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第五章
聞くと見るとじゃ100倍違う
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「それは出来ねえ相談だ」
「・・・なんでだよ」
「エルダイトを敵に回したら国が滅ぶからだ」
ビューゼルドと謁見の間に入り、ケイノスに兵を送るのをやめて欲しいと言ったが、ビューゼルドの返事はこれだった。
現在謁見の間には、護衛の騎士は居るが、ビューゼルドと若い女の宰相、俺たち3人で話をしている。
ビューゼルドと知り合いと言うことで警戒が薄いのだろう。
「負ける戦争だぞ?」
ビューゼルドは王座のような椅子に座り、大きく背もたれに寄りかかっている。酒場での態度が嘘のようだ。
「兄ちゃんらのことは調べている。たしかに凄い力を持ってるだろう。星降らしがどの程度かわからないが、死の砂漠を見れば大方予想はつく」
「だったら────」
「それでもだ」
「・・・・・・」
俺には何故死の砂漠を見ても戦う気なのかがわからない。
「理由は色々ある。ひとつは国の位置だ」
ケイノスとフリーポートの間にエルダイト帝国が入っている。
「もし、エルダイトの大群をケイノスからフリーポートに向けられれば、フリーポートは滅ぶ」
ビューゼルドは真剣な眼差しで、俺たちを見つめている。
「2つ目は、エルダイトはネライックと繋がっている」
「・・・魔物の国とか?」
「いや、正確には魔物を統率している龍と繋がっている。魔物の大群をフリーポートに仕向けられればそれだけでもフリーポートは滅ぶ。動けねーんだよ」
「・・・・・・」
「お前らが助けてくれるかも知れねーが、うちが派兵を辞めたとして、エルダイトの30万がケイノスへ、ネライックがフリーポートに同時に攻め込まれたらどうする?お前らもどうしようも出来ねえだろうが」
言ってることは理解出来る。国を第一に考えれば正しいのかも知れない。
「万が一、うちの10万、エルダイトの30万をケイノスが撃ち返せて戦争にケイノスが勝ったとしよう。だがそれでもフリーポートが滅ぶわけじゃない」
「10万が死ぬんだぞ?」
ビューゼルドは王座の肘掛に肘をつき、頬杖をつく。
「簡単に言いやがるな。確かに兄ちゃんらは強えだろう。だがよ、10万を殺すのはそんな簡単じゃねえぞ?ゲンにだって無理だ」
ゲンとはビューゼルドに会う前にあったナイトウォーカーだ。これも一応ビューゼルドに話したが、本当に知り合いらしい。有事の際には協力する約束もあり、信じられないような力を持つと言う。
「ビューゼルド様、よろしいでしょうか?」
若い女の宰相が、軽く右手を上げて話に入ってきた。
「良いぞ、シンクレア。兄ちゃんも良いか?」
「ああ、もちろん」
宰相は一歩前に出た。
「何点か質問があります」
「どうぞ」
「ヨシト様と申しましたか、フリーポートまでどのようにいらっしゃったのですか?」
「あー、言い忘れてた。俺たちにはテレポートがあるんだ」
「「・・・テレポート?」」
2人ハモって声を上げた。
「・・・今から見せた方が早いか」
俺はリモアの胸に手を当て、リモアに拠点に帰るように言う。
俺とリモアで拠点に戻り、アリサの手を掴み一瞬で謁見の間に戻った。
「ちょっと、何なのよお兄ちゃん!・・・ってここどこ?、だれこのおっさん」
アリサに何も説明をしていないので、アリサの物言いは最もだ。
それよりもビューゼルドと宰相は、目を大きく見開き口を開けている。
「い、いま、な、な、何をした・・・」
「まさか・・・空間魔法」
「ケイノスの俺の家から妹を連れてきた。こいつが星降らしだ」
「・・・」
ビューゼルドは呆けてしまっている。
宰相が先に我に帰る。
「あ、ありえません!空間魔法でそんな距離は!・・・・・・まさか、本当なのですか?無限の距離を?」
「無限かはわからないな。試してないから」
「ははーん、大体わかったわ。ここはフリーポートで、このおっさんが王でしょ!要は私たちの力が信用出来ないのね?」
「お前、言葉を気をつけろよ・・・」
「良いじゃない、面倒だから攻めて来させなさいよ。まとめて輪廻に帰してあげるわ」
「ちょっとアリサ黙ってろ」
「・・・ふん!」
いきなり連れて来たからか、ご機嫌ななめらしい。
「ヨシト様、大変申し訳ないないのですが、私を死の砂漠へ転移出来ますか?」
宰相がそんなお願いをしてくる。
「ああ、良いぞ?ビューゼルドも行くか?」
「いえ、ビューゼルド様はダメです。私が行きます」
「・・・わかった」
俺はリモアの胸に手を当てる。
「リモア、死の砂漠だ」
「はぁ~~い!」
ヒュン!
