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第五章
自己紹介
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長かった迷宮探索も終わりを迎えた。女神がまさかの母さんという、ドラマにならないドラマがあったが、実入りもかなりあった。
だが、迷宮を終えた俺たちには、ある意味迷宮探索より大変な日常が待っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
転移で、一気に地上だと思っていた俺たちのたどり着いた場所は、9階層だった。
「ここはっ9階層だよっ!」
「・・・・・・なんで地上じゃないんだ?ここまでしか無理なのか?」
多少「転移酔い」とでも言うのだろうか、すこしふらふらする身体に力を入れて、みんなの無事を確認する。全員の無事は確認出来たが、やはり皆ふらふらするようだ。
リモアは甘えるように俺の背中から顔を肩に乗せるように抱きついて来て、俺の首を抱き締める。
「もぉ~~~っ、そんなわけないじゃんっ!いきなり地上に出たらっ、困るのはマスターでしょっ」
「あっ、なるほど」
聖女神教の総本山では、空間魔法の使用者は国に管理されると言っていた。それが目撃されてしまえば、また面倒になるのは間違いがない。
むしろ、それに気を使えるリモアに驚きだ。
1階層にしなかったのも、人の目が多いだろうと言う判断だろう。
俺たちは地上に向かって進む。9階層ごときでは無人の野を歩くのとなんら変わりはない。
予想外に先頭をアリサが歩き、新しく入手した槍で魔物をバンバン突いて煙にしていく。
階層が浅くなるほど、やはり冒険者と会うことが多くなった。
冒険者たちは俺たちを見て、口々に「生きてた!」「アンデットか?!」などを呟いていく。
メリッサとモーラが軽く受け答えをしながら、どんどん上に上がる。
そして昼過ぎには地上に出れた。
「「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」」
「本当に生きてるぞ!」
「まさか踏破したのか?!!!」
「あり得るわけがない!」
「ケイノスは助かるぞ!!!」
「踏破者だ!、龍殺しが迷宮を踏破したぞっ!」
「英雄だ!」
「領主様に知らせろっ!!」
大騒ぎになっていた。
俺がうんざりしていると、
「ヨシト、これは仕方ないわよ。諦めなさい」
「あたしらも英雄か、そんなガラじゃないけど悪い気はしないね」
「お兄ちゃん、これからが大変よ」
「ヨシト様は偉大なのです。このくらいは当然です」
「よっちゃん、ガンバ!」
葉っぱが両手をグーにして、胸の前でブンブンと振る。それに合わせて胸も揺れる。
(葉っぱのこれに、イラッともしたな・・・。でも奴隷にしちまったからか、前ほどなんとも思わねえな)
とりあえずは冒険者ギルドに行って、報告と情報を仕入れにいく。
道中でも、まるで英雄の凱旋かのように、街の人が話しかけてきた。
俺以外の四姫桜のメンバーが、歩きながら対応する。
「すげえ!四姫勢揃いだな!」
「やっぱベッピン揃いだ。くそお、あの男め」
「当たり前だろ?迷宮帰りなんだから」
「おい、二人増えてるぞ?」
「ありゃあ誰だ?飛んでる幼女と、・・・葉っぱ?なんだあの葉っぱは」
「どっかの原住民か?」
「俺噂で聞いたことあるぞ、あれ「鎧姫」じゃねえか?」
「っ!!!嘘!鎧の中身あれかよ!!!!・・・・・・結構イイ身体じゃねえか」
そんなヤジのようなひそひそ話をあちこちから聞きながら、俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。
冒険者ギルドの入り口には俺たちがゆっくり歩いて来たからか、ギルドの職員が待っていた。
見覚えがある。ポーターになる研修の時に、修練場で俺をシゴいたやつだ。
「あの根性なしがまさかこんなことになるとはな」
「おかげさまで・・・ってほどでもないな」
