33 / 39
33話
しおりを挟む
「先ほどの茶番は笑えたの。あの伯爵の男も言っておったが、あやつの話が1番茶番じゃった」
ジンはメッサールに漢を感じていた。実際は誰もジンを殺せないからの代案というか、仕方なしだろう。だが充分息子への愛を感じたし、男としての意地も見た。それをこの老人は茶番だと言う。
「そうじゃろう」
「そんな言い方ないじゃない!」
隣のアリサがたまらず声を上げる。老人はアリサに呆れるような顔を向けた。だが公爵に向かって無礼なとか、そう言うのは感じてなさそうだ。
「お嬢ちゃん、ずいぶんとそやつと親しそうじゃ、じゃがお嬢ちゃんはそやつが誰か知っておるのか?」
老人アムロリアはジンを目線で指示してアリサに促す。
「っ、知ってるわよ、ジン……、勇者ジン=カザマツリよ」
ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。
老人は高笑いをする。
「じゃから茶番だと言うんじゃ。勇者?魔王?救世主?違う、そやつは死神じゃ」
「……え?」
「己に立ち塞がる者は、人間じゃろうが魔物じゃろうが、魔族じゃろうがみーんな殺してしまう。お嬢ちゃん、そやつに殺された者が何人居るかわかっとるのか?ロウバメニー王国のイシガキ地区の大虐殺は、魔族の扇動によるスタンピードじゃない、そやつの仕業じゃぞ?」
国王、シャルロッテ、アリサ、その他護衛の兵士たち、全員が驚愕の表情でジンに視線を集める。
イシガキ地区の大虐殺は、他国ながら余りにも有名だ。突如地区全体に魔物が現れ、一夜にして地区の国民全員が死亡した話だ。スタンピードの恐ろしさを物語るのに、よく例に出される。
真相は地区内の国民の半分が、ある人間の力により魔物にされ、残りの国民を襲いだし、それが周りにも溢れかえりそうになったので、ジンが全て討伐したのだ。ジンも人間が魔物に変化したのは知っていた。だが、地区の残りの人たちを、その周りの地区の国民たちを守るには殺すしかなかったのだ。
「こやつは邪魔ならば殺してしまうのじゃ、これが死神でなくてなんだと言うのじゃ。魂に刻む?笑わせるでない、いったい何十万の名を墓標に刻むのじゃ?王宮並みの墓標が必要じゃな」
周囲は絶句している。国王さえも知らなかった。ジンは老人に問う。
「……お前は何者だ?」
「否定せんのか?かの大虐殺はお主がしたと認めるのか?」
「何者だ」
本当は違う、だがある意味は正しい。そしてそれを知る者は少ない。あの時は時間がなかった。とてもじゃないが、あの数の魔物に変化した人間を取り押さえ、元に戻す研究などしてる暇はなかった。まだ生き残る者を助け、更なる悲劇を起こさぬ為に、元凶の人間もろとも魔物を殺すしかなかった。それでも全ての人間を救えたわけではない。助かった人たちの顔を思い浮かべても、ジンの記憶の中にこの老人の顔はなかった。
同時に嫌なことを思い出す。助けた人たちに罵られる日々。
アレは娘だった
殺さなくてもなんとか出来たろ
お父さんを返して
悪魔め、全てお前のせいだ
死ね、出て行け、魔族野郎
思い出したくない記憶を振り切るため、ジンは頭を振る。
老人アムロリアは話を続ける。
「やはり覚えておらんかったか、弟弟子よ」
「……」
ジンが師と呼んだのは2人だけ。剣聖ムスタファ、それと一応賢者マーリンだ。だがジンの記憶には共に修行した記憶はない。
「まあ、無理もないかの。ワシはお主が賢者マーリンの元へ来て数日で、師の袂から逃げ出しておる」
国王はどうしても気になり、アムロリアに問いかける。
「ジキルハイド公爵、そなた、あの賢者マーリンの弟子なのか?」
アムロリアは国王を見て、
「はい、陛下。ワシはマーリンの弟子ですじゃ」
「……賢者マーリンは500年前に死んだのではないのか?」
アムロリアはゆっくり首を振った。
「歴史ではそうなっておりますな。じゃが真実は、賢者マーリンが死んだのは人魔大戦が終結する前年、今から13年前になりますじゃ」
「「なっ!」」
「そして、賢者マーリンを殺したのがここにいる勇者カザマツリでございますのじゃ」
「「っ!」」
国王とシャルロッテは人生最大と言えるほど驚いた。アリサはこれを前に聞いていた。その時は半信半疑だったが、今では真実だと思っている。だが細かいところまではわからない。
