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ようこそ実力主義のグランピングへ<蛇足編3>
さぁ送ってやるよ地上に!
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「……」
俺は目頭を抑えた。
モンスター()の襲来で漸く俺は理解した。
ここキャンプ場じゃない。
彼等はコスプレ集団ではなく、本物の冒険者達だ。
思い返せば最初に「パーティー」って言ってたな。
*
俺が始末したモンスターの死骸に群がる彼等は興奮状態。
どうやら、仲間の病気に効く個体がいたらしい。
ここに居ないその仲間は、杖の少女・ナリーの姉らしい。少女は歓喜で泣きじゃくっているが、モンスターの襲来で失禁しているため、上も下もエライ事になっている。
塩だけもらってさっさと退散しよう。
「…約束の塩をもらえるか? これは置いていくから好きにすると良い」
「そんな事できません!」
救助されたダンがキッパリと断った。真っ直ぐな目をしているが、こんな時に誠実さを発揮しないでくれ!
「命を助けていただいただけでなく、マーセさんの治療薬になる素材までいただくなんて! それにここにあるのは、僕達の身に余るような貴重な素材です。倒した貴方に権利があります」
「ではその権利を君たちにやる」
「過剰です。いただけません」
面倒なやつだなオイ! 一見良い人だが、自分の正義を押し付けるタイプだな。
遭難していた割に口が達者だ。
「ついて来い。先に朝食を済ませたい」
もうアウクトルは起きているだろう。問答していても時間の無駄なので、貴重な素材となったモンスターを<収納空間>に片付けると、俺は更に一層ぶち抜いて92階層へ戻った。
=========
「随分遅かったな。それに余計なものを引き連れている」
「……塩を探しに行ったんだ」
テントに戻った俺を、リクライニングチェアに座ったアウクトルが出迎えた。
深く腰掛け足を組む姿に、昨日の殊勝さの名残はない。
「それより、ここキャンプ場じゃないだろ」
「野営地のことをキャンプ場と呼ぶのだろう?」
「ここはダンジョンだ!」
騙した訳ではなく、アウクトルの認識ではダンジョン=屋内アウトドア施設らしい。
そうなると、オブジェだと思っていた遺体は本物か。
俺の故郷にダンジョンはなかったが、一般的に入口から遠いほど危険度は比例する。108階層中の92階層なら人が居ないのも納得だ。おそらく92階層は最後のセーフティエリアなのだろう。
朝食を作り終えたところで、冒険者達が俺に追いついた。
材料には余裕があるので、彼等の分も用意したのだがアウクトルにはそれがまた気に食わないらしい。
口数少なく、黙々と食べている。
食べ終わったアウクトルは問答無用で彼等に治癒魔術を施すと、転移で地上まで送ると言い出した。
そんなに嫌だったのか。
*
「そう言えば、利用料はいつ精算するんだ?」
ずっとキャンプ場だと認識していたので、ダンジョンだと理解した今でもつい用語がそちらに傾いてしまう。
「え? ダンジョンに入る時に払わなかったんですか?」
「……」
俺は無言でアウクトルを見た。
「直接転移して、直接帰還するのだ。問題ない」
「それは不正行為だよな」
「誰の迷惑にもならぬ」
「お前、ご両親の前でも同じ事が言えるか?」
「……」
これは困った。正直、俺一人の問題だったら、アウクトルと同じ考えでバックレている。
しかし未成年のアウクトルに対し、社会人の俺が不正を容認するのは問題だろう。
ここは魔王が君臨する魔界ではない。他の世界で好き勝手することを当然と認識するのは彼の為にならない。
「アウクトル。ここの通貨は持っているのか?」
下見をしているくらいなので、2人分の料金くらいは持っていると思いたい。
「持っておらぬ」
「困ったな……」
先ほどゲットした素材を現物納付で何とかなるか?