俺とリモア、メリッサとアリサと宰相は一瞬で死の砂漠にたどり着く。
宰相の目は大きく開いている。
「これな、お前らだから言っちゃうけど、この口の悪い妹とメリッサが喧嘩したらこうなっちまったんだ」
宰相はギギギギと音が鳴るように俺に顔を向けた。
「・・・・・・け、ケンカ・・・?」
「ああ、バカだろ?」
「あれはメリッサが悪いのよ!」
「アリサが子供だからでしょ!」
「はあ?!私は立派な大人だしっ!」
「やめろお前ら」
俺はアリサとメリッサの頭に手を置く。
「お兄ちゃん、せっかくだから見せた方が早いわよ」
「ヨシト、それはアリサの言う通りかも。星降らしって言葉だけじゃ実感出来ないのよ。アレを見て戦争する気ならすれば良いわ」
(お前ら、本当好戦的になったな・・・、だがまあ一理あるか・・・)
「リモア、死の砂漠全体に人間が居ないか調べてくれ」
「はぁ~い!ちょっと待っててねっ!」
リモアはいつものパタパタと言う速度ではなく、高速で飛んで行った。
数分でリモアは戻り、
「大丈夫!おっけーっ!」
「なら行くわ。よーく、見てなさいよ!」
アリサの瞳から色が消える。
両手の甲に紋章が浮かび上がり、光を放つ。
《地を這う有象無象》
《天を我が物顔で駆ける龍》
《我は問う》
《生きるとは何か》
《我は与える》
《生きとし生けるものに等しきものを》
《見上げよ。それは滅びの雨なり》
「・・・戦争?やれるものならやってみなさいよ!流せえええええ、うぅぅぅぅぅ!」
アリサが大きく大の字に両手を掲げる。
両手の紋章が強く光り輝く。
数秒で大気がビリビリと震え、自然と全員が空を見上げる。
そして絶望が降り注ぐ。
アリサを中心に、まるでバリアのように隕石落下の衝撃から守られるので、全員がアリサのすぐ後ろに固まる。
バリアの外は相変わらず地獄だ。直径1mほどの燃える岩が世界の終わりを告げるかのように、絶え間なく降り注ぎ砂の大地を赤く染めていく。
そして隕石の衝突による衝撃が地震のように大地を揺らす。
やがて隕石の雨は止まり、地上にゴロゴロとしていた隕石も、魔法の終わりを告げるかのように、スッ、と燃える岩は消えさり、1キロ四方の死の砂漠は、更に何者の生存も許さない死の楽園と化した。
ふと宰相を見ると、宰相は全身をガタガタと震えさせている。ちょっと心配になるくらいだ。
「お、お願い!私をフリーポートへ!フリーポートへ帰して!!」
「お、おう・・・リモア」
宰相のあまりの剣幕に若干引いたが、顔をぐしゃぐしゃにするほど涙を流しているので話もできない。
全員で謁見の間に戻ると、すぐに宰相は走り出しビューゼルドにしがみつこうとしたが、膝が笑っていて転んでしまった。
起き上がれずに這ってビューゼルドの足元にたどり着く。
「お、おい、シンクレア!どうした!兄ちゃん何をした!!!」
「いやいや───」
俺の弁明にさせる暇もなく、宰相はビューゼルドに叫ぶ。
「ビューゼルド様!アレはダメです!!アレに逆らっては行けません!」
「・・・シンクレア?」
「アレは人間じゃありません!いえ、魔物でもない、神の所業です!!」
宰相はガタガタと震える自身の体を両手で抱く。
「恐ろしい・・・・・・、エルダイト?30万?だからなんなのですか!!全てが無意味です!」
流石に宰相の怯えぶりにビューゼルドも困惑する。
「兄ちゃん、本当何をした」
「いや、死の砂漠につれてけって言われたから連れてって、実際に星降らしを見てもらっただけだよ」
「・・・」
宰相の怯えは止まらない。
「情報が稚拙すぎます!!エルダイトの星消しの魔導具など役に立つはずがありません!!ビューゼルド様、どうかお考え直しを!・・・フリーポートが、いえ世界が滅んでしまいます!!」
