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第六章

・・・

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次はバセアーだ。
一応フェイダーの世界樹のふもと、聖龍教の本山に声だけかけに行ったが、千年エルフで完全鑑定の上位互換、ユニークスキルの『真実の目』を持っているガラテアは、俺とヴィーヴルの戦いを見ていたようだ。
話も聞いていたので、大体わかってるそう。でも俺が龍を殺した姿だけを見ていたエルフたちは、崇拝する龍を殺して納得がいかないと言うやつと、俺たちが竜殺しと呼ばれていても本当に龍を殺せるとわかって畏れすり寄ってくるやつと様々な対応だった。

そして、急ぎ俺たちはバセアーに飛ぶ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



バセアーにテレポートすると、ジャンボジェットを超えるドラゴンと、万を超える獣人たちの戦いは始まっていた。

「ブレスが来るぞ!散開しろ!」
「防御結界展開!」
「壁だ!」
「間に合わない!」

「LINKシステム起動」

ドラゴンが大きな口から、特大の炎のブレスを放つ。

ゴオオオオオオオオオオオ!

俺を操るリモアが、巨大な亜空間倉庫を展開し、ブレスから獣人を守った。

「なんだあれは・・・」
「・・・国王、あいつはまさか」
「ん?おお!あやつか!!約束を守りに来たか!」

俺はドラゴンの顔の前に浮遊する。
ドラゴンは俺を補足すると、下品に笑い出した。

『ゲヒャヒャヒャヒャ、裏切り者とその一味だな。遅かったな』
「そうでもねえよ。これ以上はやらせない」
『はあ?!バカか!いきがるんじゃねえ!俺の名はウロボロス。ドワーフの国を滅ぼした龍だ!』
「・・・は?」

ウロボロスはまた下品に笑う。

『ゲヒャヒャヒャヒャ!だから遅かったって言ってんだよ!とっくにドワーフの国は滅ぼして、俺様が獣人も相手にしてやろうって寸法だ!そのうちまだドラゴンは来るぞ!てめえらは終わりだ!』

俺は怒りで手が震える。

「嘘をつくな」
『ゲヒャヒャヒャヒャ、嘘を言う理由がねえ!確かめたきゃ確かめな!』

俺の脳裏に走馬灯のように蘇る。
何日も通い、徐々に信用してもらえたこと。
りんごをくれたドワーフのおばちゃん。
宴会の一夜。
鍛治師たちの気さくな笑顔。
ザルバの弟弟子の国王。
気を許しさえしたら、みんないい奴だった。

「・・・・・・もういい、死ね」
『はあ?!死ぬ────』

俺が右手をウロボロスに向けると、直径100mはあるんじゃないかと思われる亜空間倉庫が、ウロボロスを縦に左右に割るように発生した。
ウロボロスは、開きになって一瞬で絶命した。
俺はウロボロスの足元に転がっている黒い玉の首飾りを回収してから、すぐさまカラディンにテレポートする。


「な、なんだったんだ・・・?」
「あそこまでとは・・・」

残された獣人たちがポカーンとするなか、王は納得がいく。

「なるほど、あやつが手合わせに出なかったのは強すぎるからか・・・・・・参った、差がありすぎてムカつきもせん」
「国王よ、あいつの言葉を聞いたのは英断でしたな」
「そのようだな」

獣人たちは、残されたドラゴンの肉で宴を開いたそうだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



俺はカラディンについた。
城と城下町があった場所は、瓦礫の山だった。
カラディンは、山の中を掘り進めて、巨大な空間を作り、その中に城を建てるようなものすごい技術を持っていた。
それが、街の上の山ごと吹き飛んでいる。

俺は城下町があった場所を歩く。

「マスター・・・」
「・・・」

見覚えのある場所を探すように、瓦礫のの中を歩く。

「いや、待て。不自然だ」
「うんっ!マスター、死体が少なすぎるよっ!」
「おおおーい!誰か居ないか!」

数分叫び続けると、何処からかガタガタと音がして、地面に穴が空いた。いや、地下への入り口か?

「っ!」
「おめさ、なしてこげなとこに?。ドラゴンはどうしたべさ」
「ドラゴンは俺が殺した?」
「んあ?!そげなバカな!・・・ほんとけ?」

ドワーフは地上に這い上がり、辺りを見渡す。

「おおお!よしゃ、皆の衆を呼んでくるだ!」
「待て!」

俺はドワーフを呼び止める。

「・・・生きてるのか?」

ドワーフは顔をしかめたが、胸をドンと叩いた。

「あたりめえだがや!ドワーフを舐めるでねえ!」
「ど、どのくらい」
「ほとんどが間に合っただよ!みんな地下都市に居るだ!おめさんもとりあえずこい!」

俺は一気に安堵した。
地下都市に行ってみたいが、今は時間がない。ケイノスもフリーポートも気になるからだ。

俺に背中を向けて地下へ降りだすドワーフを見つつ、俺はケイノスにテレポートした。

「ん?どしだだや、おめさん。・・・・・・ありゃ?何処さ行った?」

ドワーフは呆然と立ち尽くした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そのあとお兄ちゃんがケイノスに来てってことね」
「そうだ。ちょっとケイノスでやる事が多くて、この時間になっちまった。悪かったな、モーラ、メイ。それにシスティーナ」

俺が謝ると、モーラは照れ臭そうに手を振り、

「あたしらは大丈夫だよ。敵も弱かったし、ドラゴンとも戦ってないしね」
「お気遣いありがとうございます、ヨシト様」
「ヨシト様、私にまで心を砕いていただかなくても大丈夫です」

