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最終章
魔導書 vs 魔導書
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ヨシトが龍神王と戦っている間、魔導書同士の戦いは、リモアが攻め込み、時の魔導書がそれを全て受け流すと言う、リモアにとって苦しい戦いとなっていた。
「血魔法、ブラッドアロー!」
「ファイアーアロー」
ザシュザシュザシュ!
リモアが生み出した真っ赤な矢は、時の魔導書が生み出したファイアーアローと相殺される。
リモアのベースはヴァンパイア、時の魔導書のベースは人族だ。それぞれグリモアの力は、扱うものがいなければ使うことが出来ない。
それぞれのベースにあった戦い方をするしかないのだ。
ならば圧倒的にリモアが有利のはずである。ヴァンパイアにはわかってるだけでも筋力に優れ、浮遊能力があり、血魔法という固有魔法も使える。
人族には種族特性はない。しかし人族には修練による成長があり、時の魔導書はかなり鍛錬されている部類の動きが出来るようだ。
もう一つ、リモアも徒手空拳は慣れていない。常に風神雷神があり、それを使って戦っていたのだ。
慣れない徒手空拳に四苦八苦しながらも、持ち前の能力の高さで補っていた。
「そろそろ魔力が尽きるのでは?」
「・・・」
リモアはそれに答えず、無言でラッシュを続けている。
時の魔導書は必要最低限の動きで、それをかわしていく。
どうやら、ヴァンパイアの燃費の悪さを逆手に取り、優勢を作ろうとしているようだ。
こうなると、リモアの体格の不利が出る。
リモアは元々幼女の容姿だが、それでも風神雷神があったので、腕の短さや身長の低さの不利点をカバー出来ていた。だが、それがなくば蹴りを入れるのも全身を使わなければならない、もちろん無駄な動きも多くなる。
リモアはかなりイライラしていた。
そう、ヨシトのことを気にすることが出来ないくらいに・・・。
「いい加減にっ!」
「するのはあなたです」
「ギャン!」
リモアは右フックを時の魔導書にスエーバックで避けられ、左を入れる間につま先を顎にもらうことになった。
リモアは短く悲鳴をあげ、後ろに吹き飛ばされる。
時の魔導書は、メイド服のスカートをひらりとひるがえし、両手を腰に当て仁王立ちをする。
「何故あなたは裏切るのです?彼が素晴らしい思想をお持ちとか、母様の後継者たる人物というなら、わからないでもありません。ですが、彼は人族のことしか考えていません。いや、自分のことしか考えてません!ラステルよりももっと酷い!何故彼を選ぶのですか!」
時の魔導書がリモアに向かって怒鳴りつける。
リモアはゆっくりと立ち上がる。口の中が切れ、つーっと口元から血が流れだす。
そしてリモアは、時の魔導書を睨みつける。
「・・・母様は後悔していたっ。・・・母様のしたことは、確かに平等に見える。でも・・・、母様のしたことは自己満足だったっ。・・・人や生き物の個を見ない、種族単位でしか見ていなかった」
「当たり前です。それが調停者、それが世界を統べるものです」
リモアはよろよろと時の魔導書に向かって足を進める。
「でも・・・、生き物には全て個がある。人族にも、亜人にも、リモアにも、・・・あなたにも」
「・・・」
「それを見ないで・・・世界しか見ない。それは独りよがりなこと・・・。調整された人はどうなるの?大事な人を奪われた人は、そのあとの生はどうなるの?」
リモアはよろよろと歩く。
「全を見るのもいい、でも全は個から出来ている。それを忘れちゃダメ。・・・マスターはそれを大事にしてる。・・・・・・調停者なんていらないの、その時代のことは、その時代の人がなんとかする」
時の魔導書はよろよろと近づいてくるリモアを、見つめたまま突っ立っている。
「それで世界のバランスが崩れたらどうします?ある種が淘汰され、ある種ばかり虐げられるような世界になったらどうするのです」
リモアは足を止めてうつむく。
「わからない・・・、でも、それを考えるのもその時代に生きる人がする事っ。それでいいの、それには色んな人の想いが宿る。でも母様のしたことはただの1人のわがまま、それを力で押し通しただけっ。それだけは、それだけはやっちゃいけないこと!それをしようとする龍神王様は、許すわけにはいかないの!」
「・・・何が言いたいのかわかりません。一体どうしたいのですか?」
リモアは両手をギュッと握りしめた。
「何百年考えたって、答えなんて出ないよっ!答えはいくつだってあるっ!でもっ、母様や龍神王様のように、力でねじ伏せるようなことは絶対ダメっ!」
時の魔導書は大きなため息をつく。
「今までの歴史をご覧なさい、人間はそんなに分かり合える種族ではありません。その時代の人間に任せていたら取り返しのつかないことになります。個を見ずに全として世界を調整するものが居なければ、滅びが早まるだけです。何故それがわからないのですか?」
