今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

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第2章 コロラドリア王国編

第三十一話

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 朝飯を食ってギルドの依頼を消化しにいく。今回の依頼は小鬼の討伐5匹だ。証明に耳を持っていけば、一体につき2000ルク貰えるらしい。小鬼と言っても、小鬼の強さはそこそこあるようで、初心者の登竜門的なものであるらしい。初めてで登竜門はどうかと思うが、あのクソ強い虎子に鍛えられているのだ、小鬼程度は大丈夫だと思いたい。それでなければあの地獄の特訓の意味がない。

 アリサの格好は、昨日寝る前に見たホットパンツ姿だ。流石にミニスカートで行くと言い出したら止めようと思ったが、そこまでアホじゃないらしい。
 俺はベルトに鞘を通し、左腰に買った剣をぶらさげ、アリサはTシャツの上から胴体にベルトを巻いて、背中の鞘にダガーをクロスして収納し、その上から袖のないベストを羽織る。そして2人とも皮の籠手をつけて、俺は胸当てをつける。ウエストポーチも身につけ、そこに触媒となる魔石をいれている。
 魔石はまだ購入をしてない、メイリー婆さんの残した魔石だ。結構な量もあり大きさも色々あったので、ダズわずかなクラスではなくなることは無かった。だがそろそろ購入も考えなくてはならないだろう。
 アリサは適性が風と土らしいが、魔法はあまり得意ではないらしい。

「アリサ……、やる気があるのは嬉しいけど、殺す殺すとぶつぶつ言うのはやめないか?」
「うるさいわね!黙ってなさいよ!」
「……」

 なんだか機嫌が悪い、あの日だろうか。それならば【アニメートデッド】を試して貰いたいのだが。
 まあやる気になってるのを止めるのもなんだし、アリサのモチベーションが高いうちに小鬼を狩ろう。

 今日は東門から砦街を出る。昨日は南門から砦に入ったが、東門から出ると、小高い山が数キロ先ぐらいにあった。あの山のふもとの森に小鬼が生息してると依頼票には書いてあった。そして山の麓の森に着いた時、

スタッ!!

「あっ、虎子」
『身体は休めたか』
「ああ、大丈夫だ」

 虎子は俺とアリサの装備を見た。

「剣を買ったんだけど大丈夫か?」
『妾は剣を教えることは出来ぬが、基礎体力があれば何でもこなせるようになる。そろそろアキハルもどのくらい戦えるのかわかった方が良いだろう』
「ああ」
『魔力の訓練はしているな?』
「もちろんだ」

 魔力の訓練は循環方式になって、いつでもどこでも出来る様になった。寝てる時以外は常時意識してやっている。それはアリサも同じだ。

『ん?どうした。高ぶっているのか?』

 虎子はアリサを見て、そんなことを言ってきた。アリサは虎子を呼び、

「……ちょっとこっち来て」

 と、俺から離れて話をしだした。本当に理不尽だ、何故アリサはあんなヒソヒソ話が虎子と出来るのか。まあどうせツッコミを入れても、《女だから》と言われて終わるからもう突っ込まない。
 戻って来た2人は、

『ふっ、変わらぬな、アキハル』
「何がだよ」
『まあ良い。ここからは実戦だ。相手が格下だろうと実戦では油断すれば誰でも簡単に死ぬ。妾は手を出さないつもりだ、2人でやれるところまでやってみろ』
「ああ」

 予想通りの展開だ、虎子ならそう言うと思っていた。そして俺たちは、俺を先頭にして森の中へと入って行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……邪魔なんだけど……」
『妾のせいではない』

 小鬼の数は少なかった。思ったよりもかなり少ない。30分に1匹出会えるかどうかだ。既に2時間は経っているが成果は0だ。やっと小鬼と出会っても、虎子を見ると小鬼は一目散で逃げてしまう。今日の虎子は気配を消しているから、魔物と出会うことは出会うのだが、魔物の視界に入れば話は別だ。

『わかった、妾がここに連れて来てやろう。まだかなり奥に小鬼の集落があるようだ。そこから少し剥がしてくる』
「……、瀕死じゃ意味ねえぞ?」

 虎子は笑顔を浮かべ、

『当たり前だ、ここで待ってろ』
「ああ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あの馬鹿は加減を知らねえのか!!」
「うるさい!手を動かしなさいよ!!」

 20分ほど待つと、森の奥からダダダダダダと何かが走ってくる足音がした。それも1匹の足音ではない。
 そしてすぐに足音の正体が現れる。それは小鬼の大群だった。ギザギザの歯が生えている大きな口、100cmほどの身長、緑色の皮膚、ネット小説でのゴブリンそのままだ。

ゲギャ、グゴグ獲物だ、飯だ!』
グガボ女だ!』

 と、叫んでいた。言葉が聞こえようとも、向こうが殺る気マンマンならば仕方ない、俺も剣を構えて迎え撃つ。しかし、とんでもない数だ。20とかじゃきかないぞ?!
 アリサが先頭のゴブリンに魔法を放つと、ゴブリンは頭を撃ち抜かれて後ろに吹っ飛んだ。俺も剣を振りかぶりゴブリンの大群に突っ込んでいく。武器を買って本当によかった。

