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第六章

調印式

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更に3ヶ月が経過する。

ケイノスとエルダイトとの距離は、乗り合い馬車の速度換算で、20日間の距離だ。30万の軍の進軍ならもっとかかる。
今、エルダイト帝国の軍は、ケイノスとエルダイトのちょうと中間の距離まで来ている。
そこに対峙するように迎えうつ、ケイノス軍五万。約6倍の戦力差で、通常であれば絶望的だ。だが、こちらにはチートオブチートのアリサがいる。
こういう大軍を相手するには、アリサが持ってこいだ。


そして、人族同士の戦争には、調印式があるらしい。これから殺し合うのにバカくさく感じるが、そのあとの統治のこともあり、必要な儀式のようだ。

軍と軍の中間地点に大型のテントを張り、そこで調印式を行う。
こちらからは、ケイノス王のジョシュア、宰相のジョセフ、辺境伯で王の友人ハルート、俺とリモア、メリッサが来ている。ちなみにモーラとメイ、システィーナはフリーポートに居る。アリサと葉っぱはケイノス軍のところに待機している。
エルダイトからは、親父を殺して王になったエリック、ファブニールと呼ばれたメリッサに腕を切り取られたドラゴン、宰相、騎士数名が来た。
メリッサとファブニールは、ずっと睨み合っている。

「もう一度確認したい。エルダイト帝国は本当に我がケイノスを攻め滅ぼすつもりなのだな?」
「何を今更言っているのですか、過去何度も戦争をしてきました」
「ケイノスからしかけたことはない」
「それがなんですか。情けない父の代では全てエルダイト帝国が敗戦していたようですが、今度は違う。そちらもなにやら助っ人がいるようですが、ケイノスは終わりを迎えるでしょう」

ファブニールがメリッサをにらんだまま、口を挟む。

「やかましい。さっさとはじめろエリック」

外野が口出ししたのをきっかけに、俺も口を挟む。

「30万が死ぬぞ?本当にいいのか?」

エリックはにやりとして、俺を見た。

「ふっ、怖気づきましたか?フリーポートから情報を得たようですが、魔道具だけが勝算ではありませんよ」
「・・・・・・女神と勇者はどうした?」

エリックは笑みを崩さない。

「もちろんいますよ。貴方が知らない勇者もね」
「・・・」

どうやら隠し球も居るようだ。それは想定内だ、アンチマジックの魔道具があるのだから、アンチマジックのユニークスキル持ちもいるんじゃないかとは思っていた。

俺はファブニールに問いかける。

「どちらが死んでも今は困るんじゃないのか?」

ファブニールはメリッサから目線を外し、ニヤリと俺を見た。

「何故俺がてめえの質問に答える?ブルブル震えていたガキンチョが。いつのまにか態度がでかくなったな、ああ?」
「・・・・・・」
「てめえがこの裏切り者からなにを聞いたか知らねえが、安心して死ね。お前も殺してやるよ」

ファブニールはリモアを煽り立てるが、リモアは一切反応しない。

「・・・なんだらあ?スカしやがって!今ここでぶち殺してやろうか!!」

ファブニールが威勢を振りまくが、メリッサとリモアは涼しい顔だ。
ケイノスの王たちは、少しビビった顔をしたが、俺たちを見てすぐに落ち着きを取り戻した。

「じゃあ帰りますか、王様」
「あ、ああ」

調印式が終わり、俺がケイノス王に声をかけて、全員が立ち上がる。

そして、全員がテントから出て、それぞれの陣に向かって馬車で移動をする。
が、メリッサは馬車に乗らずに、その場に立ち止まった。

そして、大きく息を吸い込み、空を割れんばかりの声を張り上げる。

「聞け!エルダイトの兵士よ!この場には星が降るぞ!どのような策でも防げることはない!!死にたくないものは、今すぐここから逃げ出すのだ!」

メリッサはそう叫ぶと、俺の馬車の屋根の上に飛び乗った。
俺は馬車の窓から敵陣を見てみると、ここからでは逃げてる人は居なそうだ、だが、少なからず動揺が走ったようだ。

俺は馬車の屋根の上のメリッサに話しかける。

「やっぱ、逃げないもんだな」
「・・・余計なことだったかしら」
「いや、ありがとう。これで1人でも生き残ってくれれば御の字だよ」

数分で馬車はケイノスの陣に戻る。

1番奥のテントに向かい、王のジョシュア、宰相のジョセフ、ハルート、騎士数名と俺、リモア、アリサ、葉っぱが集まる。

「で、もうやっちゃっていいの?」
「待ってほしい、アリサ殿」

王がアリサを制止してきた。

「我がケイノスも、歴戦の強者が揃っている。最後はアリサ殿にお願いするとしても、まずはケイノス軍にやらせてほしい。なあ、ジョセフ?」
「そのとおりです、陛下。アリサ殿の、お力は重々承知しておりますが、戦争で勲功を上げることは、騎士としての誉れでもあり、武官の出世の道にもなります。何卒初陣はお譲りください」