「な、何故だ!何故そのようなことに!」
「落ち着きくだされ陛下。賢者マーリンを殺したのはこやつじゃが、あれは仕方なかったとも言えますのじゃ。ワシもそれが原因で逃げ出しておりますでの……」
アムロリアは語り出す。
500年前に生きた人間、賢者マーリンは何故最近まで生きれたのか。それは転生の秘術を使っていたからだと言う。だが転生の秘術はおぞましい内容だった。1人が転生するのには、その転生する人間の近しい血縁者2人を生贄に捧げなければならない。それは親兄弟などにあたる。
初めはマーリンは自分の兄弟2人を使い、奴隷の男女を番にさせて、その男女に自分を産ませた。そして自分を産んだ後にも兄弟を産ませ、また新たな自分を産ませる番を用意し、兄弟を使って転生をする。兄弟は家畜のように育てられ、ただ生かされているだけだった。
これの繰り返しで生を繋いできた。
だが不便なこともある。自分が赤子、幼少期などに事故が起こればどうしようもなくなる。実際、生贄が用意出来なくなりそうな危機も何度もあり、その時は自分が子供を産み、それを生贄とすることで凌いだりした。このままではダメだと思った。それからは不老不死の研究に没頭した。何百、何千の命を実験台にしても、何年、何度転生を繰り返しても、どうしても不老不死に行き着くことは出来なかった。
そのうち、魔族が連れてきた若い男を弟子に取り、しばらくすると若い男は特別な何かだとわかった。姿形は人間だ、だが若い男から詳しく話を聞いた瞬間、『もうこいつしか居ない』と思った。マーリンは若い男を実験台にしようとしたが、若い男に反撃され、秘密にしていた転生や不老不死、人体実験などが全て明るみになり、若い男に殺されることになる。
それが勇者カザマツリだとアムロリアは語った。
「……マーリンを殺した時に居たのはセリエだけだ、何故お前が知っている」
「この世の全てを知っているつもりか?お主にも知らぬことがあるじゃろうに」
「……」
確かにその通りだ。剣技はムスタファ、魔法はマーリンと真の詠唱を作った魔導士の文献《ランスロットの奇跡》を持っているだけで、後は自分の経験だけである。知らないことがあってもおかしくないし、あるのが普通だ。
だが、この一連の話が、裁判となんの関係があると言うのか。
「……何が言いたい、何を望んでいる」
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。少々話が逸れたの。お嬢ちゃんが余りにもお主に懐いているようだったでの。死神と知って一緒におるのか、ちとおせっかい心が出てしまったわい」
「……」
アムロリアは初めのような真剣な顔に戻り、裁判所の入り口の方を見た。
「ワシはあやつらとは違う、孫を命より大事にしておった。確かに孫の良くない噂も聞いておる。じゃが公爵が公爵たる為には孫のやり方も悪いものではなかったと思うておるよ。例え、誰に何を言われようともの。それでも、孫は、カニーユはワシの、ワシらジキルハイド公爵家の全てじゃった……」
アムロリアが裁判所の入り口を見ながら話しているので、全員が釣られるように入り口を見る。すると1人の老婆と年の頃30中程の夫婦が入ってきた。
アムロリアはジンに向き直り話を再開する。
「ワシはの、孫を殺したお主が許せん。金などで済ますつもりもないし、阿呆な意地で終わらすつもりもない。孫の命を返してもらう。それ以外の終わりはないわい」
「……、まさか……」
ジンは何を望んでるのかわかった。アムロリアはマーリンの弟子だ。ならば答えは1つしかない。
「悪魔に魂を売るつもりか」
アムロリアはここにきて初めて激昂してみせる。顔は真っ赤になりふるふると身体を震わせる。
「お主だけには言われとうないわい!お主こそ悪魔じゃろう!戦争を含めたらお主が殺したのは何十万人にもなるじゃろうが!、ワシの孫までも殺しておって!」
「……出来ない、それだけは出来ない。それではマーリンと同じだ!」
「出来るのはわかっておる!やるのじゃ!、やらぬならジキルハイド公爵家の全てをかけ、そこの女を殺してやるわ!!」
アムロリアは杖でアリサを指す。今にも殴りかかってきそうだ。
「やらせるわけないだろ」
