魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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イチャイチャバイオレンス<蛇足編2>

愛してるゲーム

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 転移先は少女の私室だった。
 立派な家なので、子供の部屋と言ってもホテルのスイートルームくらい豪華だ。

「これだけの事をしたのだ。目的を聞こう」

 開口一番、アウクトルが魔王として命令を下した。
 少女達ーーシェリとアミが自白した。

 主犯はシェリ。
 アミは俺が嘘をついていないか、ポリグラフとは別角度からジャッジするために呼ばれたセカンドオピニオン要員。

 アウクトルから、俺が魔王妃である事を聞かされたシェリ。
 1000年前に誕生しておらず魔王の箝口令の対象外である彼女は、大規模な仕掛けを実行する為にグレンツ一族に接触。
 彼らが経営するニギン・コーヒーのロゴから、魔王妃に対して並々ならぬ思い入れがあると推察した為だ。
 あのロゴ、女体化した俺だったのか……

 彼女はグレンツ一族を介して、カヴァリエとも繋がった。

 *

 協力関係にある三者だが、思惑は微妙に違う。

 グレンツ一族は魔王妃の正体を知り、俺が魔王や彼らに対してどんな思いを抱いているのか知りたがった。やはり第一、第二のミッションは貞淑さを測る目的だった。

 カヴァリエは、魔王本体の事など気にもかけず呑気に生きている俺たちが許せなかった。
 第三のミッションで本体についてどう思っているのか、俺たちから聞き出すのが目的。結局グレンツ一族が暴走して、半端に達成した。

 シェリは俺が魔王を謀ったり、悪意無く惑わしているのではないかと怪しんでいた。
 俺の本性を探るために第一、第二のミッションを指定。アウクトルの前でボロを出せば目的達成、密室で油断して彼を裏切ればその画像を利用するつもりだった。

 第一のミッションはサクラを最下位にするつもりだったが、俺とアウクトルが同点最下位になった為そのままペナルティを決行。彼女としては魔王が負ける筈がないので、生命の危機に瀕した俺の行動を見たかったとのこと。
 絶対死んでも良いと思ってただろ。

 第三のミッションの固定命令は、俺がアウクトルを愛していないことを嘘を看破できる彼に突きつけるのが目的。
 もし本当に愛しているのであれば、それはそれで両思いのハッピーエンドとして彼女も認めるつもりだったと言う。



 言っていいか?
 若い子が一番エグいわ。
 最後完全にハメ技だろ。どちらに転んでも、彼女損しないじゃないか。
「愛の告白をする」だと言い回しで誤魔化せちゃうから「愛してると言う」なんだろ?

 これでまだ17歳とか、恐ろしい子だ。

 *

「最初に言っておくが、俺はストックホルム症候群ではない」

 どうでも良いけど、魔界でもストックホルム症候群って呼ぶんだな。
 本当にどうでも良いことですまん。

「幼少期に<状態異常無効><弱体耐性>を獲得したので、普通の人にとって衝撃的なことをそうとは思わない節がある。情動的な面で、極端に鈍い人間だと思ってくれて構わない」
「フォンスは軍人として実戦経験豊富だ。判断、切り替え、行動の早さは平和な世に生きるお前達とは比べ物にならん」

 アウクトルがフォローする。

「……だからって、性別変えて出産とか。常軌を逸してるじゃないですか」

 アウクトルに締め上げられたシェリは涙目だ。

「フォンス。以前俺に語った故郷の教会の話をしろ」
「具体的には?」
「4枚の絵の話だ」
「ああ、あれか」

 俺の地元の教会は4つの壁に種類の違う、番の動物が描かれている。
 動物の正体は、人間の兄弟だ。
 領主である父親の召使を手籠にしたことで、兄弟は彼を怒らせた。魔法使いでもあった父親は、罰として二人を雌雄の動物にした。
 許される条件は、二人が番になって子供を作ること。
 父親の後妻となった召使は1回の出産では気が済まず、翌年には別の動物に雌雄交代して変化させ同じ条件を突きつけた。
 結局彼女の気が済むまで4回繰り返したので絵が4枚。
 実際はお互いを判別できなくなって、普通に野生動物相手に交尾しているので人間に戻るのに4年以上年数がかかっている。

「……何で…そんな平然…」

 呆然としたアミが呟く。

「フォンスとお前達では、許容範囲の基準が違う」

 確かに俺の価値観は平和な世界のJK達からすると、野蛮で危険だ。

 *

 泣いてしまった少女達を残し、俺たちは魔王城へ転移した。

 これから先は四天王の尊厳に関わると同時に、俺たち親子の問題だからでもある。

「カヴァリエ。魔術発動前、確かに本体は弱っていた。その状態を引き摺らないため、記憶を封印したのが初期の分体だ。今の俺はお前の見る通りだ。即ち本体も同じ状態だ」
「……」
「まだ納得できぬと言うなら、本体経由でお前に働きかけようか?」
「アウクトル止めろ」
「しかし、この者はまだ納得しておらぬようだぞ」
「いいんだ。気持ちというのは、理屈でコントロールできるものじゃない」

 俺はカヴァリエの正面に移動した。何個目の光玉かも分からない俺だけど、一応親である。

「気に食わないならそれで構わない。俺は親である事よりも、個人である事を選んだ。今後もそうだ。俺を攻撃するのは構わない、反撃される覚悟があるなら来い。但し、他人を巻き込むのは止めろ」

 頭から押さえつけようとすると、変な方向に拗らせるからな。今回だって、熱心な魔王教信者×反抗期×試し行動みたいなものだ。
 俺の方針は一貫した姿勢をとり、害がない範囲で発散させる事。

「……」

 カヴァリエは俺と目を合わせる事なく、黙ったままだ。益々反抗期っぽいな。

 *

 彼がこの状態では、このまま解散とはいかないだろう。
 内心でため息をつき、俺はアウクトルから番号札を奪うと、自分の札と指令書を彼に押し付けた。
 アウクトルの番号札を、動かないカヴァリエの胸ポケットに入れる。

「アウクトル。これが本当の命令だ。実行しろ」

 *

「……カヴァリエ。愛している」

 カヴァリエに動揺が走る。

「フォンスだけではない、俺もお前達の親であることを放棄した。その事実は覆せぬ」
「……」
「記憶が戻った時に思い出したことがある。フォンスは未来に帰る際『魔王妃として得たものの中で、四天王の存在が何よりも大きい』と言い残した。これもまた事実だ」

 言ったかなそんなこと。
 正直早く帰りたかったくらいの記憶しかない。
 アウクトルが覚えているなら、多分そんな感じの台詞を言ったのは間違いないと思うが、絶対ニュアンス違うと思う。
 ここで空気ぶち壊すと、拗らせ四天王の憂鬱第二弾が始まりそうなので黙っておこう。

 あと今更なんだが何故、俺が帰還後に本体が精神的に参っちゃったのかよくわからない。
 記憶封印して元気になったって事は、俺のこと黒歴史だったって事?
 一緒にいる時は割と仲良かったと思ったんだけどな。
 もしかして我に返って、中身おっさんと何人も子作りした事を後悔したのか。
 ショックのピークが過ぎて、今は開き直ってると考えて良いのか。

 子作り言い出したのはアウクトルだったけど、それも史実がそうというのが起点だからな。卵が先か鶏が先か、ここで考えても仕方がない。

 アウクトルが語ったように、俺の許容範囲ではノーダメージだけど、彼は大ダメージだったようだ。
 俺が悪いわけじゃないけど、何だか申し訳ない。機会があれば、何らかの形で埋め合わせしよう。
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