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絶海の孤島編
真相
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「もうポーカー飽きたわ」
カードを地面に放った男が伸びをした。
他の連中とは違い早期に舞台から消える役なので待機時間が多い、配役が発表された時は得だと思ったが一日中部屋に閉じこもるというのは想像以上にストレスが溜まる環境だった。
「でも2人じゃ他のゲームしてもつまらないだろ」
「せめてもう1人居ればなぁ。どうせなら連続殺人にした方がよかったんじゃないか? そっちの方が緊張感が高まるだろ」
大事にならないよう、後で誤魔化す難易度は跳ね上がるだろうが、あの雇い主なら何とかできるだろうと男は安直に考えた。
「仕方無いさ。あんまりやり過ぎるとボロが出る」
「本当金持ちって何考えてんだろうな」
「そうですね。僕も驚いてます」
「だよな――え?」
カードゲームに興じていた男達が顔を上げると、開いた扉を背にして薄らと微笑んだ美丈夫が立っていた。
口元は優美に弧を描いているが、目は笑っていない。
ラインハルトの表情から、ギリアム、フロイスとそれぞれ名乗っていた男達は、今回の計画が失敗した事を悟った。
**
(崖下にあったのは人形)
ラインハルトはこの館で等身大の人形に覚えがあった。フランス・コレクションに使われていたマネキンだ。
ホールの鍵は厳重に保管されている。そんな状況で人形を持ち出し、ギリアムのコートを着せて落とす。
(大事な物はトリルが管理している。つまり彼の協力が無ければ実行不可能)
橋を燃やしたのは目撃者を呼び寄せ、人形を遺体と誤認させる為の松明代わり。
橋を切り落としたのは、燃えただけで橋が残っていれば消火後に安全確認すれば使えるんじゃないかと、昼間に出直す可能性があったから。夜ならまだしも、昼間に見れば人形だとバレる。
人形を身代わりにしたのだ。ギリアムは生きていて、どこかに監禁もしくは匿われている。
フロイスも同じ状況の可能性が高い。
(屋敷側の人間の協力がないと無理だ)
何故、と動機について考え込みそうになる思考をラインハルトは無理矢理引き戻す。
(今考えるのはそちらじゃない)
度々あった違和感を、ラインハルトは時系列で列挙した。
(目に映る物に騙されるな。……目に映る物は、騙す為に用意された物)
ギリアムがラインハルトの部屋に入った時、彼はいきなりドアノブに手をかけた。
荷物を置いているのだ。外出時は施錠する。自分の部屋だと思っていたなら鍵を差し込んだ筈。
それをしなかったのは、あれがラインハルトの部屋だと知っていたから。
彼の目的は特徴的なコートをラインハルトに見せる事。
人形も橋を落とすのも計画的なら、あの言い争いも計画の一端。
ギリアムとフロイスの2人を殺すつもりがないのなら、食料の供給は必須。排泄の問題もあるので、2人は屋敷内に居る。
「屋敷を探したが見つからなかった」と言うゲルスの言葉は嘘。彼の関与は既に判明しているので驚くことではない。
男2人、約5日分の食料と水。それなりの量が必要だ。
(食料は保存食を直接町で購入すれば何とかなるが、水は難しい)
ペットボトルのミネラルウォーターなんて物はない。常温で3日が限度だ。
(飲料水を汲むには厨房を経由することになる。アンドリューかアイリスが関与している)
次に谷に同行した2人。率先してギリアムを模した人形を発見し、閉じ込められたと騒いだ。
トリルの説明であっさり落ち着いたのに、屋敷に戻ったら再度閉じ込められたと吹聴した。
そして犯人が屋敷側に居るという話になり、潔白を証明するためチェーンを装着する流れになった。
(最近は窃盗が減っていたのにどの手錠も不具合がなかった)
あらかじめ準備していたように、提案から実行までスムーズだった。
(ああ。最初からチェーンによるペア作成を行うつもりだったのか。帰還した僕が作為的な橋の落下を指摘しなかったから、2人が代わりに口にするしかなかった。それでやや不自然な流れになったんだな)