「そんなこと言っても、龍は滅びを選んだっ!そうしようとしてるのは龍神王よっ!」
「・・・これは再生のためのリセットです。より良い世界を作るため、行き詰まってしまったものをリセットするしかないのです」
リモアは、体内の魔力を振り絞る。
「嘘っ!、それこそ自分たちがどうしていいかわからなくなっただけじゃんっ!リモアは許さない・・・今の時代を生きる者として、最後まで抗うっ!」
時の魔導書はニヤリと笑う。
「かりそめの肉体に何を言ってるのです。私たちは魔導書、生命ではないのです。・・・それにあなたのかりそめの肉体も、終わりが近づいてますよ」
リモアは自分の体を見た。
足のつま先がまるでホログラムのように透けて見え出している。それはゆっくりとつま先から足首へと上がってきている。
「それに、あなたのマスターとやらも、終わりのようですよ」
リモアはぞくりと背中に悪寒が走った。
ぐるんと後方のヨシトを見返ると、左腕を黒こげにしたヨシトが、龍神王の構えた火球を目の前にし、風前の灯と化している。
そして火球は龍神王の掌から飛び出した。
「くそっ!くそっ!動け、動けええ!」
リモアは最後の力を振り絞るように、ヨシトに向かい弾丸のように飛んでいく。
「マスター!LINKシステムをっ!」
俺はリモアの声のする方向を見る前に、リモアの声のとおりにする。
「LINKシステム、起動!」
それと同時にリモアは俺に飛びつき、首から血を吸っていた。
リモアが俺を動かし、亜空間倉庫で俺たちを覆う。同時に火球が着弾し、俺たちは火に包まれた。
「っ!・・・助かった、リモア、サンキューな。・・・・・・リモア?」
正面から俺に抱きつき、クビにしがみついているリモアの体から力が抜けていき、ズルっと落ちそうになる。
俺はとっさにリモアをお姫様抱っこで抱きとめた。
「おい、リモア!・・・なんだこりゃ・・・」
なんとリモアの体は、全身がうっすらと透けて見える。まるで消えかけている幽霊のようだ。
「リモア!」
「マ、スター・・・・・・」
震える両手を自身の胸に当てるリモア、するとリモアの胸の上に、銀色の30cmくらいの本が現れた。
「マスター・・・、リモ、ア、時間が、来ちゃっ、た・・・」
「な、何言ってる!時間?!おい、しっかりしろ!」
なんだかはわからない、だが、直感でヤバいことになってると言うことだけはわかる。
リモアは銀色の本に両手を添える。
「これ、が、次元の、魔導書・・・、これが、リ、モアの本体・・・、これをリモアだと、思っ、て、使って・・・」
「待てよ・・・、うそだろ・・・・・・、いやだ、ダメだ!」
龍神王にやられそうになった瞬間、リモアが飛んできて俺を助けてくれて、いきなりリモアの体が透けて見えてる。いやな未来のヴィジョンしか浮かばない。
リモアは悲しそうに、にっこりと微笑みながら、頬に涙が伝う。
「リモア、、、アリサちゃ、ん、が、うら、やまし、かった、、、リモアもお兄ちゃん、と、、よ、びた、かった・・・」
「なんとでも呼べよ!、おい、うそだろっ!!ドッキリだよな!?」
リモアは涙を流したまま嬉しそうに破顔し、
「お兄ちゃん、って、呼んでいい?」
「・・・ああ!」
「お兄、ちゃん、、ふふ、、、」
「わかった!俺はこれからもずっとリモアのお兄ちゃんだから!ずっと!ずっと!!ヴァンパイアのお前が俺より先に死んでどうする!!俺を置いてくな!」
「ありが、とう、お兄ちゃん、、、リモア、お、兄ちゃん、に、出会えて、幸せ、だ、った・・・」
「俺もだ!俺もだリモア!!だから────」
すると俺の腕の中で横たわるリモアは、消えかけの両手で俺の頬を掴む。
「リモア、は、ずっとお兄ちゃんと、一緒・・・、リモアの、全てを、お兄ちゃん、と、と、も、に」
リモアは俺の顔を引き寄せ、俺とキスをする。
すると、俺の中に何かが流れ込んでくる感覚がある。
一瞬その感覚に、意識が捕らわれていると、ヴァンパイアの幼女、リモアは俺の膝から消え、銀色の本だけが残っていた。
「・・・リモア?・・・は?、リモア?!、・・・・・・おお、おおおお・・・」
俺は自然と震えが止まらなくなる。
ゴトリ
床に落ちた銀色の本を、急いで拾い胸に抱きしめる。壊れるほど抱きしめる。
「おおお、、リモア、、うううぅぅぅ・・・」
銀色の本に水滴がポタポタと落ちる。
「リモア・・・リモアぁぁぁ・・・・・・」
体内に力がうずまく。
それは今まで感じたことないほどだ。
「・・・リモアアアアアアアアアア!!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
火球の業火が収まると、黒い楕円の球体が残っていた。
「ふむ、次元の魔導書め、余計なことをしおって・・・。ん?なんじゃ?」
すると黒い楕円の球体が、まるで中から何かが生まれるかのように、ピキピキとヒビが入っていく。そしてそこからまばゆいほどの光が漏れだしてくる。
ドゴーーーーーーーン!!!
