鑑定や亜空間倉庫がチートと言われてるけど、それだけで異世界は生きていけるのか

はがき

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第五章

魔導書

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とりあえず、俺たちは宿を取る。

「なんなのあれ?一体どういうこと?」
「あたしは、人族をまとめ上げた後、どうするのかが気になったよ」
「私もです。まさか、人族と亜人の戦争を起こす気では・・・」
「お兄ちゃん、まさか本当にお母さんが━━━」
「いや、それはない、アリサ。それだけは絶対ない」

システィーナは、この状況でも直立不動だ。
まあ、迷宮に一緒に入ったわけでもないから、ピンとはこないだろう。

「システィーナ、楽にしていいぞ」
「ありがとうございます、サー!!」

システィーナは右足を少し前に出した。

「・・・・・・」

するとメイが立ち上がり、システィーナを後ろから抱き上げ椅子に座り、システィーナを自分の膝に乗せた。
システィーナは困惑の表情を浮かべている。

「システィーナ、楽にしていいのです」

システィーナは、徐々に顔が緩み出す。

「ふぅ~!つっかれたぁー!。あっ、このジュースもらうね」

(ある意味尊敬に値するな。ここまでのオンオフは並の精神力じゃ出来ねーぞ?・・・ただ者じゃないかもしれん・・・・・・あっ、ただ者だった)

鑑定結果は凡人だった。
俺とアリサは目を合わせたが、今はそれどころじゃないのでスルーした。

ふと、リモアの様子がおかしかったので、リモアに目線を向けると、リモアは難しい顔をしている。
迷い?恐れ?困惑?負の感情が入り交じったような顔だ。

「リモア、どうした?」
「・・・・・・」

リモアは返答しない。

「どうしたのよ、リモア」

アリサもリモアを問いただす。
数分にも思える長い沈黙が流れ、リモアはゆっくりと口を開いた。

「リモ━━━」
「待て」

俺はリモアを制止する。

「言いたくないなら言わなくていい。大丈夫だ、俺はお前を信じてるから。あとで何かあっても気にしなくていい」

リモアは目に涙を貯め、つーっと右ほほを伝う。
そしてゆっくりと首を振る。

「良いの、話したい。リモア、女神がわかったから」
「・・・・・・」

全員がリモアを見つめる。

「感じるの。同族だから。女神は龍神王が遣わしたグリモア。召喚の魔導書グリモア
「・・・・・・」

(ここは俺が聞くべきだな)

「リモア、龍神王が女神を遣わした理由は分かるのか?」
「・・・多分・・・、龍神王は女神を復活させたかったの・・・」
「なんでだ?」
「女神は亜人を憎んでるから・・・。だから、女神が居なくなって困ったと思う・・・だから代わりの女神を━━━」
「ちょっと待て!」

(つうことは何か?龍神王は調和を望んでない?争いを望んでいる?!)

俺にでもピンとくる。
もし、亜人に対して憎しみに燃える女神が存在したとして、それが復活をすれば、当然亜人と戦争が始まる。人族から仕掛けるとして、一国vs亜人では分が悪い。ならば人族をまとめ上げれば大戦が出来る。

復讐に燃える女神が存在するなら、こう考えるだろう。
だが、龍神王がそれを望む。
どうして?
人族を滅ぼしたいなら、そんなことせずに人族を龍の力で蹂躙すればいい。こんなまどろっこしいことをする必要はない。
ならば龍神王は女神を復活させてまで、人族vs亜人の筋書きが欲しいのだ。
なぜ?

「何故龍神王は争いを起こしたい?何故自分の手で滅ぼさない?どっちかを減らしたいなら自分でやればいい」

リモアは首を横に振る。

「そうじゃないから・・・・・・。龍神王様━━━、龍神王が欲しいのはそうじゃない・・・」
「なら何を?」

リモアは悲しみを携えたまま、真剣な瞳で俺を見る。

「全ての龍の紋章マザーエムブレムを集めること・・・」
「「「「「っ!」」」」」

だが、簡単に腑に落ちないことが見つかる。

「それと女神を解放することにどうつながる?」

リモアは俺を見つめる。

「女神は簡単。迷宮に居られたら回収出来ないから。迷宮から出てもらわなきゃならないの」
「アリサには何故渡した?それも3つも」
「マスターから龍の紋章を、龍神王が奪ったって言ったの覚えてる?」
「ああ」
「正確には、「邪魔した」なの。それで運よく手に入れることが出来た」
「だからってアリサに渡す必要はない」
「力がなければ迷宮をクリア出来ないから。人族の迷い人だけが女神を解放出来ると言ってた」

まだまだおかしいことがある。

「いやいや、ならアリサを呼ぶ必要がない。俺が紋章を持ってても良いはずだ」
「マスターは迷宮を目的にするかわからないから・・・」
「は?、アリサならわかるのか?」
「あっ」

そこでアリサが小さな声を上げた。

「そう言えばドラゴンの神様に、迷宮は楽しいとか色々言われた気がする・・・・・・」
「「「「っ!」」」」
「お前な・・・・・・」

ここにきて、更なるアリサのポンコツ具合が露呈する。龍神王は絶対人選を間違えてる。

「仕方ないじゃない!転生なのよ?!お兄ちゃんみたいに記憶が完全じゃないのよ!」
「それだけじゃない。アリサちゃんなら迷宮の最深部にたどり着けば、必ず女神を解放するから・・・」
「・・・・・・母さんと知ってたってことか・・・」

