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第1章 異世界に立つ
第六話
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「いらっしゃい」
「あのー、すいません。外の張り紙を見たんですが」
店内にいたオッさんに声を掛けた。するとオッサンは眉に皺を寄せる。
「おめえ、男じゃねえか」
「……男はダメなんですか?」
「家政婦は女の仕事だろう」
いやいや、今時何を言っているのか!男女雇用機会均等法を知らないのか!って異世界にそんなものはあるわけないか。まあ、あの文面なら家政婦ってことだもんな。
「それにおめえ、若くねえだろ」
「いやいや、まだ17ですよ」
「立派に成人してんじゃねえか。帰れ。あれは子供のための仕事だ」
「……」
なるほど、若い人とは本当のガキのことだと。17で成人してるってことは、ラノベの定番の15が成人ラインか?つうか、それならそうと書いとけよ!ほんっとにクラス転移モノはロクなもんじゃねえな!
俺はイラっとして店を出ようとすると、
「あら、あらあら、まあまあまあまあ……」
店の奥から女性の声がする。俺は自然と振り返ると、そこには耳の長い老婆がいた。ほっそりとした身体を隠すような、ゆったりとしたローブを身に纏い、俺の身長ほどもある杖をついて、椅子に座っている。耳の長さだけならエルフと思えるのだが、見た目は完全に老婆だ。エルフは見た目は老けないイメージだが。
「ガザルさん、この方は?」
「あぁ、こいつは歳を取りすぎだ。それに男だ。ダメだろう」
オッサンの物言いに俺はまたイラっとして、
「そんならそうと書いとけよ。後出し超うぜぇ」
「あん?ちっ、邪魔だ邪魔だ!早く帰れ!」
「うっせえな、言われなくても帰るよ!」
雇って貰えないなら、せめて情報を仕入れたかったが、イライラが勝ってしまった。俺も背を向けて店を出ようとすると、
「ガザルさん、勝手に決めないでもらえるかしら?」
オッサンが少々ビックリした顔をする。
「しかしメイリー婆さん、こいつは男だ。しかも成人している。何かあったら────」
「こんなお婆さんを若い男性が襲うのですか?あらあら、それではお化粧をし直さなくちゃ」
と、婆さんは両手を頬にあて、乙女の恥じらいのようなポーズをする。このオッサン……、俺を老婆専の強姦魔と見たと言うことかよ。
「い、いや、そうじゃなくてだな。金目の物を奪ったりとか────」
「そうじゃないのですか?あらあら、そうね、私はもうおばあちゃんだし、魅力なんてこれっぽっちもありませんよね……」
「っ!メイリー婆さん、いじめねえでくれ……」
「まあまあ、そんなつもりはありませんよ?」
婆さんはコロコロと笑う。俺にもわかった。この婆さん、オッサンで遊んでやがる。すると婆さんが俺をじっと見ていることに気づいた。
「坊や、働きたいのですね?」
「ああ、っ、いや、いえ、はい、お願いしたいです」
敬語に直そうとしたら、どもってしまった。
「あらあら、それは助かりました。私が人を探してたのですよ」
なるほど、オッサンが張り紙をしていたから、てっきりこのオッサンが雇い主かと思った。てことは、この婆さんが雇い主で、婆さんとオッサンは知り合いで、知り合いの店に張り紙をしてもらったと言うところか。
「……良いのですか?僕は男ですが?」
「もちろん良いですよ。夜は襲いますか?」
俺は両手を突き出し、
「そんなことはしません!」
「あらあら、それは残念ですね。ヴァルハラの土産になると思いましたのに」
婆さんはまたコロコロと笑う。……このババア、こう言う性格なのか。まあでも、何事にも異常に細かいババアとか、どんな時でもとりあえず怒鳴ってくる奴とかよりはマシだ。悪くないかもしれない。するとオッサンが、
「坊主、1日500ルクだぞ?それでも良いのか?」
「それってどのくらいの価値だ?」
オッサンには敬語をやめて聞くと、オッサンは眉を寄せて、
「ああん?そりゃどう言う意味だ?」
「……」
少し軽率だった。情報を得ようとして情報を与えてしまうことになる。俺が「やっぱ良い」と言おうとすると、オッサンの方から、
「金額に納得いかねえなら、家政婦など────」
「まあまあまあまあ!」
なんだろう。婆さんの目がキラキラしている。驚いているような、何か期待をしてるような目をしている。喜んでいるようにも見える。
「お給金は500ルクだけど、必要なものは何でも買ってあげるわ!何も心配しなくて良いのよ」
