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第五章

ジョシュア=フォン=ケイノス

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ザルバと葉っぱの間を取り持ったあと、数日でハルートの部下、スマホがやって来て王都行きが決定した。リモアに聞くと、10人ぐらいなら王都までテレポート出来るが、それ以上になると無理だと言う。主に俺の魔力量のせいで。

本当はリモアのテレポートの御披露目をしてしまうつもりだったが、今回は馬車にした。
俺たちは迷宮内でも快適に過ごせるグッズを持っている。ハルートたちの分も用意しようとしたが、ハルートたちも辺境伯の移動なので、色々馬車数台で運ぶようだ。その分定期便の馬車より遅くなるが。


俺たちと、護衛、雑用などのハルートたち50人は、馬車で出発した。
葉っぱは置いてきた。充分な金を置いて、それで生活しとけと言った。せっかくの修行だ、ただの謁見に何日も連れ出すのはもったいない。

本当に進軍は遅かった。三日目ぐらいまでは何事もなく進んだが、4日目ぐらいからハルートたちのパンが底をつきた。
通常の定期便だと4日目には王都につく。だが、今回はあと2日、6日目に到着の予定だ。だから飯は急遽俺たちがハルートの分だけ用意することになった。
いや、俺からハルートに提案したのだ。保存食だけで2日間を過ごす予定と言うので、流石に辺境伯にそれではかわいそうだと思ったからだ。
お付きの50人には保存食で我慢してもらう。

「・・・うまい、チキンナンハか?・・・こんなに旨いものは食ったことない」
「チキン南蛮な」
「それに、米が旨い。これが家畜の食料とは・・・・・・。すぐに改めねばならんな」

米の値段が上がってしまいそうだが、既にマイアたちがおにぎりを本格的に売るようになってから、徐々に上がっては来ている。もう米の値上がりは時間の問題だったので、仕方ないだろう。


6日目になり、ケイノス王都に到着すると、その足でそのまま王都の王城に入る。
一泊を城で過ごし、次の日に謁見となった。
のだが・・・・・・。


◇◇◇◇◇◇◇


「・・・・・・それだけ大きな力を持ちながら、どの国にも属さないと?それが通用すると思ってるのか?」
「そう言われてもな。通用しないなら出ていくだけだ」
「待てヨシト、話を簡単に考えるな」
「ハルート、さっきから堂々巡りだよ、一体こいつらはどうしたいんだ?」



この場は謁見の間、玉座には王が座り、一言も口を開いてない。そして、多数の文官、武官、騎士、兵士などでだだっぴろい謁見の間は埋め尽くされている。

そして、この場を取り仕切るのは宰相、モルグリット=エルバートと言う50代ぐらいの男が「王の名代」として話している。
内容としては、

力を持つものは責任が伴う。
その責任は国家に忠誠を誓うことだ。
以後はケイノス王国の礎になるように行動しろ。
どの国も勇者とはそう言うものだ。

これをのらりくらり言い回したり、脅してきたりだ。
ハルートとも前日に話をしていて、色んなことをいってくるやつが居るが、王は親友だから、王が口を開くまではキレないでくれと言われている。


「だから、ケイノス王国側として戦争に参加するって言ってるだろ。何が不満なんだよ」

と、俺は言うのだが、宰相は

「ならば何故、国に属さない?!その矛がいつ反転するかもわからないものを使えるか!」
「だから、なら戦争に出ないって・・・」
「この国に居ながら、この国の為に働かないと申すか!!」
「なら、出ていくよ・・・」
「ならん!!星降らしが出国するのは我が国の脅威になる!断じて認められない!」


これの繰り返しである。
一応、ハルートに頼まれてるからこの茶番劇に付き合っているが、うちの女たちは今にもキレそうだ。
俺もはじめは敬語で話していたが、あまりにも堂々巡りで敬語を使ってられなくなった。

当然、イライラしてるのは俺たちだけじゃない。俺たちはかなり我慢をしているが、将軍なのだろうか、短慮なやつが回りを焚き付け、もっとも簡単な答えの出し方を口にする。

「やはり拘束してしまえばいい!この勇者は使い物にならん!」
「いい気になりおって!」
「何様のつもりだ!」
「この状況でございます!どんなに強くてもなす術があるわけがありません!」

四姫桜面子には、俺に任せろと言ってあるので、口を開かず我慢している。
だが、不穏な空気が漂ってくれば、そうも言ってられない。

「ヨシト様、もう簡単に終わらせてしまいましょう・・・・・・・・・・・・
「ヨシト、ケイノスを出よう。ここから出るくらいはわけないよ」
「ヨシト、バセアーに行きましょ?ちょうど良いからお父さんとお母さんに会って」

「なんだと貴様ら!!!やはり亜人は信用ならん!」
「亜人は殺してしまえ!」
「人族をその体で籠絡しているのか!イヤらしい亜人どもめ!」

流石にこれにはカチンと来たが、俺がキレたらここが戦場になってしまう。
それに俺より先にキレたやつがいる。

「だまれえええええい!!」

剣を抜き、床に突きたて、謁見の間が震えるほどの大声だ。
ハルートだ。
ハルートの次の言葉は、俺の予想外のことだった。

「これ以上あやつを刺激するなっ!!!!出ていけっ!貴様ら出ていけ!!!」

周りの兵士たちがハルートの叫びに便乗する。

「そうだ、出ていけ!」
「牢に閉じ込めろ!」

だが、ハルートは周りに向けて剣を突き向ける。

「バカか!貴様らは!!!!出ていくのは貴様らだ!!!王を殺す気か!!!」

回りはポカーンとする。

(いやいや、ハルート。俺我慢してんじゃん。それだけはしないと約束したろ・・・)



