見合い相手が女装した男だった。しかも僕のストーカーらしい。

一一(カズイチ)

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絶海の孤島編

推理物あるある

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 夜が明け、揃ってラインハルトの客室を訪れたトリルとゲルス。
 他の客に見つかる前に、本来のペアに手錠を戻した。

 今ラインハルトは早朝の草原を歩いている。
 灯台がもう使われていないというのは本当らしく、フランシス邸から離れるにつれ草の背は高くなり朝露で服が濡れた。

「今から30分間モールス信号を飛ばします。反応があれば続けますが、無ければ戻ります。先生は自由に過ごされてください」
「自由にと言われても……」
「ほら自由でしょう?」

(おいおい)

 躊躇なく手錠を外したトリルにラインハルトは呆れた。

「海に落ちないよう気を付けてくださいね。潮の流れが早いので助けられませんよ」

 やる事が無いので、ラインハルトは灯台の中を見て回る事にした。

「あれ?」

 光る物が視界に入ったので近付く。
 海に転落しないよう灯台に取り付けられた柵の根元。強くぶつけたのか蓋が歪んだ懐中時計が落ちていた。

「まだ新しい……」

 落ちていた場所は吹き晒しだが、錆どころか汚れも無い。

「やはり駄目そうです。こちら側に漁に出ている船影はなし……先生?」
「ああ、トリルさん。今拾ったんですが、コレに見覚えはありますか?」
「何処かで見たような記憶があるのですが、正直懐中時計はパッと見た感じはどれも似たような物ですから……それにしても綺麗ですね。先生方が到着された前日は嵐だったので、落ちたとしたら昨日もしくは一昨日だと思うのですが」

 ラインハルトから時計を受けると、トリルは裏面を見たり、蓋を開いたり調べた。

「10:20――強い衝撃で時間が止まったんですかね。持ち主はF.C」
「……持ち帰って、見覚えのある人が居るか朝食の席で確認しましょう」



「それフロイス先生のだと思います」

 落とし主はあっさり見つかった。

「昨日の昼に見せてもらったんです。蓋に家紋をアレンジした獅子が……ああ、この部分です。尻尾の形が印象的だったので間違いないです」
「昼に見たなら、昨夜10:20に時計が壊れたのか」

(定番の推理だけど本当か?)

 こんな物、任意の時間に針を動かして時計を破壊すれば簡単に細工できる。

(どうにも出来すぎている)

 作為的な物を感じ、ラインハルトはしっくりこなかった。

「それじゃあ部屋に戻った後になるな。橋に行ったギリアムさん、反対方向の灯台に行ったフロイスさん。……片方は死んで、片方は行方不明か」
「これフロイス先生、探しに行くべきか?」
「落ちてた場所が、海に面してたんだろ? ギリアム先生と同じように転落した可能性が高いんじゃ無いか?」
「俺達じゃ山狩りは無理だけど、軽く見て回るくらいはするか」
「面倒だけど他にやる事も無いしな」

 本来なら、昨日と同じ流れで仕事をする筈だったが誰もそんな気持ちになれないようだ。
「タイムリミットギリギリまでフランシス・コレクションを目に焼き付ける」とか「写真を撮っても良いかダメ元で交渉してみる」と昨日息巻いていた人達も居たが、人が亡くなっている状況で「続きを見せてくれ」とは言えないようだ。

 簡易的な捜索だが、森にも入るので手錠を装着したままだと事故の原因になる。
 アリバイの無い者も一旦自由の身になった。
 もちろん個別行動は厳禁で自主的に班を編成したのだが、案の定アリバイ有りは無しと一緒に行動したがらず、有り同士で組んだ。ラインハルトは有りなのだが、一晩無しグループとして過ごしたのでそのままの扱いだ。
 捜索終了後に、再度手錠のペアを組み直す事になっている。

