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第五章

古き友人

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俺とメリッサ、リモアはフリーポート合衆国の首都フリーポートに辿り着いた。
もちろんリモアのテレポートを使ってだ。フリーポートにはリモアとの修行旅の時に来ていたので、テレポートがある今となっては、簡単に行き来出来る。


フリーポートは、ケイノスの北にエルダイト、その北にフリーポートがあり、西には広大な山々や森がある。そこはネライックと呼ばれており、魔物の群生地と言われている。
何故言葉が話せない魔物の国があると言われているのか。
それは魔物からの情報だ。リモアではない。
そう、フリーポート合衆国は唯一、一部の魔物と共存している国なのだ。

だがそれも一筋縄では行ってない。

知能が低い魔物は他国と同じように、やはり人間を餌として捉え、人間を襲う。そうなれば人間側も冒険者を募り討伐するし、また食料、資源としても利用するのは世界共通だ。

だが、知能の高い魔物の中には、人族、亜人を含め人間に興味を持ち、接触したがる変わり者も存在する。特に、人狼族、ヴァンパイア族にその傾向が強い。
人狼は魔物からも半人と蔑まれ、人間からも亜人として認められなかった悲劇の種族だが、獣人の始祖との推察もある種族だ。
だからか、簡単ではないだろうが両者の多大な苦労により共存がなされているそうだ。

意外なのがヴァンパイア族である。
ヴァンパイア族は人間の血を必要とする。人間側も襲われたら堪らないので、当然ヴァンパイアハンターがいる。
それでも大きな力があり、長命で変わり者のヴァンパイアの中には、人間に溶け込もうとする者もいるのだ。

俺はリモアがヴァンパイアなのであまり抵抗が少ないが、ヴァンパイア族が人族の国フリーポート合衆国に住むのは、それは大変だっただろう。人化してれば人族と遜色ない人狼の数倍の苦労があったはずだが、そんな苦労をしてまで人族の国に住みたがるアホがいるのだ。

何故こんな話を、今するのか。

それは目の前にアホがいるからだ。
首都フリーポートに着き、昼飯を食ったあと、なにやら不穏な空気の店があり、入って見ると、リモアが「こいつはっ、ヴァンパイアだよっ!」と言い出したのだ。

「お前、討伐されないの?」
「んふふふ、お初にお目にかかります、旅のお方。ヴァンパイアをお連れになっておるとは好感が持てますな」
「・・・まあ、嫌われるよりは良いけどよ・・・。で、本当にヴァンパイアなのか?」

その男は、細マッチョの執事といった風貌だ。顔は若く、なかなかのイケメンだが、歳のせいか話し方がおっさん臭い。
そいつは何の店だかわからない店内で、ゆったりとした椅子に腰をかけ、頬杖をついて俺たちを見ている。

「正確には違いますな。ヴァンパイアの上位種、ナイトウォーカーと申します」
「・・・で、討伐されないのかよ」

ナイトウォーカーはニヤリとした笑みを崩さぬまま答える。

「たまにいらっしゃいます。ですが我に敵うものなどこの国にはいません。旅のお方ならわかりませんがね」

ナイトウォーカーは少し殺気のような気配を出したが、すぐに搔き消した。遊びのようなものだろう。

「襲われてる側とはいえ、そんなにやり返してたらここに住めないだろ」
「んふふふ、もちろんです。ですから暴力でお帰りを願ったことはありませんよ」
「・・・・・・」

ヴァンパイア特有の何かを使ってるということか。
ふいにナイトウォーカーはメリッサをちらりと見る。

「ずいぶんと見目麗しいお嬢さんを連れてますな。いやはや、そちらのヴァンパイアもいるのに、羨ましい限りです」

ナイトウォーカーは、いやらしい目つきを一層と深めた。
メリッサは、背筋に何かが通ったように、全身の毛を逆だたせブルッとした。

「こ、こいつ・・・、こんなとこまで私を追って来たの・・・?」
「んふふ、何の話ですかな?お嬢さん。・・・それにしても可愛くていらっしゃる。毛並みも大変よろしいですし、なかなかのスタイルです。・・・どうです?我と血の契約をしませんか?我は役にたちますぞ?」

メリッサは更に毛を逆だたせ、俺の後ろに隠れて、顔だけを出した。

「こんなとこまで来るんじゃないわよ!!あんたは感想だけで───」
「メリッサ、それは禁句だ。・・・出るぞ」


こんなところで油を売ってる暇はない。
俺たちには用事があるのだから。

俺たちが店を出ようとすると、

「王城に用がお有りではないのですかな?」

ナイトウォーカーがそう声をかけてきた。
俺は警戒心を露わにして振り返る。

「何故知っている」
「んふふふ、この店は暇なもので。王城に行かれるなら、ゲンの知り合いだと申してください。すんなりと謁見出来るでしょう」
「・・・・・・」

俺が怪訝な顔をしてると、

「なに、ヴァンパイアを連れてる旅のお方を気に入っただけです。そこのお嬢さんも目の保養になりました。そのお礼です」

ナイトウォーカーは、また不敵でいやらしい笑みを浮かべている。

「・・・・・・気が向いたらな」

俺たちは店を出た。
メリッサは俺の腕にずっとしがみついていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ヴァンパイアに偏見があるわけじゃないが、初見のナイトウォーカーの言われるまま動くのも、危険な感じもする。
俺たちは、今日は首都で一晩宿を取り、酒場などで情報を集めることにした。