こちらサイドはドン引きである。
「・・・やりすぎたかしら」
「お前、いつもそれだな」
「アリサは本当加減を知らなすぎよ。呆れるわ」
「っ!何よ!あんただって───」
「だから止めろっつうの」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
宰相が落ち着きを取り戻すのを待って、宰相からビューゼルドに説明された。
「ですからビューゼルド様、どこにでも自由に転移され、アレを降らされては軍の大きさなど関係ありません。むしろ、ヨシト様たちと既知の仲な幸運を喜びましょう」
「そこまでなのか」
ビューゼルドは俺を見る。
「いえ、まだ足りてません。私はこの国を愛してます。その気持ちは誰にも負けておりません。ですがビューゼルド様がエルダイトにつくと申すのならば、私は家族を連れて、すぐにこの大陸から逃げます。今日にでも逃げます」
「・・・・・・」
ビューゼルドも絶句した。
そして宰相は頭を下げた。
「ヨシト様、私にアレを見せてくれてありがとうございます。私は無知で愚かでした。私に現実を、アレを教えてくれたこと、本当に感謝致します」
「まあ、いいけど・・・・・・」
「とりあえずアレって言うのをやめてくれないかしら」
アリサから突っ込まれると、宰相はビクッと体を震わせた。
「も、申し訳ありません!」
謁見の間に戻ってから、宰相はアリサの顔を見ようともしない。自身の心のためにアリサはいないことにしたようだ。
俺が口を開こうとすると、
「ヨシト様、アレ──、妹君と同じくらいの強さの方が4人いるのですか?」
「役割は違うけどな。まあ、同じだと思っていい」
「・・・アレ──、妹君と同じ強さが4人も・・・・・・、ア──、その内の2人をフリーポートに派遣していただくわけには行きませんか?」
「まあ、それしかないか」
「ア妹君のお仲間がいるならフリーポートも安泰です」
「あんたいい加減にしなさいよ・・・」
アリサが宰相を睨むと、
「ひっ!!」
「・・・完全に化け物扱いね」
「言葉がねーよ・・・」
「冗談じゃないわ!ったく・・・」
アリサは拗ねた。
「・・・わかった、兄ちゃん。フリーポートは正式に派兵を止める」
ビューゼルドが持ち直し、そう言ってきた。
「本当か?!、これで十万の命が助かる。でもエルダイトは良いのか?」
「そのかわり力を貸してくれよ」
「ああ、エルダイトが動きを見せたら、2人駐在させる。俺はテレポートで往き来するよ。俺が守ってやる」
「バカにすんな。フリーポートにも優秀な戦士はたくさんいる。あくまでも助力だ、助力」
ビューゼルドは笑って答えた。
「ああ、わかったよ」
「・・・なあ・・・こんど俺にもテレポートに乗せて──」
「ダメです。いつもいつもフラフラフラフラ。その上テレポートまで使われたら、二度と捕まえることが出来ません」
宰相がまるで母親のような顔で、ビューゼルドにしっかりとクギを刺す。
「・・・ちっ。まあ良い。しょっちゅう顔を出せよ」
「わかったよ」
エルダイトは失敗に終わったが、フリーポートの被害を押さえることに成功した。
「・・・なんでだよ」
「エルダイトを敵に回したら国が滅ぶからだ」
ビューゼルドと謁見の間に入り、ケイノスに兵を送るのをやめて欲しいと言ったが、ビューゼルドの返事はこれだった。
現在謁見の間には、護衛の騎士は居るが、ビューゼルドと若い女の宰相、俺たち3人で話をしている。
ビューゼルドと知り合いと言うことで警戒が薄いのだろう。
「負ける戦争だぞ?」
ビューゼルドは王座のような椅子に座り、大きく背もたれに寄りかかっている。酒場での態度が嘘のようだ。
「兄ちゃんらのことは調べている。たしかに凄い力を持ってるだろう。星降らしがどの程度かわからないが、死の砂漠を見れば大方予想はつく」