「偉そうに、来い、修練場に席を作ってある」
「・・・何故修練場?」
「狭すぎるからだ、みんな話を聞きたがっている」
剣呑な雰囲気に聞こえるかも知れないが、お互いに顔は笑っている。
俺たちは冒険者ギルドの教官に着いていき、修練場に向かった。
修練場は急いで作ったパーティー会場みたいになっていた。テーブルが何台も設置され、椅子も壁際にどんどん運び込まれている。
ギルドの職員が何人も忙しく動き回り、立食パーティーを準備しているように見える。
「適当に座ってろ。簡単な宴会を開く。今ギルドマスターがこちらに来る」
「まあ、ここで帰るほど空気が読めないわけじゃないから」
何よりうちの面子は、誇らしげに喜んでいるのだ。これを折るつもりはない。
「・・・・・・で、踏破したのか?」
「ああ」
「っ!!!」
教官は大きく目を見開いた。
そして俺の背中をバンバンと叩いた。
「そうかっ!!!、やったな!」
「まあ、モーラたちの力だけどな」
「・・・、踏破したと言ってもいいか?」
教官は回りにすぐに言いふらしたくて、ウズウズしてるようだ。
「いいぞ」
「よし!そうか、よし!」
教官がどこかに走っていった。しばらくすると、あちこちから歓声が沸き上がる。
アリサが俺をツンツンとつついてきて、
「お兄ちゃん、良かったの?」
「隠しても仕方ないだろ。それに敵対される雰囲気にも見えないしな。仮に敵対されても誰がお前たちに勝てる?・・・モーラたちも誇らしげだし、いいんじゃないか?」
メリッサが俺の前にくる。
「でも世の中には色んなやつが居るわ。警戒はしとくわね」
モーラが俺の後ろに立つ。
「あたしも警戒しとくよ。相手が殺気を向けてくれればすぐにわかるけどね」
「ああ、頼むよ」
俺たちが話し込んでる間にも、どんどん宴会の準備は進んでいく。
そして、ギルドマスターのじいさんが走ってやって来た。
じいさんの顔は、驚きと信じられないと言う気持ちが、おもいっきり顔に出ている。
すこし震える手を俺に伸ばしながら、ゆっくりと俺の腕を掴んだ。
「ほ、本当なのか・・・」
「ああ」
「最・下層に・・・?」
「100階層が最下層だった」
「っ!お、おおお・・・」
じいさんは目から涙を流す。そして座り込んでしまった。
じいさんはなにやらぶつぶつと呟いている。
どうやら昔の仲間の名前やらなにやらみたいだ。
じいさんの御付きの秘書のような女が、俺に話しかける。
「デッセンブルグ辺境伯様もじきにいらっしゃいます。それまではおくつろぎください。迷宮の武勇伝などはその時にお聞かせ頂けるとありがたいです」
「わかった」
秘書は、じいさんの両肩を抱え、どこかに連れていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
続々と人と料理が集まってくる。
その間も冒険者たちが俺たちの回りに集まってくるが、大まかな話はあとでするからと適当にあしらうも、それでも話を聞きたくて動かないやつらがたくさんいるため、モーラたちが軽く話をしている。
その内容に、歓声が沸き上がる。
しばらくすると辺境伯がやって来た。
まっすぐ俺のところにくる。
「ヨシトよ、やりおったな」
「まあ、色々ありまして」
「して、証拠の品などもあるのか?」
「証拠と言っても魔石やドロップ品ぐらいですよ?」
「充分だ。このことは王都にも知らせを走らせている。構わぬな?」
「はい、良いですよ。一つだけ良いですか?」
「水くさい、何でも言え」
「街の人の話に、ケイノスが助かると言うのがありました。あれは何ですか?」
辺境伯はドキリとした。そして神妙な面持ちになり、
「その件は相談したいと思っておった。だが、この場が終わり落ち着いてからで構わぬ。数日以内に私の屋敷に来てくれぬか」
「・・・・・・わかりました」
すると辺境伯は笑顔に戻り、
「今はヨシトらの英雄譚をみなが聞きたがっている。もちろん私もだ。さあ、あの台に立ち、皆に聞かせてくれ!」
辺境伯が指差す方向には、ステージのような台がある。
