今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

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第2章 コロラドリア王国編

第二十二話

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 神山たちが異世界に来てからのことを粗方聞いた。なんだか異世界の話ってよりも、クラスメイトのドロドロの人間関係を女の視点での愚痴を聞かされている気分だ。まあ、あの仲が良かった4人組が、神山をターゲットにイジメをしたって所には同情する。

 神山の話で有益だと思えたことは、やはり洗脳があったと言うことだ。だが、話を聞くと洗脳とは違う気がする。なんというか、意思の方向性を任意の方に向けさせるとか、そんな感じに思えた。
 
「それで私ね、その騎士の人も結局身体目当てなのかなとか思ってね、……、ちょっと!聞いてるの?!」
「聞いてるよ……」

 いや、ぶっちゃけ、あいつが誰を好きだとか、誰が誰とくっついたとか、異世界に来たからとハーレム作ったとか、そんな話はどうでもいいんだよ。お腹いっぱいだわ。
 しかしよく喋るな。それだけ鬱憤が溜まってたのかな。

「じゃあ俺が居ないことは誰も気にしていないんだな?」
「ええ。異世界に来た瞬間ぐらいはそんな雰囲気あったけど、数日も経ったら誰も気にして────、ごめんなさい」

 俺は手をひらひらさせ、

「あー、大丈夫だ。気にしてない」

 むしろラッキーだ。俺を捜索とかはないと言うことだ。それならばクラスメイトに会わなければ、勇者とバレることもないと。そうとわかれば動き方を大胆に決められる。

『アキハル、ならばメイリーの家に居ても良いのではないか?』
「ん?あー、そうかもな。でも俺はやっぱり世界を見て回りたい。着いて来てくれるか?」
『アキハルはまだ若い。見ることも成長につながるだろう。悪いことではない』
「ありがとな」

 メイリー婆さんのことを忘れたわけじゃないが、俺たちはまだ生きている。死者を蔑ろにするつもりはないが、縛られてしまうのはダメだ。まあ、機会があれば墓参りには行くし、婆さんの人生の結晶は持って歩いているのだ、毎日一緒とも言える。

「ね、ねえ……、まさか会話してるの?」
「ああ、俺と虎子は会話出来る」
「……私にはナアナア、ナウナウ言ってるようにしか聞こえないんだけど……」
「そういうスキルだからな」

 虎子はふんと鼻を鳴らし、

『アキハル以外にはそう聞こえているのか。猫みたいだな』
「お前は猫だろうが」

 チーターなのだから、大きな分類では猫のはず。それを虎子に猫みたいって言われると、なんだか面白い。
 すると、虎子は深妙な顔つきで、

『前から思っていたが、アキハルは妾を猫だと思っているのか?』
「あー、いや、それは俺の故郷の分類でな。つうか、虎子は魔物だろ」

ピクリ

 虎子は少し反応した。

『妾は魔物ではないぞ?』
「え?!!マジで!!」
 
 いきなり衝撃のカミングアウトだ。魔物でないのならなんなのだ、動物だから魔物じゃないと言うことか?

「……ちょっと、何話してるのよ。私にも教えなさいよ。てゆうか私の話だったんだけど……」

 今は神山どころではない。虎子は呆れたような顔でため息をつき、

『やはりか。だから従魔などと言ったのだな』
「……ごめん」
『従魔とは、人族に合わせると奴隷と言うことだ』
「あー……」
『そして魔とは、魔族に属する者のことを言う。主に人間を糧として食う者が魔に分類されている。魔物も魔に属する者だ。妾は魔物ではない』
「……」

 えっと、虎子は魔物みたいな姿だけど魔物じゃなくて、魔族がいて、魔族は魔物で、えっと……。

『アキハル、うさぎの言葉は理解出来たのか?』
「……、いや」
『仮に妾が魔物だとしよう、アキハルの勇者の力は声を聞くことだな?ならば妾の言葉が何故わかる?』
「……」

 確かにそうだ。うさぎの鳴き声も聞いた。それに瀕死の鹿も断末魔みたいな声を出していた。でも俺の【翻訳】は働かなかった。同じ魔物なのに……。

「……、なら虎子、お前はなんなんだよ」
「また無視……」

 神山が大事な所で割って入ってくる。

「今大事なところだから黙ってて、神山」
「……わかったわよ……」

 虎子は一拍置いて、

『妾は遥か昔は魔に連なる種族、だが初代勇者との戦いにおいて、世界に許された種族、そして勇者の帰還に命を捧げた誇り高き獣人族、千年虎サウザンドタイガー族だ』
「はあ?!!」