「……」
なんだろう。孫を得たつもりなのだろうか。いや、実の祖母より甘い気がする。
「メイリー婆さん、それはちょっと」
オッサンが婆さんを止めると、婆さんは少しキツい目つきでオッサンを見る。
「ガザルさん。いつも助けて貰って感謝しています。それに今回も雇用を手伝ってもらいました。本当にありがとうございます」
「婆さん……」
「ですが、これは私の家の問題です。これ以上の口出しはやめていただけますか?」
「婆さん……」
「……」
いや、こっちが引くわ。ここまでぐいぐい来られると、こっちが怖くなるわ!つうか、俺、食われるんじゃねえの?10000歩譲って性的な意味でならまだしも、物理的に食われるのだけは勘弁してほしい。
「あらあらあら、ほら見なさい、坊やが怯えてしまったわ。ガザルさんのせいですよ?」
「……すまねえ」
「で、坊や、お名前は?」
「……明春です、緑川 明春」
婆さんの眉がピクリと動いた。
「決まりですわね。ではアキハルさん、私の家に行きましょう」
「……」
冒険者ギルドより、当面の拠点と飯の確保、更に金と良いことづくめに思えて、声を掛けた。だが、婆さんのあまりの食いつきぶりに、なんの根拠もないが恐ろしく感じる。
俺が尻込みしているのを感じた婆さんは、更に追い込みをかけてくる。
「お家もないのよね?、お金はあるの?ご飯は大丈夫なのかしら?別に10年居ろとは言ってないわ。とりあえずこの世界に慣れるまで居たら良いんじゃないかしら、大丈夫、夜は大人しく寝かせてあげますよ?」
と、笑って言う。そこまで念を押されると、本当に狙われているような気がしてきた。だが俺は貞操の危機に囚われすぎて、不穏な一文を意識出来なかった。
「わかりました、お願いします」
婆さんは喜んで立ち上がり、
「あらまあ、ガザルさん、新しい布団を頂けるかしら?あとお化粧道具も必要ね、それとアキハルさんの生活道具もお願いしますね」
「……やらねえぞ、ババア……」
婆さんの喜びように、思わず口に出てしまった。しかし婆さんはニコニコとした顔でこちらを見て、
「あらあら、残念ですね。でもそのうち気が変わるかもしれませんわ。ほんっと、良いヴァルハラの土産が出来ました」
「やらねえって言ってんだろうが!!」
ババアはコロコロと笑っていた。
「あのー、すいません。外の張り紙を見たんですが」
店内にいたオッさんに声を掛けた。するとオッサンは眉に皺を寄せる。
「おめえ、男じゃねえか」
「……男はダメなんですか?」
「家政婦は女の仕事だろう」
いやいや、今時何を言っているのか!男女雇用機会均等法を知らないのか!って異世界にそんなものはあるわけないか。まあ、あの文面なら家政婦ってことだもんな。
「それにおめえ、若くねえだろ」
「いやいや、まだ17ですよ」
「立派に成人してんじゃねえか。帰れ。あれは子供のための仕事だ」
「……」
なるほど、若い人とは本当のガキのことだと。17で成人してるってことは、ラノベの定番の15が成人ラインか?つうか、それならそうと書いとけよ!ほんっとにクラス転移モノはロクなもんじゃねえな!
俺はイラっとして店を出ようとすると、
「あら、あらあら、まあまあまあまあ……」
店の奥から女性の声がする。俺は自然と振り返ると、そこには耳の長い老婆がいた。ほっそりとした身体を隠すような、ゆったりとしたローブを身に纏い、俺の身長ほどもある杖をついて、椅子に座っている。耳の長さだけならエルフと思えるのだが、見た目は完全に老婆だ。エルフは見た目は老けないイメージだが。
「ガザルさん、この方は?」
「あぁ、こいつは歳を取りすぎだ。それに男だ。ダメだろう」
オッサンの物言いに俺はまたイラっとして、
「そんならそうと書いとけよ。後出し超うぜぇ」
「あん?ちっ、邪魔だ邪魔だ!早く帰れ!」
「うっせえな、言われなくても帰るよ!」
雇って貰えないなら、せめて情報を仕入れたかったが、イライラが勝ってしまった。俺も背を向けて店を出ようとすると、
「ガザルさん、勝手に決めないでもらえるかしら?」
オッサンが少々ビックリした顔をする。
「しかしメイリー婆さん、こいつは男だ。しかも成人している。何かあったら────」
「こんなお婆さんを若い男性が襲うのですか?あらあら、それではお化粧をし直さなくちゃ」
と、婆さんは両手を頬にあて、乙女の恥じらいのようなポーズをする。このオッサン……、俺を老婆専の強姦魔と見たと言うことかよ。
「い、いや、そうじゃなくてだな。金目の物を奪ったりとか────」