「そうか、ならワシらを殺せ!ジキルハイド公爵家の一族もろとも!メイドから赤子まで皆殺しにしてみせろ!!貴様は死神じゃ、得意じゃろうが!ワシらは折れぬぞ、貴様が探し求めていたそこの女を殺すか、カニーユを取り返すまでワシらは誰一人として止まらぬわ!!」
アリサも、国王も、シャルロッテもやっとアムロリアが何を欲してるかわかった。きっとあのアムロリアの語りにあった転生の秘術を求めている。
アムロリアの家族も、傍聴席からこっちに向かって歩いてくる。
「カザマツリ、ワシとワシの妻の命を使うのじゃ。母体はワシの娘じゃ、ワシの娘からもう一度カニーユが産まれるように転生の秘術を、我が師の悪魔の所業を、ここで使うのじゃ」
「……」
「選択肢などない、これだけがワシらの救い。カザマツリ……、弟弟子カザマツリよ……、頼む、頼む!!」
アムロリアは一気に涙を溢れさせ、その場に膝をつき土下座をしてきた。
「悪いが出来ない、そいつが生きているか生き血がなければ無理だ。死体はもうない、不可能だ」
アムロリアは頭だけをあげ、
「用意してないわけ無かろう、ワシは腐っても賢者マーリンの弟子ぞ?こんなこともあろうかと用意してある」
アムロリアがアムロリアの家族を見る。カニーユの父親らしき男が、アリサが持っているウエストポーチと同じ形のバッグから、瓶いっぱいに入った血を取り出した。
「時間停止の亜空間バッグじゃ。もちろん瓶の中身はカニーユの血じゃ。……、生贄、番、転生者の情報、お主が師の封印の蔵から持ちだした《ランスロットの奇跡》、そして師、賢者マーリンに勝る魔力量のカザマツリ、全て揃っておる。後はお主のやる気次第じゃ……」
「……」
ジンは周りを見る。全員がジンを見ている。
そして、アムロリアの家族の中から、老婆がジンに向かってゆっくりと歩いてくる。そしてジンの目の前に立つと、
「あの子は……、世間的にはいい子ではなかったかもしれません。でもね、私たちには命よりも重い、大事な大事な孫なのです。私たちはあなたを恨んだりはしません」
老婆はジンの両手を両手で優しく掴む。
「辛い思いをさせてごめんなさい。でもお願い、お願いします。あの子をもう一度……、お願いします」
「俺はやったこともない、やり方を知ってるわけでもない。ただやり方が書いてある文献を持っているだけだ。上手くいく保証もない」
「それでもいいのです、無駄死だとしてもあなたを恨みません。試してくれるだけで良いのです」
ジンは番役の両親を見る。両親は力強く頷いた。もう一度アムロリアを見る。
「カザマツリ、話したこともなかった弟弟子よ。ワシらの願いを……、頼む……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジンは転生の秘術を行なった。
語るほどでもない、気持ちの良いものでもない。成功したかどうかもわからない。カニーユの母が子供を産み、その子が物心が着く頃にやっと成功したかがわかるだろう。
そして、転生の秘術を終わらせた後、その場で《ランスロットの奇跡》を燃やした。
《ランスロットの奇跡》には転生の秘術以外にも伝説的な魔法がたくさんあった。転移が出来る空間魔法もその1つだ。
だが万が一もう一度転生の秘術を求められるのだけは嫌だった。だから燃やした。もう二度としなくても良いように。
裁判も終わり、国王と少し話をしてブリュンヒルドを幼女に戻して裁判所を後にする。
「お嬢、少し1人になりたい、構わないか?」
「ええ、私はシャルと家で待ってるわ」
「すまん……」
ジンは一人で歩き出す。
ジンの胸中はぐちゃぐちゃだった。消えてしまった二人の老夫婦、ブリュンヒルドの呆れた顔、アリサの心配そうな顔。色んなものが頭に渦巻く。
過去の事も思い出す、思い出したくない事も思い出す。むしろ嫌なことばかりが頭に浮かぶ。
気づくとジンは馴染みの酒場についていた。お姉ちゃんが隣に座らない、むさ苦しい男の客ばかりが集まる無骨な酒場だ。
ジンがカウンターに座ると、琥珀色の酒が滑らかな氷に冷やされて目の前に置かれた。
ジンは一瞬だけ酒を出してきたバーテンダーに目配せをして、一気にそれを煽った。
グラスを荒くカウンターに置くと、バーテンダーは無言で空になったグラスの氷の上に酒を注ぎ足す。
ジンも若くはないとはいえ、まだ40前の普通の男だ、完璧超人ではない、悩みもする。
俺が悪いのか?何もかも全て俺のせいか?ならどうすれば良かったんだ?