大袈裟すぎだと思うが、ここは辺境伯の言うとおりにすることにした。
俺たちが7人全員でステージに上がると、辺りは静まり返った。
「・・・あー、みなさま、本日はお日柄もよく、遠いとこからもご足労━━━━━」
「どうした!そんなガラじゃねーだろ!」
「「「「がはははははははは」」」」
俺の演説の枕詞は、優しいヤジによって救いを与えられた。
俺は苦笑いを浮かべ、
「あー、俺が四姫桜のリーダー、ヨシトだ。知ってるやつがほどんどだと思うが紹介をする」
俺は右手をあげ、一番右にいるメイから紹介する。
「うちの回復術師、メイだ」
俺がそういうと、メイは背中から弓を抜いた。
メイは隣にいるメリッサにボソボソと何か言うと、メリッサは亜空間倉庫からソフトボールほどの魔石を取り出した。
メリッサはそれを真上に天高く投げる。
メイは新しく入手した【千年氷】に魔力を通し、弦と矢を発現させ、弓を引き絞り、空に向かって矢を放つ。
「フリーズアロー!」
矢は魔石に命中し、魔石は1mほどの氷の塊になって落ちてきた。
あたりに落下音のドン!と言う轟音が響き渡る。
「メイ=ホースニールです。宜しくお願い致します」
メイのパフォーマンスに、辺りは静まり返るが、数秒で割れんばかりの歓声が帰って来た。
「なるほどね、そういうことね」
「面白いね、あたしはどうしようかな」
「お兄ちゃん、降らしてイイ?」
「ダメに決まってるだろ」
俺は歓声が落ち着くのを待って、次の紹介をする。
「えー、その隣がうちのポーターにして、前衛のメリッサだ」
メリッサはステージから降りて、メイが作った氷の塊に手を添える。
「はっ!!!!」
・・・なにも起こらない。だが、数秒で魔石を覆う氷が粉々に砕け、氷の瓦礫から魔石が現れた。
メリッサはそれをモーラに投げ渡すと、
「私が狼の獣人、メリッサよ」
メリッサは尻尾を軽くフリフリして、パンツが見えるのも気にせずにステージに飛び乗った。
・・・
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「いいぞー!」
「メリッサちゃん、最高だ!!」
「可愛い!!!」
またまた大歓声が沸き起こる。メリッサが愛想を振り撒く。
「・・・嘘つくんじゃねーよ」
「いいじゃない」
歓声が収まる。
「あー、モーラだ。うちの剣士だ」
モーラは魔石を真上に投げる。
そして片ひざをつき、居合いのように【風従・天羽々斬】を構える。
キン!
落ちてきた魔石に向かって刀を振り抜くと、大きな胸が腕を振り切った反動で、ぶるんっと揺れる。
魔石は数秒立ってから横にゆっくりとずれ、上下に真っ二つになった。
「モーラ=ドーランドだよ」
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「モーラちゃーーーん!!!」
「結婚してくれぇぇぇぇ!」
「あり得ない・・・」
「たわわ・・・」
「もったいない・・・」
最後のあれはじいさんだな。
魔石は硬い。特殊な魔道具を使って、やっと加工できるくらいだ。剣で真っ二つなんてあり得ないのだ。
モーラも誇らしげに立ち上がり、2つになった魔石をアリサに渡す。
「これを私にどうしろって言うのよ・・・」
「見せ場だよ、アリサ」
モーラはニコリとアリサに渡す。
「仕方ないわね・・・」
と言いつつ、アリサは何やら企んでる顔をする。
「あー、左にいるのは俺の妹、アリサだ。星降らしって言えばわかるか」
アリサら左手の紋章を灯し、目の色をなくす。
《月を見上げるのはたれか》
《雲を見下ろすのはたれか》
《呼び覚まされるのは力の化身》
《出でよ。天を分かつものよ》
「大魔人」
辺り一面が地震が襲う。
修練場の奥、誰も居ない場所の土地が盛り上がっていく。
地響きを従えながら、土の塊はどんどんと人の形を為していく。
それは優に20mを越える大きさになると、ステージまで歩いてくる。
観客の冒険者は恐れおののいている。一人だけ辺境伯が、
「素晴らしい・・・」
と、呟いた。
ズン!、ズン!、ズン!、ズン!