球体が割れたかと思った瞬間、この空間を真っ白に染め上げるほどの、極太の光の柱が立ち上った。
それは天井がわからないこの円柱の空間の天井にまで突き刺さるほど、天に光線粒子砲を発射するかのごとくの勢いだった。
光が収まるとそこには、銀色の本を左手に持ち、光のオーラを纏っている男が立っていた。
龍神王は目を見開いて、驚愕する。
一瞬で龍神王の背中に大量の冷や汗が湧き出る。
この世に生を受けて数千年、一度も感じたことがない感情だ。
それは・・・《恐怖》だった。
「な、なんじゃ、その力は・・・・・・この世の生物に許された力ではないぞ!!!!」
「お前がリモアを殺したのか?」
その男、ヨシトは涙を流しているのに、感情が消え失せたような表情で、龍神王の全身が凍るような声を出す。
「っ!ワ、ワシは何もしとらん!」
龍神王は意識せずに言い訳じみたことを口走る。それはヨシトの溢れる力に、ヒシヒシと自身の死を感じるからだ。
絶対、絶望的な差。生物としての本能で、龍神王の頭の中には激しく警鐘がなっていた。
ヨシトはチラリと時の魔導書を見た。
「ならお前しかいないな」
「わた────」
ゴトリ
時の魔導書の首は、一言の言葉も許されなかった。
何かを言い切る前に発言する器官は床に落ちていた。
そしてそれは龍神王にも何をしたのかわからなかった。
時の魔導書の死体は、煙のように消え失せ、地面に銀色の本が残った。
「な、何をした・・・・・・一体何をした!!!」
龍神王は戦慄の表情を浮かべる。
ヨシトは首をゆっくり動かし、虚ろな、空っぽの瞳で龍神王を見つめる。
「・・・何故リモアを殺した?」
ヨシトは感情が消え失せた人形のようだ。
「・・・ま、まて!次元の魔導書は寿命だったのじゃ!ころしたのではない!」
龍神王は唾を飲み込み、滝のように汗を流す。
「お前が寿命を設定したんだろ?ならお前が殺したのか」
「まてと言うに!そんなに長く設定できんのじゃ!」
「・・・もういい、リモアは帰ってこねえ」
龍神王は慌ててヨシトに提案する。
だがその言葉は完全に逆効果だった。
「わかった!ワシがもう一度肉体を授けよう!記憶はないが、また同じ姿にしてやろう!」
「・・・それはもうリモアじゃねえ。リモアを侮辱するな」
「っ!・・・・・・」
龍神王はヨシトの目を見ると、まるで虚空を見つめているような気分になった。
龍神王は思わず数歩あとずさる。
するとヨシトはいきなり、
「あは、あははははははははは!!」
二人きりの空間に、ヨシトの大笑いがこだまする。
「なんだ、お前もただのトカゲだな。死ぬのが怖いのかよ!あはははははは」
「・・・・・・」
『あり得ない』
その言葉だけが、龍神王の脳内に渦巻く。
わからない、何がなんだかわからない。だが、逃げることも不可能なほどの威圧感に、龍神王の正常な判断力は根こそぎ刈り取られていた。
するとヨシトの高笑いはピタリと止まり、
「終わりだ。このクソッタレの世界を終わらせてやるよ。お前と一緒にな。・・・それが望みなんだろ?叶えてやるよ」
「血魔法、ブラッドアロー!」
「ファイアーアロー」
ザシュザシュザシュ!