いや、俺が悪い。少なくともあの8人は殺さなくても良かった。完全に頭に血がのぼっていた。話くらいは聞いてやるべきだった。
過去にもそんな奴はいた、あいつも、こいつも、もっと話を聞いてやれば。師マーリンでさえ話を聞いていればこんな未来にはならなかったかもしれない。
ジンはまだ冷えてもいない琥珀色のグラスを一気に傾ける。
「おー、おー、そんな飲み方してると身体を壊すぜ?」
背中から声がかかる。ジンは振り返らない、声で誰かはわかっている。
「マスター、俺にも同じのを」
ジョシュアはジンの隣に座り、酒を受け取るとちびちびとやり始める。
二人の間に沈黙が流れる。
数分経った頃、
「丸く収まったかよ」
「……ああ、結局は何もなしだ。王国が見舞金を払って終わりだ」
「だろうな。まあ俺にゃあ裁判の結果なんて関係ねえよ」
「ああ」
また数分の沈黙の後、
「まさか出会った初日から決闘の立会人をやらされるとはな?俺自身が決闘をしたことないのにだぜ?、笑っちまうよ」
ジンは隣に座る男の顔を見た。
「クソ迷惑な野郎が来たと思ったもんさ、それが今じゃ隣で酒を飲んでる。はっ、あんときゃこんなこと考えられなかったぜ?」
ジョシュアもジンをチラリとだけ見て、片側の口角をあげて、また酒を傾ける。
「そうだ、あの時のお前はかっこよかったなぁ、これが勇者かっ!って思ったぜ?」
スタンピードの時のことだ。ジンはジョシュアの方を向かずに言葉で答える。
「それは俺のセリフだ。力のない冒険者や、ガキたちをまとめ上げ、よく堪えてると思った。お前が居るからまだ戦えてるんだとすぐにわかったよ」
ジョシュアは片眉をあげて、
「なんだよ、あれから一年以上経ってんぞ?今更そんなこと言うのか?デレるのが遅くねえか?ええ?相棒」
「うるせえ、友よ」
ジンとジョシュアのくだらない話は続く。
「そういや知ってたか?北区の歓楽街じゃ、俺たちJJブラザーズって呼ばれてるらしいぜ」
「JJブラザーズ?」
「JINとJOSHUAでJJだとよ」
「ふん、くだらねえな」
「ケティちゃんがつけたらしいぜ?」
「……、悪くないな」
ジョシュアはあははははと笑い、ジンの背中をバンバン叩く。
次第に酒も回っていく。
「あん時は笑ったなぁ、ジンのポッキーゲームの時の顔がよ、こう……、チュー、あははははっ!」
「それを言うならジョシュア、お前パンツーゲームの時に鼻血垂らしてたじゃねえか」
ジョシュアは顔をしかめ、
「パンツーゲーム?、やめろその話はするな……」
「ああ、俺たちはあのゲームでケツの毛まで抜かれたな」
「ああ、ありゃあ、天国と地獄が同じ場所にあるようなもんだぜ」
「……俺はもう一回やってもいい」
「馬鹿野郎、2度目があるなら俺は金貨10枚作っていくぜ!」
更に肩を叩き合い、大声で笑いあう二人。
「楽しかったな」
「ああ、楽しかった」
「長いようで短かったな」
「ああ、時は一瞬だ……」
二人は同時にカウンターから立ち上がる。
そしてお互いに向かい合い、真剣な眼差しで見つめ合う。いや、睨み合いに近い。
「ジョシュア、お前は俺にとって、生まれて初めての友と呼べる存在だった」
「ジン、楽しい時間をありがとう。お前は最高の相棒だったよ」
二人は一瞬も目をそらさずに睨み合う。
「さらばだ、友よ」
「ジン、今からお前を恨んで生きる。俺の生徒を殺しやがって。お前の力なら殺す必要は微塵もなかったはずだ。それをお前は無慈悲に殺した。絶対に許せねえ」
「ああ、俺が殺した」
「二度と学園にも来るな。次に俺の前に顔を出してみろ、全力で殺しに行く。例え勝てなくてもな……」
「ああ、わかってる。その時は俺の全力をもってお前に答えてやる」
二人は数分無言で睨み合い、同時に酒場を後にした。
そして……
これがジンとジョシュア、今生の別れとなった。
元冒険者 ジョシュア
最終職歴 グランパニア魔導学園教頭
享年77歳
遅めながら妻をもらい、一男一女をもうけ、自身が働く学園を愛し、生徒に人一倍愛を傾けた男は、あの日から亡くなる前年までの40年間、ガムシャラに働き続けた。
愛する妻と息子と娘に囲まれ、最期は笑顔で息を引き取った。
ジョシュアの晩年の口癖は『俺はあの勇者と親友なんだ』と笑顔で自慢していたと言う。
