魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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1000年前から愛してる

ロードオブザ

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 俺の初産は1分で終わった。
 数時間で産褥期も終わった。

 とんでもない早回しだ。医療スタッフ達は知識が豊富だからこそ、俺の脅威的な回復に狼狽えていた。

 アウクトルはまだ戻ってきていないが、彼はちゃんと約束を守った。
 何と出産用の転移魔道具を作成して、エコールに託していたのだ。

 生まれた子供は光玉2号になった。今は1号と仲良く部屋を漂っている。
 有責カウンターが回らないどころか、ただでさえ高かった彼の株が天元突破してしまった。
 何か他にないものか……


 体を休めるフリをして聞き耳を立てていたら、とびきりの情報を得た。
 どうも国の端で魔獣のスタンピードが起きているらしい。

 第一報が入ったのが魔王城襲撃直前なので、既に対応が遅れている状態。
 国として派兵すべきだが、此方も襲撃を受けたばかりで警戒を緩めることはできない。
 近隣の領地も群れから外れた魔獣を討伐しているため、応援を送る余裕はない。
 現在はやや離れた地域から、応援を送る手筈を整えている段階。

 魔族は個人個人がそれなりの戦闘力を持つが、数の力は大きい。
 無数の魔獣が雪崩れ込めば、いずれは押し負け飲み込まれる。

 スタンピードが起きている地域は、近くに火山がある。
 魔獣の被害が最も酷いのは、活火山の地熱を利用した温泉や農耕が盛んな地域。
 既にグレンツ砦は孤立状態で、応援部隊が合流するまでに耐え切れるかどうか五分五分らしい。

 離婚理由にはならないが、これは使える。

 =========

「セルヴァ様っ! 妃殿下をお止めしてくださいっ!」

 被害なく収束したとはいえ、襲撃を受けた城内は混乱している。
 人員の安全確認を行なっていたセルヴァの元へ、ティカが転がり込むように飛び込んできた。
 彼女とストメートは魔王妃付きの侍女だ。産後の肥立ちは順調と報告を受けたばかりなのに、一体何があったというのか。

 部屋へ駆け付けたセルヴァが見たのは男装した魔王妃と、彼女を止めようとする護衛達。
 そして部屋の隅で青ざめているストメート。

「一体何の騒ぎですか」

 セルヴァの登場に、護衛達が期待のこもった眼差しを向けた。
 彼らには荷が重かったのだろう。

「グレンツ砦へ向かう。共は不要だ」

 魔王妃が断言すると、ストメートが泣き出した。

「ストメート」

 咎めるような響きになってしまうのは仕方がない。ストメートの父はグレンツで働いている。出産を終えたばかりの魔王妃にスタンピードのことを伝えたのは恐らく彼女だ。

「俺が問い質したんだ。彼女を責めないでくれ」
「間も無く魔王様がお戻りになります。それまでどうか――」
「一刻を争うんだ。待っていられない。この問答に使う時間すら惜しい」
「出産されたばかりの御身です。今の殿下は冷静さを欠いております」

 産後で気が立っているのだろう。お願いだから大人しくしててほしい。

「冷静に判断した結果だ。お前もその目で見たはずだ。魔王が帰還するまで、俺なら砦を守ることができる」
「それは……」

 セルヴァが言い淀んだ時、エコールが到着した。

「陛下から申し付けられていたにも関わらず、私は妃殿下を侮っておりました。伏してお詫び申し上げます。陛下が戻られましたら如何なる罰も受ける所存です」

 到着するなり彼は跪き、深々と謝罪した。

「――不甲斐ない事ですが、引き続き妃殿下のお力に頼るしか道はございません。早急に御身をお守りすべく、部隊を編成いたします。陛下の為にも、お一人で動かれる事だけは思い留まって頂けませんか?」

 嘘だ。この城で彼だけが最初から魔王妃に誠心誠意仕えていた。
 彼は場を治めるために、自ら泥を被っている。

「……連れて行くのは転移、もしくは飛竜の操縦が出来る非戦闘員のみだ。城の兵力を割くくらいなら、俺は単独で出る」



「――あのっ! わ、私の家は飛竜の調教を生業としておりますっ! 操縦に関してはっ、並の竜騎士よりも優れていると自負しておりますっ!」

 気が付いたらセルヴァは叫んでいた。
 エコールに比べて自分は何だ。突然現れた女主人に対して、礼を欠かなければ良いだろうと、勝手な判断で最低限の仕事しかしていなかった。
 魔王の信頼を裏切ったのも、魔王妃を侮っていたのも全部自分だ。
 侍女長という役職についているだけの、一介の魔族でありながら何という思い上がり。
 その能力を目の当たりにしたばかりなのに、余計なことをしてくれるなと考えるなんて烏滸がましいにも程がある。

 どうか挽回する機会が欲しい――

 =========

 二人を乗せた飛竜が国境に到着したのは、日が沈む寸前だった。
 薄暗い大地にひしめく魔獣。赤く光るその瞳は誘導灯のように孤立した城塞を浮かび上がらせていた。

 眼下の光景にセルヴァは息を呑んだ。
 本当にこの群れから、砦を守り切ることができるのか。

「セルヴァ。火山へ向かえ」
「でも、砦が……」

「火山へ向かえ」

 戸惑うセルヴァに、言い聞かせるように魔王妃が繰り返した。
 同時に凄まじいプレッシャーが背後から放たれる。

「――っ!」

「砦はまだ無事だ。先に火山へ向かうんだ」

 その座に相応しい威圧感を放ちながら魔王妃が命じた。

 移動中、魔王妃は魔力を展開して何かを行なっていた。
 セルヴァたちは単騎で駆けている為、周囲を警戒していたのだと思っていたがそれは間違いだったのだ。
 魔王妃は探知していたのだ――それも、とんでもない広範囲を。
 砦の状態について断言したのがその証拠。
 その計り知れない能力の高さに、セルヴァは戦慄した。


「ここで待て」
 火山上空に差し掛かるなり、魔王妃は指示を出して飛び降りてしまった。
 吸い込まれるように火口にその姿が消える。

 一体火山に何があるというのか。
 彼女の目的がわからない。
 セルヴァは指示通り上空で待機していたが、徐々に心細くなってきた。
 飛竜も何か察したのか、先ほどから落ち着きがない。何とか宥めてはいるものの、制御の手を緩めたら即座にこの場から逃げ出しそうだ。

 不安がピークに達したセルヴァは、火口へ向けて飛竜を降下させた。
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