魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

文字の大きさ
上 下
66 / 84
イチャイチャバイオレンス<蛇足編2>

愛してるゲーム

しおりを挟む
 転移先は少女の私室だった。
 立派な家なので、子供の部屋と言ってもホテルのスイートルームくらい豪華だ。

「これだけの事をしたのだ。目的を聞こう」

 開口一番、アウクトルが魔王として命令を下した。
 少女達ーーシェリとアミが自白した。

 主犯はシェリ。
 アミは俺が嘘をついていないか、ポリグラフとは別角度からジャッジするために呼ばれたセカンドオピニオン要員。

 アウクトルから、俺が魔王妃である事を聞かされたシェリ。
 1000年前に誕生しておらず魔王の箝口令の対象外である彼女は、大規模な仕掛けを実行する為にグレンツ一族に接触。
 彼らが経営するニギン・コーヒーのロゴから、魔王妃に対して並々ならぬ思い入れがあると推察した為だ。
 あのロゴ、女体化した俺だったのか……

 彼女はグレンツ一族を介して、カヴァリエとも繋がった。

 *

 協力関係にある三者だが、思惑は微妙に違う。

 グレンツ一族は魔王妃の正体を知り、俺が魔王や彼らに対してどんな思いを抱いているのか知りたがった。やはり第一、第二のミッションは貞淑さを測る目的だった。

 カヴァリエは、魔王本体の事など気にもかけず呑気に生きている俺たちが許せなかった。
 第三のミッションで本体についてどう思っているのか、俺たちから聞き出すのが目的。結局グレンツ一族が暴走して、半端に達成した。

 シェリは俺が魔王を謀ったり、悪意無く惑わしているのではないかと怪しんでいた。
 俺の本性を探るために第一、第二のミッションを指定。アウクトルの前でボロを出せば目的達成、密室で油断して彼を裏切ればその画像を利用するつもりだった。

 第一のミッションはサクラを最下位にするつもりだったが、俺とアウクトルが同点最下位になった為そのままペナルティを決行。彼女としては魔王が負ける筈がないので、生命の危機に瀕した俺の行動を見たかったとのこと。
 絶対死んでも良いと思ってただろ。

 第三のミッションの固定命令は、俺がアウクトルを愛していないことを嘘を看破できる彼に突きつけるのが目的。
 もし本当に愛しているのであれば、それはそれで両思いのハッピーエンドとして彼女も認めるつもりだったと言う。



 言っていいか?
 若い子が一番エグいわ。
 最後完全にハメ技だろ。どちらに転んでも、彼女損しないじゃないか。
「愛の告白をする」だと言い回しで誤魔化せちゃうから「愛してると言う」なんだろ?

 これでまだ17歳とか、恐ろしい子だ。

 *

「最初に言っておくが、俺はストックホルム症候群ではない」

 どうでも良いけど、魔界でもストックホルム症候群って呼ぶんだな。
 本当にどうでも良いことですまん。

「幼少期に<状態異常無効><弱体耐性>を獲得したので、普通の人にとって衝撃的なことをそうとは思わない節がある。情動的な面で、極端に鈍い人間だと思ってくれて構わない」
「フォンスは軍人として実戦経験豊富だ。判断、切り替え、行動の早さは平和な世に生きるお前達とは比べ物にならん」

 アウクトルがフォローする。

「……だからって、性別変えて出産とか。常軌を逸してるじゃないですか」

 アウクトルに締め上げられたシェリは涙目だ。

「フォンス。以前俺に語った故郷の教会の話をしろ」
「具体的には?」
「4枚の絵の話だ」
「ああ、あれか」

 俺の地元の教会は4つの壁に種類の違う、番の動物が描かれている。
 動物の正体は、人間の兄弟だ。
 領主である父親の召使を手籠にしたことで、兄弟は彼を怒らせた。魔法使いでもあった父親は、罰として二人を雌雄の動物にした。
 許される条件は、二人が番になって子供を作ること。
 父親の後妻となった召使は1回の出産では気が済まず、翌年には別の動物に雌雄交代して変化させ同じ条件を突きつけた。
 結局彼女の気が済むまで4回繰り返したので絵が4枚。
 実際はお互いを判別できなくなって、普通に野生動物相手に交尾しているので人間に戻るのに4年以上年数がかかっている。

