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第五章

結婚

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俺たちは昨日、王都の城下町で宿を取り、宣言通りにアリサとメイを宿に置いてきて、王城にあがった。
それでもモーラ、メリッサ、リモアが居るので万が一は起こらないだろう。

そして、騎士の案内で謁見の間に再び入る。
だが今日は、謁見の間には王、王子、ハルート、偉そうにしていた騎士団長のような50代くらいの男、若い騎士数人、文官数人しか居ない。

そして、王の隣の王子が俺に話しかけてくる。

「昨日は大変失礼しました。私は宰相のジョセフ=ケイノスと申します」
「・・・はあ・・・」

いつの間にか王子が宰相になったようだ。

「宰相は、敵国と繋がっておりました。故にヨシト様らに無礼な態度を取っておりました、誠に申し訳ありません」

宰相になった王子が頭を下げた。

「はあ・・・」
「勝手な願いですが、昨日の会見はなかったことにして、始めからお話をさせて頂けますか?」
「・・・はあ」

一体、アリサへの告白はなんだったのか、あれも宰相の作戦?なのか?

「ありがとうございます。ではまず、ヨシト様から頂きました此度の戦争に助力頂ける条件を精査させて頂きたいと思います」
「あのー・・・」
「なんでしょう、ヨシト様」

昨日とうってかわって、やけに腰が低い。メイがかましすぎるからビビっているのか。あまりビビられても、今度は暗殺部隊とかが押し寄せそうで面倒に思える。  

「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ?」
「いえ、そうは参りません」

新宰相のジョセフは、軽く頭を下げて話を続ける。
俺はあまりの手のひら返しに、若干ついていけてない。

「本来、兵士でもないヨシト様に戦争にご助力頂くのです。それが戦況を左右する力をお持ちであれば、礼を尽くすのは当然のことです」
「はあ・・・」

そして宰相以外は口を開かない。ハルートを見ても頷くだけだ。

「まず、ヨシト様からの条件を確認いたします。ひとつ、女神に会わせること、ひとつ、迷宮を独占しないこと、ひとつ、俺たちが各国を回っても疑わないこと、ひとつ、俺たちはケイノス王国に属さない。と言うことをケイノス王に認めさせること。お間違えありませんか?」
「はあ・・・」
「もちろん、報酬に関しましても別途用意いたします」
「いや、報酬とかは・・・」
「いえ、戦争に参加する者、全ての人間に報酬は支払われます。これは当然の権利でございます」
「はあ・・・」

(やりずれえ、逆にやりずれえ・・・。いきなりここまで手のひら返されると、どうしていいか困る。メイを連れてくれば良かった・・・)

「お話を進めやすくするために、私から質問させていただきます。よろしいでしょうか」
「はあ・・・」
「ではまず、ヨシト様の条件ですが・・・・・・」

新宰相の話は、女神に何故会いたいのか、何故各国を回りたいのかだった。俺は女神に会いたいのは迷宮の底で女神を殺したが、それが復活しているのかを確認したいため、各国を回りたいのは、戦争のきざしがどこまで浸透しているのかを確認して、辞めさせられるなら辞めさせたいからと答えた。

「なるほど、迷宮のことに関しましては、こちらのハルート辺境伯が責任を持って調べあげます。迷宮を独占すれば戦争の種になる、と言うのは理解しております。過去は完全に独占しておりましたが、ここ20年は他国の冒険者も受け入れております。魔石の売買をお願いしておりましたが、そこにお願い以上の何かがあるようでしたら、必ず排除します」

どんな言い方をしても、迷宮はケイノス王国の生命線なのは理解出来る。新宰相が言うとおりになれば、あとはやっかみでしかないので、問題ないと言えるだろう。

「ケイノス王国から、2つお願いがあります」
「なんでしょ」
「まず、力を見せていただくことは出来ますか?」
「・・・・・・」
「申し訳ありません、言い方を間違えました。迷宮を踏破したお力、もしよろしければ片鱗だけでもご披露して頂くことは出来ますでしょうか?」

