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第五章

挨拶回り②

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「孤児院に行ったらまた食い物かな」

ついでにマイアとゴンドの店に寄ることにした。
マイアの店につくと、もうすぐ昼だと言うのに、思ったよりは行列が少ない。
だが、店には売り子の女が二人立っている。
人を雇えるくらいは儲かってるのか。

俺は列に並んで、自分の順番がきてから売り子に話しかける。
うん、本当にこの異世界は、スタイル良い率が高い。脚は絞まってるのに、バインバインだ。
服装が地味だが。

「マイアいるかな?」
「・・・副店長ですか?」

(あいつ、副店長なんだ・・・)

「うん、ヨシトが来たと伝えてくれるかな?」
「・・・わかりました」

1分も立たないうちに、ガタガタガタ!とすごい音を立ててマイアが出てきた。どうやら急いできて、膝に色々ぶつけたようだ。膝を押さえながら走ってくる。

「ヨシト様!!!迷宮踏破、おめでとうございます!!!」
「・・・ちょっと落ち着けよ・・・」
「マイアはっ!もう嬉しくて・・・」

何故かマイアが涙を流す。
おっさんの涙を見ても嬉しくないんだが・・・。

「よお!兄ちゃん!!やりやがったな!」
「ありがとうおっちゃん。で、店はどうだ?」

急に二人の顔が暗くなる。

「それがな・・・」
「ヨシト様、中へどうぞ」

マイアの案内で店の中に入った。




「悪くはない、悪くはないんだ」

どうやら店を維持するくらいは問題ないようだが、当初の勢いはなくなったらしい。

「既におにぎり屋を真似する者も現れました。一応元祖という事で、ライバル店には負けておりませんが、あちらは値段を更に安くし、客を奪っております・・・」
「なるほど・・・」

俺はピンとひらめく。

「ちょっと台所貸してくれ」
「・・・はい・・・?」

俺はキッチンに立つ。
まずは豚?オーク?の肉を薄切りにする。そして20cmオーバーの棒に、炊き上がった米を楕円状にくっつける。その楕円状の棒おにぎりに、薄切りにした肉を巻き付ける。それを焼きながらゴンドのタレを付けて焼いていく。肉とタレの香ばしい香りが沸き立つ。

「こ、これは・・・」
「食ってみろ」

二人は棒おにぎりにかぶりつくと、

「こりゃあうまい!!」
「素晴らしい!手が汚れないのも利点です。私たちのおにぎりは手が汚れるというのも不評でした」
「そうか、まだ終わりじゃない」

今度は米を肉団子のように丸める。それにタレをつけて焼おにぎりにして、長方形の皿に盛り、海苔を細かくちぎったものと、出汁用の魚の燻製を極薄に削ったものを振りかける。それに楊枝のようなものを添えて
たこ焼きモドキだ。

「す、素晴らしい!!!これは女性にも受けますぞ!!!」
「・・・兄ちゃん・・・こりゃあ・・・」
「慌てるな、まだだ」
「「?」」

今度は出汁用の魚の燻製を荒削りし、鍋にぶちこんで湯を沸かす。
出汁が取れたところで、軽く醤油を入れてから、タレを付けないで焼いた焼おにぎりを器にいれ、そこにネギと熱々の出汁をぶっかける。
焼おに茶漬けだ。

マイアとゴンドは、無言でハフハフしながら掻き込む。

「いけるか?」

マイアはもう泣いている。

「やはりヨシト様は素晴らしい!」
「兄ちゃん、これを売っていいのか?兄ちゃんが自分でやれば大儲けだぞ?」 
「俺はいいから。それと値段は下げるな。むしろ高級品としたほうがいい。競争相手がいるんだから、値段以外で差をつけろ。あと、あの売り子さんのカウンターの高さを下げろ。そうだな、売り子さんの膝上くらいの高さにしろ。そのカウンターに売り子さんの腰の高さまで商品を積み上げろ」

二人はきょとんとしている。

「それになんの意味が・・・」
「まだだ、売り子さんに際どいパンツを履かせろ。それとスカートをパンツがギリギリみえるくらいに短くして、売り子さんの給料を上げろ」
「まさか・・・」

おっちゃんは気づいたようだ。

「そうだ。カウンターは低い。かがめばパンツが見えるだろう。だが商品が邪魔だ。商品をどかすには買うしかない。だが中途半端に買ってもスカートが見えるだけだ。パンツが見たいならカウンターを空にするしかないんだよ」