 目の前に走ってくるゴブリンの腹に剣を根元まで突き刺し、すぐさま抜き去って、右から走ってくるゴブリンの首を払う。そして180度回転して、反対側のゴブリンを袈裟斬りにする。
 見える。見えるぞ。それに思ったより速くない。

「ライト!こいつら遅いわ!」

 アリサも両手のダガーでブスブス刺しまくっている。つうかライトって呼ぶな。マジでアレの名前を押し通すつもりか。ってなことを考えるくらいの余裕がある。

「まだ来るぞ!アリサ」
「あの獣がぁ!絶対に毛皮にしてやる!」

 1匹1匹は弱い。だが、こうも断続的に来られると、体力が心配だ。少しでも殺傷能力が落ちれば、囲まれてしまいそうだ。
 30分ほど全力戦闘をしただろうか、周囲の血の匂いに鼻が麻痺し、俺もアリサも返り血でドロドロになり、ゴブリンの死体の山が出来上がった頃、やっとスタンピードのようなゴブリンの襲撃は止まった。
 そして、荒い呼吸をしながら地面に座り込むと、何食わぬ顔で虎子が現れる。

『少しは実感出来たか?』
「やりすぎだろうが!」
「死んだらどうするつもりよ!」

 アリサも虎子が現れた瞬間に文句を言う。

『この程度はこなせるように鍛えている、死ぬことはない』

 結果論すぎる、暴論だ。

『休む暇などないぞ、魔石を剥げ』
「魔石?」
『ヘソの裏あたりの位置にあるはずだ』
「……マジか……」

 俺は辺りを見渡す。
 今更ゴブリンの腹を抉るのが嫌なんじゃない。この数のゴブリンを捌かなければいけないことにうんざりしてるのだ。どうみても100近い数の死体がある。

「何?」
「ゴブリンのヘソの裏に魔石があるから全部取れってよ」
「……先に言ってよね。二度手間じゃない」

 お前、戦闘中に剥ぐつもりかよと突っ込みたかったが、気持ちは同じだ。2回スタンピードを処理するような気分になる。

「アリサも手伝って。あと耳も忘れないでな」
「わかったわ」

 俺たちが立ち上がり、ゴブリンの処理に動こうとした瞬間である。
 虎子の耳と鼻がピクリと動き、ギュンと砦街の方を向いた。

「……どうした?」
『気にするな、魔石を取っておけ。妾は少し見てくる』
「あん?、まあ、やっとくよ」

 虎子は木に駆け上り、猿のように木の上を飛びながら移動した。

「猿かよ……」
「どうしたの?」
「わからん、どっか行った。魔石を剥いどけとよ」
「…………あの獣にもやらせるべきじゃないかしら……」
「違いない……」

 俺たちはブーブー文句を垂れながら、耳と魔石を剥いだ。魔石はヘソの裏あたりに確かにあったが、大きさは親指の爪程度で、ある奴もない奴もいた。体感的に1/3程度のゴブリンしか魔石を持ってなかった。

 2時間後、ずいぶん日も傾いた頃、ゴブリンの処理が終わり、虎子も帰ってきた。俺たちの身体は返り血が乾いてカピカピだ。

『明日は休め。この辺の獲物もかなり減った。明後日は訓練をしに出てこい』
「わかった。ならまた明後日な」
「明日は休みなのね、助かったわ」

 アリサは俺の返答で明日は休みと予想したようだ。
 アリサは先に街に向かって歩き出した。

「疲れたわ、ありがとうね、トラッチ」

 と、手を振り歩き出す。もうヘトヘトなのだろう。ぶっちゃけ俺もだ。訓練よりも楽なはずだが、やはり実戦は精神的に疲れた。俺は空のリュックに耳をぎゅうぎゅうにつめたやつを背負う。ちなみに魔石は後で整理するために、【収納魔法】で収納した。

「虎子、おつかれ」

 俺もアリサに着いて帰ろうとすると、虎子が真剣な顔つきで俺を呼び止めた。

『アキハル』
「ん?」

 沈黙が流れる。呼び止めたくせに虎子は黙っている。

「なんだよ」
『……、いや、良い』
「なんだよ、気になるじゃねえか」

 すると虎子は真剣な表情をちょっと和らげ、

『…………、ああ、なら、あ奴を少しは構ってやれ』
「はあ?」
『それと、常在戦場の気持ちを忘れるな。休みでも警戒は解きすぎるな』
「ああ……」

 どうやら説教のようだ。

『何かあったら妾を呼べ。敵は魔物だけではないぞ、人間は同族でも争うからな。危険ならば街の中でも助けに行く』
「いやいや、それはやりすぎだ。大丈夫、絡まれるくらいは自力でなんとかするよ」
 
 多分先輩冒険者に絡まれるのを心配してるのだろう。だがネット小説のテンプレのようなやつは今のところ起こってない。それに声をかけてくれた人は優しかったし、それ以外の冒険者もアリサのパンツを見たらサムズアップをするくらい冗談が通じる奴らだった。絡まれることもなかったし。一応警戒はしておくけど、この街では大丈夫だろう。

「ライトスプリング、早く帰るわよ!」
「ライトスプリングって呼ぶな!!」

 先に歩き出していたアリサが呼ぶので、俺はもう一度虎子に挨拶して、アリサを追いかけた。虎子は心配そうに俺たちを見送っていた。
 
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