのことだ、身体を重ねたら、その相手のことを大事にしてしまう。そうなったら私はどうなるの?また捨てられるの?
嫌だ、それだけは絶対に嫌だ。
それならばいっそ、こいつを殺して自分も死ぬ。
「ははっ、まるでメンヘラ女が惚れちゃったみたいじゃない……」
ダメ。口に出してはダメ。口に出したら感情が溢れ出してしまう。今はダメ。
今の私は復讐に燃える女で、気軽に一緒に居られる女。それがこいつの中の私の立ち位置。今の私の唯一の居場所。
わかってる。それがこいつの中の私との最適な距離。
でも、誰かに先を越されたら?こいつが覚悟を決めてしまったら?
許せない。そんなことはさせないわ。でも、自分から行く勇気もない。
「……、そうよ、誰にもやらせなきゃ良いのよ。ふふっ、あんたの童貞は私が守ってあげる」
それしかない。それしかないのだ。あんたが泣いて《やらせてくれ》と土下座してくるまで、私があんたを守ってあげる。木の皮と思ってごめんなさいと言わせてあげる。
「たっぷり悶々としてなさい。欲望を吐き出せる場所は私しかないとわかるまで、じーっくり教えてあげる。ずーっと、ずぅーっとね」
異世界に召喚され、自分だけ洗脳にかからず辛い思いをした。こんなことなら自分も洗脳されたいと何度思ったことか。
そして私は売られた。
諦めた、憎んだ、全てを憎んだ。何故私がと言う言葉ばかりが頭を渦巻く。
そんな状態から思わぬ助けを得られた。強かった、そして優しかった。
生きられるのだとわかったら、欲が湧いてくる。でも私の欲求は、この激しい憎悪をぶつけたいと言う気持ちに塗り固められた。
だから、こいつを利用して復讐を果たす。私にはそれしかなく、その為なら何を代償にしても構わなかった。
初めは本気でそのつもりだった。
心の底から本気でそう思っていた。
だから対価を払ってでも復讐を成し遂げようとした。でもこいつは私を抱かなかった。
いつからだろうか、こいつは何故私を抱かないのか、私に魅力がないのかと考えるようになる。本気の決意からたった数日で、憎しみを押し分けるようにこんな気持ちが生まれてきた。
同時に楽しかった。人と普通に話せると言うことが楽しかった。ここではこいつもトラッチも私を見てくれる。相手にしてくれる。冗談を言ったり、笑ったり、時にはいがみあったり。普通のこと全てが楽しかった。
いつしか捨てられた憎しみよりも、何故私を抱かないのかと言う嫉妬のような感情の方が勝るようになっていた。
憎しみが薄れると、様々な感情が芽生えるほどの余裕が出てくる。いつのまにか対価を払う為じゃなくて、私に振り向かせることが目的みたいになっていった。
でも日本じゃあり得ないようなこの思いが、一人の男を振り向かせようとする努力が楽しかった。
新たな街に着いた。
人並み、いや、人並み以上の生活を味わった。本当にお姫様のように快適で、復讐心なんて消え去りそうになった。
途端に私は怖くなった。それは復讐心が消えることではない。
私のこの復讐心が消えたら、こいつは私をどうするだろうか?と言う疑問が頭に浮かぶと、手が震え、腰が抜けそうなほどの恐怖に包まれた。
また《自由に生きろ》と言われると思った。こいつは自由が誰にとっても幸福だと思っている。自由では生きられない人種も居ると言うことがわかってない。こんな私が身内もいない異世界で一人でなんて到底生きていけない、それがこいつにはわからない。
ならば私はこいつの中に居場所を作らなければならない。私が必要だと思わせなければならない。
だから勝負に出た。失敗したら全てを失うかもしれない。唯一の拠り所である宿り木さえ消えてしまうかも。それでも絶対的な安心が欲しかった。
だから勝負した。辺境伯を煽り、捨てられるくらいなら何もかもを道連れにするつもりで。
