鑑定や亜空間倉庫がチートと言われてるけど、それだけで異世界は生きていけるのか

はがき

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第五章

氷の魔女

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今、謁見の間から離れ、王の執務室に移動した。
王の計らいで、武官や文官が居ては話がまとまらないと思ったからとのことだ。
室内には、俺たち、ハルート、スマホ、ケイノス王のジョシュア、宰相、王子のジョセフがいる。

「冗談ではない、本気だ。ヨシトとアリサは兄妹なのだろう?ならこれが一番の解決方法ではないか?全てが上手く行く」

左頬を腫らした王が、俺に熱弁を奮う。

「ふむ・・・」
「何が、ふむ・・・よ!お兄ちゃんはそれで良いわけ?!私がこんなおっさんの慰みものになるのよ!」
「慰みものではない。余はアリサを正妻として迎えるつもりだ。すでに正妻や側妻はいるが、アリサを正式に正妻として迎えたい」

(これは・・・・・・アリか?正直アリサを手放したくはない。でもいつまでも飼い殺しみたいにするよりもアリサに取っては幸せなんじゃないだろうか。いや
、相手によるか。でも王だぞ?)

「ヨシトよ、冗談みたいな話だが悪い話ではない。確かにジョシュアの言うとおり、全て丸く収まる」

ハルートが進言してくる。
だが、メリッサが俺の肩に手を置く。

「ヨシト、いい?」
「ああ」
「ヨシトのことだから、本気で考えてないと思うけど、もし、私だったら冗談でなく死ぬわ」
「っ!!無礼な!!!」

メリッサの言葉に宰相が怒鳴り声をあげた。
だが、それを無視してモーラが続ける。

「あたしも女だからね。好きでもない相手と結婚させられるなんてまっぴらだよ。あたしが今ここにいるのも、それが理由ってのもある」
「ヨシト様」
「言って良いぞ、メイ」

メイは王をまるっきり無視をする態度だ。

「アリサが嫁いで得をするのは誰でしょうか。正直に申しまして、得をするのはケイノス王国だけです。私たちにはデメリットしかありません」
「流石にそれは言い過ぎだ」

俺ではない、ハルートがメイの言葉に水を指した。だが、メイは止まらない。

「まったくもって言い過ぎではありません。よくお考えください。大前提として四姫桜はヨシト様あっての四姫桜です。ヨシト様の号令なく四姫桜は絶対に動きません」

俺は、「アリサはそうでもない気がする」と言いたかったが、黙っといた。

「そして、ヨシト様は今この場で、またはきっちり宣戦布告されてケイノス王国と開戦したとしても、確実にケイノス王国を滅ぼせる武力を持っています」
「それは本人ではないだろう。お主らの力だろう?」

王がメイに問うが、

「だから先に言いました。四姫桜の力は全てヨシト様にあると。アリサにしてもそうです。ヨシト様とアリサは兄妹の関係なので、ある程度は気安く見えますが、実際にはヨシト様の決定を、一切の迷いもなく実行出来るのは間違いなくアリサでしょう」

メイとアリサは見つめあうと、アリサは力強く頷いた。
俺は「むしろ気安くない人いませんが?」「いや、それはメイ、お前だろ」って突っ込みを飲み込んだ。

「一国の王に失礼を承知で申します」

メイは全身から一気に殺気を溢れ出させた。
室内が凍ったように気温が下がる。
宰相は腰を抜かし、ハルートは剣の柄に手をかけ、スマホは王子の前に立った。

メイは荘厳な雰囲気をだし、声色までワントーンさげて、

「我らがヨシト様に数々の無礼な態度、今ここで貴様らの首が繋がっているのが、何故ヨシト様の温情とわからないのか。どちらが上位か教えなければわからないのならば、その身を持って知るが良い」

その姿は雪山で雪の女王に遭遇してしまったかのごとく、絶望と美貌を周囲に振り撒いた。

王は椅子からガタッと腰を滑らせた。
ハルートは剣の柄を持つ手が震えている。完全に剣の間合いにいるメイに、絶望を感じて剣を抜くことさえ出来ない。

どうやらメイも我慢の限界だったようだ。腸が煮えくり返っていたらしい。

「まあ待て、メイ」

俺がメイの頭に手を乗せる。するとメイは一気に殺気を消し、恋する乙女のような笑顔を浮かべる。

「はい、ヨシト様」

王は額から汗をだらだら流している。ハルートも同じだ、宰相は既に気を失っている。

「ですが、ヨシト様。これはヨシト様の悪い癖です」
「・・・どんな?」
「力あるものが、力なき態度を取るからこういう勘違いした輩が現れるのです。振るってしまえば良いのです。死んでからしか気づけない者は、大地の下で後悔させれば良いのです」
「ま、ま、待ってくれ・・・・・・怒ってるのはわかった・・・。す、すまなかった・・・。私も少し調子に乗っていた・・・」

ハルートが手をガタガタ震わせながら、メイに謝りだした。

「それを言うならば、この部屋を取り囲んでいる兵士や暗殺者を排除してから言いなさい。気づかぬと思っているのですか?ヨシト様を愚弄するのは大概にしなさい!今すぐ彫刻にしてあげましょうか!!!!!」

メイはまたヒートアップして、ハルートを怒鳴り付けた。
ハルートは王を見るが、王は声を出すことも出来ずに首を横に振る。ならばそれを配置したのは、気絶している宰相と言うことだろう。

ハルートは震える体で声を出そうとしても、上手く言葉に出来ず、手を頭上でブンブンと振るった。
するとメイの表情が落ち着きを取り戻した。

「わかれば良いのです」

俺は心の中でため息をついた。

(だめだこりゃ。これじゃ俺がケイノス王国を脅しに来たみたいじゃねーか。メイの言うこともわからなくもないが・・・・・・うーん、どっちが正しいとしても、この場はもう終わりだな)

