魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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注文の多いオーベルジュ<蛇足編4>

鍵のかかった部屋

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「フォンスさん!? 丁度よかったと言うべきか、少し遅かったと言うべきか…… とにかく大変なんです!」

 ラトリーの本拠地は、いつになく慌ただしかった。
 街の自警団が廊下を行き来している。何か事件が起こったのか?

「何があったんだ?」
「先日、屋敷の前に人が倒れていたんです。大型モンスターに突進されたような酷い怪我で…… フォンスさん達に似た服装だったので、とりあえず僕たちの屋敷で療養させていました。ナリーは高レベルの治癒師なので、ウチでも治療院並みのケアが可能なんです」
「その人は今どこに?」
「それが居ないんです! 一度も意識を取り戻さなかったので、朝夕2回ヒーリングライトを当てて、昼1回ポーションを流し込んで延命してました。絶対に自力では移動できない筈なのに、先程部屋に行ったらもぬけの殻で……」

 ダンがポーションを飲ませに行ったら、部屋が無人だったらしい。

「ああもう、何が起きてるのかわかんねぇ! 本人だけじゃねぇ。あの小僧の服も所持品も消えてやがる!」

 アヴァンが頭を掻きむしる。彼の耳も尻尾も警戒体制を示している。

「着せていた寝巻きは、抜け殻の状態で部屋に。窓も内側から閉められてますし、出入りするには絶対に廊下を通る筈なんですが、誰も何も見てないんです」
「自力じゃ無理なら誘拐だ。人ひとり抱えて移動するのは目立つ。いくら油断していたとしても、儂等が気付かないなんてあり得ない」

 テランが唸り、マーセが目を伏せる。

「荷物は見たことの無いものばかりだったので、危険物である可能性を考えて別室に保管していたんです。短時間で、人も道具も迷わず回収するなんて事は不可能です」
「フォンスさん。あの方は酷い衰弱状態です。外傷は私の治癒で治ったんですが、何故か時間経過と共に生命反応が弱くなっていて…… 早く見つけて適切なケアをしないと死んでしまいます!」

 ダン、ナリーは純粋に少年を心配している。
 他のメンバーは、自分達の本拠地に何者かが不法侵入した事を問題視している。

「部屋を見せてもらえるか?」
「勿論。二階の端です」

 *

 ダンの述べた通り、布団には寝巻きだけが残されている。
 寝巻きは胸から下が上掛けに隠れており、寝巻きを持ち上げると下に来ていたのだろう下着が落ちた。

 綺麗に中身――装着者だけが消えたようだ。
 脱がせたとすると、態々布団の下に一部入れたり、下着を中に残した意味が分からない。そもそも連れ去る時に寝巻きを置いていく理由がない。

 この部屋で何があったのか知りたい。
 強く念じると新しいスキルの取得を感じた<サイコメトリー>だ。

 =========

 目を閉じて集中すると、時間を戻すように部屋の光景が脳内に映し出される。

 10代後半なのだろうが、随分幼く見える少年が眠っている。
 魔法陣のようなものがその体の上に展開し中身だけ消えた。荷物も同様の流れで持ち去られたのだろう。
 魔法陣のあった場所に触れると、うっすらと座標が残っていた。
 時間経過で掌からこぼれ落ちるように情報が消えていく。考えている時間はない。

「魔術で連れ去られている。時間がない。今すぐ追いかける」
「フォンスさん!?」

 驚くダンとナリーを置き去りに、俺は別の世界へ転移した。

 =========

 跳躍先は大きな部屋だった。
 壁もドーム型の天井も細かな紋様が描かれており、ステンドグラスから西日が降り注いでいる。かなり華やかな建築物だ。床には人一人分くらいの魔法陣が5個描かれている。
 一瞬の事だったので確証はないが、そのうちの一つが少年の上に展開したものと同じだ。

「5人召喚されたのか?」

 跳躍後に気付いたが、この世界は例の乙女ゲー的な世界だ。座標の後半が全く違うので、アヴァールとは別の国だろう。建築様式に類似性が見られないので、別大陸かもしれない。
 別の国なのにまたもや「5」推し。この世界自体に、何かがあるのかもしれない。

「キャア!」

 小さな悲鳴の主は召使と思しき少女だった。
 膨らみのないストンとしたローブにビスチェを重ね、頭には薄布を巻いている。
 手には掃除道具を持っているので、この部屋の担当なのだろう。
 黙らせようか、話を聞き出すか迷うが結論を出すよりも先に彼女が破顔した。

「貴方が本物の勇者様ですね!?」
「何だって?」
「やっぱりあの人は偽物だったんだわ! 今、神官様をお呼びするのでお待ちくださいね!」

 止める間も無く、足取り軽く駆け出してしまった。
 何故不法侵入者の俺に好意的なのかはわからないが、事情を知る人間が来てくれるなら有難い。
 念のために魔力ソナーで周囲を探るが、ここは城の一角のようだ。

 *

 少女に連れられてきたのは、恰幅の良い中年男性だった。

「おお! 何と神々しい。貴方が最後の勇者様ですね!」
「話がわからない」
「そうでしょうとも。ご安心ください、皆様最初は同じように戸惑われるのです」

 やはり複数人召喚したらしい。
 アヴァールは聖女だったが、ここは勇者か。
 アヴァールに降臨した時にアウクトルが召喚関連の一切を抹消している。彼の仕事は確実だから、もしかしたら時間軸があの時よりも前なのかもしれない。

「何も知らないんだ。手短に頼む」

 神官の話だと、この国には旧世界の神獣が5体存在し、定期的に復活を繰り返しては災厄をもたらすらしい。
 何年毎という規則性はないが1体復活すると、他も連動して復活する。
 教皇が神獣復活の神託を受けると、異世界から5人の勇者を召喚して討伐するのが慣しとのこと。
 さりげなく暦の探りを入れたが、アヴァールとは別物だったので全然参考にならなかった。

「偽物とか本物とか言っていたが……」
「ああ。不完全な者が紛れ込んでいたのです。一応召喚された身ですし、様子を見ていたんですがどうにも怪しくて」

 苦々しい顔をしているが、そもそも誘拐して都合良く使おうとしている者にそんな顔をする権利はない。
 召喚に関与した人間がこの態度。
 異質なものを排除しようとするのは何処の世界も変わらない。嫌な予感がする。

「既に召喚された者達は何処にいるんだ?」
「そうですな。一刻も早く他の方々と合流された方がよろしい。旅の支度を致しますので、本日はここにお泊りに「不要だ」」

 必要な情報は手に入れたので、長居をする必要はない。
 先に現地入りしている勇者達の位置情報を聞き出すと、俺は全力で駆け出した。

 アウクトルのような転移があれば楽なのだが、あれは彼が千里眼で目的地のリアルタイム座標を算出することで可能にしている。今の俺では、幾つかスキルを新規取得する必要がある。
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