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月光花
しおりを挟む今日も日銭を稼ぐ。
俺の稼ぎは護衛と用心棒がほとんどだ。
例えば、晩餐会列席上での護衛、都市間の輸送の護衛、御貴族様の狩猟会などの用心棒などだ。
要は暗殺、盗賊、対人間の護衛が主となる。
だが、都市間の護衛や狩猟会なども、主力は魔鋼機だ。魔物が出たら魔鋼機でなければ対応が出来ない。
なら何故護衛が必要か?
それは盗賊のボウガンが一発も当たらないとは限らないからだ。魔鋼機の股ぐらをすり抜ける盗賊が居ないとは限らないからだ。
要は保険の保険だ。
当然、護衛の花形は魔鋼機だ。保険の保険は報酬も扱いも安い。
一番面倒なのが晩餐会などの護衛だ。
この世界には銃がある。だが銃は高い。
大体都市にある一軒家が5000万エル、小さい魔導車が1000万エルするのに、小型の拳銃でさえ500万エルはするのだ。銃弾でさえ高級ホテルの一泊と一発が同価値だ。
そんなものは御貴族様しか使えない。
でも晩餐会には御貴族様がくる。ここで暗殺を狙われると、銃弾から守らなければならない。
いくら俺が達人クラスでも、銃弾を手掴みは出来ない。
俺は冒険者ギルドに付くと、依頼の張り出されている壁を覗く。
(・・・ないか・・・)
「あの・・・」
「ん?」
不意に背中から声を掛けられる。
「ジンさんですよね?」
「・・・・・・人違いだ」
「嘘です!その帽子に着流し!ジンさんしか居ませんよね?!」
「俺は指名の依頼は受けない。そっちの良い子ちゃんたちに頼みな」
指名の依頼は大抵が面倒事だ。多少高くても割に合わないことが多い。
昔金に飛び付いて受けたことが何度かあるが、全て偉い目に会っている。
「お願いです、貴方しか居ないんです・・・」
依頼人は涙を流す。
最悪なことに依頼人は女だ。
(くそが、俺も35だろ。いい加減に慣れろ)
「・・・・・・報酬は?」
女はパアッと花開くように笑顔になる。
「これが全財産ですっ!」
女は金貨1枚を差し出してきた。
金貨は大銀貨10枚分、10万エルだ。
そこそこのまとまった金だが、この女はそんなに金持ちそうには見えない。それが10万も払うとなればやっかいごとに決まっている。
「・・・・・・内容は?」
「それが・・・月光花が必要で━━━」
「じゃあな」
俺が立ち去ろうとすると、女は俺の着流しの袖を掴む。
「待って!」
「お嬢ちゃん、月光花を知ってるのか?」
「・・・はい・・・」
「それが魔物が大量に生息する、森の奥と言うこともか?」
「・・・はい・・・」
「なら、話は早い、魔鋼機を持ってるやつに頼め。俺のことは知ってるんだろ?」
「頼みましたっ!・・・・・・でも・・・」
「・・・だろうな」
月光花は魔獣の森の奥地だ。いくら魔鋼機なら魔物に勝てると言っても、たどり着くまでに何体の魔物と遭遇するのか。金貨1枚じゃメンテナンス代にもなりゃしねえ。
「足りないのはわかってます!ジンさんは魔物と戦わなくても魔物から逃げられますよね!」
「お嬢ちゃん、絶対はねえんだ。特に魔物を相手ならな」
女は意を決する。
「足りない分は、なんでもっ!何でもしますからっ!」
女は目に涙を浮かべる。
俺は女を見る。
年は20を超えた辺りか、細すぎず太すぎず、それでいて出るところのボリュームはある。
「意味をわかって言ってるのか?」
「・・・もちろん、です・・・」
女は顔を赤らめる。
「期日は?」
「5日でなんとかなりますか?」
「無理だ、魔鋼機でも10日はかかる」
「10日では間に合わないんですっ!10日━━━」
俺は掌を女に向け、言葉を遮る。
(事情を聞くのは一番最悪だ。いざというときの判断が狂う)
「ギリギリだ」
「っ!、お願いします!」
女は頭を大きく下げる。
豊満な谷間が目に入る。
「5日後にここに来い」
「っ!、ありがとうございます!」
また女は大きく頭を下げた。
(やれやれだ、どうも女の涙には慣れねえ・・・)
俺は森を駆け抜ける。
常人ではあり得ない速度だ。
猪やサイのタイプならまだいい。ふりきれるだろう。
問題は虎だ。
あれに狙われたら戦うしかない。
道中2度夜営をして、月光花の群生地にたどり着く。
魔鋼機でも片道5日のところを、三日目にしてたどり着いた。これも体術のチートの力だ。
背中からリュックを下ろし、採取ボックスに月光花を10枚ほど入れると、またリュックを背負ってすぐに帰路にかかる。
その日は良かった。ゾウタイプの魔物ばかりだった。
だが、出会ってはいけない、森の悪魔に見つかってしまった。
「くそ・・・つけられてやがる」
俺はあきらめて息を整える。すると数十秒で魔物は現れた。
体高は5mほど、体長は10m、俺の身長と同じくらいの口を開き、虎は咆哮する。
ゴアアアアアアアアア!!!!
