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第六章
戦いとは
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アリサはかけらの慈悲もなく、まるでアリをふみつぶすかのごとく、同郷の日本人を殺していく。
「ま、待ってよ!あなた日本人でしょ?!これは殺人よ!」
「へー」
と気の無い返事をアリサがした時には、アキナと呼ばれていた日本人の首は、大地に転がっていた。
「待ちなさい!私は巻き込まれただけなの!。何も危害は加えてないわ!」
「そっ、それはかわいそうね。でもお兄ちゃん好みだから生かせないわ。それに私を鼻で笑った罪は重いのよ?」
「っ!たったそれだけで殺すと言うの?!」
「そう言う言い訳は日本でしてくれるかしら」
と、言いながら、ミハルの腹には真っ赤な三又の槍が生えた。
「ぐふっ」
アリサはなんの感情も出さずに、槍を引き抜き、スタスタとケイコに向かっていく。
ケイコは恐れおののいて、ブルブルと震えている。
アリサは少しだけ寂しい顔つきをして、
「ごめんね、あんたの力は生かしとけないわ」
アリサはケイコの心臓に、槍を突き刺した。ケイコの死体から紋章の光が抜け出し、偽女神の腰にくくりつけてある玉に吸収されていく。
そのあと、くるりと首をアンチマジックのタエに向ける。
タエの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「どんな言い訳も聞かないのですか?」
タエはもう敬語になっている。
「一応聞いてあげるわ」
「たしかに私はアンチマジックのスキルを使ってあなたを害そうとしました。でも・・・それしかなかったのです!どうすることも出来なかった!」
アリサは槍の石突きを地面に立てる。
「エルダイトから逃げれば良かったじゃない。時間はたくさんあったわ」
「こんな知らない土地で、どうしようもないじゃない!食べていくことも出来ないわ!」
アリサの眉が下がる。
「それは理由にならないわね。私はこの世界に生まれて孤児だったわ。食べれないのなんて当たり前で生きてきた。それでもやれることはやって来たわ。それに、あんたには空間魔法使いがいたわ。いくらでも逃げる時間も手段もあったわ」
タエの顔は、アリサが孤児だと聞かされて一瞬驚きの顔を浮かべたが、未来を悟ったのだろう、次の言葉が出なかった。
「もういいの?」
アリサが首をかしげて聞き返すと、タエは膝から崩れ落ちた。
「そう、さよなら」
うなだれて露わになったうなじから、バッサリと切り落とす。
残ったのは偽女神だけだ。
偽女神は「あり得ない」とか「なぜなのです」とか現実逃避の言葉を、ぶつぶつとつぶやいていた。
「あんたのことはリモアに任せるわ。・・・何か縛る──」
「我が女神よ」
後ろから声をかけられて、アリサが振り向くとサザーランドが立っていた。
サザーランドの軍も、アリサが偽女神一行を殺してるあいだに再編され、ひとかたまりに集まり、まだ五万は居るだろうエルダイト軍の前に布陣している。
サザーランドは片膝をつき、
「我が軍の窮地をお救い頂き、恐悦至極にござります」
「そう言うのいいから。とりあえずこの偽女神を縛り上げて、50人ほどで見張りをつけて。おかしな真似をしたら、即殺していいわ」
「はっ!」
「あと、軍は下げなさい。あとは私がやるわ」
サザーランドは、片膝をついたまま顔を上げた。
「・・・あの五万はいる大軍を・・・、お一人、で、ですか?」
「そうよ。もう面倒なの。ちょっとブルーになって来たし、さっさと済ませたいの」
「・・・はっ」
サザーランドは立ち上がり、兵を呼びつけ偽女神を拘束し、全軍に号令をかけて軍をゆっくりと下げだした。
そしてアリサは、たった1人で五万の大軍の前に立ちはだかる。
子供のような身長をした女が、五万の屈強な男の前に立つ。異様な光景だ。
するとエルダイト軍が動きだした。
それはそうだろう。いくら強いと言ってもたった1人の女に怯むわけがない。
右舷から騎馬隊がアリサに突撃してくる。
「うーん、威力は落ちそうだけど、詠唱はいらないわね」
アリサは右手に槍を持ち、槍の穂先を五千ほどの騎馬隊に向ける。
「詠唱破棄。白光」
ドーーーン!
