魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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1000年前から愛してる

始まりの終わり

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 理解の範疇を超えていたのか、夫婦は暫し固まっていた。

「…私、母親失格だわ……」

 先に動いたのはメールだった。

「あーくんの事、何も気付いて無かったんだもの…。初めてお泊まりに来た時『自分の部屋に泊める』って言われた時に気づくべきだったのよ……」

 そんな事で邪推する母親の方が嫌だ。
 と言うかアウクトルの奴、客間の準備断ってたのかよ!

「フォン君が家の事、色々手伝ってくれたのも何も考えず喜んでたのよぅ。本当は姑に気を遣ってたのよね。花嫁? 花婿?――とにかく、我が家の事を知る修行だったのよね」

 全くそんなつもりはない。普通に手伝っただけだ。

「違うよ……ママは悪くない。…悪いのは僕だ」

 パドレが泣き出した。

「指輪のデザインで気付くべきだったんだ。それなのに僕は『最近はユニセックスが流行りなんだな』としか思わなくて……二人のSOSを見逃したんだ! 駆け落ちして子供まで作ったのは! 僕が! 二人を追い詰めたからだ!」
「違うわパパ! ユニセックスが流行っているのは本当よ!」

「……お二人は、アウクトルの正体が魔王であることは気にされないんですか?」
「え? ああ! 魔王様だからあーくんには、イヤイヤ期無かったのね!」
「反抗期も無かったな。大きくなってからドデカイのが来るんじゃないかとドキドキしてたけど、魔王様なら安心だねママ」

 気にする所おかしくないか?

「学生婚って、学校に申告するべきなのかしら?」
「事実婚だからどうなんだろう」
「ちょっと待って! 四天王が子供ってことは……! 私たちの孫よ! おじいちゃんと、おばあちゃんになったのよ!」
「どどどどうしよう! 自分より年上の孫ってどう接したら良いんだ!?」

 子供が魔王だった以上の慌てぶりだ。基準おかしいだろ。

「シューラちゃんと、シェリちゃんはフェアメヒトニス様のお孫さんよね! 孫の孫ってなんて呼ぶの!? お祖母様呼びと、おばあちゃま呼びどっちが良いと思う!?」

 知らんがな。
 話がよくわからない方向に逸れたので、俺も考える余裕ができた。
 これってマズくないか。何故俺たちが駆け落ちや、事実婚状態になっているんだ?

「ママ! 我が家のピンチだ! 孫全員にお年玉あげたらとんでもない額になる!」
「でも贔屓なんてできないわ! 何十人いるかわからないけど、孫は平等よ! そうだ貯金しましょう! お年玉貯金よ!」
「それでも後、数ヶ月しかないよママ!」
「数ヶ月あるのよパパ! 早速今日から始めるわ。コツコツやれば絶対間に合うわ!」

 お年玉貯金って、そういう意味じゃないと思う。


「おい、アウクトル」

 訂正しろ、と肘でせっつく。

「分かっている。フォンスは家を捨てて此方へ来た。即ちアーヴォ家へ婿入りだ」
「違う!!」

 後半おかしいおかげで、前半も歪んだ認識になってしまったじゃないか。

「――そうか、俺たちは対等だったな」
「気にする所はそこじゃない!!」

 もう嫌だ。何かにつけて対等、対等って。誰だそんな事言い出した奴――俺だった。

「あらそうなの? あーくんまだ17歳だから…こんなに早く巣立っちゃうのは寂しいわ……」
「そんな事にはなりません!!」
「母さん安心してくれ。俺は引き続き家で暮らす。客間をフォンスの部屋にして、俺の部屋と繋げたい」

「絶対やめてくれ!!」

 =========

 いつと変わらぬ登校風景。

 学生達が次々に校舎に入るのを横目に、アウクトルの友人である4人は校門脇に佇んでいた。
 彼らが待っているのはアウクトル。昨日不可解な言動をした後、姿を消してしまった友人。
 その後彼の親から問合せがあったが、誰も何も答えることができなかった。今の彼らの内心は心配半分、不安が半分。お互いの持つ情報を出し合っても、結局何が起きているのか全く分かっていない。

「あ。来た!」

 登校時間に余裕を持って、アウクトルが姿を現した。

「アール昨日どこに行ってたんだ? 親御さん心配してたぞ」
「父さんと母さんにはちゃんと謝った。ついでに魔王であることを話した」
「……そうだったのか。それなら…うん、良かったよ」

 流れで彼の正体を知ったトーレとアミ。ジュメリ姉妹は親から知らされていた。アウクトルは、漸く自ら両親に打ち明けたのだ。
 結局昨日何があったかは有耶無耶だが、何となく問題が解決した空気が漂う。

「……アウクトルはもうカフェに行かないの?」
「客としてという意味なら、必要性は無くなったな」
「そ、そう!」

 表情の緩んだ面々の中で、シューラだけが緊張を解いていない。
 アウクトルは今朝もカフェに行っていない。これからも今までのように通うことはない。
 傷心の彼につけ込むようだが、新しい恋が救いになることもある。

「あの! 放課後時間をくれない?」
「何故だ?」
「え? 何故って…」
「要件があるなら今聞こう」
「ふ、二人だけで話したいことがあるのよっ!」

 姉の目的を察したシェリが、トーレとアミを引っ張りアウクトルの背後に移動した。

「この雑踏だ。今話しても、誰も聞いておらぬ」
「放課後に二人で話したいって言ってるのよ!」
「何も放課後まで抱え込む必要はない」

「ここまで言ってるんだから、告白だって事くらいわかるでしょ!」

 視界の端でシェリが、あちゃーと言いたげに額を押さえた。
 シューラはパニックになった。
 どうしよう、計画が完全に狂ってしまった。この状態で放課後まで待つとか無理だ。

「私! 貴方のことが好きなのよ!」

「ふむ」

 それだけ?
 シューラの中で、告白されたアウクトルの反応は2パターンだ。
 彼は即断即決即実行タイプなので、その場でOKするか断るか。
 こんな「続きを聞こう」みたいな反応をされるとは思っていなかった。

「い、言っとくけど! 友達としてじゃないんだからね!!」

 テンパるあまり、頭の悪いツンデレみたいになってしまった。
 シェリだけでなく、トーレとアミまで「もう止めろ」と哀れみの目で頭を振る。

「そうか。特に考えていなかったが、嬉しいものだな」

「「「「え?」」」」

 本気? 今の告白でOKなの?

「両親は平等派だが、俺はまた別だ。次のお年玉を楽しみにしていると良い」
「何で!?」

 両親? お年玉? そんな要素どこにあった?

「ん? フェアメヒトニスに聞いたのだろう? お前は俺とフォンスの孫だと」

「孫に慕われると言うのは悪くないな」と、呑気に続けるアウクトルの声はシューラには届かなかった。
 何故って気絶したからだ。
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