そしてゴーレムはゆっくり歩みより、巨大な両手をステージの両脇に出し、手のひらを広げる。アリサは両手の手のひらの中に、半分に切れた魔石をそれぞれ入れる。
ゴーレムはそれを握りつぶすように握りしめると、粉々になった魔石をパラパラと地面に落とした。
「私がヨシトお兄ちゃんの妹の、アリサ=サカザキよ」
アリサは満面のどや顔で、投げキッスをする。
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「アリサァァァァァ!」
「無敵だあああ!」
「絶壁だあああああ!!!!」
「お兄さん!アリサさんをください!!!!」
アリサは不穏な歓声をあげたやつをにらみ探す。
アリサは言うほど絶壁ではないのだが・・・、リモアのほうがよっぽど絶壁である。
「その隣が葉っ━━━、ソフィア」
初めて葉っぱの名前を呼んだ。葉っぱはビックリした顔をして俺を見たが、すぐに隣のアリサにどうすればいいか相談した。
葉っぱは背中の【ミョルニル】を左手に持ち、くるくると片手で回したあと、立ち上がってそびえ立つゴーレムに向けて、右手を向ける。
「電撃!」
ズガガガガーーーーン!
ミョルニルが輝き、アリサのゴーレムに雷が何本も落ちた。雷魔法は実は珍しい。全く居ないわけではないが、亜空間倉庫持ちを探す何倍も大変くらいだ。
「あたいはソフィアだよ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
歓声はあがったがそれだけだった。
「最後にリモア。リモアはヴァンパイアで俺の従魔だ」
四姫桜の面々はビックリして俺を見たが、隠しててあとでバレるよりこのタイミングがベストと思い、俺はバラした。
するとリモアは瞬間移動で消える。
「リモアだよっ!」
「うわっ!」
観客の1人の後ろに現れる。
「リモアだよっ!」
「ひっ!」
「リモアだよっ!」
「っ!」
「リモアだよっ!」
数回それを繰り返すと、風神と雷神を自分の亜空間倉庫から取り出し、ヘリコプターの羽のようにぐるぐると高速で回り出した。
そしてそびえ立つゴーレムにコマのように突撃していく。
ズガガガガ!
ゴーレムは輪切りになった。
「私のゴーレムが・・・」
アリサもこれにはビックリした。
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「新たな絶壁が!!!」
「娘にしたい!」
「俺の従魔になってくれ!!!」
「これが四姫桜だ。だいたいわかってもらえたか?」
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
宴会はまだまだ続いた。
だが、迷宮を終えた俺たちには、ある意味迷宮探索より大変な日常が待っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
転移で、一気に地上だと思っていた俺たちのたどり着いた場所は、9階層だった。
「ここはっ9階層だよっ!」
「・・・・・・なんで地上じゃないんだ?ここまでしか無理なのか?」
多少「転移酔い」とでも言うのだろうか、すこしふらふらする身体に力を入れて、みんなの無事を確認する。全員の無事は確認出来たが、やはり皆ふらふらするようだ。
リモアは甘えるように俺の背中から顔を肩に乗せるように抱きついて来て、俺の首を抱き締める。
「もぉ~~~っ、そんなわけないじゃんっ!いきなり地上に出たらっ、困るのはマスターでしょっ」
「あっ、なるほど」
聖女神教の総本山では、空間魔法の使用者は国に管理されると言っていた。それが目撃されてしまえば、また面倒になるのは間違いがない。
むしろ、それに気を使えるリモアに驚きだ。
1階層にしなかったのも、人の目が多いだろうと言う判断だろう。
俺たちは地上に向かって進む。9階層ごときでは無人の野を歩くのとなんら変わりはない。
予想外に先頭をアリサが歩き、新しく入手した槍で魔物をバンバン突いて煙にしていく。
階層が浅くなるほど、やはり冒険者と会うことが多くなった。
冒険者たちは俺たちを見て、口々に「生きてた!」「アンデットか?!」などを呟いていく。
メリッサとモーラが軽く受け答えをしながら、どんどん上に上がる。
そして昼過ぎには地上に出れた。