キラータイガーだ。
魔鋼機でも、しっかり装備をしてないと危ない魔物だ。
見ろあの爪を。一撃でも貰えばこちとらお陀仏だ。
俺が身構えると同時に、虎は全社しながら、右の前足を振り下ろす。俺はそれを左によけ、前足に蹴りを入れる。
虎はなにされたのかわからないとでも言わんばかりに、すぐに体制を整え鋭い牙を向けてくる。
俺は即座にジャンプして、頭上の枝を掴み、ぐるんと1回転してから、虎の眉間に飛び蹴りを入れる。
虎は数センチほど頭を沈めたが、すぐに頭を起こしてきた。その勢いで、俺は後方に投げ出される。
俺が着地し、虎をみると虎はもう目の前に大きな口を開いていた。
それを横に転がって避けると、すぐさま前足で追撃がくる。それをまた転がり、また追撃がくる。
三度ほどすると、大木を利用して追撃を止めることが出来た。すぐさま虎の脇腹に入り込む。
(死角だっ!)
「くらえ━━━━ぐわっ!」
なんと虎は尻尾で俺を叩きつけてきた。俺は虎の前方に吹っ飛ばされる。
「ぐふっ!」
宙に浮いている間に、虎の前足によりうつ伏せに踏み潰される。
俺はうつ伏せのまま、首だけで虎を見上げると、虎は笑っているように見える。
「最悪だ・・・、これだから指名依頼はうけるもんじゃねえ」
虎は大きな口を開けて俺を食おうとするが、俺は俺を押さえつけてる虎の前足の小指に、背中側にパンチをする。
「振動痛撃拳!」
ゴアアアアアアアアア!
虎はあまりの痛みに、俺を解放してしまう。
俺はその隙を逃すはずはない。
すぐさま立ち上がり、虎の脇腹に回り込む。
「食らえっ、通背掌!!!」
俺は両手の掌を虎に付け、浸透系の発勁を全力で打ち込む。
ゴハッ!!!!
虎は大きく口を開け、滝のように吐血した。
尻尾が再度襲ってきて、俺はそれを後方にジャンプして避ける。
数秒虎とにらみ会う。
虎は口から血を垂らしたまま、ゆっくりと森の中へ帰っていく。
俺は気を抜かずにそれを見送る。
俺は止めをささない。手負いの獣ほど危ないものはなく、倒したとしても実入りがないからだ。
虎の気配が消えたのを確認してから、また俺は走り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
依頼を受けてから5日目、俺は都市に戻ったその足で冒険者ギルドに向かう。
そこには女が待っていた。
「ジンさん!!」
女は不安そうに、嬉しそうに俺を見る。
「これだ」
「っ!!!ありがとうございます!」
俺は月光花の入った採取ボックスを、女に手渡す。
「ジンさん・・・、怪我を・・・」
「ああ、一張羅が台無しだ」
俺は虎に押さえつけられたとき、背中に3本の爪痕を残されていた。コップ一杯程度の血はまだいい。だが、着流しが切れてしまっている。
「・・・お約束通り、何でもします・・・」
女は顔を赤らめる。
(別にこの女を抱きたかった訳じゃない。だが、貰えると言うなら貰っておくべきか。なんでもすると言うしな・・・。いや、まて、処女か?処女は面倒だ)
「女、お前は処女か?」
女は目を見開いたが、ゆっくりと笑顔に戻る。
「安心してください。まだ誰とも寝てないです」
女はにっこりと微笑む。もう覚悟が出来たのだろう。
「いや、それは困る。どこかで処女を捨ててこい。いや、それを待つのも面倒だ。ケツですることにしよう。ちゃんとホースで腸内を洗っておけ、実がつくと萎えるからな。ローションはあるか?ないか、なら自慰をしてたっぷり濡らすんだ。それをケツに塗りたくれ。多少痛いかも━━━━━」
パンッ!!!!
女は俺をビンタし、金貨を投げつけて出ていった。
「この異世界は何もかもくそったれだ・・・・」
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