騎馬隊の先頭に、真っ白に輝く火柱が立ち上がった。先頭の集団は、痛みを感じるまでもなく消滅し、その余波は後続の騎馬をも燃やしていく。
詠唱破棄により、規模は抑えられているが、人間相手であれば、充分オーバーキルだ。騎馬隊が無傷だったのは、一番後ろの方の千騎ほどだけであった。
騎馬を相手にしてる間に、歩兵が雄叫びをあげて進軍してくる。
「詠唱破棄、プチ流星雨」
アリサが正面から突撃してくる歩兵隊に槍を向け、魔法を放つ。
すぐさま上空に直径30cmぐらいの燃える隕石が、無数に歩兵隊に降り注ぐ。
その範囲は直径500mほどだ。
隕石の大きさが1mから30cm、効果範囲が1kmから500mと半分以下に縮小されているが、そもそもこれでもオーバーキルなのだ、隕石が1mから30cmになったからと言っても、かすっただけでも無事では済まない。
この流星雨で、突撃してきた兵は全て死に絶えた。
残るは三万ほどの兵士が、恐れおののいているだけだ。
戦場は静まり返り、そしてざわざわとしだすと、エルダイト兵は逃げ出し始めた。
「逃がすわけないでしょ。ファイアーアロー」
アリサは槍を天に掲げる。
槍の先には、帯びただしい量の炎の矢が浮かんでいる。
数?数えきれない、無数だ。
学校の校庭の400mトラック一杯ほどだ。
「レイン!」
アリサが槍を逃げるエルダイト兵に向かって振り降ろすと、炎の矢はエルダイト兵に向かって降り注いでいった。
エルダイト兵の阿鼻叫喚が、戦場を埋め尽くす。
「・・・・・・ごめんね、あんたたちは誰一人逃がすわけにはいかないのよ」
アリサは無慈悲に殺し尽くしているが、やはり何の感情もないとは行かなかった。
アリサの瞳から色が消える。
左手の紋章が光り輝く。
《母なる大地の怒りを見よ》
《悪魔の顎が生贄を求める》
《全ては土に還り》
《新たな生命の礎と化す》
《目覚めよ、今終焉の時》
「地震」
ドーーーン!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
下から突き上げるような衝撃のあと、立ってられないほどの地震がエルダイト兵を襲う。それはアリサから正面だけでなく、ケイノス兵がいる場所も揺れに襲われ、ケイノス兵も立っていられなくなる。
また、地震は後陣に控えるエルダイト兵24万の所まで届いている。
はたしてどこまで届いているのか。
そして、大地に立てた槍の石突きから、地割れが無数にエルダイト兵に向かって突き進んでいく。地割れがどんどん大きくなり、逃げ惑う六万の兵の生き残りを、全て大地の胃の中に収め尽くした。
エルダイト軍の先陣が綺麗に消え失せると、地割れが轟音を立て閉じていく。
戦場には、ケイノス兵、遥か先に布陣するエルダイト兵24万、アリサしか居なくなった。
「・・・・・・」
アリサは表情暗く立ち尽くす。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は、アリサが真・アリ・フェニックスとか言う、ふざけた魔法を使う前まで遡る。
メリッサとファブニールの戦闘が始まっていた。ファブニールは本来の龍の姿になったが、龍の姿ではメリッサの速度を捉えることが出来ず、迷宮都市で戦った時の、龍人と言うのだろうか、龍と人の間のような姿になっていた。
「何故だ!どうなってやがる!!」
ファブニールは、渾身の怒涛のラッシュをメリッサに繰り出すが、メリッサはそれを涼しい顔でいなしていく。
「やっぱり・・・。ヨシトの言った通りね」
ファブニールの拳の連撃を、メリッサは【生命の籠手】をつけた腕で、軽々払っている。
「何がだ!!」
「いんふれ?って言うんだそうよ」