「「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」」
「本当に生きてるぞ!」
「まさか踏破したのか?!!!」
「あり得るわけがない!」
「ケイノスは助かるぞ!!!」
「踏破者だ!、龍殺しが迷宮を踏破したぞっ!」
「英雄だ!」
「領主様に知らせろっ!!」
大騒ぎになっていた。
俺がうんざりしていると、
「ヨシト、これは仕方ないわよ。諦めなさい」
「あたしらも英雄か、そんなガラじゃないけど悪い気はしないね」
「お兄ちゃん、これからが大変よ」
「ヨシト様は偉大なのです。このくらいは当然です」
「よっちゃん、ガンバ!」
葉っぱが両手をグーにして、胸の前でブンブンと振る。それに合わせて胸も揺れる。
(葉っぱのこれに、イラッともしたな・・・。でも奴隷にしちまったからか、前ほどなんとも思わねえな)
とりあえずは冒険者ギルドに行って、報告と情報を仕入れにいく。
道中でも、まるで英雄の凱旋かのように、街の人が話しかけてきた。
俺以外の四姫桜のメンバーが、歩きながら対応する。
「すげえ!四姫勢揃いだな!」
「やっぱベッピン揃いだ。くそお、あの男め」
「当たり前だろ?迷宮帰りなんだから」
「おい、二人増えてるぞ?」
「ありゃあ誰だ?飛んでる幼女と、・・・葉っぱ?なんだあの葉っぱは」
「どっかの原住民か?」
「俺噂で聞いたことあるぞ、あれ「鎧姫」じゃねえか?」
「っ!!!嘘!鎧の中身あれかよ!!!!・・・・・・結構イイ身体じゃねえか」
そんなヤジのようなひそひそ話をあちこちから聞きながら、俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。
冒険者ギルドの入り口には俺たちがゆっくり歩いて来たからか、ギルドの職員が待っていた。
見覚えがある。ポーターになる研修の時に、修練場で俺をシゴいたやつだ。
「あの根性なしがまさかこんなことになるとはな」
「おかげさまで・・・ってほどでもないな」
「偉そうに、来い、修練場に席を作ってある」
「・・・何故修練場?」
「狭すぎるからだ、みんな話を聞きたがっている」
剣呑な雰囲気に聞こえるかも知れないが、お互いに顔は笑っている。
俺たちは冒険者ギルドの教官に着いていき、修練場に向かった。
修練場は急いで作ったパーティー会場みたいになっていた。テーブルが何台も設置され、椅子も壁際にどんどん運び込まれている。
ギルドの職員が何人も忙しく動き回り、立食パーティーを準備しているように見える。
「適当に座ってろ。簡単な宴会を開く。今ギルドマスターがこちらに来る」
「まあ、ここで帰るほど空気が読めないわけじゃないから」
何よりうちの面子は、誇らしげに喜んでいるのだ。これを折るつもりはない。
「・・・・・・で、踏破したのか?」
「ああ」
「っ!!!」
教官は大きく目を見開いた。
そして俺の背中をバンバンと叩いた。
「そうかっ!!!、やったな!」
「まあ、モーラたちの力だけどな」
「・・・、踏破したと言ってもいいか?」
教官は回りにすぐに言いふらしたくて、ウズウズしてるようだ。
「いいぞ」
「よし!そうか、よし!」
教官がどこかに走っていった。しばらくすると、あちこちから歓声が沸き上がる。
アリサが俺をツンツンとつついてきて、
「お兄ちゃん、良かったの?」
「隠しても仕方ないだろ。それに敵対される雰囲気にも見えないしな。仮に敵対されても誰がお前たちに勝てる?・・・モーラたちも誇らしげだし、いいんじゃないか?」
メリッサが俺の前にくる。
「でも世の中には色んなやつが居るわ。警戒はしとくわね」
モーラが俺の後ろに立つ。
「あたしも警戒しとくよ。相手が殺気を向けてくれればすぐにわかるけどね」
「ああ、頼むよ」
俺たちが話し込んでる間にも、どんどん宴会の準備は進んでいく。
そして、ギルドマスターのじいさんが走ってやって来た。
じいさんの顔は、驚きと信じられないと言う気持ちが、おもいっきり顔に出ている。
すこし震える手を俺に伸ばしながら、ゆっくりと俺の腕を掴んだ。
「ほ、本当なのか・・・」
「ああ」
「最・下層に・・・?」
「100階層が最下層だった」
「っ!お、おおお・・・」
じいさんは目から涙を流す。そして座り込んでしまった。