あ。良い事を思いついた。
「そうだ、上の階層に幾つか遺体があった。彼等の所持金をもらおう」
「……嘘だろ…」
誰かの呟きが聞こえたので振り返るとラトリーの面々が、恐ろしい生き物を見る目で俺を見ていた。
*
俺としては墓を暴くのはNGだが、野晒しで死んだ人の所持品を頂戴するのは問題ない行為。
しかしこの世界ではどちらもNGらしい。
冒険者ならその辺ドライで良いと思うんだが、全力で否定された。
捜索費=塩
治療費、地上への帰還費=ダンジョン入場料
薬の材料になるモンスター=街の観光案内(費用ラトリー持ち)
「それでも過剰なんですけど……」
「案内など不要だ……」
渋るダンをテランが、アウクトルを俺が説き伏せた。
治療後に目を覚ましたテランが年長者らしく、交渉をまとめてくれた。
異世界をガイド付きで観光できるのは有り難い話なので、俺はテランの提案に乗った。
食べ慣れた物で過ごすグランピングも良いが、現地ならではの美味しいものも食べたい。
=========
転移を発動したアウクトルは、直接ラトリーの本拠地へ飛んだ。
「何で住所を知っているんだ?」
「下調べをした」
アウクトルの言う下調べとは、図書館やギルドの資料を千里眼で盗み見て全て暗記するという無茶苦茶なものだった。
当然彼は、冒険者ギルドに記録されているラトリーの現状を把握済み。
*
本拠地にはマーセと、彼女に伝言しに来た他所の冒険者が居た。
ベッドから身を起こしたマーセは、仲間の帰還を涙を流して喜んだが、腹痛で喜ぶどころではなくなってしまった。
「ふむ。腸の一部が妙な事になっているな」
「病の原因がわかるのか?」
「異質なものが異常増殖し、正常なものを圧迫している」
「癌か」
彼の魔眼はMRI機能もあるらしい。
地球では化学療法、放射線療法、外科療法があったが此処ではどうなんだろうな。
おそらくモンスターによって作られる薬は抗がん剤だろう。
彼女は若いし、強い自覚症状があるという事はかなり進行している可能性がある。
化学療法では手遅れになりそうだ。
俺はアウクトルを部屋の隅に移動させ、彼等に覚悟するよう伝えるべきか相談した。
どうやら俺の死生観は特殊らしい。告知なんてデリケートな問題は、第三者の意見を聞かないと取返しのつかない失態を犯してしまいそうだ。相談相手がアウクトルというのは不安だが、俺の独断よりはマシだろう。
「心配には及ばん」
俺から一通り話を聞き終えたアウクトルは、眠るマーセに近づくとその腹部に手を当てた。
ビシャッ
マーセを見守るように立つダン達。そんな彼等の体を、飛び散った血肉が汚した。
彼女の腹部に地上波では放送できないような大穴を開けたアウクトルは、即座に魔術を発動して治療した。
結構広い範囲を切除したのは癌が転移する可能性に配慮したのだろう。
先ほどの拙い説明で癌について理解しただけでなく、気配りまでできるなんて流石としか言いようがない。
俺がアウクトルを褒めるのと、我に帰ったダン達がパニックを起こしたのは同時だった。
「姉さん! 姉さん!」
「落ち着いて欲しい」
「おち、おちっ! そんな事できるかっ! アンタなんて事したんだっ!」
「アウクトルは彼女を治療したんだ」
「そーかい! そうなんだろうな! でもやり方ってもんがあんだろ!」
興奮状態にある彼等を落ち着かせるためにフィールドを展開する。
「これはある国の神話なんだが、とある神が正体を隠して地上を旅をしていたーー」
心身にデバフがかかり、戦闘能力の高い者以外は立つ事もできなくなった。これで人に掴みかかるような元気は無くなったはず。
意外なことにフィールドの中で、一番平気そうなのはリオだった。
「夜になり、神は人間の家に泊めてもらった。彼は一宿一飯の恩を返そうと、その家の赤子を不老不死にしようとした。永遠の命を与えようと赤子を暖炉に投げ込もうとした時、親が気付いて神を止めた。……君達はこの話を聞いてどう思った?」
「家に泊めた恩返しが、不老不死っておかしいだろ」
「親の了承を得ないのがあり得ないね」
「何の説明もなしに暖炉に投げ込もうとするとか、どう考えてもダメでしょう」
「今のアウクトルは話に出てきた神と同じだ。彼としては親切心で彼女の病を治した。方法は荒っぽいが一瞬で終わる。逆に丁寧に説明をしてしまえば、不要なストレスや恐怖を与える。……君たちに事前に説明したとしよう。直ぐに再生するから体の1/3を吹き飛ばしても良いかと聞かれて、是と答えられる者はいるか?」
「……」
「見た目は同じ人間だが、価値観が違う。非常識でとんでも無い行動をとるかもしれないが、悪気はないんだ」
「お、おう…」
「…そ、そうだな…」
「……最初からそんな感じでしたね」
何故か彼等はアウクトルではなく、俺の方を見て納得した表情になった。
いやいや、やらかしたのアウクトルだから。俺は彼のフォローしただけだから。
俺は目頭を抑えた。
モンスター()の襲来で漸く俺は理解した。
ここキャンプ場じゃない。
彼等はコスプレ集団ではなく、本物の冒険者達だ。
思い返せば最初に「パーティー」って言ってたな。
*
俺が始末したモンスターの死骸に群がる彼等は興奮状態。
どうやら、仲間の病気に効く個体がいたらしい。
ここに居ないその仲間は、杖の少女・ナリーの姉らしい。少女は歓喜で泣きじゃくっているが、モンスターの襲来で失禁しているため、上も下もエライ事になっている。
塩だけもらってさっさと退散しよう。
「…約束の塩をもらえるか? これは置いていくから好きにすると良い」
「そんな事できません!」
救助されたダンがキッパリと断った。真っ直ぐな目をしているが、こんな時に誠実さを発揮しないでくれ!