そして私は勝負に勝った。私の力で安住の地の一片をこいつに見せることに成功した。これで少なからず私の価値が出たであろう。私は安心した。
だけど一度安心すると、次から次へと不安が浮かぶ。私がこいつに唯一与えられるメリットは女と言うだけだ。私ならいざとなったら性欲を発散出来ると言う一点しかない。
私にはこいつが必要、でもこいつには私は必要ない。唯一の利点さえこいつから見れば、相手は私でなくても良いのだから。私の利点はもろく崩れ去る。誰もがそれをこいつに与えようとしてくるからだ。
当たり前だ、だって人間の半分は女なのだから。そして強い力を持つこいつを手放したくないと思うのも同じなのだから。
一度は諦めた。どんなに私が牽制しても誘惑は多く、私の見えないところでも誘惑されている。でもプライドがじゃまをして、《こいつは私の男だ》と言い張ることは出来なかった。それに怖かった。冗談でもこいつに、《お前は必要ない》と断言されてしまうのが怖かったから。だから自分から突き放した。そうすれば、私が彼氏じゃないと言ったからこいつも言ってるだけだと、自分に言い訳が出来たから。
でも、私の予想外にこいつは湯水のように次から次へと湧き出てくる女たちに、一切手を出していなかった。
またドロリと腹の奥底から欲が出る。
何故?
私に気があるから?
違う、そんなことじゃないとわかってるのに、どうしてもそんな気持ちが溢れ出てくる。
安心は得た。領主にも気に入られた。ここに居ることは出来るだろう。
でもそれはいつまで続く?復讐を諦めてここに滞在したとしても、領主にとって私は駒、いつ使い捨てられるかわからない。
なら違う男を作る?無理だ、こいつに対抗出来るほどの力を持つ人なんて見つからないし、いたとしても信用出来ない。安易なものほど崩れやすいことは知っているから。
だから私はこいつを手放さない。こいつを手放したら私は終わってしまう。こいつだけが私に安心をくれる。
ならば本気で付き合う?
告白してみる?
無理だ、怖い、怖くて仕方ない。
拒否されたくない。前みたいに拒否されてしまったら、もうどうしていいかわからない。身体を重ねることで安心が強固になるなら喜んで差し出すが、拒否されるのが怖くて自分から動けない。
それなのに、新しい女が次から次へと現れる。女を遠ざけたいけど、ほんの少しのプライドが、そして無理やり新しい女を遠ざけた為に私まで距離を取られるかもという恐怖が、頭の中から拭えない。
どうしよう……、もたもたしてる間に、こいつが誰かと身体を重ねてしまったら……。きっとこいつのことだ、身体を重ねたら、その相手のことを大事にしてしまう。そうなったら私はどうなるの?また捨てられるの?
嫌だ、それだけは絶対に嫌だ。
それならばいっそ、こいつを殺して自分も死ぬ。
「ははっ、まるでメンヘラ女が惚れちゃったみたいじゃない……」
ダメ。口に出してはダメ。口に出したら感情が溢れ出してしまう。今はダメ。
今の私は復讐に燃える女で、気軽に一緒に居られる女。それがこいつの中の私の立ち位置。今の私の唯一の居場所。
わかってる。それがこいつの中の私との最適な距離。
でも、誰かに先を越されたら?こいつが覚悟を決めてしまったら?
許せない。そんなことはさせないわ。でも、自分から行く勇気もない。
「……、そうよ、誰にもやらせなきゃ良いのよ。ふふっ、あんたの童貞は私が守ってあげる」
それしかない。それしかないのだ。あんたが泣いて《やらせてくれ》と土下座してくるまで、私があんたを守ってあげる。木の皮と思ってごめんなさいと言わせてあげる。
「たっぷり悶々としてなさい。欲望を吐き出せる場所は私しかないとわかるまで、じーっくり教えてあげる。ずーっと、ずぅーっとね」
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