今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

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第2章 コロラドリア王国編

第二十六話

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 こんにちは。
 《女》と言うチートジョブに最近恐怖を感じ出した緑川明春です。
 移動を開始して今日で2週間、もう明日で水が切れる。結構買ったつもりだったが、神山が増えたことで予想以上に消費した。だが明日にはコロラドリア王国の国境側の砦街に着く予定だ。
 この2週間の出来事を話そう。

 神山はあれからも、まるで本気で虎子の言葉がわかっているかのように振る舞った。もちろんそんなに長い台詞を理解は出来ないが、相槌レベルや一言レベルならば、何の苦もなく会話をしている。神山も虎子も言っているが、表情と顔色でだいたいは理解出来るそうだ。メイリー婆さんともそうしていたらしい。神山は更に、虎子の尻尾の動きも合わせて見ているらしい。
 それにしても異常すぎる。もし、本当に《女だから》って理由でそれが出来るのならば、俺の【翻訳】の意味が……。

 日が傾きかけた頃、移動を中止してキャンプと訓練の時間になる。
 俺がキャンプに必要な道具を出し、神山が寝床を整えたり、先に水で身体を拭いたりしている。
 しかも身体を拭くとき、神山は予想通りの行動を取る。

「隠せよ!」
「うるさいわね、見なきゃ良いじゃない」
「そう言う問題じゃねえだろ!」
「……もう面倒くさいわ。そんなに反応するなら、さっさとやっちゃってよ」
「最悪だなお前!」

 もう隠すこともしない。木の影に隠れて身体を洗っていた神山を返して欲しい。あの頃ならまだ多少は意識したが、今では微塵も興奮しない。身体が嫌だってことじゃない。胸は小ぶりながらも肌は綺麗だし、子供のようにムダ毛もなくかなり綺麗な身体をしているがもう、そう言う次元は超えた。俺の中では虎子と同レベルに初めての相手ではなくなっている。童貞に立ったまま足を開いて股を洗っている姿を見せてはいけない。何か大事なものが崩れてしまうからだ。
 そして神山は男らしく両手を腰を当て、肩幅に足を開き、斜に構えて俺に文句を言う。全裸で。

「あのね、見せるだけ見せて、触らせないやらせないってなら緑川の言うこともわかるわよ?でも良いって言ってるのにやらないで、そのくせ反応しては文句を言う。どっちが理不尽なのかしら?」
「……」

 なんだか俺のが間違っているみたいだ。それに論理的に考えると、神山の言ってることのが正しく聞こえるから困惑する。

「お、おれがわるいのか?」
「当たり前じゃない」

 すると虎子が神山に近づき、尻尾で胸を、右手で股間を俺から隠すようにする。

『恥じらいを持たないから興味を持たれないのだ』
「あんたもそんなこと言うの?」

そして右手を神山の肩に乗せ、少し下に押して神山を屈ませる。

『アキハルはへたれだ。気の弱いものにしか手を出せない』
「あー、なるほど。そんな感じね、へたれだし」
「お前マジで言葉がわかってるだろ!!」

 多少のニュアンスのズレはあるものの、見事に会話として成立している。本当におかしいと思う。
 それにツッコミを入れると神山は、局部を隠してナウナウ言われれば隠せってことだとわかるし、小さい私を屈ませられたら、弱くあれとか弱みを見せろという意味と予想出来る。なんでこんな簡単なことがわからないのかと逆に責められるのだ。
 確かにそうかもしれないが、ナウナウだけで会話出来ていることが納得出来ない。俺の【翻訳】の存在意義が……。
 そして決まり文句は、2人して《女だから》だ。女2人にそう言われてしまうと1人しか居ない男としては何も言い返すことが出来ない。
 マジで神山を仲間にしたのは失敗だったかもしれない。

 その後俺と虎子の夜の部の訓練が始まる。俺と虎子の訓練が終わると、

「私もやるわ。今日こそ毛皮にしてやる」

 と、ナイフを持って虎子に斬りかかっていく。もちろんそれは虎子に当たることはないが、神山は本気で刺そうとしている。神山がぶっ倒れると、虎子は獲物を探しに出かけ、10分もせずに獲物を咥えて帰ってくる。それを捌くのは俺の仕事だ。
 神山も魔物の解体をやりたがっているが、今のどこかぶっ壊れている神山が、生き物の腹をかっさばいたり血にまみれるのはホラーに近いので、俺がやらせないでいる。