「だったら────」
「それでもだ」
「・・・・・・」
俺には何故死の砂漠を見ても戦う気なのかがわからない。
「理由は色々ある。ひとつは国の位置だ」
ケイノスとフリーポートの間にエルダイト帝国が入っている。
「もし、エルダイトの大群をケイノスからフリーポートに向けられれば、フリーポートは滅ぶ」
ビューゼルドは真剣な眼差しで、俺たちを見つめている。
「2つ目は、エルダイトはネライックと繋がっている」
「・・・魔物の国とか?」
「いや、正確には魔物を統率している龍と繋がっている。魔物の大群をフリーポートに仕向けられればそれだけでもフリーポートは滅ぶ。動けねーんだよ」
「・・・・・・」
「お前らが助けてくれるかも知れねーが、うちが派兵を辞めたとして、エルダイトの30万がケイノスへ、ネライックがフリーポートに同時に攻め込まれたらどうする?お前らもどうしようも出来ねえだろうが」
言ってることは理解出来る。国を第一に考えれば正しいのかも知れない。
「万が一、うちの10万、エルダイトの30万をケイノスが撃ち返せて戦争にケイノスが勝ったとしよう。だがそれでもフリーポートが滅ぶわけじゃない」
「10万が死ぬんだぞ?」
ビューゼルドは王座の肘掛に肘をつき、頬杖をつく。
「簡単に言いやがるな。確かに兄ちゃんらは強えだろう。だがよ、10万を殺すのはそんな簡単じゃねえぞ?ゲンにだって無理だ」
ゲンとはビューゼルドに会う前にあったナイトウォーカーだ。これも一応ビューゼルドに話したが、本当に知り合いらしい。有事の際には協力する約束もあり、信じられないような力を持つと言う。
「ビューゼルド様、よろしいでしょうか?」
若い女の宰相が、軽く右手を上げて話に入ってきた。
「良いぞ、シンクレア。兄ちゃんも良いか?」
「ああ、もちろん」
宰相は一歩前に出た。
「何点か質問があります」
「どうぞ」
「ヨシト様と申しましたか、フリーポートまでどのようにいらっしゃったのですか?」
「あー、言い忘れてた。俺たちにはテレポートがあるんだ」
「「・・・テレポート?」」
2人ハモって声を上げた。
「・・・今から見せた方が早いか」
俺はリモアの胸に手を当て、リモアに拠点に帰るように言う。
俺とリモアで拠点に戻り、アリサの手を掴み一瞬で謁見の間に戻った。
「ちょっと、何なのよお兄ちゃん!・・・ってここどこ?、だれこのおっさん」
アリサに何も説明をしていないので、アリサの物言いは最もだ。
それよりもビューゼルドと宰相は、目を大きく見開き口を開けている。
「い、いま、な、な、何をした・・・」
「まさか・・・空間魔法」
「ケイノスの俺の家から妹を連れてきた。こいつが星降らしだ」
「・・・」
ビューゼルドは呆けてしまっている。
宰相が先に我に帰る。
「あ、ありえません!空間魔法でそんな距離は!・・・・・・まさか、本当なのですか?無限の距離を?」
「無限かはわからないな。試してないから」
「ははーん、大体わかったわ。ここはフリーポートで、このおっさんが王でしょ!要は私たちの力が信用出来ないのね?」
「お前、言葉を気をつけろよ・・・」
「良いじゃない、面倒だから攻めて来させなさいよ。まとめて輪廻に帰してあげるわ」
「ちょっとアリサ黙ってろ」
「・・・ふん!」
いきなり連れて来たからか、ご機嫌ななめらしい。
「ヨシト様、大変申し訳ないないのですが、私を死の砂漠へ転移出来ますか?」
宰相がそんなお願いをしてくる。
「ああ、良いぞ?ビューゼルドも行くか?」
「いえ、ビューゼルド様はダメです。私が行きます」
「・・・わかった」
俺はリモアの胸に手を当てる。
「リモア、死の砂漠だ」
「はぁ~~い!」
ヒュン!
