今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

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第2章 コロラドリア王国編

第二十八話

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 冒険者ギルドに着いた。初めて入った冒険者ギルドは、かなり簡素的な作りだった。ラノベでは酒場を兼用しているようなものが多かったが、事務カウンターがあり、カウンター内で職員が何人も働き、壁には依頼のようなものが貼られている。
 依頼の紙は見たところエリア別のようになっているようだ。
 日本のように真っ白というほどではないが、白い紙が固まっているエリア、
 かなり日に焼けている紙がチラホラ固まっている茶色い紙のエリア、
 変色と言うより風化していて、紙がボロボロになっているエリアだ。
 冒険者たちもいる。冒険者たちは半分ほどが白い紙のエリアの前に固まっており、後半分の人は、白い紙を手に持ち、列を作ってカウンターでの受付待ちをしている。

「これも前線砦だからかしら」
「かもな」

 とにかく造りに遊びがない。まるで用途だけこなせれば、あとはどうでも良いと言う思惑が見て取れる作りだ。

「とりあえず依頼を見てみない?」
「そうだな」

 俺と神山は依頼が貼ってある紙を見る。白い紙の前は人だかりが出来ているので、茶色い紙の前に来た。

「ねえ、意外と楽勝じゃないの?」
「……言っとくけど虎子は手伝わないと思った方が良いぞ?」
「え?!なんでよ!」
「訓練の一環だと言うに決まってるだろ」

 前もって宣言はされてないし、本気で命の危険があれば助けてはくれるだろう。だが、虎子はそんな甘い性格はしていない、甘い性格の奴があんな訓練をするわけないのだから。しかし、どんな時でも命の心配だけはいらないと考えたら充分過保護なのだ。

「でも、これ塩漬け依頼よね?それに報酬も金貨よ。これをやる方が効率良いわ」
「まあ、紙の風化具合からそうだろうな」
「おい、お前ら新人か?」

 見た目40代ぐらいのいかつい男が話しかけてきた。

「はあ、まあ」
「そっちはやめとけ。ガキと娼婦でなんとかなる代物じゃねえ」
「誰が娼婦よ!!」

 俺は吹き出しそうになったのをギリギリ堪えた。そりゃ娼婦にも見えるだろ。すると神山はギロリと俺を睨み、

「……笑ったわね」
「笑ってねえよ」

 すると男は苦笑いを浮かべてから、

「あー、まあ、なんだ。そっちをやるくれえならこれをやって見ろ」

 と、依頼票を渡してくれた。そこには小鬼討伐と書いてあった。

「アレをみてるくれえだ、そこそこ自信はあるんだろ?」
「え、ええ、まあ……」
「だろうな。やりそうな体つきしてる、死ぬこともなさそうだしな。それがやれりゃあ、溝掃除や草むしりをしなくても食ってけるだろ。だがそれをやってキツかったら、悪いことは言わねえ。もっと内地で雑用から始めな」

 なんだろう。ネット小説のテンプレでは、基本的にファーストコンタクトは絡まれるのが定番だ。特に神山みたいな女を連れていれば尚更だ。だけどこの人、めっちゃ良い人だ。

「ありがとうございます」
「良いってことよ。俺は今日は酒でも飲んで休みにする。ほら、そっちのねえちゃんにも仕事をやるから一緒に来い。こいつはこれから男の仕事なんだ」
「だから娼婦じゃないって言ってるでしょ!!」
「ぶっ!、いてえ!!」

 堪えきれずに吹き出すと、神山に尻をつねられた。しかし良い人だ、神山の仕事・・まで心配してくれるなんて。

「か、神山……、仕事貰ったら?www」

ガバッ!!!

「っっっっっ!!!あがっ!!!」

 俺が笑いを堪えながら言うと、勢いよく神山にキンタマを掴まれた。ご丁寧にゴリゴリと揉んで頂けている。初めて女に股間を触られる感触は、三途の河が見えるほどの痛みだった。そして神山は笑顔でゴリゴリしながらゴキブリでも見つけたかのような目で俺を見上げる。

「あんた……、友達キンタマは必要ないみたいね、親友髪の毛だけじゃなく、こっちもさよならする?」
「っつ、い、いや、です」
「次笑ったら噛みちぎるわ」
「わ、わかった……」
「なんだ、彼女だったのか。てっきり娼婦かと。でもその格好じゃなぁ」

 俺は神山に許される、まだ痛むタマをさすりながら

「ええ、気をつけるように言っておきます」
「そうしろ。あー、俺はギルディンだ」

 と、右手を出してきた。俺は右手で握手をしながら

「えっと、ライトです」
「そうか、またな、ライト」

 オッさんは手をヒラヒラさせて、数人の仲間を連れてギルドから出て行った。

 神山は俺の顔を見て、

「ライト?」
ライトスプリング明春グリーンリバー緑川だ。考えてたんだ」

 神山はよくわからない微妙な顔つきをして、何か言いそうに口を動かしたが、

「そう。良かったわね」

 と、だけ言った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


~~ギルドを出てすぐの大通り~~

「ギル」
「ああ、間違いない」

 ギルディンとその仲間たちは、前2人、後ろ3人で固っで歩く。

「すげえ獣の匂いがぷんぷんしやがるぜ」
「あの匂いなら雑魚はねえな。これは金になりそうだ」

 ギルディンたちは冒険者だが、裏で従魔狩りをしている。従魔は人間に危害を加えないように訓練されている。だから従魔を襲ってもまともな反撃もない事も多く、普通の魔物よりも俄然安全だ。そして訓練されて人間慣れした従魔は、従魔商に売れば高く売れる。小鬼を探して退治する何百倍も効率が良い。
 殺して素材にするのでも、捕獲して売り飛ばすでも、どちらにしても損はない。

「なら俺が見てこよう」

 いつもの調査担当の男が言う。こいつは1万人に1人と言われているスキル持ち【気配断ち】を持っているのだ。

「だが気をつけろ。あのガキ、素人に見えて結構やるぞ。多分俺と良い勝負だ」
「嘘だろ!?」

 仲間たちは一斉に驚く。成人してるかも怪しいくらいのガキが、このパーティーの1番の戦闘力を誇るギルディンと同じだと言われたらビックリはする。

「なぁに、奴は1人みてえなもんだ。仲間が娼婦1人じゃな」
「だな。いくらギルディン並みと言っても囲んじまえばなんとかならあな」
「安心しろ。俺がガキを抑える。お前らは従魔を確保しろ」
「あの娼婦もガキみてえだったが、男を誘う技は持ってたな」
「ああ。あの目つきなんて、スケベだったぜ。それにチラチラチラチラ男を誘いやがって。あいつも食っちまおうぜ?」
「当たり前だろ」
「「「「「がはははははは」」」」」

 【気配断ち】のスキル持ちの男は、ライトたちを探るため、人混みの中へ消えていった。
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