「そうじゃないのですか?あらあら、そうね、私はもうおばあちゃんだし、魅力なんてこれっぽっちもありませんよね……」
「っ!メイリー婆さん、いじめねえでくれ……」
「まあまあ、そんなつもりはありませんよ?」
婆さんはコロコロと笑う。俺にもわかった。この婆さん、オッサンで遊んでやがる。すると婆さんが俺をじっと見ていることに気づいた。
「坊や、働きたいのですね?」
「ああ、っ、いや、いえ、はい、お願いしたいです」
敬語に直そうとしたら、どもってしまった。
「あらあら、それは助かりました。私が人を探してたのですよ」
なるほど、オッサンが張り紙をしていたから、てっきりこのオッサンが雇い主かと思った。てことは、この婆さんが雇い主で、婆さんとオッサンは知り合いで、知り合いの店に張り紙をしてもらったと言うところか。
「……良いのですか?僕は男ですが?」
「もちろん良いですよ。夜は襲いますか?」
俺は両手を突き出し、
「そんなことはしません!」
「あらあら、それは残念ですね。ヴァルハラの土産になると思いましたのに」
婆さんはまたコロコロと笑う。……このババア、こう言う性格なのか。まあでも、何事にも異常に細かいババアとか、どんな時でもとりあえず怒鳴ってくる奴とかよりはマシだ。悪くないかもしれない。するとオッサンが、
「坊主、1日500ルクだぞ?それでも良いのか?」
「それってどのくらいの価値だ?」
オッサンには敬語をやめて聞くと、オッサンは眉を寄せて、
「ああん?そりゃどう言う意味だ?」
「……」
少し軽率だった。情報を得ようとして情報を与えてしまうことになる。俺が「やっぱ良い」と言おうとすると、オッサンの方から、
「金額に納得いかねえなら、家政婦など────」
「まあまあまあまあ!」
なんだろう。婆さんの目がキラキラしている。驚いているような、何か期待をしてるような目をしている。喜んでいるようにも見える。
「お給金は500ルクだけど、必要なものは何でも買ってあげるわ!何も心配しなくて良いのよ」
「……」
なんだろう。孫を得たつもりなのだろうか。いや、実の祖母より甘い気がする。
「メイリー婆さん、それはちょっと」
オッサンが婆さんを止めると、婆さんは少しキツい目つきでオッサンを見る。
「ガザルさん。いつも助けて貰って感謝しています。それに今回も雇用を手伝ってもらいました。本当にありがとうございます」
「婆さん……」
「ですが、これは私の家の問題です。これ以上の口出しはやめていただけますか?」
「婆さん……」
「……」
いや、こっちが引くわ。ここまでぐいぐい来られると、こっちが怖くなるわ!つうか、俺、食われるんじゃねえの?10000歩譲って性的な意味でならまだしも、物理的に食われるのだけは勘弁してほしい。
「あらあらあら、ほら見なさい、坊やが怯えてしまったわ。ガザルさんのせいですよ?」
「……すまねえ」
「で、坊や、お名前は?」
「……明春です、緑川 明春」
婆さんの眉がピクリと動いた。
「決まりですわね。ではアキハルさん、私の家に行きましょう」
「……」
冒険者ギルドより、当面の拠点と飯の確保、更に金と良いことづくめに思えて、声を掛けた。だが、婆さんのあまりの食いつきぶりに、なんの根拠もないが恐ろしく感じる。
俺が尻込みしているのを感じた婆さんは、更に追い込みをかけてくる。
「お家もないのよね?、お金はあるの?ご飯は大丈夫なのかしら?別に10年居ろとは言ってないわ。とりあえずこの世界に慣れるまで居たら良いんじゃないかしら、大丈夫、夜は大人しく寝かせてあげますよ?」
と、笑って言う。そこまで念を押されると、本当に狙われているような気がしてきた。だが俺は貞操の危機に囚われすぎて、不穏な一文を意識出来なかった。
「わかりました、お願いします」
婆さんは喜んで立ち上がり、
「あらまあ、ガザルさん、新しい布団を頂けるかしら?あとお化粧道具も必要ね、それとアキハルさんの生活道具もお願いしますね」
「……やらねえぞ、ババア……」
婆さんの喜びように、思わず口に出てしまった。しかし婆さんはニコニコとした顔でこちらを見て、
「あらあら、残念ですね。でもそのうち気が変わるかもしれませんわ。ほんっと、良いヴァルハラの土産が出来ました」
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ババアはコロコロと笑っていた。
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