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小さな冒険

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草むらに隠れたリリアは、接近してくる足音に息を潜めた。やがて、彼女の目の前を二人の人間が通り過ぎていく。



「ねえ、本当にこの辺で光ってたの?」

「ああ、間違いない。妙な魔力の波動を感じたんだ」



会話を聞いていると、どうやら先ほどの自分の魔法の反応を感知したらしい。リリアは冷や汗をかきながら、彼らが立ち去るのを待った。



危機が去ったことを確認すると、リリアはほっと胸をなでおろした。



「よかった...でも、このままじゃまずいよね。情報を集めないと」



そう決意したリリアだったが、15センチの体では思うように移動することもできない。



「そうだ、さっきの魔法...」



リリアは再び手をかざし、魔力を感じ取ろうとした。すると、体の中に流れる不思議なエネルギーが感じられた。



「これを...全身に」



集中すると、体が再び光に包まれる。今度は意識的に魔力を操ろうとした。



「大きく...なれ!」



光が消えると、リリアの体は人間サイズまで成長していた。



「やった!」



喜びもつかの間、急激な魔力の消費に体が悲鳴をあげる。



「うっ...維持するのキツイ...」



数分と持たず、リリアは元の小さな姿に戻ってしまった。



「これじゃあ長時間は無理か...でも、これなら少しは動きやすくなるかも」



新たな能力を得た喜びと、その限界を知った複雑な思いを抱えながら、リリアは森を抜け、人里へと向かった。



町の入り口に到着したリリアは、その活気に圧倒された。中世ヨーロッパを思わせる石畳の街並み、行き交う人々、そして...人間以外の種族たち。



「エルフに...ドワーフ?獣人まで!まるでファンタジーの世界だ...」



興奮を抑えきれないリリアだったが、すぐに現実に引き戻される。人々の足に踏まれそうになり、慌てて空中に飛び上がった。



「危ない!このサイズじゃ歩くのも一苦労か...」



空中から町を見渡すと、大きな建物が目に入った。その看板には「冒険者ギルド」の文字。



「よし、あそこなら情報が集められるはず!」



リリアは意を決して、ギルドに向かって飛んでいった。しかし、到着してみると新たな問題に直面する。



「うわ...カウンター高すぎ!」



受付のカウンターは、リリアの背の何倍もの高さがあった。必死に飛び上がっても、端すら掴めない。



「どうしよう...」



途方に暮れていると、後ろから声をかけられた。



「あの、大丈夫?」



振り返ると、優しげな表情の少女が立っていた。茶色の髪を後ろで束ね、杖を持っているところを見ると、魔法使いのようだ。



「え、ええと...」



「私、アーシャっていうの。見習い魔法使いなんだ。キミ、妖精さん?珍しいね!」



アーシャは目を輝かせながら、リリアを覗き込んだ。



「あ、はい...リリアです。実は...ギルドに登録したいんですが...」



「そっか!私が手伝うよ。ほら、ここに乗って」



アーシャは両手を差し出し、リリアを乗せると、カウンターまで連れて行ってくれた。



「ねえねえ、どこから来たの?私、妖精さんを見るの初めてで...」



アーシャの質問攻めに、リリアは戸惑いながらも、なんとか受付を済ませることができた。



「はい、これで登録完了です。冒険者カードをお受け取りください」



受付嬢から渡されたカードは、リリアにとってはポスターほどの大きさだった。



「ありがとう、アーシャさん。助かりました」



「ううん、どういたしまして!あ、そうだ。これからどうするの?良かったら一緒に冒険しない?」



「え?いいの?」



「うん!私も仲間を探してたところなんだ。小さいけど、リリアなら色んなところに入れそうだし、きっと活躍できるよ!」



アーシャの屈託のない笑顔に、リリアは心を打たれた。ニートだった過去の自分を思い出し、こんな風に誘われたことがなかったことを痛感する。



「じゃあ...お願いします!」



こうして、リリアの冒険者としての第一歩が始まった。小さな体に秘められた可能性と、性別変化による戸惑い。そして、新たな仲間との出会い。彼女の前には、想像もつかない冒険が広がっていた。
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