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第六章

ヨシトの回想

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冒険者ギルドで看護にあたっていたシスティーナを拾ってから、俺たちは宿に着き、お互いの戦争内容を報告しあった。

「で、お兄ちゃんはどうやって龍を倒したのよ」
「あ、まあ、それはだな・・・」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


~回想~


俺とリモアはフェイダーに着いたが、まだドラゴンは来ていなかった。

「リモア。どうやって戦うつもりなんだ?」

リモアはパタパタと飛び、俺の前に来ると、

「マスタァ?LINKシステムのこと覚えてるっ?」
「ああ、お互いの意思の疎通をして、相手を思考の速度で動かすんだろ?でも命令が細かすぎて、意味なかったろ」

リモアは人差し指を一本立て、チッチッチッと舌打ちをしながら指を振った。

「マスタァ、わかってないなぁ~。LINKシステムは《相互》なんだよっ」
「・・・ん?」
「だからぁ!リモアがマスターを動かすことも出来るのっ!」
「・・・・・・、っはあ?!」

リモアが突拍子も無いことを言うので、俺は今年一番くらい驚いた。

リモアは両手で俺の両手を取る。

「マスター、マスターは自分の力がわかってないっ!ほんとーはっ、マスターは無敵なんだよっ?。リモア次元の魔導書を使うことが出来る、この世で唯一の人なのっ。次元の力は危険すぎるくらい強力なの」

俺はリモアに問いかける。

「でもよ、つえーやつには亜空間倉庫も避けられちまうし、正直どうしようもないぞ?」
「それはマスターの反応が遅いから。良く考えてっ?生物でないと言うだけで、いかなる物でも完全に遮り、硬さを関係なく全てを遮断することで切断するっ。これってとんでもない力なのっ!」

(そりゃ、俺にだってそのくらいわかってる。でもよ、当たらなければどうと言うことはないって言葉もあるんだ。当たらねえんだよ・・・)

俺が微妙な顔をしてると、リモアが更に手を強く握る。

「だからっ!今日はリモアがマスターの力を使って、みんなやっつけちゃうよっ!マスターはそれを体感して、今後・・に生かしてねっ!」
「お、おお」

リモアが俺のクビにしがみつき、背中に回り込んだ。

「マスターっ!来たよ!」

リモアが指差す方向を見ると、ファブニールと同じくらい大きなドラゴンが、大空を我が物顔で飛んでくる。

「行くよっ!」
「わかった。LINKシステム、起動!」

リモアは俺におぶさったまま飛び上がった。
俺はリモアに引っ張られると言うより、リモアと体が同一したかのような感覚になり、俺自身の力で空を飛んでるように思えた。

俺は自動で体が動き、亜空間倉庫から炎の剣とイージスの剣を取り出した。

(不思議な感覚だ・・・意識はあるのに体が勝手に動くようだ・・・)


炎の剣アテナの武器イージスの剣アテナの盾
1対の双剣
無類の攻撃力を誇る剣と、無類の防御力を宿す剣
自動修復

女神アテナの名を冠する剣だ。
飾り気はほとんどなく、まっすぐな普通の西洋剣だ。でもとことん磨かれたように綺麗なので、この世界の一般剣よりは高級そうに見える。



リモアは空中で、ドラゴンの前に立ちはだかるようにすると、ドラゴンは話し始めた。

「お主、魔導書グリモアだな?・・・そうか、お主が裏切り者の次元の魔導書かえ」

(LINK中でも会話できるのか?やってみるか)

「あー」

(おっ、いける)

「俺はヨシトだ。お前は龍神王の手下か?」
「手下ではない、一族さ。お主が大ババ様の意思をついだものかえ?」
「意思は継いでないがな」
「お主は大ババ様の意思を継ぎながら、何故妾ら、龍の一族の邪魔をする?」