ジンはメッサールに漢を感じていた。実際は誰もジンを殺せないからの代案というか、仕方なしだろう。だが充分息子への愛を感じたし、男としての意地も見た。それをこの老人は茶番だと言う。
「そうじゃろう」
「そんな言い方ないじゃない!」
隣のアリサがたまらず声を上げる。老人はアリサに呆れるような顔を向けた。だが公爵に向かって無礼なとか、そう言うのは感じてなさそうだ。
「お嬢ちゃん、ずいぶんとそやつと親しそうじゃ、じゃがお嬢ちゃんはそやつが誰か知っておるのか?」
老人アムロリアはジンを目線で指示してアリサに促す。
「っ、知ってるわよ、ジン……、勇者ジン=カザマツリよ」
ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。
老人は高笑いをする。
「じゃから茶番だと言うんじゃ。勇者?魔王?救世主?違う、そやつは死神じゃ」
「……え?」
「己に立ち塞がる者は、人間じゃろうが魔物じゃろうが、魔族じゃろうがみーんな殺してしまう。お嬢ちゃん、そやつに殺された者が何人居るかわかっとるのか?ロウバメニー王国のイシガキ地区の大虐殺は、魔族の扇動によるスタンピードじゃない、そやつの仕業じゃぞ?」
国王、シャルロッテ、アリサ、その他護衛の兵士たち、全員が驚愕の表情でジンに視線を集める。
イシガキ地区の大虐殺は、他国ながら余りにも有名だ。突如地区全体に魔物が現れ、一夜にして地区の国民全員が死亡した話だ。スタンピードの恐ろしさを物語るのに、よく例に出される。
真相は地区内の国民の半分が、ある人間の力により魔物にされ、残りの国民を襲いだし、それが周りにも溢れかえりそうになったので、ジンが全て討伐したのだ。ジンも人間が魔物に変化したのは知っていた。だが、地区の残りの人たちを、その周りの地区の国民たちを守るには殺すしかなかったのだ。
「こやつは邪魔ならば殺してしまうのじゃ、これが死神でなくてなんだと言うのじゃ。魂に刻む?笑わせるでない、いったい何十万の名を墓標に刻むのじゃ?王宮並みの墓標が必要じゃな」
周囲は絶句している。国王さえも知らなかった。ジンは老人に問う。
「……お前は何者だ?」
「否定せんのか?かの大虐殺はお主がしたと認めるのか?」
「何者だ」
本当は違う、だがある意味は正しい。そしてそれを知る者は少ない。あの時は時間がなかった。とてもじゃないが、あの数の魔物に変化した人間を取り押さえ、元に戻す研究などしてる暇はなかった。まだ生き残る者を助け、更なる悲劇を起こさぬ為に、元凶の人間もろとも魔物を殺すしかなかった。それでも全ての人間を救えたわけではない。助かった人たちの顔を思い浮かべても、ジンの記憶の中にこの老人の顔はなかった。
同時に嫌なことを思い出す。助けた人たちに罵られる日々。
アレは娘だった
殺さなくてもなんとか出来たろ
お父さんを返して
悪魔め、全てお前のせいだ
死ね、出て行け、魔族野郎
思い出したくない記憶を振り切るため、ジンは頭を振る。
老人アムロリアは話を続ける。
「やはり覚えておらんかったか、弟弟子よ」
「……」
ジンが師と呼んだのは2人だけ。剣聖ムスタファ、それと一応賢者マーリンだ。だがジンの記憶には共に修行した記憶はない。
「まあ、無理もないかの。ワシはお主が賢者マーリンの元へ来て数日で、師の袂から逃げ出しておる」
国王はどうしても気になり、アムロリアに問いかける。
「ジキルハイド公爵、そなた、あの賢者マーリンの弟子なのか?」
アムロリアは国王を見て、
「はい、陛下。ワシはマーリンの弟子ですじゃ」
「……賢者マーリンは500年前に死んだのではないのか?」
アムロリアはゆっくり首を振った。
「歴史ではそうなっておりますな。じゃが真実は、賢者マーリンが死んだのは人魔大戦が終結する前年、今から13年前になりますじゃ」
「「なっ!」」
「そして、賢者マーリンを殺したのがここにいる勇者カザマツリでございますのじゃ」
「「っ!」」
国王とシャルロッテは人生最大と言えるほど驚いた。アリサはこれを前に聞いていた。その時は半信半疑だったが、今では真実だと思っている。だが細かいところまではわからない。
「な、何故だ!何故そのようなことに!」