俺はメリッサとモーラを見る。
すると二人は、

「どっちが行く?」
「あたしはどっちでも良いよ」
「なら、私が行ってもいい?、ヨシト、籠手を使うわ」
「大丈夫か?」

メリッサはちょっと首をかしげて、両手の甲を腰にあて、斜に構える。

「こういうのはね、圧倒的なのを見せてあげるのが一番なのよっ♪」

メリッサは生命の籠手フィスト・オブ・ライフを出し、両手に装備した。

「ここでやるの?」

メリッサは何でもないように答える。新宰相は、

「広さは足りますでしょうか?」
「足りるわ。それと1vs1だと時間がかかるわ。やりたい人全員いっぺんに来て」

新宰相は眉をしかめる。

「・・・・・・失礼ですが、我がケイノスにも手練れはおりますが」
「迷宮を踏破した実力が見たいんでしょ?どのくらいの差があるか教えてあげるわ」

メリッサは笑顔でどや顔だ。

(この子はいつからこんなに脳筋になってしまったのか・・・)

すると、騎士団長や若い騎士などがずらずらと出てくる。

「なめやがって・・・」
「たかが小娘が」
「獣人ごときに・・・」

その数は8人、メリッサの前に並び立つ。だがメリッサは更に煽る。

「そんな布陣でいいの?囲ってもいいのよ?」

明らかにカチンときた騎士団長が怒声をあげる。

「っ!死んでも知らんぞ!全員かこめ!!!!」
「「「はっ!」」」

騎士たちは抜剣し、メリッサを円状に囲んだ。
騎士たちに緊張感が走る。メリッサは涼しい顔だ。

「じゃ、行くわよ」

そう、メリッサが言った瞬間、三人の騎士が後ろ向きにぶっ飛んだ。
悲鳴をあげる暇もない。
残った五人は一体何が起こったかわからないとでも言わんばかりに、剣を構えたまま硬直している。
 
「次はそっちから来なさい」
「ば、化け物め・・・、でりゃあああああ!」

騎士団長がメリッサに向かって突進する。剣を大上段に構えたまま走るので、胴ががら空きだ。

メリッサは懐に神速で入り込み、

「遅すぎるわ、ふんっ!」
「ぶはっ!」

金属の全身鎧の胴に、メリッサは手のひらを当て力を込めると、騎士団長は弾丸のように吹き飛ばされた。
そして次々と切りかかってくる騎士を、全員一撃で戦闘不能にしていく。

一人の若い騎士だけが、動かずにじっとメリッサを見つめていた。
メリッサはその男を見て、

「あなたは少しはマシそうね」

騎士は答える。

「確かに強い。でもやりようがないわけでもない」

メリッサはその言葉ににやりとする。

「そう・・・・・・、なら・・・第一扉、赤扉しゃくひ、解放!」

ドーーーーーーン!

メリッサの額に紋章が輝き、仙気が視認できるほど溢れ、光の柱として立ち上る。

メリッサは籠手をゆっくりと眺める。

「ヨシト、すごいわ!力がみなぎるの。これなら3つくらいなら開けても大丈夫そう!」
「・・・殺すなよ」

落ち着いているのは俺たちだけだった。
ハルートも王も剣の嗜みがあるのか、実力の差を理解できたようだ。

「な、なんだあれは、ハルート・・・」
「こ、これほどとは・・・ジョシュア、私の見立てはあまかったようだ・・・」

勝てると言っていた若い騎士は、目を大きく見開き剣を持つ手が震えている。

するとメリッサの身体がぶれたと思うと、若い騎士の剣を手に持ち、騎士の前に立っていた。
次の瞬間にはハルートの手に騎士の剣を握らし、始めの立位置に戻っている。
その間、誰も一歩も動けていない。
そして、仙気は静まっていく。