「とりあえずハルート、今日は帰る。明日メイとアリサを置いてから来るから。また明日の朝、王城に来ても良いかな?」

ハルートはコクコクと頷いた。

俺たちは王城をあとにした。


◇◇◇◇◇◇◇


~ヨシトたちが帰った王城~

会議室にケイノス王国主要メンバーが揃う。

「貴様らは迷宮を踏破した者の実力を舐めている!!!ヨシトがまだ話せるからいい、だが、ヨシトを殺めてみろ、あの氷の魔女と星降らしによって一晩でケイノスは滅ぶぞ!」

ハルートがジョシュア王の家臣を怒鳴り付ける。
だが、宰相が反論する。

「ならば、たかが冒険者に屈しろと申しますか?」
「そうならないように、私が取り持って来たのだろうが!!!」

宰相は、あんな危険な人物は殺してしまえとの見解だ。明日来るならその時がチャンスだと。
王が宰相に聞く。

「宰相、殺れるのか?」
「明日はあの男と星降らしと氷の魔女抜きで来ると申しました。必ず成功します。もし二人を同伴してきた場合は、手を出さなければ良いのです。危険はありません」
「わかった」
「ジョシュア!!!」

王は宰相の話にわかったと答えた。それを聞き、ハルートは王を睨み付ける。

「余がダメならジョセフに娶らせようと思ったのだがな、見向きもされなかったな」
「父上、よろしいですか?」
「ジョセフ、申してみよ」
「本日を持ちまして、ジョセフ=フォン=ケイノスは王位継承権を放棄したいと思います」

突然の王子の言葉に、周囲がざわついた。

「ふむ、余と同じ考えか」
「はい父上、ケイノス王国の未来にはそれが必要でしょう。弟のジェイクももう18。更にジッケルトも居ます。後継に困ることはありません」
「良いのか?」
「それが最良ですので。それに明日はケイノス王国の分水嶺になります。失敗は許されません」

親子の会話の意味が誰一人として理解出来ない。
宰相が王に問いただす。

「な、何を仰っておるのですか?わかるようにご説明ください、王太子様」

「無能な宰相ではこの国は潰れてしまうと言ってるのです、モルグリット卿。本日を持ってモルグリット卿には宰相を辞任していただきます」
「なっ!!!」

突然のジョセフの言葉に、宰相はジョセフを見たあと王を見る。

「そういうことだ。モルグリット。今まで苦労をかけたな」
「王!・・・・・・冗談でございますよね?」
「そちが抜けた穴はジョセフが埋める。ジョセフは我が息子ながら、頭が切れる。今日のあの会見を目にして、そのようなアホな答えしか出ぬものでは、この先乗り越えられまい」
「お、王!」

流石にハルートもポカーンとしている。

「ここまでケイノスに尽くしてきた私を、そして今もケイノス王国の為に身を粉にしている私をいきなり切るのですか?!!!それはあまりにも無体が過ぎます!!!」

王は首をゆっくり振った。

「宰相としての権限を使い、不正に私腹を肥やしている証拠はある。それに、こちらはまだ裏は取れてないがエルダイトと繋がりがあるとか?」
「っ!!!」

宰相は大きく目を見開いた。ジョセフが王の言葉を続ける。

「宰相がおかしくなり始めたのはここ数年です。ですから王も長年の礼がわりに死罪と言ってないのです。今のうちに引いた方が得策でしょう。数日のうちにモルグリット卿がエルダイトの手引きをしていた証拠もあがります。今ならば不問にするという、多大な温情ですよ」
「・・・・・・」

モルグリットは、驚きを隠せなかったが、不正を働いていたのも本当だし、エルダイトと繋がっているのも事実だ。ここでごねても身の危険しかない。

「後悔しませんように・・・」

精一杯の捨て台詞を吐いて、モルグリットは出ていった。

ジョセフは宰相が座っていた席に移動し、大きな声で宣誓する。

「今日から私、ジョセフ=フォン=ケイノスは王位継承権を捨て、宰相として父上を、そして弟たちを助け、ケイノス王国に全身全霊仕えさせてもらう!。私は不正は許さない!改心する気があるものは、自ら名乗り出れば温情は与える!よく考えるように!」

 ハルートは、まったく予想してなかった展開に、まだポカーンとしていた。



◇◇◇◇◇◇◇



二人だけが残る会議室

「ハルートおじさん、いえ、ハルート辺境伯殿、明日はご助力お願い致します」
「ジョセフ王太子、いやジョセフ宰相。いくつになりました?」
「24になりました」
「いつの間に、そんなにご立派に・・・」
「おじさんの教えの賜物です」
「いつから宰━━、モルグリット卿の企みに気づいてたのですか?」

ジョセフは水の入ったコップを傾ける。

「二年前からです。モルグリット卿の動きがあまりにも不自然でしたので。恐らく竜殺しと呼ばれるようになってからは、エルダイト帝国からの要望で、ケイノス王国とヨシト様たちとを対立させ、ケイノス王国の弱体化を図っていたのでしょう」
「なるほど、だから勇者暗殺派はなくならなかったと」
「おそらく」
「宰相は明日、どうする気ですか?」
「無論、ケイノス王国が従属するような交渉は致しません。ですが、ハルート辺境伯様が行っていた通り、友好を結べれば良いと思っています。要はケイノス王国に属さなくても、ケイノス王国がなくなっては困ると思ってもらえば良いだけですので」

ジョセフは、男らしく爽やかなイケメンな笑顔をする。

ハルートは、ジョセフ王太子がここまで成長していた喜びと、やっと話が通じる人間が出来たと胸を撫で下ろした。

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