「「天才か!!!!」」

「女と新商品・・・、ゴンド、マイア、天下を取れ」
「おう!!!!」「はい!!!!!」

これでここは安泰だろう。
俺はたこ焼きタイプの焼おにぎりを20皿ほど作り、亜空間倉庫に収納して孤児院に向かった。


数日後、ゴンドとマイアの店の前には、数々の商品を抱えた客が、カウンターの前で寝そべりながら食う姿で溢れ返っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



孤児院につくと、やはり子供たちがまたしても大勢いた。まだ2度目なのに子供たちは俺を見ると、勝手に並びだした。

「飯だ、飯が来たぞ!」
「違う!馬だ」
「誰が馬だよ・・・」

俺は並ぶ子供たちにたこ焼きタイプのおにぎりをくばり、建物の中に入る。建物に入るとアンジェラが待っていた。

「そろそろお出でになると思っておりました」
「さすがだな」

やはりリモアはまた緊張した面持ちになっている。
アンジェラの案内でアンジェラの部屋に通された。

今回はお互い1対のソファーに座り、腰を据えて話す。

「ラステルは俺が殺した」

開口一番に俺がそう言ったが、アンジェラはまるで知ってるかのように驚きを見せない。

「そうですか。ラステルは喜びましたか?」
「・・・何故そう思う?」
「あなたのお顔が、殺したと言うわりには落ち着いております。それはきっと女神ラステルと話し合いをした結果だと思いましたので」

アンジェラは笑顔でそう答える。

「なあ、」
「はい、なんでしょうか?」

俺はアンジェラには、今まで半敬語だった。だが、もうそんなことを言ってる場合じゃない。

「お前がラステルを召喚したのか?」

アンジェラは驚きも不審顔もせず、変わらず笑顔を浮かべている。

「違います。ですが何故そのように思ったのですか?」

俺はとなりに座るリモアの頭に手を乗せ、

「1つはこいつの態度だ。こいつはただの魔物じゃねえ。詳しくは言えないって言うから、詳しくは聞いてない。俺はリモアを信じてるからな、聞かなくてもい。だが、どこの誰かしらから俺に送り込まれてるみたいだ。でもな、こいつは俺に乗り換えたらしいんだ。そんなこいつが、アンジェラに緊張している。あり得ないだろ」

俺はアンジェラに出されたお茶を飲む。

「次にアンジェラのステータスだ。普通だ、普通すぎる。スキルをまったく持ってない人間も見たことない。あまりにも普通の人間・・・・・すぎるんだよ」

アンジェラはここまで言っても、表情を変えない。

「俺がアンジェラのステータスが見えている・・・・・と言ってるんだぞ?それに無反応なのを見たのも始めてだ。なあ、お前、何者なんだ?」

アンジェラは表情を変えずに、お茶を少し飲んだ。
少しの時間、沈黙が流れる。

「私は元孤児の孤児院のシスターです。それ以上でもそれ以下でもありません。ですが、それではご納得いただけないと言うことでしたら、観察者・・・としか言えません」
「・・・それでいいのか?」

はじめてアンジェラの表情が変わった。俺が何を言ってるかわからないと言う顔だ。

「・・・どういう意味でしょうか?」
「俺はアンジェラが何を言おうと何かあると思っている。でも言わないと言う選択をするやつを、無理に言わせようとはしない。でもな、それで俺とアンジェラの間に壁が出来るのは仕方ないことだ。だから、それでいいのか?」

アンジェラは真顔になり、俺をリモアを交互にまっすぐ見つめてくる。

「なら、私からも一言言わせてください。私はあなたの敵ではありません。むしろ味方だと思っております。あなたが私をどう思おうとも、それが変わることはないでしょう。・・・・・・例えあなたに殺されることになろうとも」
「・・・・・・」

アンジェラは笑顔で、しかし芯の入った心持ちを顔に浮かべて言い切った。そしてリモアにも同様の表情を向ける。
ここまで言われてしまえば、これ以上の追及は出来ない。

「わかった。迷宮は踏破した、もうここにはこないだろう」
「かしこまりました。シスターテレサに言伝てはしますが、シスターテレサから言われている、迷宮内の取得品などは直接ご報告お願いいたします」
「・・・・・・わかった」


解消出来なかった不満を抱え、俺は孤児院を後にした。
だが、リモアの目には火が灯ったように力が入っていた。
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