今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

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第2章 コロラドリア王国編

第二十三話

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「あ?何?終わったの?。良かったわね、楽しそうで。勝手に乳繰り合ってれば良いじゃない」
「乳繰り合うって、お前な……」
「違うの?……別に関係ないけど。どうせ私はどこに行ってもいらない子だし」

 完全にやさぐれている。つうか、いくらズボンでも俺の前で股おっぴろげて恥ずかしくないのか?……、ちっ、ほら、Tシャツぶかぶかなんだから、前屈みになると、見えちまうぞ。
 神山はナイフ片手に肉を削ぎながら、前傾姿勢で座り、両膝を立てて、肉をくっちゃくっちゃしている。まるでヤンキーか飲んだくれのオッサンのようだ。

「……、アスタリカには行けなくなったから、北上してコロラドリア王国に行こうと思うけどそれで良いか?神山」
「別にどこだって良いわよ」
「そうか、ならコロラドリアのある程度デカい街に送るよ」
「…………、え?」

 神山は一瞬ぽかんとして、次の瞬間、ナイフを肉の塊にいきなりぶっ刺した。

ドスッ

「私を捨てるの?!」

 俺は八の字に眉を寄せて、

「捨てるって……、お前は俺のものじゃないだろ。もう自由だぞ」
「私にどうやって生きていけって言うのよ!!」
「いやいや、どうやっても何もチートがあるんだろ?」
「ないわよ!私のスキルは【状態異常完全防御】だけよ!」
「いや知らんけど。でもセントフォーリアで訓練も受けてたんだろ?」
「だから何!たった一年訓練したからって何が出来るって言うのよ!」
「知らねえよ……」

 いきなりなんだこいつは。俺にどうしろって言うんだ。

「そうよね、どうせ私には何の価値もないわよね!ゴミクズだもんね!」
「神山お前、何言ってんの?そんなこと一言も言ってねえだろ」
「もうめんどくさいから殺したら?別に良いわよ、どうせ生きてても何も良いことないし」
「落ち着けよ、もう自由なんだぞ、お前」

 神山は勢いよく立ち上がる。

「自由?!自由ですって!自由なんてないわよ!」
「ズボンを押さえろ、ずり落ちてるぞ。ほら、パンツだってブカブカなんだから危ないって!!」

 神山は一瞬止まり、顔を赤くしてズボンを持って上げる……のかと思ったら、その手を止めてまた俺に怒鳴る。

「どうでもいいわよ!ほら!ここは日本じゃないわ!犯しなさいよ!やり放題よ!」
「なんだよいきなり!犯さねえよ!!」
「何よ!私には犯す価値もないってわけ?!なら殺しなさいよ!」
「落ち着け!俺にどうしろってんだよ!!」

 なんだこいつ。馬車ではあれだけおどおどしてたのに、飯食って落ち着いたらいきなり豹変したな。俺の知っている神山らしくはなったが面倒な事この上ない。これだからクラス転移モノは……。
 神山の石けんで洗った髪は、ブラシもなくてボサボサで、元はロリ系で男子からもかなり人気があったが、今では目の下にはクマが出来、まともな食事も出来なかったのか、頬は痩けて、前より少し痩せているように見える。腕とか足首を見るに、あまり鍛えたりとかはしていなそうだ。
 そして神山は、流れる涙を拭うこともなく、半狂乱で俺を罵る。

「あんたは良いわよね!そんなに強くて!」
「強くねえよ」
「強いじゃない!そんな強い魔物まで連れちゃって!私には何もない!」
「魔物って言うな!虎子は魔物じゃない!」

 虎子から話を聞いて知った。魔物と言う言葉は虎子にとっては侮辱に近いものだった。思えばメイリー婆さんも虎子を一度も魔物と言ったことはなかった。虎子が獣人族と知っていたのかもしれない。

「なんでも良いわよ!!ねえなんでよ!なんで誰も私に優しくしてくれないの!」
「俺が知る────、うぷっ、やめろ!」

 神山は地面の落ち葉や土をむしり取り、無造作に俺めがけて何度も投げつける。

「なんでよ!強いなら助けてくれたって良いじゃない!」
「強くないっつうの、ぷはっ!」
「なんで私はこんなとこにいるのよ!帰して!パパとママのいる日本に帰してよ!」
「っ、やめろ!ぷっ!落ち着け!」

 すると神山はおもむろにTシャツを脱ぎ捨て、ズボンとパンツをふくらはぎまで一気にずり下ろした。森の中の夜、焚き火の光に照らされて、白い肌の神山の裸体が浮かび上がる。胸はかなり小ぶり、胸の下は肋骨が浮き出ていて、腰骨あたりにも肉が少ない。ヘソの下は無毛で見えてはいけない部分が露わになっている。そして両手を大の字に開いて、

「ほら、犯しなさいよ!犯してよ!そして気持ち良かったら私を養ってよ!私に優しくしてよ!」

 俺は顔を逸らし、

「本当落ち着けって!頼むって!」
「お願いよ!!私を────、うっ!」

 一気に静かになった。神山の腹には虎子の尻尾が突き刺さっていた。突き刺すと言っても貫通しているわけではなく、尻尾でボディーブローをしたような状態だ。俺は虎子を見る。

『見てられん。服を着させてやれ』
「あ、ああ……」
『アキハルは女なら誰にでもあんなことを言うのかと思ったが、そうではないのだな。同族なのに』
「……は?」
『貴様は少し、女の扱いを覚えた方が良さそうだ』
「っ、関係ないだろ!」

 童貞に高度な何かを求めるな!虎子が早くしろと言いたげに俺を見るので、俺は神山に近づいて、Tシャツやパンツやズボンを履かせた。そして布団を出して神山を寝かせる。

「……ふう……、参ったな、これ……」

 正直、もう神山に用はない。奴隷にされそうなところを助けてあげたんだし、自由なのだから自分の好きにしたら良いと思うのだが、話の流れが何故か俺が神山を捨てるみたいになっている。付き合ったことと、もちろん抱き合ったこともないのに、いきなり修羅場からスタートみたいな気分だ。どうせ修羅場るならいい思いをさせてからにしてくれ。
 しかも一つしかない布団を取られた。寝ることも出来やしない。

「はぁ……、野宿が嫌だから布団を持って来たのに……」

 布団はどんなに丸めても、バズ少しの収納魔法が必要だ。敷いて片付けるだけで20本のとさよならしなければならないのだ。そこまでしてでも持ってきた布団を神山に取られる。文句を言いたいのはこっちのほうだってのに。
 すると、俺の身体がふわりと浮かんだ。虎子は久しぶりに俺の胴体に尻尾を巻き付け、俺を寝そべる自分の胴にぶつけるように運ぶ。
 これはまさか、虎子に寄りかかって寝ろと言うことか?

『これなら寒くはないだろ。アキハルももう寝ろ。明日の朝も早いぞ』
「あ、ああ……」

 とうとう虎子がデレたのか?こんなにゆっくりと虎子の体に触ったのは初めてだ。虎子の身体は暖かくて、毛は柔らかくてフサフサとまではいかないが、しなやかでしっとりとしている。日本で触ったことのあるどの絨毯よりも肌触りが良い。はっきり言ってむちゃくちゃ気持ちが良い。
 俺は神山にイラつく気持ちがあったが、虎子の肉体ベッドの心地よさに、どうでもよくなってそのまま寝てしまった。
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