アリサは両手を腰に当て、胸を突き出す。

「別にいいけど、6倍よ?無駄に死ぬことないんじゃない?」

すると、宰相の後ろから騎士団長とは違う、更に謁見の間で襲っても来なかった騎士が前に出た。
ひっそりと王がアリサが突き出した胸を見て、「美しい・・・」とつぶやいたことは聞かなかったことにする。

「私は若輩ながら、将軍を名乗らせて頂いてます、サザーランドと申します。見目麗しく、女神のごとき力を持つアリサ様にどうかお慈悲をいただきたく思います。何卒、初陣はこのサザーランドにお任せください。必ずや勝利を持ち帰ってみせます」

サザーランドは、まるでアリサが主君かのように片膝をつき、騎士の礼をとり頭を下げた。
アリサもまんざらじゃないのか、顔がほころんだ。

「そ、そお?・・・別に構わないけど、危ないわよ?」

サザーランドは頭を下げたまま、

「死を恐れてはおりません。それに、敵も30万全てで突撃はしてこないでしょう。敵もアリサ様を恐れておいでです。アリサ様のご威光をお借りしますが、私にも武功を立てさせていただきたく、お願い申し上げます」

ここまで言われてはこっちもなにも言い返せない。

「わかったわ。頑張りなさい。死ぬんじゃないわよ」

アリサは将軍の頭を撫でた。
王や宰相は目を見開いた。俺はアリサを制止する。

「お前、騎士の頭を気安くさわるんじゃねーよ」
「・・・、仕方ないじゃない!こんなときどうしていいか知らないもの!」

俺がサザーランドを見ると、サザーランドは頭を下げたまま、ワナワナ震えていた。俺は将軍に謝る。

「あー、礼儀知らずでごめんな、今回だけは許してやってもらえるか?」

だがサザーランドは、俺に返答はせず、頭を下げたままワナワナと震えている。
そして、数秒立つと、一気に立ち上がり両手に拳を作り、血が出るんじゃないかと思えるくらい、渾身の力で拳を握る。
その両手を震えさせ、

「う・・・うおおおおおおあおお!!アリサ様に!我が女神に寵愛をいただいた!!、・・・・・・女神は我が頭上にあり!!勝てる!勝てるぞ!!30万がなにほどのものか!!」

サザーランドはテントを出て行きながら、

「天は我らケイノスに味方せり、皆の者!雄叫びをあげろ!!!」

「「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」」

兵士たちは、割れんばかりの雄叫びをあげる。
そのままサザーランドは出て行った。
軍も一斉に動き出した。

「な、・・・なんなんだ、あれは・・・」
「アリサちゃん、人気者?」
「え?いつのまに人気者に?」

俺たちが言いたい放題言ってると、アリサが、

「見なさいお兄ちゃん!、分かる人には分かるのよ!このアリサちゃんの魅力がっ!」
「特殊なやつがいるんだな・・・」
「あたいも痩せようかな」
「貧乳あなどれないわね」
「誰が貧乳よっ!!」

ふと、王を見ると、王が居ない。

なんと、王と宰相はアリサの前に片膝をついて頭を下げている。

「・・・・・・な、なにしてるんだ?」
「アリサ殿、我らにも寵愛を」
「陛下、いえ、お父様は下がってください。お母様に言いつけますよ」
「構わぬ、寵愛をいただけるなら」
「「「「・・・・・・」」」」

俺は笑い転げているハルートに助けを求める。

「お前、笑ってないでなんとかしろよ・・・」
「うははははっ!まさか本気とは私も思わなかった!うははははは!」
「なんなんだよ、この国は・・・」
「あたい、痩せるのやめる・・・」
「流石にドン引きだわ・・・」

アリサが王と宰相の迫力に負け、数歩あとずさると、王と宰相は頭を下げて片膝をついたまま、ずりずりとアリサににじり寄る。
アリサはそれを見て、また下がるが、王たちもその分にじり寄る。

「き、キモいのよ!バカじゃないの!」

アリサはテントから逃げ出す。

「あっ!アリサ殿!待ってください!」

宰相が追いかける。王は俺の両肩を掴み、

「婿殿!アリサ殿に余にも寵愛を授けるように言ってくれ!」
「俺はもう、突っ込む気にもなれねーよ・・・・・・」


今、ケイノス軍3万が、エルダイト軍に向かって進軍し出した。
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