俺とリモア、メリッサとアリサと宰相は一瞬で死の砂漠にたどり着く。
宰相の目は大きく開いている。
「これな、お前らだから言っちゃうけど、この口の悪い妹とメリッサが喧嘩したらこうなっちまったんだ」
宰相はギギギギと音が鳴るように俺に顔を向けた。
「・・・・・・け、ケンカ・・・?」
「ああ、バカだろ?」
「あれはメリッサが悪いのよ!」
「アリサが子供だからでしょ!」
「はあ?!私は立派な大人だしっ!」
「やめろお前ら」
俺はアリサとメリッサの頭に手を置く。
「お兄ちゃん、せっかくだから見せた方が早いわよ」
「ヨシト、それはアリサの言う通りかも。星降らしって言葉だけじゃ実感出来ないのよ。アレを見て戦争する気ならすれば良いわ」
(お前ら、本当好戦的になったな・・・、だがまあ一理あるか・・・)
「リモア、死の砂漠全体に人間が居ないか調べてくれ」
「はぁ~い!ちょっと待っててねっ!」
リモアはいつものパタパタと言う速度ではなく、高速で飛んで行った。
数分でリモアは戻り、
「大丈夫!おっけーっ!」
「なら行くわ。よーく、見てなさいよ!」
アリサの瞳から色が消える。
両手の甲に紋章が浮かび上がり、光を放つ。
《地を這う有象無象》
《天を我が物顔で駆ける龍》
《我は問う》
《生きるとは何か》
《我は与える》
《生きとし生けるものに等しきものを》
《見上げよ。それは滅びの雨なり》
「・・・戦争?やれるものならやってみなさいよ!流せえええええ、うぅぅぅぅぅ!」
アリサが大きく大の字に両手を掲げる。
両手の紋章が強く光り輝く。
数秒で大気がビリビリと震え、自然と全員が空を見上げる。
そして絶望が降り注ぐ。
アリサを中心に、まるでバリアのように隕石落下の衝撃から守られるので、全員がアリサのすぐ後ろに固まる。
バリアの外は相変わらず地獄だ。直径1mほどの燃える岩が世界の終わりを告げるかのように、絶え間なく降り注ぎ砂の大地を赤く染めていく。
そして隕石の衝突による衝撃が地震のように大地を揺らす。
やがて隕石の雨は止まり、地上にゴロゴロとしていた隕石も、魔法の終わりを告げるかのように、スッ、と燃える岩は消えさり、1キロ四方の死の砂漠は、更に何者の生存も許さない死の楽園と化した。
ふと宰相を見ると、宰相は全身をガタガタと震えさせている。ちょっと心配になるくらいだ。
「お、お願い!私をフリーポートへ!フリーポートへ帰して!!」
「お、おう・・・リモア」
宰相のあまりの剣幕に若干引いたが、顔をぐしゃぐしゃにするほど涙を流しているので話もできない。
全員で謁見の間に戻ると、すぐに宰相は走り出しビューゼルドにしがみつこうとしたが、膝が笑っていて転んでしまった。
起き上がれずに這ってビューゼルドの足元にたどり着く。
「お、おい、シンクレア!どうした!兄ちゃん何をした!!!」
「いやいや───」
俺の弁明にさせる暇もなく、宰相はビューゼルドに叫ぶ。
「ビューゼルド様!アレはダメです!!アレに逆らっては行けません!」
「・・・シンクレア?」
「アレは人間じゃありません!いえ、魔物でもない、神の所業です!!」
宰相はガタガタと震える自身の体を両手で抱く。
「恐ろしい・・・・・・、エルダイト?30万?だからなんなのですか!!全てが無意味です!」
流石に宰相の怯えぶりにビューゼルドも困惑する。
「兄ちゃん、本当何をした」
「いや、死の砂漠につれてけって言われたから連れてって、実際に星降らしを見てもらっただけだよ」
「・・・」