リモアが生み出した真っ赤な矢は、時の魔導書が生み出したファイアーアローと相殺される。
リモアのベースはヴァンパイア、時の魔導書のベースは人族だ。それぞれグリモアの力は、扱うものがいなければ使うことが出来ない。
それぞれのベースにあった戦い方をするしかないのだ。
ならば圧倒的にリモアが有利のはずである。ヴァンパイアにはわかってるだけでも筋力に優れ、浮遊能力があり、血魔法という固有魔法も使える。
人族には種族特性はない。しかし人族には修練による成長があり、時の魔導書はかなり鍛錬されている部類の動きが出来るようだ。
もう一つ、リモアも徒手空拳は慣れていない。常に風神雷神があり、それを使って戦っていたのだ。
慣れない徒手空拳に四苦八苦しながらも、持ち前の能力の高さで補っていた。
「そろそろ魔力が尽きるのでは?」
「・・・」
リモアはそれに答えず、無言でラッシュを続けている。
時の魔導書は必要最低限の動きで、それをかわしていく。
どうやら、ヴァンパイアの燃費の悪さを逆手に取り、優勢を作ろうとしているようだ。
こうなると、リモアの体格の不利が出る。
リモアは元々幼女の容姿だが、それでも風神雷神があったので、腕の短さや身長の低さの不利点をカバー出来ていた。だが、それがなくば蹴りを入れるのも全身を使わなければならない、もちろん無駄な動きも多くなる。
リモアはかなりイライラしていた。
そう、ヨシトのことを気にすることが出来ないくらいに・・・。
「いい加減にっ!」
「するのはあなたです」
「ギャン!」
リモアは右フックを時の魔導書にスエーバックで避けられ、左を入れる間につま先を顎にもらうことになった。
リモアは短く悲鳴をあげ、後ろに吹き飛ばされる。
時の魔導書は、メイド服のスカートをひらりとひるがえし、両手を腰に当て仁王立ちをする。
「何故あなたは裏切るのです?彼が素晴らしい思想をお持ちとか、母様の後継者たる人物というなら、わからないでもありません。ですが、彼は人族のことしか考えていません。いや、自分のことしか考えてません!ラステルよりももっと酷い!何故彼を選ぶのですか!」
時の魔導書がリモアに向かって怒鳴りつける。
リモアはゆっくりと立ち上がる。口の中が切れ、つーっと口元から血が流れだす。
そしてリモアは、時の魔導書を睨みつける。
「・・・母様は後悔していたっ。・・・母様のしたことは、確かに平等に見える。でも・・・、母様のしたことは自己満足だったっ。・・・人や生き物の個を見ない、種族単位でしか見ていなかった」
「当たり前です。それが調停者、それが世界を統べるものです」
リモアはよろよろと時の魔導書に向かって足を進める。
「でも・・・、生き物には全て個がある。人族にも、亜人にも、リモアにも、・・・あなたにも」
「・・・」
「それを見ないで・・・世界しか見ない。それは独りよがりなこと・・・。調整された人はどうなるの?大事な人を奪われた人は、そのあとの生はどうなるの?」
リモアはよろよろと歩く。
「全を見るのもいい、でも全は個から出来ている。それを忘れちゃダメ。・・・マスターはそれを大事にしてる。・・・・・・調停者なんていらないの、その時代のことは、その時代の人がなんとかする」
時の魔導書はよろよろと近づいてくるリモアを、見つめたまま突っ立っている。
「それで世界のバランスが崩れたらどうします?ある種が淘汰され、ある種ばかり虐げられるような世界になったらどうするのです」
リモアは足を止めてうつむく。
「わからない・・・、でも、それを考えるのもその時代に生きる人がする事っ。それでいいの、それには色んな人の想いが宿る。でも母様のしたことはただの1人のわがまま、それを力で押し通しただけっ。それだけは、それだけはやっちゃいけないこと!それをしようとする龍神王様は、許すわけにはいかないの!」
「・・・何が言いたいのかわかりません。一体どうしたいのですか?」
リモアは両手をギュッと握りしめた。
「何百年考えたって、答えなんて出ないよっ!答えはいくつだってあるっ!でもっ、母様や龍神王様のように、力でねじ伏せるようなことは絶対ダメっ!」
時の魔導書は大きなため息をつく。
「今までの歴史をご覧なさい、人間はそんなに分かり合える種族ではありません。その時代の人間に任せていたら取り返しのつかないことになります。個を見ずに全として世界を調整するものが居なければ、滅びが早まるだけです。何故それがわからないのですか?」
「そんなこと言っても、龍は滅びを選んだっ!そうしようとしてるのは龍神王よっ!」
「・・・これは再生のためのリセットです。より良い世界を作るため、行き詰まってしまったものをリセットするしかないのです」