橋を落としたのは、犯人の存在を匂わせたい意図もあったようだ。
(それにエルの性教育……)
トリルはまだしも、遺体を目撃して数時間後しか経っていないのに自己処理を覚えたいなんて、思い返せば彼の行動は不自然だ。
(エルはあれが人形だと知っていたのか)
日中、谷側を捜索した連中は崖下にあるのが人形だと気付いたはず。しかし誰も指摘しなかった。
駆けつけたラインハルトもビエルサの元へ行ったので、だいぶ手前で立ち止まった。
(招待客の半分以上がグルか)
『懐の広い、素晴らしい方でした!でした ご主人様は人種や出自に捉われず、困っている人間に躊躇なく手を差し伸べる事のできる本物の人格者です』
(過去形と現在形が入り混じっていた。あれは別々の人物を指していたのかもしれない)
厨房の彼等は先代をノエル様と呼んでいた。ならば『ご主人様』はビエルサだ。
ゲルスにとっての神様は、先代ノエル・フランシスではなく当代ビエルサ・フランシス。
(彼が己の良心に背いてまで罪を犯すなら、ビエルサの命令か彼を守る為のどちらかだ)
『風。そうだ風で何かぶつかってるんだ! だって此方側には、俺達しか居ないはずなんだから!』
(なんてことだ。招待客は半分どころか全員グルじゃないか)
あの状況では行方不明のフロイスが戻ってきた可能性もあった。
しかし全員怯えきって、ラインハルトが呼びかけても誰1人応じなかった。
(彼等には絶対に人が来ない確信があったから恐怖したんだ。予定外の2人の出現に反応できなかったのは、台本に無い展開だから――)
そして長時間共に過ごしていたのですっかり慣れてしまっていたが、シグルドとセシルと会話した事で違和感が浮き彫りになったことがある。
今回の招待客は全体的に言葉遣いが荒々しいのだ。
1~2人ならまだしも、大多数が威勢が良すぎる。学者であの口調は無い。
まるで港町に住む人々のようだ。
(随分突飛な考えだけど、きっとそうだ)
「――エル。君達は全員グルなんですね。本物の招待客は僕1人。君は僕をどうしたかったんですか?」
カードを地面に放った男が伸びをした。
他の連中とは違い早期に舞台から消える役なので待機時間が多い、配役が発表された時は得だと思ったが一日中部屋に閉じこもるというのは想像以上にストレスが溜まる環境だった。
「でも2人じゃ他のゲームしてもつまらないだろ」
「せめてもう1人居ればなぁ。どうせなら連続殺人にした方がよかったんじゃないか? そっちの方が緊張感が高まるだろ」
大事にならないよう、後で誤魔化す難易度は跳ね上がるだろうが、あの雇い主なら何とかできるだろうと男は安直に考えた。
「仕方無いさ。あんまりやり過ぎるとボロが出る」
「本当金持ちって何考えてんだろうな」
「そうですね。僕も驚いてます」
「だよな――え?」
カードゲームに興じていた男達が顔を上げると、開いた扉を背にして薄らと微笑んだ美丈夫が立っていた。
口元は優美に弧を描いているが、目は笑っていない。
ラインハルトの表情から、ギリアム、フロイスとそれぞれ名乗っていた男達は、今回の計画が失敗した事を悟った。
**
(崖下にあったのは人形)
ラインハルトはこの館で等身大の人形に覚えがあった。フランス・コレクションに使われていたマネキンだ。
ホールの鍵は厳重に保管されている。そんな状況で人形を持ち出し、ギリアムのコートを着せて落とす。
(大事な物はトリルが管理している。つまり彼の協力が無ければ実行不可能)
橋を燃やしたのは目撃者を呼び寄せ、人形を遺体と誤認させる為の松明代わり。
橋を切り落としたのは、燃えただけで橋が残っていれば消火後に安全確認すれば使えるんじゃないかと、昼間に出直す可能性があったから。夜ならまだしも、昼間に見れば人形だとバレる。
人形を身代わりにしたのだ。ギリアムは生きていて、どこかに監禁もしくは匿われている。
フロイスも同じ状況の可能性が高い。
(屋敷側の人間の協力がないと無理だ)
何故、と動機について考え込みそうになる思考をラインハルトは無理矢理引き戻す。