宰相の怯えは止まらない。
「情報が稚拙すぎます!!エルダイトの星消しの魔導具など役に立つはずがありません!!ビューゼルド様、どうかお考え直しを!・・・フリーポートが、いえ世界が滅んでしまいます!!」
こちらサイドはドン引きである。
「・・・やりすぎたかしら」
「お前、いつもそれだな」
「アリサは本当加減を知らなすぎよ。呆れるわ」
「っ!何よ!あんただって───」
「だから止めろっつうの」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
宰相が落ち着きを取り戻すのを待って、宰相からビューゼルドに説明された。
「ですからビューゼルド様、どこにでも自由に転移され、アレを降らされては軍の大きさなど関係ありません。むしろ、ヨシト様たちと既知の仲な幸運を喜びましょう」
「そこまでなのか」
ビューゼルドは俺を見る。
「いえ、まだ足りてません。私はこの国を愛してます。その気持ちは誰にも負けておりません。ですがビューゼルド様がエルダイトにつくと申すのならば、私は家族を連れて、すぐにこの大陸から逃げます。今日にでも逃げます」
「・・・・・・」
ビューゼルドも絶句した。
そして宰相は頭を下げた。
「ヨシト様、私にアレを見せてくれてありがとうございます。私は無知で愚かでした。私に現実を、アレを教えてくれたこと、本当に感謝致します」
「まあ、いいけど・・・・・・」
「とりあえずアレって言うのをやめてくれないかしら」
アリサから突っ込まれると、宰相はビクッと体を震わせた。
「も、申し訳ありません!」
謁見の間に戻ってから、宰相はアリサの顔を見ようともしない。自身の心のためにアリサはいないことにしたようだ。
俺が口を開こうとすると、
「ヨシト様、アレ──、妹君と同じくらいの強さの方が4人いるのですか?」
「役割は違うけどな。まあ、同じだと思っていい」
「・・・アレ──、妹君と同じ強さが4人も・・・・・・、ア──、その内の2人をフリーポートに派遣していただくわけには行きませんか?」
「まあ、それしかないか」
「ア妹君のお仲間がいるならフリーポートも安泰です」
「あんたいい加減にしなさいよ・・・」
アリサが宰相を睨むと、
「ひっ!!」
「・・・完全に化け物扱いね」
「言葉がねーよ・・・」
「冗談じゃないわ!ったく・・・」
アリサは拗ねた。
「・・・わかった、兄ちゃん。フリーポートは正式に派兵を止める」
ビューゼルドが持ち直し、そう言ってきた。
「本当か?!、これで十万の命が助かる。でもエルダイトは良いのか?」
「そのかわり力を貸してくれよ」
「ああ、エルダイトが動きを見せたら、2人駐在させる。俺はテレポートで往き来するよ。俺が守ってやる」
「バカにすんな。フリーポートにも優秀な戦士はたくさんいる。あくまでも助力だ、助力」
ビューゼルドは笑って答えた。
「ああ、わかったよ」
「・・・なあ・・・こんど俺にもテレポートに乗せて──」
「ダメです。いつもいつもフラフラフラフラ。その上テレポートまで使われたら、二度と捕まえることが出来ません」
宰相がまるで母親のような顔で、ビューゼルドにしっかりとクギを刺す。
「・・・ちっ。まあ良い。しょっちゅう顔を出せよ」
「わかったよ」
エルダイトは失敗に終わったが、フリーポートの被害を押さえることに成功した。
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