今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

文字の大きさ
上 下
28 / 53
第2章 コロラドリア王国編

第二十八話

しおりを挟む
 冒険者ギルドに着いた。初めて入った冒険者ギルドは、かなり簡素的な作りだった。ラノベでは酒場を兼用しているようなものが多かったが、事務カウンターがあり、カウンター内で職員が何人も働き、壁には依頼のようなものが貼られている。
 依頼の紙は見たところエリア別のようになっているようだ。
 日本のように真っ白というほどではないが、白い紙が固まっているエリア、
 かなり日に焼けている紙がチラホラ固まっている茶色い紙のエリア、
 変色と言うより風化していて、紙がボロボロになっているエリアだ。
 冒険者たちもいる。冒険者たちは半分ほどが白い紙のエリアの前に固まっており、後半分の人は、白い紙を手に持ち、列を作ってカウンターでの受付待ちをしている。

「これも前線砦だからかしら」
「かもな」

 とにかく造りに遊びがない。まるで用途だけこなせれば、あとはどうでも良いと言う思惑が見て取れる作りだ。

「とりあえず依頼を見てみない?」
「そうだな」

 俺と神山は依頼が貼ってある紙を見る。白い紙の前は人だかりが出来ているので、茶色い紙の前に来た。

「ねえ、意外と楽勝じゃないの?」
「……言っとくけど虎子は手伝わないと思った方が良いぞ?」
「え?!なんでよ!」
「訓練の一環だと言うに決まってるだろ」

 前もって宣言はされてないし、本気で命の危険があれば助けてはくれるだろう。だが、虎子はそんな甘い性格はしていない、甘い性格の奴があんな訓練をするわけないのだから。しかし、どんな時でも命の心配だけはいらないと考えたら充分過保護なのだ。

「でも、これ塩漬け依頼よね?それに報酬も金貨よ。これをやる方が効率良いわ」
「まあ、紙の風化具合からそうだろうな」
「おい、お前ら新人か?」

 見た目40代ぐらいのいかつい男が話しかけてきた。

「はあ、まあ」
「そっちはやめとけ。ガキと娼婦でなんとかなる代物じゃねえ」
「誰が娼婦よ!!」

 俺は吹き出しそうになったのをギリギリ堪えた。そりゃ娼婦にも見えるだろ。すると神山はギロリと俺を睨み、

「……笑ったわね」
「笑ってねえよ」

 すると男は苦笑いを浮かべてから、

「あー、まあ、なんだ。そっちをやるくれえならこれをやって見ろ」

 と、依頼票を渡してくれた。そこには小鬼討伐と書いてあった。

「アレをみてるくれえだ、そこそこ自信はあるんだろ?」
「え、ええ、まあ……」
「だろうな。やりそうな体つきしてる、死ぬこともなさそうだしな。それがやれりゃあ、溝掃除や草むしりをしなくても食ってけるだろ。だがそれをやってキツかったら、悪いことは言わねえ。もっと内地で雑用から始めな」

 なんだろう。ネット小説のテンプレでは、基本的にファーストコンタクトは絡まれるのが定番だ。特に神山みたいな女を連れていれば尚更だ。だけどこの人、めっちゃ良い人だ。

「ありがとうございます」
「良いってことよ。俺は今日は酒でも飲んで休みにする。ほら、そっちのねえちゃんにも仕事をやるから一緒に来い。こいつはこれから男の仕事なんだ」
「だから娼婦じゃないって言ってるでしょ!!」
「ぶっ!、いてえ!!」

 堪えきれずに吹き出すと、神山に尻をつねられた。しかし良い人だ、神山の仕事・・まで心配してくれるなんて。

「か、神山……、仕事貰ったら?www」

ガバッ!!!

「っっっっっ!!!あがっ!!!」

 俺が笑いを堪えながら言うと、勢いよく神山にキンタマを掴まれた。ご丁寧にゴリゴリと揉んで頂けている。初めて女に股間を触られる感触は、三途の河が見えるほどの痛みだった。そして神山は笑顔でゴリゴリしながらゴキブリでも見つけたかのような目で俺を見上げる。

「あんた……、友達キンタマは必要ないみたいね、親友髪の毛だけじゃなく、こっちもさよならする?」
「っつ、い、いや、です」
「次笑ったら噛みちぎるわ」
「わ、わかった……」
「なんだ、彼女だったのか。てっきり娼婦かと。でもその格好じゃなぁ」

 俺は神山に許される、まだ痛むタマをさすりながら

「ええ、気をつけるように言っておきます」
「そうしろ。あー、俺はギルディンだ」

 と、右手を出してきた。俺は右手で握手をしながら

「えっと、ライトです」
「そうか、またな、ライト」

 オッさんは手をヒラヒラさせて、数人の仲間を連れてギルドから出て行った。

 神山は俺の顔を見て、

「ライト?」
ライトスプリング明春グリーンリバー緑川だ。考えてたんだ」

 神山はよくわからない微妙な顔つきをして、何か言いそうに口を動かしたが、

「そう。良かったわね」

 と、だけ言った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


~~ギルドを出てすぐの大通り~~

「ギル」
「ああ、間違いない」

 ギルディンとその仲間たちは、前2人、後ろ3人で固っで歩く。

「すげえ獣の匂いがぷんぷんしやがるぜ」
「あの匂いなら雑魚はねえな。これは金になりそうだ」

 ギルディンたちは冒険者だが、裏で従魔狩りをしている。従魔は人間に危害を加えないように訓練されている。だから従魔を襲ってもまともな反撃もない事も多く、普通の魔物よりも俄然安全だ。そして訓練されて人間慣れした従魔は、従魔商に売れば高く売れる。小鬼を探して退治する何百倍も効率が良い。
 殺して素材にするのでも、捕獲して売り飛ばすでも、どちらにしても損はない。

「なら俺が見てこよう」

 いつもの調査担当の男が言う。こいつは1万人に1人と言われているスキル持ち【気配断ち】を持っているのだ。

「だが気をつけろ。あのガキ、素人に見えて結構やるぞ。多分俺と良い勝負だ」
「嘘だろ!?」

 仲間たちは一斉に驚く。成人してるかも怪しいくらいのガキが、このパーティーの1番の戦闘力を誇るギルディンと同じだと言われたらビックリはする。

「なぁに、奴は1人みてえなもんだ。仲間が娼婦1人じゃな」
「だな。いくらギルディン並みと言っても囲んじまえばなんとかならあな」
「安心しろ。俺がガキを抑える。お前らは従魔を確保しろ」
「あの娼婦もガキみてえだったが、男を誘う技は持ってたな」
「ああ。あの目つきなんて、スケベだったぜ。それにチラチラチラチラ男を誘いやがって。あいつも食っちまおうぜ?」
「当たり前だろ」
「「「「「がはははははは」」」」」

 【気配断ち】のスキル持ちの男は、ライトたちを探るため、人混みの中へ消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...