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注文の多いオーベルジュ<蛇足編4>
夫婦は似るもの
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神獣討伐は3体目に差し掛かっている。
神獣の眠る場所は国の東西南北と中央。神獣を討伐すると土地が肥沃になるらしく、それなりに大きな町が近くにある。肥料かよ。
*
町で聞き込みをしたら、直ぐに勇者達のいる場所が分かった。随分派手にやっているようだ。
「だからよぅ。俺は言ってやったんだ。態々異世界まで来て他人の顔色窺うなんて、つまんねー人生だなって」
「そーそー。ボロクソ言われてんのに、引き攣った顔で愛想笑いしちゃってさ。見てるだけでイラつくんだよ」
「大したことしてないのに頑張ってるアピールウザくね? いっつも被害者気取りで、身体張ってる俺等が悪者みたいになんの。アイツ今まで何した? 誰でもできる仕事か、魔道具で事足りる事しかしてなくね?」
「最初無能なのは仕方ないとして、一向に成長しないのは無いわ」
随分出来上がっているな。
酒場のテーブルには4人。椅子も4脚しか無いので、残る1名は最初から参加していないのだろう。
彼らの陰口の矛先になっているのは、此処に居ないもう1人ーーラトリーが保護した少年だ。
「随分鬱憤が溜まっているようだな」
手前にいた男の肩を叩く。
アルコールで頭の動きが鈍っているのだろう、俺を見上げた連中は暫くぼーっとしていた。
「君達は5人組なんだろう? 残りの1名は何処にいる?」
チームワークはよろしくないが、もし元気でやっているならそれで構わない。
無事を見届けたら、俺はダンジョン都市へ戻るだけだ。
「はあ? アンタ何?」
「いきなり何なの? 俺等勇者なんですけどー」
「……その服、もしかして同じ召喚者?」
「オイオイ。勇者は5人の筈だろ!? まさか俺達騙されたのか?」
「あのハズレがイレギュラーだったんだろ。こっちが本物なんじゃない?」
「こっちはもう2体片付けたんだぜ。後から来て偉そうにされたくねぇわ」
「それは悪かった。残りは今直ぐ片付けよう」
あまり大きな国では無いので、神獣の居場所はギリギリ魔力ソナーの探知圏内だ。復活の兆候は大体的に発表されているので、付近に人の反応もない。
酒場の屋根を吹き飛ばすわけにはいかないので、とりあえず両手に1人ずつ掴むと店の外へ引き摺り出す。残りの2人も追ってきた。
文句を言われる前に、薄暗くなった空へ圧縮した魔力を放つ。
3体同時攻撃した。たーまやー。
*
両手に掴んだ2人を締め上げると、彼らは震えながら白状した。
飲酒でトイレが近くなっていたのだろう。ズボンが可哀想な状態になっている。
「それで置いてきたのか」
「残りは見晴らしが良いし、もう必要ないだろ」
「必要なければ置き去りにして良いのか」
「本物の勇者なら自力で帰ってこれるだろ」
「帰ってこれなかったらどう責任取るつもりだ」
「そりゃ偽物だったって事じゃん。国を騙してたんだ。悪いのはアイツだろ」
危険地帯に仲間を1人置き去りにしておいて、反省する気はないようだ。
彼の能力を知った上で行っているので、未必の故意による殺人と言って差し支えがない。
元々このような性格なのか、もしくは救世主扱いされて気が大きくなったからかは分からないが、彼等は越えてはいけない一線を越えてしまっている。
「仮にも勇者を名乗るのであれば、それ相応の振る舞いをしろ。あと俺は勇者じゃない」
胸倉を掴んだ際に<サイコメトリー>で、少年を置き去りにした場所の座標を入手した。これなら俺でも転移できる。
=========
秋元優太は死にかけていた。
全身が痛くて、力が入らない。涙で滲む視界は暗く、崖の隙間から月が静かに優太を照らしている。
この状態になるのは二度目だ。
一度目は家の近所で撥ねられた時、ちゃんと黄色い線の内側に立っていたのに車が突っ込んできた。友達とマルチ対戦していたので、衝撃を受けるまで気付かなかった。もしゲームしていなくても、優太の運動神経ではどのみち撥ねられたかもしれない。
召喚前に自分は一度死んだのだろう。それが他の勇者達との違いだ。
この世界に来る前、白い空間で神様が色々言っていたけど、事故の衝撃が強すぎてあまり覚えていない。
あの時ちゃんと会話できていたら、他の皆のように色々な力を貰えたかもしれない。
全部過ぎ去ったことで、後悔してももう遅い。
新しい世界で二度目のチャンスをもらったのに、優太は要領が悪くて全然上手く立ち回れなかった。
もっと頭が良ければ、少ないカードでも有効に使ってこの世界で活躍できたかもしれない。
もうそんなチャンスはない。
これで最後なら、せめて楽しかった記憶を思い出したいのに、頭の中に再生されるのは他の勇者達の声。
『異世界まで来て他人の顔色窺うなんて、つまんねー人生だな』
『健気アピールうざいから止めてくれない? いい加減成長してくれないと迷惑なんだわ』
『お前の分まで俺等が頑張ってんの。勇者面してる自分を恥じてくださーい』
『はぁ。もういいよお前』
止めたいのに止まらない。
悔しくて、胃がカッと熱くなるのに。優太は怒れなかった。足手纏いの自分には怒る資格がないと思ったし、反論することで見ず知らずの世界で1人になる事が怖かった。
日本に居た頃はこんな性格じゃなかった。嫌な事があればちゃんと言ったし、理不尽には怒る事ができた。
興奮したからか呼吸ができなくなってきた。
滲む視界にアップの推しが現れた。これが天のお迎えなら嬉しいけど、何で上下逆さま?