 待て待て待て。獣人って言ったら、もっと普通の女の子の頭に猫耳がついているような、可愛らしい奴だろ?!お前はまんま獣じゃねえか!!
 だがどこに地雷が埋まっているかわからない。また虎子の機嫌を損ねない為に、慎重に質問する。

「……、怒るなよ?」
『構わぬ。アキハルの無知にも慣れた。今更怒りなどせぬ』

 俺は神山を指差し、

「獣人ってのはよ、ほら、あの神山の頭に猫の耳をつけたような奴のことじゃないのか?お前みたいに全身に毛がある感じじゃなくて」
「私も混ぜなさいよ……」

 神山がボソリとつぶやくが、ガンスルーする。

『それは人獣だ』
「……、どう違う?」

 虎子は呆れた顔を続ける。やはり俺は、なかなかギリギリの失礼を働いているらしい。

『あまり口にするものではないのだがな。人獣とは人の女に魔族や獣人族が種をつけて産まれるモノだ。そして人獣は生まれながらに人としての扱いを受けない。人族で言うところの奴隷よりもまだ悪い。アキハルが躊躇を見せずに殺そうとした兎のようなものだ。遥か昔は家畜として食料にする為に産ませていたと聞いた』
「……」

 絶句だ。ネット小説の知識とは大幅に違う。まさか異世界に来たら見たいものの一つがそんな扱いを受けているとは。つうか、異世界のDNAはどうなってんだ?

「な、なら……、獣人は?」
『獣人は獣人同士で契りを交わす。他種族が交じるものではない』
「交じったら?」
『交じりたいのか?』

 虎子は冷静な表情だ、細かくはわからないが、激昂してるってことはなさそうだ。

「で、でもよ。獣人って言うけど、俺から見たら人の度合いが無いように思えるんだが……」
 
 虎子はまたため息をつき、

『見せた方が早いか』

 虎子はスクッと四つ足で立ち上がると、背中を丸めてグルルルと唸り出した。体躯は縮みだし、代わりに腕と脚が徐々に伸び、手にしなやかな指が出来ていく。
 そして、二本の足でまっすぐと立ち上がった。

「…………」

 その姿は……、チーターだった。
 人間のように腕と脚が伸び、人間の女性の象徴のように、胸に大きな乳房が二つ膨らみ、手は人間の指と遜色ないほど細くなり、五本の指がある。
 だが、誰がどう見ても今の虎子を見て人間と言う奴はいないだろう。
 身長は180cm程度、顔はそのままチーターの顔で、全身は手のひら以外は余す所なく体毛に覆われている。爪は魔女のように尖った鋭い爪、脚は獣の時と同じ。そして尻からは長い尻尾が生えている。
 一言で言うと、ただ胸が膨らんだチーターが二足歩行になっただけだった。

「同じじゃねえか!!」

 これは仕方ない。これは誰でもツッコむと言うものだ。流石にこの変身で「おお!」とか「すげえ!」とかの感想は出てこない。
 虎子は俺のツッコミにムッとして、

『同じではない。力が違う』
「そっちの方が強い?」
『そうだ。だが魔力の消費が激しい。常にこの姿でいることは出来ない』
「なるほど……」

 ぶっちゃけた話、どっちでも良い。
 一瞬、虎子がめちゃくちゃ綺麗でナイスバディな人間の女になるのかと期待した自分がいた。これもネット小説ではよくあるパターンだ。
 だがコレは…………。
 口が裂けても虎子には言えないが、ただチーターが立ち上がっただけとほぼ変わりはない。人間みたいな手になったり、おっぱいの位置に膨らみが二つ出来たからと言って、コレに興奮出来るのは相当特殊な性癖の奴だけだろう。今の虎子とヤレるやつは、絶対獣状態の虎子ともヤレる。

 虎子は獣に戻った。身体が大きくなるのだからこっちのが強そうなもんだけど……。

『そう言うことだ。だから魔に属さない者に魔物だ魔族だと言うことは、人を食べる者だと言っているのと同じだ。アキハルは人喰いだと誰かに言われて気分が良いか?』

 なるほど、俺が従魔になれと言って虎子が怒ったのは、もちろん奴隷のようになれと言われて怒ったのもあるが、人食いと言われたのと同じだと言うことか。

「理解した。改めて謝る。すまなかった」
『受け取ろう。これであの時のあの話は完全に消え去った』

 この世界には俺の知らない常識が、まだまだたくさんありそうだ。設定が多すぎて頭がクラクラする。
 ふと神山を見ると、不貞腐れながらナイフで削ぎ落とした焼けた塊肉に、塩をふりかけながら、ワイルドに貪っていた。
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