「落ち着きくだされ陛下。賢者マーリンを殺したのはこやつじゃが、あれは仕方なかったとも言えますのじゃ。ワシもそれが原因で逃げ出しておりますでの……」
アムロリアは語り出す。
500年前に生きた人間、賢者マーリンは何故最近まで生きれたのか。それは転生の秘術を使っていたからだと言う。だが転生の秘術はおぞましい内容だった。1人が転生するのには、その転生する人間の近しい血縁者2人を生贄に捧げなければならない。それは親兄弟などにあたる。
初めはマーリンは自分の兄弟2人を使い、奴隷の男女を番にさせて、その男女に自分を産ませた。そして自分を産んだ後にも兄弟を産ませ、また新たな自分を産ませる番を用意し、兄弟を使って転生をする。兄弟は家畜のように育てられ、ただ生かされているだけだった。
これの繰り返しで生を繋いできた。
だが不便なこともある。自分が赤子、幼少期などに事故が起こればどうしようもなくなる。実際、生贄が用意出来なくなりそうな危機も何度もあり、その時は自分が子供を産み、それを生贄とすることで凌いだりした。このままではダメだと思った。それからは不老不死の研究に没頭した。何百、何千の命を実験台にしても、何年、何度転生を繰り返しても、どうしても不老不死に行き着くことは出来なかった。
そのうち、魔族が連れてきた若い男を弟子に取り、しばらくすると若い男は特別な何かだとわかった。姿形は人間だ、だが若い男から詳しく話を聞いた瞬間、『もうこいつしか居ない』と思った。マーリンは若い男を実験台にしようとしたが、若い男に反撃され、秘密にしていた転生や不老不死、人体実験などが全て明るみになり、若い男に殺されることになる。
それが勇者カザマツリだとアムロリアは語った。
「……マーリンを殺した時に居たのはセリエだけだ、何故お前が知っている」
「この世の全てを知っているつもりか?お主にも知らぬことがあるじゃろうに」
「……」
確かにその通りだ。剣技はムスタファ、魔法はマーリンと真の詠唱を作った魔導士の文献《ランスロットの奇跡》を持っているだけで、後は自分の経験だけである。知らないことがあってもおかしくないし、あるのが普通だ。
だが、この一連の話が、裁判となんの関係があると言うのか。
「……何が言いたい、何を望んでいる」
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。少々話が逸れたの。お嬢ちゃんが余りにもお主に懐いているようだったでの。死神と知って一緒におるのか、ちとおせっかい心が出てしまったわい」
「……」
アムロリアは初めのような真剣な顔に戻り、裁判所の入り口の方を見た。
「ワシはあやつらとは違う、孫を命より大事にしておった。確かに孫の良くない噂も聞いておる。じゃが公爵が公爵たる為には孫のやり方も悪いものではなかったと思うておるよ。例え、誰に何を言われようともの。それでも、孫は、カニーユはワシの、ワシらジキルハイド公爵家の全てじゃった……」
アムロリアが裁判所の入り口を見ながら話しているので、全員が釣られるように入り口を見る。すると1人の老婆と年の頃30中程の夫婦が入ってきた。
アムロリアはジンに向き直り話を再開する。
「ワシはの、孫を殺したお主が許せん。金などで済ますつもりもないし、阿呆な意地で終わらすつもりもない。孫の命を返してもらう。それ以外の終わりはないわい」
「……、まさか……」
ジンは何を望んでるのかわかった。アムロリアはマーリンの弟子だ。ならば答えは1つしかない。
「悪魔に魂を売るつもりか」
アムロリアはここにきて初めて激昂してみせる。顔は真っ赤になりふるふると身体を震わせる。
「お主だけには言われとうないわい!お主こそ悪魔じゃろう!戦争を含めたらお主が殺したのは何十万人にもなるじゃろうが!、ワシの孫までも殺しておって!」
「……出来ない、それだけは出来ない。それではマーリンと同じだ!」
「出来るのはわかっておる!やるのじゃ!、やらぬならジキルハイド公爵家の全てをかけ、そこの女を殺してやるわ!!」
アムロリアは杖でアリサを指す。今にも殴りかかってきそうだ。
「やらせるわけないだろ」
「そうか、ならワシらを殺せ!ジキルハイド公爵家の一族もろとも!メイドから赤子まで皆殺しにしてみせろ!!貴様は死神じゃ、得意じゃろうが!ワシらは折れぬぞ、貴様が探し求めていたそこの女を殺すか、カニーユを取り返すまでワシらは誰一人として止まらぬわ!!」