「はあ?!」
ファブニールの連撃は、一発もメリッサを捉えることが出来ない。
メリッサはまだ第2扉までしか開けていない。
────────
~回想~
「いいか?お前らは強くなりすぎた。それに母さんから貰った武器もある。もう敵は居ないだろう」
「ヨシト、それは大げさじゃないのかい?」
「そうよ、迷宮都市に来たドラゴンだって、すごく強かったじゃない。私死にかけたのよ?」
「あたしなんて、腹を貫かれたよ」
ヨシトはため息をついて言う。
「お前らな。メリッサ、お前はあん時は貧弱なステータスだったのに勝ったんだぞ?だいたいな、過去戦ったやつってのは、強さのインフレについてこれないと相場が決まってるんだよ」
「いんふれ・・・ですか?」
「ああ、メイ。あのドラゴン程度なら、メイでも今なら勝てるだろう」
アリサが腰に手を当て、胸を張る。
「そうよ!バトル物はインフレは避けようがないわ!楽勝よ、楽勝!」
「そんなもんかね」
「そんなものなのですか」
「ああ、でも油断はするなよ?」
「当たり前よ」
────────
(ヨシトの言う通りだったわ・・・。私、こんなに強くなったのね・・・。感慨深いわ・・・)
「ふざけるな!こんな、ありえねえ!」
ファブニールの殺気が膨れ上がる。
「舐めやがって!これでもくらえ!」
ファブニールは少し距離を取り、ガパッと口を開ける。
「カアアアアアア!」
口から白い光線のような、ブレスを圧縮したレーザーを放つ。
メリッサはそれを、仙気を貯めた左手で弾き、一瞬でファブニールの懐に入り込む。
「なっ!」
メリッサは、仙気を貯めた右手をファブニールの鳩尾にそっと添える。
「第1扉、赤扉奥義、仙気発勁!」
ドン!
「がはっ!!!」
ファブニールの身体はくの字に曲がり、20mほど吹き飛んだ。
すぐさま起き上がったが、口からだらだらと血を流している。
そして、よろよろと歩きながらメリッサの前まで来る。
「・・・おれぁ、勝てねえのか?」
「・・・・・・ええ」
メリッサは両拳を下ろす。
「なぜそんなに強くなった・・・」
メリッサはまっすぐファブニールを見つめながら、
「あなたと戦ったからよ。あの時モーラも死にかけた、私も死にかけた。もうあんな思いはしたくないから、強くなったの」
ファブニールはペタンと地面に座る。
「ははっ、それだけでここまでかよ。化け物だな」
遠目には、アリサの白光と流星雨が見える。
「向こうもド派手だな。・・・あんなチビの人族がな・・・・・・」
「・・・」
ファブニールは座ったまま頭をあげる。
「とどめを刺してくれ」
「・・・死ぬ必要はないわ」
メリッサは殺すのを躊躇った。
「どのみちダメだ。内臓がズタボロだ・・・。それに、もう同族を、食いたくねえ」
「・・・人を食べればいいじゃない」
メリッサは、憔悴している者を目の前にして、思考が鈍ってしまっている。
「輪廻って言うんだろ?、俺もそこに帰れるかな・・・」
「帰れるわ・・・」
ファブニールは爽やかな笑みを浮かべた。
「次は人間がいいな・・・、おめえ、名前は?」
「メリッサよ」
「メリッサ、悪りぃな。頼むよ」
「・・・・・・」
数分が立つ。
もうファブニールは一言も話さず、頭を下げたままだった。
メリッサの拳は葛藤で震えていた。
が、それがピタリと止まる。
「さようなら」
「ああ。ありがとう」
メリッサはアリサの元へと、走り出した。
「ま、待ってよ!あなた日本人でしょ?!これは殺人よ!」
「へー」
と気の無い返事をアリサがした時には、アキナと呼ばれていた日本人の首は、大地に転がっていた。
「待ちなさい!私は巻き込まれただけなの!。何も危害は加えてないわ!」