「命を助けていただいただけでなく、マーセさんの治療薬になる素材までいただくなんて! それにここにあるのは、僕達の身に余るような貴重な素材です。倒した貴方に権利があります」
「ではその権利を君たちにやる」
「過剰です。いただけません」
面倒なやつだなオイ! 一見良い人だが、自分の正義を押し付けるタイプだな。
遭難していた割に口が達者だ。
「ついて来い。先に朝食を済ませたい」
もうアウクトルは起きているだろう。問答していても時間の無駄なので、貴重な素材となったモンスターを<収納空間>に片付けると、俺は更に一層ぶち抜いて92階層へ戻った。
=========
「随分遅かったな。それに余計なものを引き連れている」
「……塩を探しに行ったんだ」
テントに戻った俺を、リクライニングチェアに座ったアウクトルが出迎えた。
深く腰掛け足を組む姿に、昨日の殊勝さの名残はない。
「それより、ここキャンプ場じゃないだろ」
「野営地のことをキャンプ場と呼ぶのだろう?」
「ここはダンジョンだ!」
騙した訳ではなく、アウクトルの認識ではダンジョン=屋内アウトドア施設らしい。
そうなると、オブジェだと思っていた遺体は本物か。
俺の故郷にダンジョンはなかったが、一般的に入口から遠いほど危険度は比例する。108階層中の92階層なら人が居ないのも納得だ。おそらく92階層は最後のセーフティエリアなのだろう。
朝食を作り終えたところで、冒険者達が俺に追いついた。
材料には余裕があるので、彼等の分も用意したのだがアウクトルにはそれがまた気に食わないらしい。
口数少なく、黙々と食べている。
食べ終わったアウクトルは問答無用で彼等に治癒魔術を施すと、転移で地上まで送ると言い出した。
そんなに嫌だったのか。
*
「そう言えば、利用料はいつ精算するんだ?」
ずっとキャンプ場だと認識していたので、ダンジョンだと理解した今でもつい用語がそちらに傾いてしまう。
「え? ダンジョンに入る時に払わなかったんですか?」
「……」
俺は無言でアウクトルを見た。
「直接転移して、直接帰還するのだ。問題ない」
「それは不正行為だよな」
「誰の迷惑にもならぬ」
「お前、ご両親の前でも同じ事が言えるか?」
「……」
これは困った。正直、俺一人の問題だったら、アウクトルと同じ考えでバックレている。
しかし未成年のアウクトルに対し、社会人の俺が不正を容認するのは問題だろう。
ここは魔王が君臨する魔界ではない。他の世界で好き勝手することを当然と認識するのは彼の為にならない。
「アウクトル。ここの通貨は持っているのか?」
下見をしているくらいなので、2人分の料金くらいは持っていると思いたい。
「持っておらぬ」
「困ったな……」
先ほどゲットした素材を現物納付で何とかなるか?