リモアはうなずく。
それはそうだ。俺だって解放する。母さんなんだから。

「それはおかしいわ。お兄ちゃんだって解放するわよ。私の必要がないわ」

リモアはまた俺を見る。

「マスターは覚えてないと思う。でも、マスターには精神系の魔法が効かないって言ったの覚えてる?」
「・・・・・・いつだよ?」
「リモアと会った日・・・」
「え?」

よーく思い出しても、記憶が出てこない。

「あっ」

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「まず、俺に何か使ってるのか?精神系とか」
「あはっ、お兄ちゃんに魅了の類いは効かないよっ。逆逆~、リモアは治してあげただけ」

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

あった。確かに言われてる。

不滅の龍の紋章エターナルマザーエムブレムの効果だよ。だから精神系の魔法は効かない。だから龍神王はマスターが何者かわからない。だから龍神王はアリサちゃんを選んだ・・・」
「・・・・・・」

アリサを選んでアリサに紋章を渡し、アリサに迷宮を攻略させるのはわかった。
だがまだ争いを望むのがわからない。

「紋章を集めたいのはわかった。だけどよ、紋章を奪う魔法があるんだろ?ちょっとずつ集めれば良いだろ。せっかくの3つの紋章をアリサに渡すにしては、ちょっと理由が弱くないか」

この答えもリモアは持っていた。

「紋章を奪い相手を殺す魔法、《クライム》は、そんな簡単に使えないの。龍神王でさえ、1000年に一度しか使えない・・・。だから、それを使うときには全ての紋章がそこに集まってる時に使うのが望ましい」
「ん?・・・あっ、なるほど、だから世界の全人類を巻き込む戦争が必要なのか」


クライムの効果範囲がどのくらいかわからないが、例えば、1つ紋章を見つけてクライムを使ってたら、三万三千年かかることになる。だが、毎回2つ同時なら半分ですむ。極端に言えば、すべてがその場に揃ってれば、一回ですむ。

そして紋章の力は強い。発現さえしてれば、強い力は他人にバレる。バレれば戦争に駆り出される可能性が高い。全世界を巻き込む戦争なら、全世界に散らばる紋章が集まる可能性もあがる。

一回で33すべてが集まらなくても、三回もしたら、わりかし全部集まるんじゃないかとも思える。
意外と効率的に思えてきた。

「なるほどな。女神が紋章を持って迷宮に封印されてる。女神の解放には人族が必要、ならば一度人族に紋章を与えて、女神を解放させたのちに、まとめて取り上げると。あながち悪い作戦でもないな」

モーラがスッと挙手をした。

「なんで紋章を集めたいんだい?」
「それはリモアもわからない・・・」
「ふむ」

そこまでは龍神王もリモアに説明・・・・・・・・・・しなかったか。

メイがシスティーナを膝に乗せたまま、俺に問いかける。

「ヨシト様、ヨシト様はわかってらっしゃるのですか?」

メイの目付きを見れば、その言葉の意味はわかった。

「ああ、多分な」
「それはリモアは敵だと言うことですよ?」
「だろうな」
「え?」「は?」
「お兄ちゃん、どういうこと?」

リモアはうつ向いている。

「アリサ、リモアが何故ここまで龍神王のことがわかると思いますか?」
「え?・・・」
「リモアは女神を同族・・と言いました。そしてリモアは女神が龍神王から遣わされてると。そして・・・リモアは女神を魔導書だと言いました」

アリサは徐々に顔が険しくなる。

俺が気づいたのはそこだけじゃない。今日までたくさんのヒントがあったし、ある程度迷宮が終わったあとに説明も受けてる。
俺が確定かなと思ったのは迷宮の98階層、ドラゴンとリモアが謎の言語で話した時だ。どちらも共通語が話せるのに魔物言葉で話す必要がない。
秘密の会話の証拠だ。
そして、ドラゴンを統べるのが龍神王。ならばリモアもそっちがわだろう。

「リモア、お前の本当の名前は、次元の魔導書グリモア。グリモアだからリモアか。そしてグリモアだから使用者が居ないと次元の魔法が使えない。俺の称号は次元を理解する者。だから、リモアに手を当てるとテレポートが出来ると。そしてお前を俺に遣わしたのは龍神王。目的は俺とアリサがちゃんと迷宮を踏破して女神を解放するのを手助けするため。そういうことだな?」

細かいところは良いとしても、概ねはこれで確定だろう。
リモアも黙ってうなずいた。

「でも俺はお前を信じる。龍神王側のお前は迷宮の最深部で、母さんの体を砕くのが一番良かったはずだ。そうすれば確実に紋章は輪廻に流れる。でもお前はそれをしなかった。・・・・・・お前は俺の大事な仲間だよ」

リモアは大粒の涙を流した。

「辛かったな。自分の使命よりも俺を大事にしてくれたか。ありがとうな」

リモアは俺の首にしがみつき、わんわんと泣いた。

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