「……何で…そんな平然…」

 呆然としたアミが呟く。

「フォンスとお前達では、許容範囲の基準が違う」

 確かに俺の価値観は平和な世界のJK達からすると、野蛮で危険だ。

 *

 泣いてしまった少女達を残し、俺たちは魔王城へ転移した。

 これから先は四天王の尊厳に関わると同時に、俺たち親子の問題だからでもある。

「カヴァリエ。魔術発動前、確かに本体は弱っていた。その状態を引き摺らないため、記憶を封印したのが初期の分体だ。今の俺はお前の見る通りだ。即ち本体も同じ状態だ」
「……」
「まだ納得できぬと言うなら、本体経由でお前に働きかけようか?」
「アウクトル止めろ」
「しかし、この者はまだ納得しておらぬようだぞ」
「いいんだ。気持ちというのは、理屈でコントロールできるものじゃない」

 俺はカヴァリエの正面に移動した。何個目の光玉かも分からない俺だけど、一応親である。

「気に食わないならそれで構わない。俺は親である事よりも、個人である事を選んだ。今後もそうだ。俺を攻撃するのは構わない、反撃される覚悟があるなら来い。但し、他人を巻き込むのは止めろ」

 頭から押さえつけようとすると、変な方向に拗らせるからな。今回だって、熱心な魔王教信者×反抗期×試し行動みたいなものだ。
 俺の方針は一貫した姿勢をとり、害がない範囲で発散させる事。

「……」

 カヴァリエは俺と目を合わせる事なく、黙ったままだ。益々反抗期っぽいな。

 *

 彼がこの状態では、このまま解散とはいかないだろう。
 内心でため息をつき、俺はアウクトルから番号札を奪うと、自分の札と指令書を彼に押し付けた。
 アウクトルの番号札を、動かないカヴァリエの胸ポケットに入れる。

「アウクトル。これが本当の命令だ。実行しろ」

 *

「……カヴァリエ。愛している」

 カヴァリエに動揺が走る。

「フォンスだけではない、俺もお前達の親であることを放棄した。その事実は覆せぬ」
「……」
「記憶が戻った時に思い出したことがある。フォンスは未来に帰る際『魔王妃として得たものの中で、四天王の存在が何よりも大きい』と言い残した。これもまた事実だ」

 言ったかなそんなこと。
 正直早く帰りたかったくらいの記憶しかない。
 アウクトルが覚えているなら、多分そんな感じの台詞を言ったのは間違いないと思うが、絶対ニュアンス違うと思う。
 ここで空気ぶち壊すと、拗らせ四天王の憂鬱第二弾が始まりそうなので黙っておこう。

 あと今更なんだが何故、俺が帰還後に本体が精神的に参っちゃったのかよくわからない。
 記憶封印して元気になったって事は、俺のこと黒歴史だったって事?
 一緒にいる時は割と仲良かったと思ったんだけどな。
 もしかして我に返って、中身おっさんと何人も子作りした事を後悔したのか。
 ショックのピークが過ぎて、今は開き直ってると考えて良いのか。

 子作り言い出したのはアウクトルだったけど、それも史実がそうというのが起点だからな。卵が先か鶏が先か、ここで考えても仕方がない。

 アウクトルが語ったように、俺の許容範囲ではノーダメージだけど、彼は大ダメージだったようだ。
 俺が悪いわけじゃないけど、何だか申し訳ない。機会があれば、何らかの形で埋め合わせしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

処理中です...