あ。良い事を思いついた。
「そうだ、上の階層に幾つか遺体があった。彼等の所持金をもらおう」
「……嘘だろ…」
誰かの呟きが聞こえたので振り返るとラトリーの面々が、恐ろしい生き物を見る目で俺を見ていた。
*
俺としては墓を暴くのはNGだが、野晒しで死んだ人の所持品を頂戴するのは問題ない行為。
しかしこの世界ではどちらもNGらしい。
冒険者ならその辺ドライで良いと思うんだが、全力で否定された。
捜索費=塩
治療費、地上への帰還費=ダンジョン入場料
薬の材料になるモンスター=街の観光案内(費用ラトリー持ち)
「それでも過剰なんですけど……」
「案内など不要だ……」
渋るダンをテランが、アウクトルを俺が説き伏せた。
治療後に目を覚ましたテランが年長者らしく、交渉をまとめてくれた。
異世界をガイド付きで観光できるのは有り難い話なので、俺はテランの提案に乗った。
食べ慣れた物で過ごすグランピングも良いが、現地ならではの美味しいものも食べたい。
=========
転移を発動したアウクトルは、直接ラトリーの本拠地へ飛んだ。
「何で住所を知っているんだ?」
「下調べをした」
アウクトルの言う下調べとは、図書館やギルドの資料を千里眼で盗み見て全て暗記するという無茶苦茶なものだった。
当然彼は、冒険者ギルドに記録されているラトリーの現状を把握済み。
*
本拠地にはマーセと、彼女に伝言しに来た他所の冒険者が居た。
ベッドから身を起こしたマーセは、仲間の帰還を涙を流して喜んだが、腹痛で喜ぶどころではなくなってしまった。
「ふむ。腸の一部が妙な事になっているな」
「病の原因がわかるのか?」
「異質なものが異常増殖し、正常なものを圧迫している」
「癌か」
彼の魔眼はMRI機能もあるらしい。
地球では化学療法、放射線療法、外科療法があったが此処ではどうなんだろうな。
おそらくモンスターによって作られる薬は抗がん剤だろう。
彼女は若いし、強い自覚症状があるという事はかなり進行している可能性がある。
化学療法では手遅れになりそうだ。
俺はアウクトルを部屋の隅に移動させ、彼等に覚悟するよう伝えるべきか相談した。
どうやら俺の死生観は特殊らしい。告知なんてデリケートな問題は、第三者の意見を聞かないと取返しのつかない失態を犯してしまいそうだ。相談相手がアウクトルというのは不安だが、俺の独断よりはマシだろう。
「心配には及ばん」
俺から一通り話を聞き終えたアウクトルは、眠るマーセに近づくとその腹部に手を当てた。
ビシャッ
マーセを見守るように立つダン達。そんな彼等の体を、飛び散った血肉が汚した。
彼女の腹部に地上波では放送できないような大穴を開けたアウクトルは、即座に魔術を発動して治療した。
結構広い範囲を切除したのは癌が転移する可能性に配慮したのだろう。
先ほどの拙い説明で癌について理解しただけでなく、気配りまでできるなんて流石としか言いようがない。
俺がアウクトルを褒めるのと、我に帰ったダン達がパニックを起こしたのは同時だった。
「姉さん! 姉さん!」
「落ち着いて欲しい」
「おち、おちっ! そんな事できるかっ! アンタなんて事したんだっ!」
「アウクトルは彼女を治療したんだ」
「そーかい! そうなんだろうな! でもやり方ってもんがあんだろ!」
興奮状態にある彼等を落ち着かせるためにフィールドを展開する。
「これはある国の神話なんだが、とある神が正体を隠して地上を旅をしていたーー」
心身にデバフがかかり、戦闘能力の高い者以外は立つ事もできなくなった。これで人に掴みかかるような元気は無くなったはず。
意外なことにフィールドの中で、一番平気そうなのはリオだった。
「夜になり、神は人間の家に泊めてもらった。彼は一宿一飯の恩を返そうと、その家の赤子を不老不死にしようとした。永遠の命を与えようと赤子を暖炉に投げ込もうとした時、親が気付いて神を止めた。……君達はこの話を聞いてどう思った?」
「家に泊めた恩返しが、不老不死っておかしいだろ」
「親の了承を得ないのがあり得ないね」
「何の説明もなしに暖炉に投げ込もうとするとか、どう考えてもダメでしょう」
「今のアウクトルは話に出てきた神と同じだ。彼としては親切心で彼女の病を治した。方法は荒っぽいが一瞬で終わる。逆に丁寧に説明をしてしまえば、不要なストレスや恐怖を与える。……君たちに事前に説明したとしよう。直ぐに再生するから体の1/3を吹き飛ばしても良いかと聞かれて、是と答えられる者はいるか?」
「……」
「見た目は同じ人間だが、価値観が違う。非常識でとんでも無い行動をとるかもしれないが、悪気はないんだ」
「お、おう…」
「…そ、そうだな…」
「……最初からそんな感じでしたね」
何故か彼等はアウクトルではなく、俺の方を見て納得した表情になった。
いやいや、やらかしたのアウクトルだから。俺は彼のフォローしただけだから。
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