巨大なドラゴンと俺たちは、空に浮いたまま問答する。

「意思は継いでねえ。それにな一方的な虐殺を許すわけには行かねえんだよ」
「お主は龍の一族の宿命を知っておるのかえ?」
「宿命?」

するとドラゴンは巨大な龍の姿から、龍人とでも言うのか、リザードマンのような、ヒーロー物の敵役のような、ゴツゴツした人型になった。
胸が膨らんでいる。女のようだ。

「生まれながらにして同族を食い続けて己の命をつなぐことよ」
「・・・・・・は?」

ドラゴンの姿をした人型だ、表情は読みきれないが、悲しい顔に見える。

「やはり知らぬか。ならば聞くがよい」

────
ドラゴンはファブニールと同じ説明をした。
────

「・・・」
「それでもなお、妾ら龍の一族だけが悪だと言うか」

ヨシトはうなだれる。

「そりゃあ、きついな・・・」

メスのドラゴンは、俺が同意したことに少しびっくりしたようだ。

「そうじゃ。話せばわかるだろ。お主が調停者と言うなら、妾ら龍の一族の宿命も解消せい。それこそが平等と言うものだ」
「そうだな、・・・俺もさ、食い物が無くなったからってよ、エルフを食えと言われてもそりゃあ無理だ」
「植物に代用も同じことよ。植物の魔物もおる。妾らから見れば同族喰いからは逃れられぬ」

ヨシトはうなだれたままだ。

「きつい・・・、これは言葉にするよりきついことだ。・・・実際同族喰いを出来るやつは人間にどのくらいいるかな・・・」

ドラゴンはちょっと目を見開き、笑みを浮かべた。

「おお!わかってくれるか!流石大ババ様────」
「でもよ」

ヨシトは頭を上げる。

「生命ってのは他者の生命を食わなきゃ生きられないようになってる。こりゃ真理だ」

ドラゴンは首をかしげる。

「・・・当たり前だ」
「なら、食えばいい」
「なっ!」

ドラゴンはオーバーアクションで驚く。

「妾らだけに同族────」
「人間を食えよ」
「なんだと?!龍の一族がそれをせぬ為にどれだけの苦痛を!」
「そこがおかしいだろ。お前らだって生物だ。なら食うしかない。食料が人間だってなら食えよ」
「それでは調停者────」
「はいそれ!」

俺はドラゴンを指差す。

「それがいらねーんだよ。いいか?魚は微生物や小さな虫を喰い、そして自分より大きな魚に食われる。大きな魚は人間や他種族に食われる。そうやって回るものだ。それは人間だろうが龍だろうが同じだよな」
「・・・・・・」
「人間もまた、大きな魚と同じく生物の頂点ではない。誰かに食われる宿命だろ」
「・・・・・・」

ドラゴンは黙って聞いている。

「もしかしたら、この世界の頂点は龍かも知れない。お前らは好きに食い散らかしていいのかもな。だけど、それが嫌で人間は戦った。実際にはマザードラゴンがお前らにそうさせなかったのかもしれんけど、それはお前らの都合だ。人間には関係ねえ」
「・・・妾らに人間を食えと申すか」
「もちろんだ、食え食え」
「なら、食っても文句は────」
「言うに決まってるだろ」

ドラゴンはきょとんとする。

「・・・・・・お主は何が言いたい」
「あのよ、魚は俺たち人間が食おうとするときに抵抗しないのか?するだろ。だけどいいんだ。それが自然、それが真理だ。てめえらのババアが余計なことをするからややこしくなるんだよ!」

俺はヒートアップしてまくし立てる。
俺の紋章が俺の言葉に答えるかのように、光を放った。

「平等に死を?もつれた世界をリセット?バカが!この世界を仕切り気取りでものを言うな!平等は慈悲のつもりか?違う!お前らは身内が犯した宿命とやらを見てられなくなっただけだ!見てられねえから、見えなくしたいだけなんだよ!嫌なことから逃げてるガキと同じだ!!」
「なんと傲慢な!」
「傲慢?結構なことだ!あのな、生きてるものは全員、少なからず傲慢なものなんだよ!当たり前のことを偉そうに言うな!」

ドラゴンは殺気を膨らます。

「戦乱が終わらぬぞ」
「終わりなんてねーよ。漁師は毎日魚種族と戦争してるぞ。これは種の根源の話だ」
「人間が消え失せても良いのか?!」
「それはてめえが考えろ。人間が消えたら困るのは、人間をメシにしてるお前らも同じだろ」

俺の右手のアテナの剣が炎を、左手のイージスの剣が白い光を纏う。

「ようは食うか食われるかだ。俺が美味そうか?なら、食ってみやがれ!」


俺がそう啖呵を切ると、リモアが俺を操作しだした。
ふっと意識が飛んだような気がしたかと思うと、俺は瞬時にドラゴンの後ろにテレポートし、右手の炎を纏った剣をドラゴンの背中に突き刺す。