「そっ、それはかわいそうね。でもお兄ちゃん好みだから生かせないわ。それに私を鼻で笑った罪は重いのよ?」
「っ!たったそれだけで殺すと言うの?!」
「そう言う言い訳は日本でしてくれるかしら」
と、言いながら、ミハルの腹には真っ赤な三又の槍が生えた。
「ぐふっ」
アリサはなんの感情も出さずに、槍を引き抜き、スタスタとケイコに向かっていく。
ケイコは恐れおののいて、ブルブルと震えている。
アリサは少しだけ寂しい顔つきをして、
「ごめんね、あんたの力は生かしとけないわ」
アリサはケイコの心臓に、槍を突き刺した。ケイコの死体から紋章の光が抜け出し、偽女神の腰にくくりつけてある玉に吸収されていく。
そのあと、くるりと首をアンチマジックのタエに向ける。
タエの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「どんな言い訳も聞かないのですか?」
タエはもう敬語になっている。
「一応聞いてあげるわ」
「たしかに私はアンチマジックのスキルを使ってあなたを害そうとしました。でも・・・それしかなかったのです!どうすることも出来なかった!」
アリサは槍の石突きを地面に立てる。
「エルダイトから逃げれば良かったじゃない。時間はたくさんあったわ」
「こんな知らない土地で、どうしようもないじゃない!食べていくことも出来ないわ!」
アリサの眉が下がる。
「それは理由にならないわね。私はこの世界に生まれて孤児だったわ。食べれないのなんて当たり前で生きてきた。それでもやれることはやって来たわ。それに、あんたには空間魔法使いがいたわ。いくらでも逃げる時間も手段もあったわ」
タエの顔は、アリサが孤児だと聞かされて一瞬驚きの顔を浮かべたが、未来を悟ったのだろう、次の言葉が出なかった。
「もういいの?」
アリサが首をかしげて聞き返すと、タエは膝から崩れ落ちた。
「そう、さよなら」
うなだれて露わになったうなじから、バッサリと切り落とす。
残ったのは偽女神だけだ。
偽女神は「あり得ない」とか「なぜなのです」とか現実逃避の言葉を、ぶつぶつとつぶやいていた。
「あんたのことはリモアに任せるわ。・・・何か縛る──」
「我が女神よ」
後ろから声をかけられて、アリサが振り向くとサザーランドが立っていた。
サザーランドの軍も、アリサが偽女神一行を殺してるあいだに再編され、ひとかたまりに集まり、まだ五万は居るだろうエルダイト軍の前に布陣している。
サザーランドは片膝をつき、
「我が軍の窮地をお救い頂き、恐悦至極にござります」
「そう言うのいいから。とりあえずこの偽女神を縛り上げて、50人ほどで見張りをつけて。おかしな真似をしたら、即殺していいわ」
「はっ!」
「あと、軍は下げなさい。あとは私がやるわ」
サザーランドは、片膝をついたまま顔を上げた。
「・・・あの五万はいる大軍を・・・、お一人、で、ですか?」
「そうよ。もう面倒なの。ちょっとブルーになって来たし、さっさと済ませたいの」
「・・・はっ」
サザーランドは立ち上がり、兵を呼びつけ偽女神を拘束し、全軍に号令をかけて軍をゆっくりと下げだした。
そしてアリサは、たった1人で五万の大軍の前に立ちはだかる。
子供のような身長をした女が、五万の屈強な男の前に立つ。異様な光景だ。
するとエルダイト軍が動きだした。
それはそうだろう。いくら強いと言ってもたった1人の女に怯むわけがない。
右舷から騎馬隊がアリサに突撃してくる。
「うーん、威力は落ちそうだけど、詠唱はいらないわね」
アリサは右手に槍を持ち、槍の穂先を五千ほどの騎馬隊に向ける。
「詠唱破棄。白光」
ドーーーン!
