見合い相手が女装した男だった。しかも僕のストーカーらしい。

一一(カズイチ)

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脅迫状編

究極の選択 ※

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 セシルがラインハルトにご褒美として要求しているのは、ディープキス or フェラチオ。

 単なるキスならまだ抵抗は少なかったのだが「唾液を飲みたい」表現は引く。
 ご褒美時間が短くて済むのはキスの方だが、口淫よりもメンタルへのダメージが大きい。
 しかもセシルはエロ同人のような男である。
 キスはあくまでラインハルトの推測だ。これは罠かもしれない。うっかり同意したら、キスとは別のとんでも無い行為を要求されかねない。
 唾液の摂取方法について、セシルに深掘りするのは憚られる。ラインハルトが乗り気のように受け取られかねない。
 その結果待ち受けているのは、調子に乗ったセシルによる暴走だ。
 ならば口淫を選ぶしかない。

「この部屋では無理ですね」

 ラインハルトの部屋は彼のデスクの後ろに窓があり、椅子に座った上半身くらいなら外から見えるようになっている。
 遮光保存したい資料は、続き部屋の資料室に保管している。こちらはラインハルトの部屋からしか入れず窓が一切無い。

 この部屋に限らず、この大学は教職員の部屋にカーテンがない。
 部屋を悪用しない為に、敢えて外から見える作りにしているのだ。
 カーテンを取り付ける行為自体が自分はこの部屋で疚しい事をしようとしていると捉えられかねないので、内心はどうであれ誰もカーテン無しで過ごす事について不服を表に出す事はしない。

「じゃあ今晩ラインハルト様のお部屋に」
「資料室に行きましょう」

 社内で不倫する男のような言動だ。

(職場でリスク犯すのは避けたいけど、ストーカーを部屋に入れたくない!)

 夜に私室に招くとなると家人の視線が気になるし、体液の摂取だけで済まない可能性大だ。

「イケナイことしてるみたいでドキドキしますね!」
「みたいじゃ無くて、普通にイケナイことですからね」

 気が進まないが、どうせ逃げられないなら手早く終わらせたい。
 のろのろとラインハルトが立ち上がろうとした時ノックの音が響いた。



「失礼します」

 尋ねてきたのはルイスだった。

「ラインハルトさん?」
「あ、ああ! 何でもないです」
「少しアーサーの事で相談したくて……」

 ルイスが目を伏せると、長い睫が影を作る。
 いつものラインハルトなら(アーサー×ルイス新展開キター!)と大歓喜なのだが、今はそんな余裕が無い。
 ラインハルトを頼ってきたルイスには申し訳ないが帰って欲しい。今すぐに!

 ラインハルトはデスクの影に隠れて不埒な真似をしてくる手を掴む。

(この両手、絶対離すものか!)



 来客の存在を感知したセシルは、素早くデスクの天板の下――俗に椅子を仕舞うスペースに身を隠した。
 もしかしたらラインハルトに認知される前、部屋に侵入していた時の条件反射なのかもしれない。
 しかしあろう事か認知後の彼は、己の習性をご褒美に応用した。

 セシルは来客対応中のラインハルトの下半身に悪戯しようとしたのである。
 流石歩くエロ同人。
 自分が当事者で無ければ拍手していた所だ。

 ラインハルトに手を封じられた彼は、口でチャックを降ろし、そのまま顔を埋めた。

(器用だなオイ!)

 男性向けエロで偶に見かける演出だが、まさか現実に実行する人間が居るとは思わなかった。

 下着越しに、セシルの呼吸を感じる。
ゆっくりと深呼吸されて、とても嫌な気持ちになった。
 股間の匂い堪能されるとかニッチ過ぎる。

「――気のせいかもしれないけど、でも俺から言ってもアイツ誤魔化すんです。ラインハルトさんからも聞いてくれませんか?」
「そ、そうですね。僕からも、は……話してみます」
「ラインハルトさん、もしかして体調悪いんですか? 顔赤いですよ」
「だ! 大丈夫!」

 心配したルイスが近寄ってこようとするので、ラインハルトは慌てて止めた。

 下着越しに舐めたり吸ったり。
 ラインハルトが抵抗できないのを良い事にセシルは好き放題しだした。

「いや大丈夫じゃないかも! 風邪だったらうつしたく無いから帰ってください! 僕も帰ります!」

 焦るあまり声が裏返った。
 こんな光景、見られたらラインハルトの人生終了だ。

 下着の隙間から舌を入れられる。
 以前の口淫でセシルはやたら水音を響かせていた。
 同じ事をされたら堪らない。

「それなら俺が馬車捕まえてきましょうか?」
「だいっ、じょうぶです!」

 大丈夫なのかそうじゃ無いのか、自分でもツッコミどころ満載だが語彙に気を使う余裕はない。
 ルイスは最後まで訝しげな顔をしていたが、それ以上深入りする事はなかった。



 彼の退出から3秒数えて、ラインハルトはセシルを引き剥がした。

「今のでご褒美は終了です」
「そんな! まだ飲んでないのに……」
「終了です。文句があるなら2度としません」
「じゃあ次もあるって事ですね! 今度はちゃんと飲ませてくださいね!」
「……本当に図太いですね」

 フィクションなら電車で痴漢プレイだろうが、職場で口淫だろうが好きにやれば良い。スリルで盛り上がるの大いに結構。
 他人事であればラインハルトもニヨニヨしながら堪能する。
 でも自分が実際するのは御免だ。

(バレたらマジで人生が終わる)

 水音もだが、匂いでバレる。

(スリルでビンビンどころか、タマヒュンだっての!)



**



「ハルさんは、何でアイツが纏わりつく事許してるの?」
「アーサーにしては、随分棘のある言い方ですね」
「だって……」

 思えばセシルを紹介した時から、アーサーの様子はおかしかった。
 彼にしては珍しく、最初からセシルを嫌っているようだ。

「ずっとハルさんの側に居たのは俺なのに、急に出てきて仲良くしてるんだもん」

 子供っぽい仕草で口をとがらせる大型犬。

(ああ、嫉妬か)

 分かりやすく拗ねた態度に合点した。

「確かに僕とアーサーの付き合いは、家族を除けば誰よりも長いですね」
「そうだよね!」

「――だからと言って、この先もそうである必要はないんですよ」

「ハルさん?」

 突きつけられた言葉に、アーサーは虚を突かれた顔をし、徐々にその表情は不安そうなものに変わった。

「アーサー。君の進路希望を聞きました。この研究室の助手を希望していると」
「そうだよ。だって俺、これからもハルさんと一緒にいたいし」

 顔をこわばらせて、瞳を揺らす年下の幼馴染みに、ラインハルトは微笑んだ。

「気持ちは嬉しいです。でも僕は君には君の人生を歩んで欲しいんです」
「全部俺が自分で選んで決めた事だよ」

 学科選択の時から感じていたことだが、口に出していいものか迷っていた。
 だが、このままではラチがあかないと腹をくくる。

「アーサー。……君は考古学に興味ありませんよね?」

 学生として学ぶのと、職業として選ぶのは重みが違う。
 アーサーはラインハルトに依存している。
 社会生活に支障が無い程度だったので、今までは容認していたが将来に影響するなら話は別だ。
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