じいさんはなにやらぶつぶつと呟いている。
どうやら昔の仲間の名前やらなにやらみたいだ。
じいさんの御付きの秘書のような女が、俺に話しかける。
「デッセンブルグ辺境伯様もじきにいらっしゃいます。それまではおくつろぎください。迷宮の武勇伝などはその時にお聞かせ頂けるとありがたいです」
「わかった」
秘書は、じいさんの両肩を抱え、どこかに連れていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
続々と人と料理が集まってくる。
その間も冒険者たちが俺たちの回りに集まってくるが、大まかな話はあとでするからと適当にあしらうも、それでも話を聞きたくて動かないやつらがたくさんいるため、モーラたちが軽く話をしている。
その内容に、歓声が沸き上がる。
しばらくすると辺境伯がやって来た。
まっすぐ俺のところにくる。
「ヨシトよ、やりおったな」
「まあ、色々ありまして」
「して、証拠の品などもあるのか?」
「証拠と言っても魔石やドロップ品ぐらいですよ?」
「充分だ。このことは王都にも知らせを走らせている。構わぬな?」
「はい、良いですよ。一つだけ良いですか?」
「水くさい、何でも言え」
「街の人の話に、ケイノスが助かると言うのがありました。あれは何ですか?」
辺境伯はドキリとした。そして神妙な面持ちになり、
「その件は相談したいと思っておった。だが、この場が終わり落ち着いてからで構わぬ。数日以内に私の屋敷に来てくれぬか」
「・・・・・・わかりました」
すると辺境伯は笑顔に戻り、
「今はヨシトらの英雄譚をみなが聞きたがっている。もちろん私もだ。さあ、あの台に立ち、皆に聞かせてくれ!」
辺境伯が指差す方向には、ステージのような台がある。
大袈裟すぎだと思うが、ここは辺境伯の言うとおりにすることにした。
俺たちが7人全員でステージに上がると、辺りは静まり返った。
「・・・あー、みなさま、本日はお日柄もよく、遠いとこからもご足労━━━━━」
「どうした!そんなガラじゃねーだろ!」
「「「「がはははははははは」」」」
俺の演説の枕詞は、優しいヤジによって救いを与えられた。
俺は苦笑いを浮かべ、
「あー、俺が四姫桜のリーダー、ヨシトだ。知ってるやつがほどんどだと思うが紹介をする」
俺は右手をあげ、一番右にいるメイから紹介する。
「うちの回復術師、メイだ」
俺がそういうと、メイは背中から弓を抜いた。
メイは隣にいるメリッサにボソボソと何か言うと、メリッサは亜空間倉庫からソフトボールほどの魔石を取り出した。
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「フリーズアロー!」
矢は魔石に命中し、魔石は1mほどの氷の塊になって落ちてきた。
あたりに落下音のドン!と言う轟音が響き渡る。
「メイ=ホースニールです。宜しくお願い致します」
メイのパフォーマンスに、辺りは静まり返るが、数秒で割れんばかりの歓声が帰って来た。
「なるほどね、そういうことね」
「面白いね、あたしはどうしようかな」
「お兄ちゃん、降らしてイイ?」
「ダメに決まってるだろ」
俺は歓声が落ち着くのを待って、次の紹介をする。
「えー、その隣がうちのポーターにして、前衛のメリッサだ」
メリッサはステージから降りて、メイが作った氷の塊に手を添える。
「はっ!!!!」
・・・なにも起こらない。だが、数秒で魔石を覆う氷が粉々に砕け、氷の瓦礫から魔石が現れた。
メリッサはそれをモーラに投げ渡すと、
「私が狼の獣人、メリッサよ」
メリッサは尻尾を軽くフリフリして、パンツが見えるのも気にせずにステージに飛び乗った。
・・・
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「いいぞー!」
「メリッサちゃん、最高だ!!」
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「・・・嘘つくんじゃねーよ」
「いいじゃない」
歓声が収まる。
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そして片ひざをつき、居合いのように【風従・天羽々斬】を構える。
キン!