神獣の眠る場所は国の東西南北と中央。神獣を討伐すると土地が肥沃になるらしく、それなりに大きな町が近くにある。肥料かよ。
*
町で聞き込みをしたら、直ぐに勇者達のいる場所が分かった。随分派手にやっているようだ。
「だからよぅ。俺は言ってやったんだ。態々異世界まで来て他人の顔色窺うなんて、つまんねー人生だなって」
「そーそー。ボロクソ言われてんのに、引き攣った顔で愛想笑いしちゃってさ。見てるだけでイラつくんだよ」
「大したことしてないのに頑張ってるアピールウザくね? いっつも被害者気取りで、身体張ってる俺等が悪者みたいになんの。アイツ今まで何した? 誰でもできる仕事か、魔道具で事足りる事しかしてなくね?」
「最初無能なのは仕方ないとして、一向に成長しないのは無いわ」
随分出来上がっているな。
酒場のテーブルには4人。椅子も4脚しか無いので、残る1名は最初から参加していないのだろう。
彼らの陰口の矛先になっているのは、此処に居ないもう1人ーーラトリーが保護した少年だ。
「随分鬱憤が溜まっているようだな」
手前にいた男の肩を叩く。
アルコールで頭の動きが鈍っているのだろう、俺を見上げた連中は暫くぼーっとしていた。
「君達は5人組なんだろう? 残りの1名は何処にいる?」
チームワークはよろしくないが、もし元気でやっているならそれで構わない。
無事を見届けたら、俺はダンジョン都市へ戻るだけだ。
「はあ? アンタ何?」
「いきなり何なの? 俺等勇者なんですけどー」
「……その服、もしかして同じ召喚者?」
「オイオイ。勇者は5人の筈だろ!? まさか俺達騙されたのか?」
「あのハズレがイレギュラーだったんだろ。こっちが本物なんじゃない?」
「こっちはもう2体片付けたんだぜ。後から来て偉そうにされたくねぇわ」
「それは悪かった。残りは今直ぐ片付けよう」
あまり大きな国では無いので、神獣の居場所はギリギリ魔力ソナーの探知圏内だ。復活の兆候は大体的に発表されているので、付近に人の反応もない。
酒場の屋根を吹き飛ばすわけにはいかないので、とりあえず両手に1人ずつ掴むと店の外へ引き摺り出す。残りの2人も追ってきた。
文句を言われる前に、薄暗くなった空へ圧縮した魔力を放つ。
3体同時攻撃した。たーまやー。
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両手に掴んだ2人を締め上げると、彼らは震えながら白状した。
飲酒でトイレが近くなっていたのだろう。ズボンが可哀想な状態になっている。
「それで置いてきたのか」
「残りは見晴らしが良いし、もう必要ないだろ」
「必要なければ置き去りにして良いのか」
「本物の勇者なら自力で帰ってこれるだろ」
「帰ってこれなかったらどう責任取るつもりだ」
「そりゃ偽物だったって事じゃん。国を騙してたんだ。悪いのはアイツだろ」
危険地帯に仲間を1人置き去りにしておいて、反省する気はないようだ。
彼の能力を知った上で行っているので、未必の故意による殺人と言って差し支えがない。
元々このような性格なのか、もしくは救世主扱いされて気が大きくなったからかは分からないが、彼等は越えてはいけない一線を越えてしまっている。
「仮にも勇者を名乗るのであれば、それ相応の振る舞いをしろ。あと俺は勇者じゃない」
胸倉を掴んだ際に<サイコメトリー>で、少年を置き去りにした場所の座標を入手した。これなら俺でも転移できる。
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秋元優太は死にかけていた。
全身が痛くて、力が入らない。涙で滲む視界は暗く、崖の隙間から月が静かに優太を照らしている。
この状態になるのは二度目だ。
一度目は家の近所で撥ねられた時、ちゃんと黄色い線の内側に立っていたのに車が突っ込んできた。友達とマルチ対戦していたので、衝撃を受けるまで気付かなかった。もしゲームしていなくても、優太の運動神経ではどのみち撥ねられたかもしれない。
召喚前に自分は一度死んだのだろう。それが他の勇者達との違いだ。
この世界に来る前、白い空間で神様が色々言っていたけど、事故の衝撃が強すぎてあまり覚えていない。
あの時ちゃんと会話できていたら、他の皆のように色々な力を貰えたかもしれない。
全部過ぎ去ったことで、後悔してももう遅い。
新しい世界で二度目のチャンスをもらったのに、優太は要領が悪くて全然上手く立ち回れなかった。
もっと頭が良ければ、少ないカードでも有効に使ってこの世界で活躍できたかもしれない。
もうそんなチャンスはない。
これで最後なら、せめて楽しかった記憶を思い出したいのに、頭の中に再生されるのは他の勇者達の声。
『異世界まで来て他人の顔色窺うなんて、つまんねー人生だな』
『健気アピールうざいから止めてくれない? いい加減成長してくれないと迷惑なんだわ』
『お前の分まで俺等が頑張ってんの。勇者面してる自分を恥じてくださーい』
『はぁ。もういいよお前』
止めたいのに止まらない。
悔しくて、胃がカッと熱くなるのに。優太は怒れなかった。足手纏いの自分には怒る資格がないと思ったし、反論することで見ず知らずの世界で1人になる事が怖かった。
日本に居た頃はこんな性格じゃなかった。嫌な事があればちゃんと言ったし、理不尽には怒る事ができた。
興奮したからか呼吸ができなくなってきた。
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