騎馬隊の先頭に、真っ白に輝く火柱が立ち上がった。先頭の集団は、痛みを感じるまでもなく消滅し、その余波は後続の騎馬をも燃やしていく。
詠唱破棄により、規模は抑えられているが、人間相手であれば、充分オーバーキルだ。騎馬隊が無傷だったのは、一番後ろの方の千騎ほどだけであった。
騎馬を相手にしてる間に、歩兵が雄叫びをあげて進軍してくる。
「詠唱破棄、プチ流星雨」
アリサが正面から突撃してくる歩兵隊に槍を向け、魔法を放つ。
すぐさま上空に直径30cmぐらいの燃える隕石が、無数に歩兵隊に降り注ぐ。
その範囲は直径500mほどだ。
隕石の大きさが1mから30cm、効果範囲が1kmから500mと半分以下に縮小されているが、そもそもこれでもオーバーキルなのだ、隕石が1mから30cmになったからと言っても、かすっただけでも無事では済まない。
この流星雨で、突撃してきた兵は全て死に絶えた。
残るは三万ほどの兵士が、恐れおののいているだけだ。
戦場は静まり返り、そしてざわざわとしだすと、エルダイト兵は逃げ出し始めた。
「逃がすわけないでしょ。ファイアーアロー」
アリサは槍を天に掲げる。
槍の先には、帯びただしい量の炎の矢が浮かんでいる。
数?数えきれない、無数だ。
学校の校庭の400mトラック一杯ほどだ。
「レイン!」
アリサが槍を逃げるエルダイト兵に向かって振り降ろすと、炎の矢はエルダイト兵に向かって降り注いでいった。
エルダイト兵の阿鼻叫喚が、戦場を埋め尽くす。
「・・・・・・ごめんね、あんたたちは誰一人逃がすわけにはいかないのよ」
アリサは無慈悲に殺し尽くしているが、やはり何の感情もないとは行かなかった。
アリサの瞳から色が消える。
左手の紋章が光り輝く。
《母なる大地の怒りを見よ》
《悪魔の顎が生贄を求める》
《全ては土に還り》
《新たな生命の礎と化す》
《目覚めよ、今終焉の時》
「地震」
ドーーーン!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
下から突き上げるような衝撃のあと、立ってられないほどの地震がエルダイト兵を襲う。それはアリサから正面だけでなく、ケイノス兵がいる場所も揺れに襲われ、ケイノス兵も立っていられなくなる。
また、地震は後陣に控えるエルダイト兵24万の所まで届いている。
はたしてどこまで届いているのか。
そして、大地に立てた槍の石突きから、地割れが無数にエルダイト兵に向かって突き進んでいく。地割れがどんどん大きくなり、逃げ惑う六万の兵の生き残りを、全て大地の胃の中に収め尽くした。
エルダイト軍の先陣が綺麗に消え失せると、地割れが轟音を立て閉じていく。
戦場には、ケイノス兵、遥か先に布陣するエルダイト兵24万、アリサしか居なくなった。
「・・・・・・」
アリサは表情暗く立ち尽くす。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は、アリサが真・アリ・フェニックスとか言う、ふざけた魔法を使う前まで遡る。
メリッサとファブニールの戦闘が始まっていた。ファブニールは本来の龍の姿になったが、龍の姿ではメリッサの速度を捉えることが出来ず、迷宮都市で戦った時の、龍人と言うのだろうか、龍と人の間のような姿になっていた。
「何故だ!どうなってやがる!!」
ファブニールは、渾身の怒涛のラッシュをメリッサに繰り出すが、メリッサはそれを涼しい顔でいなしていく。
「やっぱり・・・。ヨシトの言った通りね」