 魔力の総量をあげる訓練も行っている。
 だが虎子式の魔力の訓練は、メイリー婆さんが教えてくれたものとも、神山がセントフォーリアでやっていたものとも全く違っていた。
 まずセントフォーリア教国式は、魔力を放出しすぎると命の危険があるので、無理をしないように魔法を使い続けて、徐々に魔力量を増やしていくようだ。神山にメイリー婆さん方式を教えたらビックリしていた。
 そして虎子式、と言うよりも魔族方式らしいが、獣人族がまだ魔族として生きていた頃の、魔族側の訓練方法らしい。それは体内の魔力を循環させて魔力量を増やしていくと言うのだ。
 魔力量が上がる条件は、魔力を枯渇させることではなく、丹田にある魔力溜まりから魔力が放出されれば良いらしい。
 だから丹田を第二の心臓と仮定して、丹田の魔力溜まりから静脈へ、半身を通って心臓に入り、動脈経由で半身を回って魔力溜まりに帰る。これをすれば魔力を魔力溜まりから放出することが出来、更に体内を経由して戻ってくるから減衰が極端に少ない。
 だから常時訓練が出来るのだ。常時訓練出来るから魔族側の生物は魔力が多い、故に魔族は強いって理由らしい。

「……、ならなんでメイリーの訓練の時に言わねえんだよ……」
『人間の体の構造やルール、妾の知らぬ禁忌があるかもしれぬのに、メイリーに対して余計なことを言えるわけがない。メイリーにも魔法使いとしての矜持があるのだぞ?そしてもし妾の間違いでアキハルを死なせることになればメイリーに恨まれるのだ、そんなこと出来るか』

 ってことだった。
 循環のやり方はそう大変ではなかった。丹田にある魔力溜まりを意識することが出来れば、循環させることは簡単だった。魔力溜まりを意識できるまでは大変だったが。それと慣れるまではかなりの痛みを伴った。これも仕方ないとも言えるので我慢した。
 神山にも虎子が教えた。もちろん流石にこれは俺の通訳を必要とした。神山も俺の二日遅れで魔力溜まりを感知出来、魔力循環の訓練に入った。神山もやはり相当痛いらしく、かなり辛そうな顔をしていたが、復讐心が勝ったのか一切弱音は吐かなかった。
 魔力循環は、寝てる時以外、移動時も食事時も会話時も体力の訓練時でさえどんな時でもやらされた。

 ちなみに、魔力と魔法、魔が付くことから虎子に質問すると、やはり元は魔族だけのものだったらしい。初代勇者前の、人間が家畜とされていた当時の人族は、魔力のことさえ知らなかったようだ。それを人間側に浸透させたのはエルフ族との話を聞けた。
 

 神山に禁呪も教えた。
 まず教えたのは【収納魔法】だ。収納魔法を教えると神山はキレた。

「ふざけないで!髪は女の命なのよ!!」
「今更女とか言われてもな……」

 もう俺にはお前が女には見えない。

「……だからあんたの髪は薄────」

 全てを言わす前に俺は神山の胸ぐらを掴む。

「てめえ……、殺すぞ」
「……、じょ、冗談よ……、あんた意外と怖いのね……」

 どうやらインキャのマジギレを見せてしまったようだ。そして神山の荷物は神山に持たせることにした。何故俺が神山の荷物の出し入れで友を失わなければならないのか。
 
 もう一つ、【身体強化】は神山に教えることを虎子に却下された。なので、触媒的に俺には使えない、更に女しか使うことが出来ない魔法を神山に教えた。【アニメートデッド】だ。
 【アニメートデッド】は、死体に命を吹き込んでアンデッドとして操る魔法だ。触媒は言えない、どんなゲスいネット小説でさえ、触れるのも禁忌とされている触媒だ。流石禁呪。

「……神山……、薄くなってないよな……」
「今は目立ってないし、見てもわからないわ……、でも、この触媒ならいつかは必ずハゲるわよ……」
「なあ神山……、なんでも捧げるって────」
「嫌よ」
「……お前、それは────」
「嫌」
「ずるくないか?」
「それ以上言わないで。自分の分は持ったでしょ」
「いやでもよ、お前は新参なんだから────」
「やめて。それ以上言われたらこっちにも考えがあるわよ?」
「……はあ?どう言う意味だよ」

 神山は息を吸い込み、

「トラッチィ!!緑川にお尻揉まれたぁ!!」
「なっ?!!」

そして俺は無条件で虎子に攫われ、じゃれあいと言う名のガチバトルに持ち込まれる。おかしい。ヤッて良いんじゃなかったのか?何故虎子が出てくる。しかもいつのまにトラッチ?……ふざけやがって、虎子は俺のものだ。


 そんな毎日を繰り返し、俺たちはコロラドリア王国の最南端の砦街、ガルシア砦にたどり着いた。
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