メイとシスティーナがそう言うと、モーラから質問を受ける。

「そういえばヨシト、ソフィアはどうしたんだい?」

そう、一応フリーポートに葉っぱも連れてきたのだが、葉っぱは迷宮都市に帰りたいと言い出した。
なんでも、俺の鎧がもう少しで出来そうだと言う。一刻も早く完成させたいらしい。
それをモーラに説明してやると、

「・・・ソフィアも本当に変わったね。安心出来るよ。メイ子が奴隷にするって言った時は、どうなるかと思ったけどね」
「ホントよ。まさかそうくるとは思わなかったわ」
「でも正解だったわね。毎日楽しそうじゃない」

(やっちまったんだよな・・・・・・。あの葉っぱと・・・。覚えてないのが救いなのか残念なのか・・・)

「あっ、アリサ。お前、王の頭をひっぱたくのはやり過ぎだぞ」
「っ!、誰から聞いたのよ!」
「ハルートだ」

アリサは下唇を噛み締め、射殺すように壁を睨んだ。

「あのデブ・・・、余計なことを・・・」
「とにかく気をつけろ」

だが、アリサは俺に胸を張り、

「あいつらはアレでいいのよ。喜んでるみたいだし」
「最悪、誰もみてないとこでやれ。流石に家臣の前でやるのはどうかと思うぞ」
「もう、むしろあいつらが家臣みたい────、そうだ!」

アリサはポンと手を叩いた。

「もうさ、システィーを貰って王様になっちゃいなよ、お兄ちゃん!」
「バカか」

だが、システィーナが目を見開いた。

「そうです!それが良いと思います!」
「いやいやいやいや、意味がわからない。それじゃ奴らの思惑通りじゃねーか」

メイも俺をたしなめる。

「違いますよ、ヨシト様。彼らの思惑はヨシト様と血縁になり、ヨシト様を良いように使うことです。ですがアリサの話はヨシト様が使う側です。それならば私も賛成します」
「なれるわけねーだろ!後継者だっているんだぞ!。犬猫を貰うのとは違うんだよ」
「ヨシト様、案外簡単かも知れませんよ?」

システィーナがダメ押しをしてこようとするので、俺は無理やり話を切った。

「待った!待て!この話は終わりだ。向こうから言ってくるならいざ知らず、こっちから考えるのは王家簒奪だ。この話は二度とするな」
「ですが、」
「ですがもカスガもねえ!終わり!これは命令だ!」

俺はみんなで集まっていた部屋から出て、それぞれに割り当てられた宿の部屋に入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



今日は流石に疲れてるのか、俺の部屋には誰も来なかった。
いや、もしかしたら四姫会議でもしてるのかも知れん。

(また、俺の悪口か・・・。地下室でまだ懲りないのか)

今日はリモアさえこない。
どうなってやがる。
こう言う時は、黒幕はアリサだ。
俺はアリサに割り当てられた部屋に向かった。

アリサの部屋の前につくと、ノックをせずにドアに耳を当てる。
「・・・」

話し声どころか全く何も音がしない。俺の気配に気づいたか?

(くそっ、これだからチート連中は・・・)

仕方なく、そーっとアリサの部屋のドアを開けた。

真っ暗だ。ランタンさえ付いてない。

「あれ、いない────、おわっ!」

居た。アリサだ。
アリサは真っ暗の部屋の中のベッドの上に、体育座りで座って、じっとこっちを見ている。
真っ暗な中に、アリサの目だけが廊下の明かりに反射して浮かび上がっている。

「お兄ちゃん、眠れないの」
「おどかすなよ、びっくりするだろ」
「みんな手をあげてるの。必死に手を伸ばして崖に捕まるの」
「・・・アリサ?」

アリサはピクリとも動かない。アリサの口元も体育座りの膝で隠れていて見えない。

「地割れに飲まれないように、必死に崖に捕まってるの。・・・どうせすぐ閉じてみんな死んじゃうのに・・・」
「アリサ・・・」
「流星雨の隕石を受け止めようと手を伸ばすの。みんな空に向かって手をあげるのよ。バカみたい、止められるわけないじゃない、せめて走ればいいのに。なんで逃げないのかしら」
「・・・・・・」
「知ってるお兄ちゃん?、炎に生きたまま焼かれる時、みんな手を伸ばすのよ?まるで助けを求めるように。何かにすがるように。なんでかしらね?」

アリサの頬に涙がつーっと伝う。

「みんなの手がね、私を捕まえようと掴みにくるの。『なんでお前だけ生きてるんだ』『お前もこっちに────』」
「アリサ!」

俺は走ってアリサのベッドにあがり、アリサを思いっきり抱きしめた。

「・・・お兄ちゃん、私、六万人の代わりに生きる価値があるのかな?私がいなくなれば、もっとたくさんの命が生き────」

俺はアリサの顎をあげ、涙でボロボロのアリサの顔を掴み、強く、それでいて優しく唇を塞ぐ。



数分か、数十分かと思える時が経つ。
俺は唇を離し、アリサの目をずっと見つめる。

「俺は何も言わない。人を殺したことに慰めの言葉は無駄だからだ。だけど、これの乗り越え方は知ってる」
「・・・・・・私も知ってるわ」

アリサと俺は見つめ合う。

「良いのか、アリサ」
「お願いお兄ちゃん、私をぐちゃぐちゃにして。何も考えられなくなるくらいに・・・」


もう、言葉は不要だった。
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