魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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注文の多いオーベルジュ<蛇足編4>

つまり…どういうことだってばよ

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「アウクトル居るか!?」

 慌てたからか、魔界に戻った俺はアウクトルと激突した。
 一瞬彼が俺にぶつかりにきたように見えたけど、きっと気のせいだろう。メリットがないからな。
 勢いが良かったので、彼は俺の胸元に顔面強打した。
 鼻血くらい出ていそうなものだが、アウクトルは頑丈なので特に怪我は無かった。

「そのまま抱きしめても良いぞ」
「何の意味があるんだ?」

 よく分からないことを言われたので、肩を掴んで引き剥がす。

「随分遅かったな」
「どのくらい時間が経ってる?」
「1時間だ」
「……」

 彼の時間感覚がよく分からない。

「あの女性の他にもう1人、ダンジョン都市に転移させたい人物がいる。お前頼みだ、来てくれ」
「わかった。先ずはあの女の仕上がりを確認するか。問題なければまとめて送り出そう」
「仕上がりって……」

 気持ちは分かるけど、ゴミをまとめて捨てるみたいな表現は止めてくれ。ラトリーはゴミ捨て場じゃないぞ。

 *

「アウクトル様! もうリーリャさんに魔王様への敵意はございません」
「役目を押し付けられたので従っていただけです。今の彼女は我々の同志です!」
「え…いや……」

 ピンクのパジャマ姿のリーリャは、すっかり縮こまっている。
 ポステの同志発言に困惑した表情だ。ポステ、彼女は同志扱いが不服のようだぞ。

「こんなに早く打ち解けたなら、このまま魔界で暮らすのもありだな。……君をこの世界で受け入れるか、ダンジョン都市という移民が多い街に受け入れてもらうか検討中だ。希望はあるか?」
「いきなり言われてもその……」
「そうだな。言葉だけで決めるのは難しいか。よし実際に連れて行こう」
「お前達、この者に服を貸してやれ」
「了解です! リーリャさんはどんな服が好きですか? 身長高いけど、スタイル良いからフリーサイズならいけそうですね」
「ミッチの服が似合うかもしれませんね。2人とも綺麗系だからタイプ一緒です」

 少女達はきゃっきゃしながら服を選び始めた。困り顔だが、心なしかリーリャは嬉しそうだ。
 男は一旦退出するか。

 =========

 リーリャが着替え終わるのを待って、アウクトルは転移を発動した。
 やはりタイムラグがあるようで、転移先は昼間。もしかして数日経過しているかもしれない。
 優太の姿を探すがどこにもいない。
 単にキャンプ地を移動したのなら問題ないのだが、地面に踏み荒らした後がある。
 複数人の足跡だ。地面に触れるが、時間経過で残留思念は残っていなかった。

 *

 アウクトルの魔眼により優太は直ぐに見付かった。
 俺が他の勇者達を締め上げた町の広間で、衆人環視のもと糾弾されている。どうも俺が神獣を片付けたことで、彼が偽物確定扱いになってしまったようだ。

 勇者の名を騙った罪人に判決が言い渡される。
 これ俺の所為だわ。
 民衆は興奮状態で、俺が口で説明しても納得しそうにない。彼の汚名返上は諦めて、強制的に転移するべきか。

「黙れ!」

 リーリャの声がビリビリと大気を震わす。
 神の子であるリーリャは、恵体の持ち主だ。

「公平性の欠片も無い! このような一方的な裁きは無効だ!」

 優太を探す際に、彼について簡単に説明している。義憤に駆られたのか、彼女は怒りで震えている。

「彼を非難して良いのは、彼から直接的な被害を受けた者だけだ。該当する者は進み出ろ! その他の者は部外者だ。散れ!」
「いきなり何様――ヒッ」

 名も知らぬ勇者その1が、俺を見てビクついた。俺は君たちに何の害も与えてないんだが。

「そうだ、アウクトル。この国の召喚の儀式はどんな内容なんだ? 王城の一角に、5個の魔法陣があるんだ」
「ふむ。土地の力を使い果たした際に、異世界からエネルギーを取り入れて生き物の形にし、ついでに人材を引き入れている」
「神獣の復活に合わせて勇者を召喚している訳ではなく、土地がやせ細ってきたら他所からエネルギーを取り入れて神獣の形にしているんだな」
「ああ。オマケの人材に討伐させて、エネルギーを土地に補充しているようだ。よく出来ている」
「エネルギー召喚して自分達で討伐しているなら問題ないが、人を誘拐しているのは感心できないな」
「一応条件として、元の世界と繋がりが薄い者を選んでいるようだ。死に瀕していたり、人との繋がりが希薄な者が対象だ」
「判断に迷うな」

 優太のように召喚されることでチャンスを与えられる者もいるのか。これは俺が一方的に断じて良い案件ではない。

 まあどのみち、未来でアウクトルが召喚方法を消去するのでそれ迄の話だ。

「今回は優太だけ回収してお終いにしよう」

 広場に集まった人々が俺達を凝視していた。
 リーリャの喝が効いたのか、静まり返っているのでもしかしたら俺たちの会話は筒抜け状態だったのかもしれない。

「優太。俺達の会話聞こえてたか?」

 被告席に立たされている彼が頷く。
 この距離の彼に聞こえているなら、神獣の正体は皆に知れ渡ったのだろう。今後どうするかは彼等が自分で考えるべきだ。


 =========


 ダンジョン都市は優太とリーリャを歓迎した。
 経験こそ浅いもののリーリャの身体能力は冒険者として充分やっていける。ラトリーは前衛が少ないので戦える人材は大歓迎。
 優太の能力も応用が効くようで、充分パーティーでやっていけるみたいだ。
 2人はこのままラトリーのメンバーになった。

 リーリャはインファ達との女の友情に未練があるようだったが、ラトリーにも女性はいる。何より優太とリーリャの相性が良かった。

 彼の男の推しは「ラム様」だが、女の推し「イデア様」にリーリャがそっくりらしい。

「私はこんなに綺麗ではない」
「リーリャさんは美人ですよ!」
「男並みに背が高いし、君より体重が重いんだぞ」
「イデア様と同じですね! 大事なのは体の重さよりもシルエットですよ。筋肉は贅肉よりも重いんです。軽ければ良いって話じゃありません」
「わ、私は力が強くて、腹筋だって割れている!」
「今時のヒロインは主人公よりも強いんですよ。昔ながらの男に守られるヒロインも一定数存在しますが、俺はあんまり好きじゃないです」

 どうもリーリャは誉められたり、肯定されることに慣れていないらしい。
 自分の欠点を挙げながらも、それを優太が好意的に訂正するのが嬉しいようだ。


 =========


「リーリャさんの世界ですが、今大変なことになってますね」
「そうなのか?」

 優太の能力は千里眼。脳に負担がかかるため短時間しか使えないが、座標が分かれば異世界であろうと見渡せる。たとえ戦闘能力皆無だろうと、視界が悪く危険なダンジョン探索では重宝される。

「フォンスさんが言っていたスカウトマンは、魔界とセットになっている神界の存在でしょう? リーリャさんのお父さんとは無関係です」
「まあ、そうだな」
「リーリャさんのお父さん。無茶苦茶怒ってます」
「そうか……」
「まあ、お父さんもリーリャさんが人間に愛想尽かせば、自分のところに来るだろうとか勝手な考えの持ち主なのでざまぁですね」
「君、結構イイ性格してるな」

 これが友達16人の男か。見習わねば。
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