アリサも、国王も、シャルロッテもやっとアムロリアが何を欲してるかわかった。きっとあのアムロリアの語りにあった転生の秘術を求めている。
アムロリアの家族も、傍聴席からこっちに向かって歩いてくる。
「カザマツリ、ワシとワシの妻の命を使うのじゃ。母体はワシの娘じゃ、ワシの娘からもう一度カニーユが産まれるように転生の秘術を、我が師の悪魔の所業を、ここで使うのじゃ」
「……」
「選択肢などない、これだけがワシらの救い。カザマツリ……、弟弟子カザマツリよ……、頼む、頼む!!」
アムロリアは一気に涙を溢れさせ、その場に膝をつき土下座をしてきた。
「悪いが出来ない、そいつが生きているか生き血がなければ無理だ。死体はもうない、不可能だ」
アムロリアは頭だけをあげ、
「用意してないわけ無かろう、ワシは腐っても賢者マーリンの弟子ぞ?こんなこともあろうかと用意してある」
アムロリアがアムロリアの家族を見る。カニーユの父親らしき男が、アリサが持っているウエストポーチと同じ形のバッグから、瓶いっぱいに入った血を取り出した。
「時間停止の亜空間バッグじゃ。もちろん瓶の中身はカニーユの血じゃ。……、生贄、番、転生者の情報、お主が師の封印の蔵から持ちだした《ランスロットの奇跡》、そして師、賢者マーリンに勝る魔力量のカザマツリ、全て揃っておる。後はお主のやる気次第じゃ……」
「……」
ジンは周りを見る。全員がジンを見ている。
そして、アムロリアの家族の中から、老婆がジンに向かってゆっくりと歩いてくる。そしてジンの目の前に立つと、
「あの子は……、世間的にはいい子ではなかったかもしれません。でもね、私たちには命よりも重い、大事な大事な孫なのです。私たちはあなたを恨んだりはしません」
老婆はジンの両手を両手で優しく掴む。
「辛い思いをさせてごめんなさい。でもお願い、お願いします。あの子をもう一度……、お願いします」
「俺はやったこともない、やり方を知ってるわけでもない。ただやり方が書いてある文献を持っているだけだ。上手くいく保証もない」
「それでもいいのです、無駄死だとしてもあなたを恨みません。試してくれるだけで良いのです」
ジンは番役の両親を見る。両親は力強く頷いた。もう一度アムロリアを見る。
「カザマツリ、話したこともなかった弟弟子よ。ワシらの願いを……、頼む……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジンは転生の秘術を行なった。
語るほどでもない、気持ちの良いものでもない。成功したかどうかもわからない。カニーユの母が子供を産み、その子が物心が着く頃にやっと成功したかがわかるだろう。
そして、転生の秘術を終わらせた後、その場で《ランスロットの奇跡》を燃やした。
《ランスロットの奇跡》には転生の秘術以外にも伝説的な魔法がたくさんあった。転移が出来る空間魔法もその1つだ。
だが万が一もう一度転生の秘術を求められるのだけは嫌だった。だから燃やした。もう二度としなくても良いように。
裁判も終わり、国王と少し話をしてブリュンヒルドを幼女に戻して裁判所を後にする。
「お嬢、少し1人になりたい、構わないか?」
「ええ、私はシャルと家で待ってるわ」
「すまん……」
ジンは一人で歩き出す。
ジンの胸中はぐちゃぐちゃだった。消えてしまった二人の老夫婦、ブリュンヒルドの呆れた顔、アリサの心配そうな顔。色んなものが頭に渦巻く。
過去の事も思い出す、思い出したくない事も思い出す。むしろ嫌なことばかりが頭に浮かぶ。
気づくとジンは馴染みの酒場についていた。お姉ちゃんが隣に座らない、むさ苦しい男の客ばかりが集まる無骨な酒場だ。
ジンがカウンターに座ると、琥珀色の酒が滑らかな氷に冷やされて目の前に置かれた。
ジンは一瞬だけ酒を出してきたバーテンダーに目配せをして、一気にそれを煽った。
グラスを荒くカウンターに置くと、バーテンダーは無言で空になったグラスの氷の上に酒を注ぎ足す。
ジンも若くはないとはいえ、まだ40前の普通の男だ、完璧超人ではない、悩みもする。
俺が悪いのか?何もかも全て俺のせいか?ならどうすれば良かったんだ?