落ちてきた魔石に向かって刀を振り抜くと、大きな胸が腕を振り切った反動で、ぶるんっと揺れる。
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「モーラちゃーーーん!!!」
「結婚してくれぇぇぇぇ!」
「あり得ない・・・」
「たわわ・・・」
「もったいない・・・」
最後のあれはじいさんだな。
魔石は硬い。特殊な魔道具を使って、やっと加工できるくらいだ。剣で真っ二つなんてあり得ないのだ。
モーラも誇らしげに立ち上がり、2つになった魔石をアリサに渡す。
「これを私にどうしろって言うのよ・・・」
「見せ場だよ、アリサ」
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「仕方ないわね・・・」
と言いつつ、アリサは何やら企んでる顔をする。
「あー、左にいるのは俺の妹、アリサだ。星降らしって言えばわかるか」
アリサら左手の紋章を灯し、目の色をなくす。
《月を見上げるのはたれか》
《雲を見下ろすのはたれか》
《呼び覚まされるのは力の化身》
《出でよ。天を分かつものよ》
「大魔人」
辺り一面が地震が襲う。
修練場の奥、誰も居ない場所の土地が盛り上がっていく。
地響きを従えながら、土の塊はどんどんと人の形を為していく。
それは優に20mを越える大きさになると、ステージまで歩いてくる。
観客の冒険者は恐れおののいている。一人だけ辺境伯が、
「素晴らしい・・・」
と、呟いた。
ズン!、ズン!、ズン!、ズン!
そしてゴーレムはゆっくり歩みより、巨大な両手をステージの両脇に出し、手のひらを広げる。アリサは両手の手のひらの中に、半分に切れた魔石をそれぞれ入れる。
ゴーレムはそれを握りつぶすように握りしめると、粉々になった魔石をパラパラと地面に落とした。
「私がヨシトお兄ちゃんの妹の、アリサ=サカザキよ」
アリサは満面のどや顔で、投げキッスをする。
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「アリサァァァァァ!」
「無敵だあああ!」
「絶壁だあああああ!!!!」
「お兄さん!アリサさんをください!!!!」
アリサは不穏な歓声をあげたやつをにらみ探す。
アリサは言うほど絶壁ではないのだが・・・、リモアのほうがよっぽど絶壁である。
「その隣が葉っ━━━、ソフィア」
初めて葉っぱの名前を呼んだ。葉っぱはビックリした顔をして俺を見たが、すぐに隣のアリサにどうすればいいか相談した。
葉っぱは背中の【ミョルニル】を左手に持ち、くるくると片手で回したあと、立ち上がってそびえ立つゴーレムに向けて、右手を向ける。
「電撃!」
ズガガガガーーーーン!
ミョルニルが輝き、アリサのゴーレムに雷が何本も落ちた。雷魔法は実は珍しい。全く居ないわけではないが、亜空間倉庫持ちを探す何倍も大変くらいだ。
「あたいはソフィアだよ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
歓声はあがったがそれだけだった。
「最後にリモア。リモアはヴァンパイアで俺の従魔だ」
四姫桜の面々はビックリして俺を見たが、隠しててあとでバレるよりこのタイミングがベストと思い、俺はバラした。
するとリモアは瞬間移動で消える。
「リモアだよっ!」
「うわっ!」
観客の1人の後ろに現れる。
「リモアだよっ!」
「ひっ!」
「リモアだよっ!」
「っ!」
「リモアだよっ!」
数回それを繰り返すと、風神と雷神を自分の亜空間倉庫から取り出し、ヘリコプターの羽のようにぐるぐると高速で回り出した。
そしてそびえ立つゴーレムにコマのように突撃していく。
ズガガガガ!
ゴーレムは輪切りになった。
「私のゴーレムが・・・」
アリサもこれにはビックリした。
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
「新たな絶壁が!!!」
「娘にしたい!」
「俺の従魔になってくれ!!!」
「これが四姫桜だ。だいたいわかってもらえたか?」
「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」
宴会はまだまだ続いた。
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しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
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