リモアは、体内の魔力を振り絞る。
「嘘っ!、それこそ自分たちがどうしていいかわからなくなっただけじゃんっ!リモアは許さない・・・今の時代を生きる者として、最後まで抗うっ!」
時の魔導書はニヤリと笑う。
「かりそめの肉体に何を言ってるのです。私たちは魔導書、生命ではないのです。・・・それにあなたのかりそめの肉体も、終わりが近づいてますよ」
リモアは自分の体を見た。
足のつま先がまるでホログラムのように透けて見え出している。それはゆっくりとつま先から足首へと上がってきている。
「それに、あなたのマスターとやらも、終わりのようですよ」
リモアはぞくりと背中に悪寒が走った。
ぐるんと後方のヨシトを見返ると、左腕を黒こげにしたヨシトが、龍神王の構えた火球を目の前にし、風前の灯と化している。
そして火球は龍神王の掌から飛び出した。
「くそっ!くそっ!動け、動けええ!」
リモアは最後の力を振り絞るように、ヨシトに向かい弾丸のように飛んでいく。
「マスター!LINKシステムをっ!」
俺はリモアの声のする方向を見る前に、リモアの声のとおりにする。
「LINKシステム、起動!」
それと同時にリモアは俺に飛びつき、首から血を吸っていた。
リモアが俺を動かし、亜空間倉庫で俺たちを覆う。同時に火球が着弾し、俺たちは火に包まれた。
「っ!・・・助かった、リモア、サンキューな。・・・・・・リモア?」
正面から俺に抱きつき、クビにしがみついているリモアの体から力が抜けていき、ズルっと落ちそうになる。
俺はとっさにリモアをお姫様抱っこで抱きとめた。
「おい、リモア!・・・なんだこりゃ・・・」
なんとリモアの体は、全身がうっすらと透けて見える。まるで消えかけている幽霊のようだ。
「リモア!」
「マ、スター・・・・・・」
震える両手を自身の胸に当てるリモア、するとリモアの胸の上に、銀色の30cmくらいの本が現れた。
「マスター・・・、リモ、ア、時間が、来ちゃっ、た・・・」
「な、何言ってる!時間?!おい、しっかりしろ!」
なんだかはわからない、だが、直感でヤバいことになってると言うことだけはわかる。
リモアは銀色の本に両手を添える。
「これ、が、次元の、魔導書・・・、これが、リ、モアの本体・・・、これをリモアだと、思っ、て、使って・・・」
「待てよ・・・、うそだろ・・・・・・、いやだ、ダメだ!」
龍神王にやられそうになった瞬間、リモアが飛んできて俺を助けてくれて、いきなりリモアの体が透けて見えてる。いやな未来のヴィジョンしか浮かばない。
リモアは悲しそうに、にっこりと微笑みながら、頬に涙が伝う。
「リモア、、、アリサちゃ、ん、が、うら、やまし、かった、、、リモアもお兄ちゃん、と、、よ、びた、かった・・・」
「なんとでも呼べよ!、おい、うそだろっ!!ドッキリだよな!?」
リモアは涙を流したまま嬉しそうに破顔し、
「お兄ちゃん、って、呼んでいい?」
「・・・ああ!」
「お兄、ちゃん、、ふふ、、、」
「わかった!俺はこれからもずっとリモアのお兄ちゃんだから!ずっと!ずっと!!ヴァンパイアのお前が俺より先に死んでどうする!!俺を置いてくな!」
「ありが、とう、お兄ちゃん、、、リモア、お、兄ちゃん、に、出会えて、幸せ、だ、った・・・」
「俺もだ!俺もだリモア!!だから────」
すると俺の腕の中で横たわるリモアは、消えかけの両手で俺の頬を掴む。
「リモア、は、ずっとお兄ちゃんと、一緒・・・、リモアの、全てを、お兄ちゃん、と、と、も、に」
リモアは俺の顔を引き寄せ、俺とキスをする。
すると、俺の中に何かが流れ込んでくる感覚がある。
一瞬その感覚に、意識が捕らわれていると、ヴァンパイアの幼女、リモアは俺の膝から消え、銀色の本だけが残っていた。
「・・・リモア?・・・は?、リモア?!、・・・・・・おお、おおおお・・・」
俺は自然と震えが止まらなくなる。
ゴトリ
床に落ちた銀色の本を、急いで拾い胸に抱きしめる。壊れるほど抱きしめる。
「おおお、、リモア、、うううぅぅぅ・・・」
銀色の本に水滴がポタポタと落ちる。
「リモア・・・リモアぁぁぁ・・・・・・」
体内に力がうずまく。
それは今まで感じたことないほどだ。
「・・・リモアアアアアアアアアア!!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
火球の業火が収まると、黒い楕円の球体が残っていた。
「ふむ、次元の魔導書め、余計なことをしおって・・・。ん?なんじゃ?」
すると黒い楕円の球体が、まるで中から何かが生まれるかのように、ピキピキとヒビが入っていく。そしてそこからまばゆいほどの光が漏れだしてくる。
ドゴーーーーーーーン!!!