(今考えるのはそちらじゃない)
度々あった違和感を、ラインハルトは時系列で列挙した。
(目に映る物に騙されるな。……目に映る物は、騙す為に用意された物)
ギリアムがラインハルトの部屋に入った時、彼はいきなりドアノブに手をかけた。
荷物を置いているのだ。外出時は施錠する。自分の部屋だと思っていたなら鍵を差し込んだ筈。
それをしなかったのは、あれがラインハルトの部屋だと知っていたから。
彼の目的は特徴的なコートをラインハルトに見せる事。
人形も橋を落とすのも計画的なら、あの言い争いも計画の一端。
ギリアムとフロイスの2人を殺すつもりがないのなら、食料の供給は必須。排泄の問題もあるので、2人は屋敷内に居る。
「屋敷を探したが見つからなかった」と言うゲルスの言葉は嘘。彼の関与は既に判明しているので驚くことではない。
男2人、約5日分の食料と水。それなりの量が必要だ。
(食料は保存食を直接町で購入すれば何とかなるが、水は難しい)
ペットボトルのミネラルウォーターなんて物はない。常温で3日が限度だ。
(飲料水を汲むには厨房を経由することになる。アンドリューかアイリスが関与している)
次に谷に同行した2人。率先してギリアムを模した人形を発見し、閉じ込められたと騒いだ。
トリルの説明であっさり落ち着いたのに、屋敷に戻ったら再度閉じ込められたと吹聴した。
そして犯人が屋敷側に居るという話になり、潔白を証明するためチェーンを装着する流れになった。
(最近は窃盗が減っていたのにどの手錠も不具合がなかった)
あらかじめ準備していたように、提案から実行までスムーズだった。
(ああ。最初からチェーンによるペア作成を行うつもりだったのか。帰還した僕が作為的な橋の落下を指摘しなかったから、2人が代わりに口にするしかなかった。それでやや不自然な流れになったんだな)
橋を落としたのは、犯人の存在を匂わせたい意図もあったようだ。
(それにエルの性教育……)
トリルはまだしも、遺体を目撃して数時間後しか経っていないのに自己処理を覚えたいなんて、思い返せば彼の行動は不自然だ。
(エルはあれが人形だと知っていたのか)
日中、谷側を捜索した連中は崖下にあるのが人形だと気付いたはず。しかし誰も指摘しなかった。
駆けつけたラインハルトもビエルサの元へ行ったので、だいぶ手前で立ち止まった。
(招待客の半分以上がグルか)
『懐の広い、素晴らしい方でした!でした ご主人様は人種や出自に捉われず、困っている人間に躊躇なく手を差し伸べる事のできる本物の人格者です』
(過去形と現在形が入り混じっていた。あれは別々の人物を指していたのかもしれない)
厨房の彼等は先代をノエル様と呼んでいた。ならば『ご主人様』はビエルサだ。
ゲルスにとっての神様は、先代ノエル・フランシスではなく当代ビエルサ・フランシス。
(彼が己の良心に背いてまで罪を犯すなら、ビエルサの命令か彼を守る為のどちらかだ)
『風。そうだ風で何かぶつかってるんだ! だって此方側には、俺達しか居ないはずなんだから!』
(なんてことだ。招待客は半分どころか全員グルじゃないか)
あの状況では行方不明のフロイスが戻ってきた可能性もあった。
しかし全員怯えきって、ラインハルトが呼びかけても誰1人応じなかった。
(彼等には絶対に人が来ない確信があったから恐怖したんだ。予定外の2人の出現に反応できなかったのは、台本に無い展開だから――)
そして長時間共に過ごしていたのですっかり慣れてしまっていたが、シグルドとセシルと会話した事で違和感が浮き彫りになったことがある。
今回の招待客は全体的に言葉遣いが荒々しいのだ。
1~2人ならまだしも、大多数が威勢が良すぎる。学者であの口調は無い。
まるで港町に住む人々のようだ。
(随分突飛な考えだけど、きっとそうだ)
「――エル。君達は全員グルなんですね。本物の招待客は僕1人。君は僕をどうしたかったんですか?」
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