いや、俺が悪い。少なくともあの8人は殺さなくても良かった。完全に頭に血がのぼっていた。話くらいは聞いてやるべきだった。
過去にもそんな奴はいた、あいつも、こいつも、もっと話を聞いてやれば。師マーリンでさえ話を聞いていればこんな未来にはならなかったかもしれない。
ジンはまだ冷えてもいない琥珀色のグラスを一気に傾ける。
「おー、おー、そんな飲み方してると身体を壊すぜ?」
背中から声がかかる。ジンは振り返らない、声で誰かはわかっている。
「マスター、俺にも同じのを」
ジョシュアはジンの隣に座り、酒を受け取るとちびちびとやり始める。
二人の間に沈黙が流れる。
数分経った頃、
「丸く収まったかよ」
「……ああ、結局は何もなしだ。王国が見舞金を払って終わりだ」
「だろうな。まあ俺にゃあ裁判の結果なんて関係ねえよ」
「ああ」
また数分の沈黙の後、
「まさか出会った初日から決闘の立会人をやらされるとはな?俺自身が決闘をしたことないのにだぜ?、笑っちまうよ」
ジンは隣に座る男の顔を見た。
「クソ迷惑な野郎が来たと思ったもんさ、それが今じゃ隣で酒を飲んでる。はっ、あんときゃこんなこと考えられなかったぜ?」
ジョシュアもジンをチラリとだけ見て、片側の口角をあげて、また酒を傾ける。
「そうだ、あの時のお前はかっこよかったなぁ、これが勇者かっ!って思ったぜ?」
スタンピードの時のことだ。ジンはジョシュアの方を向かずに言葉で答える。
「それは俺のセリフだ。力のない冒険者や、ガキたちをまとめ上げ、よく堪えてると思った。お前が居るからまだ戦えてるんだとすぐにわかったよ」
ジョシュアは片眉をあげて、
「なんだよ、あれから一年以上経ってんぞ?今更そんなこと言うのか?デレるのが遅くねえか?ええ?相棒」
「うるせえ、友よ」
ジンとジョシュアのくだらない話は続く。
「そういや知ってたか?北区の歓楽街じゃ、俺たちJJブラザーズって呼ばれてるらしいぜ」
「JJブラザーズ?」
「JINとJOSHUAでJJだとよ」
「ふん、くだらねえな」
「ケティちゃんがつけたらしいぜ?」
「……、悪くないな」
ジョシュアはあははははと笑い、ジンの背中をバンバン叩く。
次第に酒も回っていく。
「あん時は笑ったなぁ、ジンのポッキーゲームの時の顔がよ、こう……、チュー、あははははっ!」
「それを言うならジョシュア、お前パンツーゲームの時に鼻血垂らしてたじゃねえか」
ジョシュアは顔をしかめ、
「パンツーゲーム?、やめろその話はするな……」
「ああ、俺たちはあのゲームでケツの毛まで抜かれたな」
「ああ、ありゃあ、天国と地獄が同じ場所にあるようなもんだぜ」
「……俺はもう一回やってもいい」
「馬鹿野郎、2度目があるなら俺は金貨10枚作っていくぜ!」
更に肩を叩き合い、大声で笑いあう二人。
「楽しかったな」
「ああ、楽しかった」
「長いようで短かったな」
「ああ、時は一瞬だ……」
二人は同時にカウンターから立ち上がる。
そしてお互いに向かい合い、真剣な眼差しで見つめ合う。いや、睨み合いに近い。
「ジョシュア、お前は俺にとって、生まれて初めての友と呼べる存在だった」
「ジン、楽しい時間をありがとう。お前は最高の相棒だったよ」
二人は一瞬も目をそらさずに睨み合う。
「さらばだ、友よ」
「ジン、今からお前を恨んで生きる。俺の生徒を殺しやがって。お前の力なら殺す必要は微塵もなかったはずだ。それをお前は無慈悲に殺した。絶対に許せねえ」
「ああ、俺が殺した」
「二度と学園にも来るな。次に俺の前に顔を出してみろ、全力で殺しに行く。例え勝てなくてもな……」
「ああ、わかってる。その時は俺の全力をもってお前に答えてやる」
二人は数分無言で睨み合い、同時に酒場を後にした。
そして……
これがジンとジョシュア、今生の別れとなった。
元冒険者 ジョシュア
最終職歴 グランパニア魔導学園教頭
享年77歳
遅めながら妻をもらい、一男一女をもうけ、自身が働く学園を愛し、生徒に人一倍愛を傾けた男は、あの日から亡くなる前年までの40年間、ガムシャラに働き続けた。
愛する妻と息子と娘に囲まれ、最期は笑顔で息を引き取った。
ジョシュアの晩年の口癖は『俺はあの勇者と親友なんだ』と笑顔で自慢していたと言う。
0
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
その令嬢は勇者
ミクリ21
恋愛
アスタリア・クリアランス伯爵令嬢。
彼女は神に選ばれた聖女……ではなく、勇者だった。
聖女の間違いでは?なんて声は当然あったが、アスタリアは美しく微笑みを浮かべて言い放つ。
『女だから聖女なんて決め付けはおやめになって?』
勇者アスタリアの魔王城への旅が今始まる………のだが、何故かパーティーメンバーがおかしい?
「アナタ達、四天王と魔王ですわよね?」
「それが何か?」
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる