上 下
55 / 105
第五章

拠点

しおりを挟む
そこからは各人分散して、対応することにした。
リモアとメイが俺のそばに残ると言ったが、リモア以外は解放した。
何故?質問ラッシュを処理しきれないからだ。
情報は、100階層以外は全て公開していいとした。
100階層まで行けるやつがいるかはわからないが、万一誰かが到達したことを考えてだ。じいさんには釘を刺さなければならない。

もちろん母さんの遺体だってのもあるが、母さん曰く、母さんの遺体が迷宮の核になってるそうで、母さんの遺体を持ち出したり破壊すれば、最悪迷宮がどうなるかわからない。魔物が出現しなくなり魔石の産出が止まることも問題だが、もし迷宮が崩れたら迷宮都市が崩壊するかもしれない。
それだけは言っておかなければならないだろう。

葉っぱは、立食パーティーの飯をわしわしと食いながら、質問に対応している。四人はそれぞれ酒をのみながら武勇伝を語っている。

俺はリモアと辺境伯、ギルドマスターのじいさんと話をしている。

「そういうわけで、100階層に行かせないようにした方がいい」
「ヨシトよ、貴重な情報感謝する」
「まあ、ここが潰れたら俺も困りますから」

女神の正体が母さんだと言うことは言ってない。

「じいさん、満足か?」
「すまなかった」

じいさんは立ち上がって頭を下げた。

「謝らなきゃいけないことをしたのか?」
「・・・・・・」

じいさんは俺の嫌みに返答せずに頭を下げたままだ。

「・・・・・・もういい。面倒くさいから。頭をあげなよ」
「ありがとう・・・」
「私は謝ることではないと思ってるが、一応言っておくことがある」
「情報屋ですか?」

辺境伯がドキリとした。

「知っていたのか」
「いや、あの飯食ってる女、葉っぱを着てるやつですけど」

辺境伯は首を傾げる。

「新しい仲間が何なのだ?」

辺境伯はきょとんとしている。

(なるほど。やっぱり辺境伯はキャサリンに頼みはしたが、末端までは知らないってことか)

「あいつが情報屋です」
「っ!、なにっ!」

辺境伯は目を見開いたが、すぐに大笑いした。

「流石稀代の女殺しよ!龍だけでなく女も必殺だな!」

辺境伯は陽気に俺の肩を叩いた。
いや、殺してはいないのだが・・・・・・、奴隷にしたならある意味殺してるかもしれないが、それなら殺したのはメイだ。

「してヨシトよ、魔石などはどうなってる?」
「70階層以降の魔物の情報とかは、今モーラたちが話してるので、それを聞いといてください。魔石は今ここで出しますか?」

辺境伯はじいさんの顔を見たあと、

「頼めるか?」
「では出しましょう」

俺は今回の迷宮探索で入手したもの、全てを出した。

「装備は7つのみ、70台の階層に宝箱が数点ありましたが、これは多分迷宮で死んだ人の装備でしょう。大したものじゃありません。装備に関しては俺たちが使います。それとこれはアダマンタイトです。これも俺たちが使います。あとはこの羽毛の塊、これも持ち帰ります。それ以外は売っても良いですよ」

二人は目を丸くしている。言葉が出ないようだ。

「さ、触っても良いだろうか」
「どうぞ」

辺境伯は俺がテーブルに置いた双剣を、腫れ物を触るように握った。

「・・・ん?重いな・・・ふんっ!」

辺境伯は炎の剣を鞘に入ったまま持ち上げようとするが、まるで10kgの米の袋でも持ち上げるように腰を落とす。

「こ、これを振れるのか?」

(嘘だろ?いやいや、そんなに重いわけがない。・・・・・・まさか、元は紋章だから紋章に耐えれない人は持てないとか、そんな感じか?)

「ちょっと良いですか?」
「ああ」

俺は辺境伯から軽く炎の剣を取り、軽々と鞘から抜く。
辺境伯からちょっと離して魔力を込めると、刀身がゴウゴウと燃え上がった。

「「おおおおおお」」

(問題なく使える。多分元が紋章だってのが関係してるな・・・・・・なら葉っぱは?、あいつも紋章を持ってないだけで紋章に対応出来る人間だったってことか?)

この辺は更なる実験が必要だろう。

俺は炎の剣を鞘に戻し、テーブルに置いた。
じいさんはテーブルの隣に並べられた魔石たちを見ている。

「ありゃ、本当に魔石なのか?」
「それしかないだろ」

じいさんは独り言に突っ込まれたように、わたわたした。

「いや、疑ってるのではない!すまぬ、あまりにも現実離れした大きさなのでじゃな・・・、目の前で観とるのに・・・・・・」
「私も同じ気持ちだ。一体いくらの値を付けたら良いのか、検討もつかん」

一番大きいのは98階層の直径1mの魔石だ。
その下になるとバスケットボールより大きいぐらいまで下がるが、今までで一番大きかったのがテニスボール大だったのだ。びっくりするのは当然だった。

「話は変わるが、ヨシトよ。私からプレゼントがある」
「・・・なんでしょう?」
「ヨシトらはまだ宿屋暮らしと聞いた。迷宮を踏破した英雄がそれはないだろう。私から拠点として屋敷を用意した。使ってくれぬか?」

俺はガタッと立ち上がる。

「マジで━━、本当ですかっ!」
「お、おお、そんなに喜ばれるとは思わなかったぞ・・・、何やら風呂が好きだと聞く。大きな風呂もついてるぞ」

俺は辺境伯の手を握り、

「ありがとうございます!」

辺境伯もじいさんも、あまりの俺の食い付きにドン引きだった。

「一応言っとくが、変な仕掛けもしていない、ここに縛り付ける為でもない。あくまでもただのプレゼントだ」
「大丈夫です!いただきます!いつから見れますか!?」
「・・・・・・今から往くか?」
「行きます!」

宴会も既に二時間は立っている。宴もたけなわってとこだろう。

「では向かうか、おい」

あっスマホだ。
スマホは辺境伯に呼ばれて、宴会の終了を歌い上げた。
ほろ酔いの四姫桜も集まってきて、拠点の話をすると、

「良いわね、行きましょ」
「これであたしらもいっぱしのクランになるね」
「やっとお風呂ね!」
「すぐ向かいましょう」
「(モグモグモグモグ)」

ギルドの外には場所が待機しており、辺境伯とスマホ、俺とリモアが一緒に乗り、後続に四姫桜が乗って出発した。

拠点は、迷宮都市の中でも高級地区と言われている北の居住区域だった。

「おおおおお」
「うわああ」
「大きいわね」
「これは・・・」
「ヨシト様にふさわしい住まいです」

敷地の広さは、正直言ってわからない。
だが、屋敷以外の庭の部分で、テニスコート2面分はある。更に裏庭でテニスコート1面分ぐらいだ。
屋敷は2階建てだ。基本的には木造作りのようだが、日本の家屋のようにしっかりしているように見える。
スマホの案内で中に入ると、大きな玄関ホールがあり、ここだけでも日本の感覚だとリビングぐらいある。
玄関から奥に進むと30畳ほどだろうか、ぎゅうぎゅうに詰めれば百人は入るだろう食堂がある。その奥には応接間、更に奥には魔導コンロが4台ついたキッチン、最新式の魔導冷蔵庫まである。更に廊下は奥に続き、離れと言うくらい離れた場所に、20畳ほどの部屋がある。
こんなに離れた場所で何をするのだろうか。エロいことだろうか。
キッチンの隣には待望の大浴場だ。
風呂自体は6畳ぐらいだろうか、大理石のような白い滑らかな石で出来ており、充分全員で入れる。
同じく洗い場も6畳ほど、脱衣室も6畳ほどだ。
水を生み出す魔石と、煙突が家屋の外に出ている風呂に直結する鉄の釜がついてるが、アリサとメイのお湯魔法のが早いだろう。
これは早く入りたい。
更に客間が3つほどあり、もう一部屋、書斎のような部屋とその地下に、10畳ほどの地下室があった。
トイレ用の部屋もあった。1階と2階に2畳ほどの部屋が1つずつある。下水もぼっとんも付いてないこれではマイアの店で買ったこのトイレしか置けないな。まあ、それが一番だから良いのだが。
これで1階は終了だ。

2階にあがると、ちょうど食堂の上あたりにバルコニーがあり、バルコニーも食堂よりちょい小さいくらいの大きさなので開放感がある。
バルコニーへ出れる部屋は1つしかない。それが大寝室だ。キングサイズのベッド、3人がけのソファーが1対、タンス、テーブルなどもろもろ揃っている。
その他の2階の部屋は、全て同じ作りの部屋が7部屋あり、それぞれの個室に出来そうだ。


「決まりだな」
「そうね、決まりね」
「でもヨシト様、大事な拠点を他人に用意してもらって大丈夫なんでしょうか?」

メイが心配すると、辺境伯が割って入る。

「これは私のプレゼントだ。仮にここに何かしらの罠をしかけたとしても、ヨシトら全員を一網打尽にすることは出来ないだろう。万が一1人でも生き残れば私は終わりだ。そんな危ない橋は渡らないよ」

辺境伯は軽やかに笑う。

(こういう本音くさい物言いが好感もてる。これが作戦だったら参るけどな・・・)

「あー、しまった」

辺境伯は今思い出したと言わんばかりに、ポンと手を叩く。

「奥方たちへのプレゼントを忘れてしまった。すまぬな」
「「「「奥方?!!!!!」」」」

モーラたちは大きく反応する。

「あた━━私たちは構わない━━ですのよ」

お前、本当にモーラか?

「そうですわよ?お気になさらないで?こちらこそお歳暮でもだそうかしら?」

・・・・・・。

「お気になさらないでください。妻である私たちに気遣いは無用です」

さっきまでの警戒心はどこにやった、メイ・・・

俺は隣にいるメリッサを見る。

「あれ?お前はやらないの?」
「流石にアレを見たら引くわ・・・。特にモーラ、なによアレ・・・」

(意外だった。メリッサが一番やりそうなのに。先に酔われると自分が酔えないみたいな現象か?)

「失礼ね。違うわよ」
「・・・久しぶりにメリッサに読まれたな・・・」

一番チョロいメリッサが何か言ってるが、俺はこのチョロい桜どもを放置して、もう一度屋敷を見て回った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。