だが、ドラゴンは瞬時に後ろを振り返り、それを裏拳で弾いた。弾かれた勢いを利用して回転した俺は、左のイージスの剣でドラゴンの首を落としにかかる。
ドラゴンはそれをスエーバックでかわすと、次は炎の剣、そのままイージスの剣とくるくる回りながら斬りつける。
ドラゴンはギリギリをスエーバックしてかわしていく。
何度か剣先がドラゴンの首にかすり、ドラゴンの首からうっすらと血が滲み出る。

(はえー、ドラゴンも速いがリモアがあやつる俺のスピードが半端ねえ)

ドラゴンの顔には焦りが見える。ギリギリかわしていると言うより、ギリギリでしかかわせないようだ。

「小癪な!」

ドラゴンは空中でバク転するように後ろ向きに回転し、そのまま蹴りを俺の顎めがけて繰り出す。

ガキン!

俺の顎の下には、小さな亜空間倉庫が出現し、亜空間倉庫とドラゴンのつま先の爪がぶつかり、音を立てた。

すぐさま俺はテレポートをすると、今度はドラゴンの頭上に現れた。

そして、右、左、右、左とものすごい速度で下に向かって両手の剣を突き刺していく。

「っ!龍の波動ドラゴニアオーラアアアア!!!」

ドラゴンの額に龍の紋章が輝く。
ドラゴンは腕を胸の前でクロスし、透明な膜のようなバリアをはり、俺の剣の連突きをガードする。

ガンガンガンガンガンガン!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

俺の連突きは更に速度があがり、まるで学ランを着て幽霊を背負ってる人のような雄叫びをあげる。
まあ、背負ってるのが幽霊ではなく、幼女の俺の勝ちだが。

「ぬうううう!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

更に速度が上がる。
ドラゴンの顔は苦痛に歪み、俺の連突きに押されて、空中からとうとう地面に背中をつけた。
だがそれでも俺は止まらない。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「ぐっ、ぐはっ!がっ、ぎっ、あっ、ぎゃっ」

とうとうバリアをやぶり、ドラゴンの胸と腹を滅多刺しにして俺は止まった。
大量の血がドラゴンから吹き出す。

俺は数歩下がった場所にテレポートすると、ドラゴンはゆっくりと立ち上がる。

そして、溢れる血を止めようともせずに、二マリと笑った。

「ごはっ!」

口からも大量の血を吐く。

「・・・、す、素晴らしい力だ・・・。お、主の・・・勝ち、だ・・・」

戦闘はあっけなく終わった。
だがドラゴンのニヤつきは止まらない。

「妾の名はヴィーヴル。この名を魂に刻むと良い」
「・・・」

もうすぐ死ぬだろう。俺は黙って見つめる。

「ふ、ふはは、だがタダ、、では死なぬ」

ヴィーヴルは何処からか黒い玉を取り出すと、それを飲み込んだ。

(あれは・・・確か紋章を集める玉・・・)

ヴィーヴルは両手を天に掲げると、額の紋章が強く光り、

「ふはははは!龍神王ざまアアアア!、あどばだのみまず!龍の一族に栄光あれ!」

急速にヴィーヴルの体が膨らみ始める。
リモアの意識から、「ヤバイ」と言う感情が流れ込んできて、リモアはまた俺を動かす。

俺は右手をヴィーヴルに向ける。

「次元魔法、リンクディメンジョン」

すると俺の手から真っ白に輝く玉が二つ飛び出し、ヴィーヴルを左右から挟む。
二つの玉が共鳴するかのようにひかり、バリアのようなものが玉間に発生し、ヴィーヴルを包み込んだ。

それに気づいたヴィーヴルは、バリアを手で叩き始める。

「type ギャラクシー」

玉間のバリアの中が、宇宙空間に繋がった。
無酸素で、更に低温で凍結しそうだが、ドラゴンはまだバリアを叩いていた。
これでは死なないらしい。

「text7、ガンマ線フレア」

カッ!

玉間のバリア内が、真っ白に輝いたかと思うと、ヴィーヴルの姿は溶解するかのようにほぼ一瞬で消滅した。
太陽のフレアが発生する時に生じる、大量のガンマ線により、ヴィーヴルの肉体はいとも簡単に消滅した。


ヴィーヴルが居たバリア内には、オーロラのような七色のカーテンが残っていた。


そして俺は明日の朝に、地獄の筋肉痛を体感することになるが、この時点ではまだ気づいてない。
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