ファブニールの拳の連撃を、メリッサは【生命の籠手】をつけた腕で、軽々払っている。
「何がだ!!」
「いんふれ?って言うんだそうよ」
「はあ?!」
ファブニールの連撃は、一発もメリッサを捉えることが出来ない。
メリッサはまだ第2扉までしか開けていない。
────────
~回想~
「いいか?お前らは強くなりすぎた。それに母さんから貰った武器もある。もう敵は居ないだろう」
「ヨシト、それは大げさじゃないのかい?」
「そうよ、迷宮都市に来たドラゴンだって、すごく強かったじゃない。私死にかけたのよ?」
「あたしなんて、腹を貫かれたよ」
ヨシトはため息をついて言う。
「お前らな。メリッサ、お前はあん時は貧弱なステータスだったのに勝ったんだぞ?だいたいな、過去戦ったやつってのは、強さのインフレについてこれないと相場が決まってるんだよ」
「いんふれ・・・ですか?」
「ああ、メイ。あのドラゴン程度なら、メイでも今なら勝てるだろう」
アリサが腰に手を当て、胸を張る。
「そうよ!バトル物はインフレは避けようがないわ!楽勝よ、楽勝!」
「そんなもんかね」
「そんなものなのですか」
「ああ、でも油断はするなよ?」
「当たり前よ」
────────
(ヨシトの言う通りだったわ・・・。私、こんなに強くなったのね・・・。感慨深いわ・・・)
「ふざけるな!こんな、ありえねえ!」
ファブニールの殺気が膨れ上がる。
「舐めやがって!これでもくらえ!」
ファブニールは少し距離を取り、ガパッと口を開ける。
「カアアアアアア!」
口から白い光線のような、ブレスを圧縮したレーザーを放つ。
メリッサはそれを、仙気を貯めた左手で弾き、一瞬でファブニールの懐に入り込む。
「なっ!」
メリッサは、仙気を貯めた右手をファブニールの鳩尾にそっと添える。
「第1扉、赤扉奥義、仙気発勁!」
ドン!
「がはっ!!!」
ファブニールの身体はくの字に曲がり、20mほど吹き飛んだ。
すぐさま起き上がったが、口からだらだらと血を流している。
そして、よろよろと歩きながらメリッサの前まで来る。
「・・・おれぁ、勝てねえのか?」
「・・・・・・ええ」
メリッサは両拳を下ろす。
「なぜそんなに強くなった・・・」
メリッサはまっすぐファブニールを見つめながら、
「あなたと戦ったからよ。あの時モーラも死にかけた、私も死にかけた。もうあんな思いはしたくないから、強くなったの」
ファブニールはペタンと地面に座る。
「ははっ、それだけでここまでかよ。化け物だな」
遠目には、アリサの白光と流星雨が見える。
「向こうもド派手だな。・・・あんなチビの人族がな・・・・・・」
「・・・」
ファブニールは座ったまま頭をあげる。
「とどめを刺してくれ」
「・・・死ぬ必要はないわ」
メリッサは殺すのを躊躇った。
「どのみちダメだ。内臓がズタボロだ・・・。それに、もう同族を、食いたくねえ」
「・・・人を食べればいいじゃない」
メリッサは、憔悴している者を目の前にして、思考が鈍ってしまっている。
「輪廻って言うんだろ?、俺もそこに帰れるかな・・・」
「帰れるわ・・・」
ファブニールは爽やかな笑みを浮かべた。
「次は人間がいいな・・・、おめえ、名前は?」
「メリッサよ」
「メリッサ、悪りぃな。頼むよ」
「・・・・・・」
数分が立つ。
もうファブニールは一言も話さず、頭を下げたままだった。
メリッサの拳は葛藤で震えていた。
が、それがピタリと止まる。
「さようなら」
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