球体が割れたかと思った瞬間、この空間を真っ白に染め上げるほどの、極太の光の柱が立ち上った。
それは天井がわからないこの円柱の空間の天井にまで突き刺さるほど、天に光線粒子砲を発射するかのごとくの勢いだった。
光が収まるとそこには、銀色の本を左手に持ち、光のオーラを纏っている男が立っていた。
龍神王は目を見開いて、驚愕する。
一瞬で龍神王の背中に大量の冷や汗が湧き出る。
この世に生を受けて数千年、一度も感じたことがない感情だ。
それは・・・《恐怖》だった。
「な、なんじゃ、その力は・・・・・・この世の生物に許された力ではないぞ!!!!」
「お前がリモアを殺したのか?」
その男、ヨシトは涙を流しているのに、感情が消え失せたような表情で、龍神王の全身が凍るような声を出す。
「っ!ワ、ワシは何もしとらん!」
龍神王は意識せずに言い訳じみたことを口走る。それはヨシトの溢れる力に、ヒシヒシと自身の死を感じるからだ。
絶対、絶望的な差。生物としての本能で、龍神王の頭の中には激しく警鐘がなっていた。
ヨシトはチラリと時の魔導書を見た。
「ならお前しかいないな」
「わた────」
ゴトリ
時の魔導書の首は、一言の言葉も許されなかった。
何かを言い切る前に発言する器官は床に落ちていた。
そしてそれは龍神王にも何をしたのかわからなかった。
時の魔導書の死体は、煙のように消え失せ、地面に銀色の本が残った。
「な、何をした・・・・・・一体何をした!!!」
龍神王は戦慄の表情を浮かべる。
ヨシトは首をゆっくり動かし、虚ろな、空っぽの瞳で龍神王を見つめる。
「・・・何故リモアを殺した?」
ヨシトは感情が消え失せた人形のようだ。
「・・・ま、まて!次元の魔導書は寿命だったのじゃ!ころしたのではない!」
龍神王は唾を飲み込み、滝のように汗を流す。
「お前が寿命を設定したんだろ?ならお前が殺したのか」
「まてと言うに!そんなに長く設定できんのじゃ!」
「・・・もういい、リモアは帰ってこねえ」
龍神王は慌ててヨシトに提案する。
だがその言葉は完全に逆効果だった。
「わかった!ワシがもう一度肉体を授けよう!記憶はないが、また同じ姿にしてやろう!」
「・・・それはもうリモアじゃねえ。リモアを侮辱するな」
「っ!・・・・・・」
龍神王はヨシトの目を見ると、まるで虚空を見つめているような気分になった。
龍神王は思わず数歩あとずさる。
するとヨシトはいきなり、
「あは、あははははははははは!!」
二人きりの空間に、ヨシトの大笑いがこだまする。
「なんだ、お前もただのトカゲだな。死ぬのが怖いのかよ!あはははははは」
「・・・・・・」
『あり得ない』
その言葉だけが、龍神王の脳内に渦巻く。
わからない、何がなんだかわからない。だが、逃げることも不可能なほどの威圧感に、龍神王の正常な判断力は根こそぎ刈り取られていた。
するとヨシトの高笑いはピタリと止まり、
「終わりだ。このクソッタレの世界を終わらせてやるよ。お前と一緒にな。・・・それが望みなんだろ?叶えてやるよ」
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