「こんなもんでいいかしら?」

メリッサは満面のどや顔で、新宰相を見る。
新宰相は目を見開いたまま硬直している。

「ちょっと?」

メリッサが大きな声を出すと、新宰相はハッと我に帰った。
そして回りを見渡したあと、俺を見る。

「す、すばらしい・・・、この方が四姫桜最強なのですね?」
「やめろ、それは戦争になるから」

俺が絶対に話題にしなかったことをさらっと言いやがる。モーラは妖しく微笑む。

「それは武闘大会まで取っとくよ」
「そうね、楽しそうね」

(こいつら・・・、みんな武闘大会にこだわってたのは、まさか四姫桜最強を決めるつもりだったのか?!、・・・まあ、冷静に考えたらそうなるか・・・やっぱり武闘大会は無しの方向に・・・) 

「一応言っとくと、みんな役割が違うだけで同じくらいだから。あと、メリッサはこれで1/10くらいだから」
「・・・・・・信じられないと言いたいとこですが、多分本当なのでしょうね・・・」

少し盛ったが問題ないだろう。



「あとひとつのお願いはなんだよ」

新宰相は、呆けてしまった意識を切り替えた。

「はい、本来は御本人がいるところがいいのですが、お兄さんにまずお話を通すと言うのも悪くありません。・・・(コホン)、ヨシト様の御妹のアリサ様、私との結婚を認めて頂けないでしょうか」

(やっぱりこれか)

「お前も胸ないやつが好きなのか?教えてやるけど、アリサにそれを口にしたら逆効果だぞ?」

俺は呆れ顔で新宰相を見ると、新宰相はゆっくりと首を振った。

「ヨシト様たちはあまり知らないようですが、世界全般的に胸の小さな大人は珍しいのです。ですから実は胸が小さめな成人女性は、一定の方々に大変好まれます」

(それは予想できる。つうか、猫も杓子も巨乳ばっかりだ。メリッサぐらいでも充分巨乳の範囲に入るし、子供でも13,4くらいならCカップ越えも珍しくない。希少価値ってのはわかる)

「ですが、私はそういう理由ではありません。ヨシト様たちをひとかどの勢力と想定して、ヨシト様たちとの友好の架け橋となるようの婚姻です」

新宰相は、はっきり政略結婚と言っている。

「それは政略結婚ってことか?」
「そうなります」

堂々としている。まあ、王子から見たらそれは当たり前のことなんだろう。

「その常識は俺やアリサにはない。もし、お前がアリサを一人の女として口説けたら、アリサと結婚してもいいぞ」

俺は口説く許可をしてやったつもりだった。
だが新宰相は、苦い顔をしている。少し額に汗をかき、ハンカチで拭っている。

「そ、それが・・・、私はまだ未婚で・・・女性を口説くというのは・・・」
「なんだ、その年で童貞かよ」
「い、いや!童貞では!!!、人族以外とはあるのですが・・・」

新宰相は、短い付き合いだが見たことない顔をする。もじもじした子供のようだ。
ふとハルートが目に入る。ハルートはなにやらジェスチャーをしている。

(・・・なるほど、理解した。王族だから子供が出来たら大事になる。それは即結婚に繋がる。でも結婚したくないけど女を知りたい。ならば妊娠の心配がない亜人とはやっている。だがそれは自分で口説いたのではなく、王や誰かが用意したヤリ専メイドみたいなものか)

「アリサと結婚したいなら、自分で口説き落とせ。ちなみにアリサは俺と結婚する気らしいが、もし、アリサの気持ちを落とせたならいいぞ。自分で努力しろ」
「・・・、少々私には難しそうです・・」

(へたれすぎだろ!、女を親に用意してもらってる弊害だな。この先大丈夫か?)

そこそこイケメンなのに、草食すぎる。新宰相は汗をふきとりながら、

「そこで、もうひとつの案があります。システィーナをこれへ!!!」

新宰相が騎士に声をかけると、もう準備していたのだろう。
すると、騎士に連れられて一人の女性・・が現れた。

(わかるよ、簡単に想像出来るよ、アリサがダメなら俺に嫁をだろ?それは想定内だよ。だけどこれは無理だろ!!!)

だが、それは女性と言っていいのか・・・。

完全に幼女だった。
幼女はトコトコと俺の前に歩いてくる。10歳以下にしか見えない。

「こんにちは旦那様!」
「いや、これは無理だから!!」

俺はこの場をどう乗り切るか、想定外の理由で頭が痛くなった。
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