夜になり、酒場に3人で顔を出す。

すると、四人がけの丸いテーブルに見たことがある男が一人で座っており、声ををかけてきた。

「・・・ん?、おお!修行中の兄ちゃんじゃねえか?!」
「ん?・・・、お前は、あー、手合わせしてくれた・・・・・・」
「ヒルダスだよ」
「あー、そうそう!!」


修行の時に、俺の剣の手合わせを数回してくれたヒルダスだ。
結局ヒルダスには勝てなかったが、かなり良い練習になったのを覚えている。
今の俺ではどうだろうか。

「そっちのちっこいのもまだ一緒かよ。更に増やしやがって!兄ちゃん、修行中じゃねーのか?!」
「あー、こっちはメリッサ。元々の仲間だ」

ヒルダスはじっとメリッサを見つめる。

「・・・・・・こりゃあ強えねーちゃんだな。・・・参った、勝てなそうだ」

俺は鼻が高くなる。

「おう、強えぞ。俺の仲間だからな」
「とりあえず座れよ兄ちゃん」
「おう、悪いな」

俺、メリッサ、リモアはテーブルにつき、料理と酒を頼み、4人でカンパイをする。

「兄ちゃん、有名人だったんだな」
「・・・どこから聞いた?」

ヒルダスはガハハと笑う。

「バカヤロウ!どこからもクソからもねーよ!誰でも知ってらあ、この竜殺しめ!」

ヒルダスはまた笑って、エールを煽った。聞くと女を侍らせて、ヴァンパイアを連れていると有名らしい。
侍らせてるわけではないのだが・・・。

「別に隠してたわけじゃないぞ。言う必要なかったし、実際倒したのは俺じゃないしな」

ヒルダスはそこですーっと目を細める。

「兄ちゃん・・・、まさかと思うが・・・」
「よくわかったな」

俺も笑い返してやる。

「・・・・・・なんつうんだ?強者の風格って言うのか・・・殺気じゃあねーんだよ・・・だが、恐ろしいほどの力を感じる。兄ちゃんの仲間で一番強えのか?」
「そうか、他の仲間も知ってるか。多分後先考えなければ、メリッサが単体相手なら一番だろうな。だけど訳あって本気を出せない。それでも全員同じくらいじゃねーかな」

ヒルダスは目を細めたままだ。
メリッサも気分良く飯を食っている。

(しかし、よく気づいたな。強者同士のアレか?)

一応鑑定してみる。



【ビューゼルド=グレンモルト】

名前 ビューゼルド=グレンモルト
年齢 39
性別 男
種族 人族
称号 統率者

レベル 48

STR B    VIT A
DEX A   AGI A
INT C  MEN B

スキル
剣術(lv7)
盾術(lv8)
気配探知(lv6)
俊足(lv7)
風魔法(lv4)


(・・・そうだよ、思い出した。こいつビューゼルドだ。・・・何故偽名を使った?)

「・・・このねーちゃんで1番じゃ────、ん?兄ちゃん、どうした?」

俺は偽名が気になり、聞いてみることにした。

「なあ、ヒルダス、いや、ビューゼルド。お前、ナニモンだ?」

俺は睨みつけるまではいかないが、少し疑うような目つきでビューゼルドを見る。

「・・・思い出したか」
「ああ、あの時はそう名乗ってたよな」

ビューゼルドは悪びれもせずに、ガハハと笑った。

「バレちゃ遊びは終わりだな!じゃあ行くかっ!」

ビューゼルドは椅子から立ち上がった。

「・・・行くってどこへ?」

俺がそう質問すると、ビューゼルドは腰に手を当て、頭を後ろに倒すように呆れるような顔をした。

「なんだよ、わかったんじゃねーのかよ。名前を思い出して気づかないとは、相変わらず勉強不足だな!何しに来たんだよ!」
「あ、いや、悪い・・・・・・えっ?」

俺がついていけずにきょとんとしてると、ビューゼルドは俺の肩をむんずと掴んだ。

「しかも察しも悪いと来てる。・・・ねーちゃんも大変だな!」

ビューゼルドがメリッサを見た。俺もメリッサを見ると、メリッサも半笑いだ。

「ええ、苦労してるわ」
「だろうな!」
「お、おい、なんだよ一体・・・」

メリッサも椅子から立ち上がり、俺の手を取り俺も立たせる。

「ヨシト、フリーポート合衆国を1つの国として纏めてる大統領の名前はビューゼルドよ」
「・・・・・・は?」

メリッサもふふふと、ビューゼルドもガハハと笑う。

「う、うそだろ?!お前が王?!」
「大統領だ」
「いやいや、王が真剣で手合わせするなよ!」
「嘘が苦手なもんでな」
「なんだそりゃ!理由になってねえ!」

ビューゼルドはまたガハハと笑う。

「まあいいじゃねーか。俺と話をしに来たんだろ?もしかしたら来るんじゃねーかと思ってたよ、竜殺しの兄ちゃんよ」
「・・・・・・」
「さあ、行くぞ。宿のベッドよりはマシなのを用意してやるよ」


俺たちは王、いや、大統領自らの案内で城に向かった。
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