 ラインハルトはゲルス、メイドの姉妹と一緒に灯台から見て右側の範囲を捜索する事になった。
 草地になっているのは灯台とフランシス邸を繋ぐ道、及び灯台周辺のみなので森の浅い所を軽く見て回る形になる。
 日中だが遭難者を出さない為深入りは厳禁だ。

「――目に映る物に騙されないでください」
「え?」

 ゲルスはスッとラインハルトに近付くと意味深に囁いて離れた。
 その後もラインハルトと視線を合わせようとせず、近付こうとするとさり気なく距離をあける。

(詳しく聞きたいけど、今は答えてくれそうに無いな)

 ペアを作成してからでは益々聞き難くなる。
 ラインハルトは一計を案じる事にした。

(要は神経衰弱なんだよな)

 女性同士ペアを作る際、トリルは迷わず手錠と鍵をより分けていた。一見すると同じ手錠だが識別番号的な物があるのだ。
 捜索を終え、屋敷に帰還したラインハルトは手持ち無沙汰だからと手錠の手入れを申し出た。布で拭きつつ細部を観察する。

(これか)

 ゲルスと別グループになり、彼が選んだ後に対になる物を選べば良い。晴れてペアになれば、先程の発言について問い詰める事ができる。



「ちょっとアンタ達! 橋まで来てくれ!」

 ラインハルト達の反対側、谷の方を捜索しに行った集団から2人だけ屋敷に戻って来た。問題が発生したようだ。

 ビエルサとトリルが同行している為揉める可能性は低いと思ったのだが、そのビエルサが問題の中心になっていた。

 多勢に無勢。
 大人達に囲まれた少年の顔色は悪い。強いストレスを感じているのか今にも倒れそうだ。

「御当主は小柄だしいけるだろ」
「酒も運搬してるなら重量的にも大丈夫そうだな」
「谷渡った後はどうする?」
「足があるだろ。歩けばいずれ町に着く」

(待て待て待て)

 正気とは思えない。何かあれば子供を1人殺す事になる。

「それは荷物の運搬用であって、人を乗せる事を想定した造りではありませんよ」
「ラインハルト先生か。でもこの状態で数日過ごすなんて、こっちも耐えられないんだよ。早く助けを呼べるなら、それに越した事は無いだろ」

 ラインハルトは慌てて間に入った。

「危険過ぎます。僕は反対です」
「責任者に責任をとってもらうだけだよ」
「本気で言ってるんですか?」

 良心の呵責に耐えられなかったのか、ラインハルトが堂々と反対を宣言したのに追従して、黙って様子を伺っていた客達も異を唱えた。
 最終的に圧倒的多数の反対で、ビエルサがロープウェイに乗り助けを呼びに行く案は棄却されたが、人々の間を漂う空気は悪くなった。

「トリルさん、ちょっと良いですか?」
「ラインハルト先生、先程は有難うございます。私共使用人ではお客様方に強く言う事ができませんでした」
「御礼を言われるような事ではありません。それより今の状態でビエルサ様があの人達とペアになるのは避けたいです。協力してください」
「おや、先生は悪いお人ですね」

 面白がるような琥珀の目を見つめた時、ラインハルトは既視感を覚えた。

「……トリルさんの瞳の色って珍しいですよね」
「先生も同じじゃ無いですか」
「うちの家系が珍しいんですよ。母国で同じ色をした人は居ない――いえ、一度会った事があるかも?」
「……先生はお疲れのようですね。私は貴国に赴いた事も、親族が住んでいるなんて事も有りませんよ。天涯孤独の身で、幼い頃にノエル様に見出して頂いてからはずっとお側でお仕えしていました」
「そう、ですか」

 ラインハルトはモヤモヤしたままだが、思い出さない限りこれ以上話しても進展しそうに無い。

(話が逸れてしまった)

 本題はビエルサのペアだ。
 今日から使用人達とラインハルトが持ち回りでペアになるよう細工しなければ。
 今日は組み直しまで時間が無いし、ラインハルトはゲルスと組む必要があるので、トリルに主人とペアになってもらうしか無い。
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