魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ようこそ実力主義のグランピングへ<蛇足編3>

だが断る ※

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 酒場で出した結論は「俺にその気がないなら、応じなくて正解。蒸し返したり、深く思い悩む必要もない」だった。
 人に断言してもらったことで気が楽になった。

 *

 俺にあてがわれた部屋には、アウクトルが居た。
 旅行中に彼を蔑ろにしたことは、俺の都合なので素直に謝罪した。
 アウクトルは不機嫌というよりは葛藤している様子だった。
 おそらく俺を許すかどうか迷っているのだろう。

 座っている彼の正面に移動する。

「今回の旅行。お前なりに色々考えてくれたんだろう。勝手に予定を変えて悪かった」
「……酒場で女と飲んできたんじゃないのか?」
「女性はメルセが途中で合流しただけだ」
「……」

 女遊びしに行ったと思っていたのか。
 顔の広いダン達と一緒にいたからか、やたら女性冒険者に声をかけられたが、俺の目的は相談することだったので相席は断った。

「……埋め合わせをすると言ったな」
「ああ。何でも言え」

 俺がやったことは二人で遊びに行ったのに、出先で知り合った連中と勝手に盛り上がったようなものだ。
 どんな温厚な友人だろうと怒るだろう。絶交されても仕方ない行為だ。

 *

 手を伸ばしてくるアウクトルを見つめる。
 脳震盪起こすレベルで頭叩かれたり、スイカを砕きそうな威力でデコピンされるかもしれないが甘んじて受けよう。

 アウクトルは俺の顎を指で固定すると、親指で唇に触れた。
 確かめるように下唇をゆっくりとなぞる。
 俺が動かないからか、口の中に指を入れることは無いがフニフニと軽く力を加えた。

 アウクトルは何も言わないが、彼が何を要求しているのかは明らかだ。
 俺の全身から冷や汗が出る。

「ベッドへ…」

 無反応な俺に焦れたのか、アウクトルは決定的な言葉を放った。

 行っちゃダメだ、行っちゃダメだ、行っちゃダメだ、行っちゃダメだ、行っちゃダメだ!
 ――ヤるしかない!! 今…! ここで!!

 俺にその気がないなら、応じなくて正解。
 しかし今回は例外だ。何でもすると自分から宣言している。

「れ、例外中の例外だ。いいな」
「ああ……」

 危険なギャンブルだが、俺は賭け事に強いから大丈夫!
 俺はアウクトルの肩に手を置くと軽く力を込めた、ベッド行きは絶対に阻止だ。
 彼の足の隙間にさり気無く膝を置き、ソファから立てないようにする。

 要望を完全に無視するのは不可能だ。ならば気付かないふりをして、ある程度発散させる!

「目を閉じろ」

 素直に従ったのを見届けて、薄く開かれた唇に触れる。
 過去で散々やったので、つい条件反射で舌を入れてしまった。
「お邪魔しました~」と引き抜きたいが、アウクトルが舌を絡めてきたので応じた。

 殊更時間をかけてゆっくりと動く。丁寧にしているのではなく、これは時間稼ぎだ。
 ここで刺激しすぎると、後に引けなくなるので加減が重要だ。
 もどかしいのか、膝に彼の股間が当てられるが全力で無視する!
 尻を撫でられるが、全力で無視する!!

 *

 お互いの息遣いしか聞こえない空間に、ノックの音が響く。

「はいっ!」

 俺が応じたから当然なのだが、扉が開く。
 音速で移動し、扉がこれ以上開かないよう足で止める。

「フォンスさん?」
「気にしないでくれ! どうしたんだ!?」

 部屋の中が見えないよう、隙間に体を捩じ込んでダンの視界を塞ぐ。

「マーセさんの快気祝いに、ケーキもらったんです。日持ちしないから、食べられそうなら下に来てください」
「わかった。すぐに行く」
「アウクトルさんの部屋をノックしたんですが反応がなくて。もう寝ちゃったんですかね?」
「念の為、俺からも声をかけておこう」

 俺はこれを待っていた。
 実は階段を登る際に、マーセの友人が仕事終わりに菓子折りを持参したのを目撃したのだ。
 彼等は善良だから、必ず俺たちに声をかけてくると思った。問題はそれが今日か、明日かだが見事俺は賭けに勝った。

 扉が閉じるのを待って、アウクトルを振り返る。

「ざ、残念だが、今日はここまでだ」

 =========

 アウクトルは、俺で童貞を捨てることを諦めていなかった。

 そりゃそうだ。
 アラサー童貞に「焦らなくて良い」と言われたら、逆に焦る。存在そのものが反面教師だ。

 彼には申し訳ないが、中断された事で俺は助かった。
 その後は大人しくしてくれたので、当面は大丈夫だろう……大丈夫だよな?

 *

 魔界に戻り、傍のアウクトルを見る。
 メルセに指摘されたが、俺たちは距離が近いらしい。確かに一歩横に移動したら確実にぶつかりそうな距離だが、過去では膝に乗ったりしていたから至近距離の自覚は無かった。

「どうした?」
「俺とお前の距離が近いと、ある人に指摘されたんだ。俺にはその自覚がないんだが、お前はどうだ?」
「……何ら問題ない距離だ。今後も特に意識する必要はあるまい」

 表情は変わらないが、アウクトルの声は彼の機嫌が良い事を示している。
 表情豊かなタイプではないが、付き合いが長い所為か、ちょっとした変化が分かるようになった気がする。
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