次の瞬間、俺にもハルートの言葉の意味が理解出来た。
両手の甲に紋章を光らせ、目の色をなくしかけてる小さな悪魔・・・・・が、白みがかった七色の魔力を体から溢れさせている。



周囲は息を飲む音が聞こえそうなほど静まり返った。まるで、ちょっとの振動で爆発してしまう爆弾を、目の前に置かれたように緊張が走る。

「お、おい、アリサ・・・」
「お兄ちゃん、黙ってて」

アリサは俺に目線も合わさず、

「約束も大事よ?でもね、わからせないとわからない人種もいるのよ。お兄ちゃんはラノベの読み込みが足りないわ。それに私は約束してないし」
「アリサ、お前━━━」

アリサは目の色が消えた瞳で、俺を見る。

「お兄ちゃん、これから何が起ころうと、絶対に手出ししないで。この場を乗り切りたいなら」

有無を言わさない雰囲気だ。もうアリサは止まらないだろう。
仕方ない。
俺はモーラたちに告げる。

「アリサに任せる」
「「「・・・」」」
「ハルート、悪いな」
「・・・」

ハルートも緊張を隠しきれずにいる。いざとなったらアリサに飛びかかるだろう。

トコトコと王に向かって歩きだした。
一人の騎士がアリサに向かって剣を振り上げた。

「うおおおおおお!!」

だが、その騎士はアリサに近づくことも出来ずに、アリサの纏っている七色の魔力によって吹っ飛ばされた。

そしてアリサは王の目の前に立ち、一段高くなってる玉座に座る王を見上げる。
王はこの状況なのに、一言も口を開いてない。
むしろ顔が少しにやけている。まるでこの状況を楽しんでるかのようだ。

「じ、ジョシュア━━」
「ハルート、大丈夫だ・・・・・多分」

駆け出そうとしたハルートを、俺は止める。

「あんた、なんでなにも言わないわけ?」

やっと王はにやけた面で、口を開いた。

「もう終わりか?余としてはもっと派手にしてもらった方が、後の説得が楽なのだが」
「あんた王でしょ?あんたの一言でどうとでもなるじゃない」

王はにやけたまま頬杖をつき、宰相や将軍を見回す。

「そう簡単ではないのだよ。余もほとほと疲れ果ててな。一つ、星でも降らしてもらえればこの後の余の仕事が楽になると思ってな」
「ずいぶんふざけた性格してるわね?、あんたの手抜きで何人死ぬか計算したわけ?」
「四姫桜はリーダーに絶対だと聞いた。そのリーダーがハルートと繋がっている。そうそう死なんだろ?」

アリサの脅し?に、王はまったくビビってない。それどころか余裕を見せている。

アリサの紋章が光輝く。

「残念だったわね、宛が外れたわね。今日から地図を直しなさい。無い王国の名前なんて載せてないで」
「余の別荘予定の屋敷に住んだらしいな。快適か?」
「そう言えば迷宮都市もケイノスだったわね。じゃあ王都だけにするわ」
「罪のない民をも一緒に消すのか?」
「あんたみたいな無能を担ぎ上げてるのが罪よ」

紋章の光は更に激しさを増す。

(まさかと思うが、本当にぶっぱなす気か?・・・・・・、アリサも大人だ。もうアリサに任せよう)

アリサは詠唱を始める。


《地を這う有象無象》

「っ!ちょっとヨシト!」
「だ、大丈夫かい?」

モーラたちが反応するが、俺はアリサに任せた。

「結構これが正しいのかもな」

《天を我が物顔で駆ける龍》

「おいっ!ヨシト!これはまさか!」
「ハルート、すまない。これは星降らしの詠唱だ」

ハルートは俺の胸ぐらを掴む。

「約束が違う!」
「アリサは約束してないってよ」

《我は問う》

「ぬああああ!」
「うおおおお!!」
「貴様ああああ!!」

何人かが、アリサに切りかかったが、アリサの纏っている魔力に全て弾き飛ばされた。
また何か新しい魔法を作ったのか?

《生きるとは何か》

「ヨシト様本当によろしいので?」
「知らん、俺も疲れた。多分ここには落とさんだろ」

《我は与える》

「ヨシト、あたしの故郷はこの大陸の外なんだ。次はそっちの大陸はどうだい?」
「悪くねーな」
「ちょっとヨシト!何を言ってるのよ!」

《生きとし生けるものに等しきものを》

「そうです、フェイダーが先です」
「違うわ!バセアーよ」
「ふざけるな!!!!ヨシト、アレを止めろ!」

ハルートは食ってかかってくるが、もうどうしようもない。アリサ次第だ。だが王は最後の切り札をだした。

《見上げよ。それは滅びの雨なり》

「余はアリサを娶りたい!!!!」

さっきのハルートにも負けない大声量で王は叫んだ。

「・・・・・・はえ?」

アリサの目に色が戻る。一同一気に静まり返る。

「ヨシト!いや、お兄さん!アリサを余にください!!!!」

全員がポカーンとしている。

「アリサは最高だ!この素晴らしいプロポーション!それに子供のようだ!余は実はアリサのような女が大好きだ!余とアリサが結ばれればどこの国に属すなど些細な問題だ、全て丸く解決する!それにこの慎ましい胸!いつまでも愛でていたい!人族でここまで慎ましい胸の女はそうはいない!更にこの力!無敵だ、慎ましい━━━━ぶごおおお!!!!!」

アリサに横っ面をぶん殴られて、王は玉座から宙を舞った。

「「「「「「王おおおおおお!!!」」」」」」

ケイノスは消滅を免れた。
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